第93話
巨大な魔法陣が上空に現れ、光の雨が降り注いで街中の魔獣が殲滅された頃、サガナの大門ではその光の雨から逃げた魔獣でごった返していた。
門を守る兵士達が、ゴブリンやオークに対して何とか押し留めている状態だったが、そこにマドゥーラが合流した事で流れが変わった。
押し寄せる魔獣達に向かい、壱式を突撃させて大半を殲滅し、残りを兵士達と協力して倒し切った。
兵士達はマドゥーラと壱式に礼を言いながら、周囲の被害を調べ始めている。
結果として、東西南北にそれぞれある大門のうち、王都に向かう2つは犠牲は多く出たが閉ざす事に成功。
マドゥーラの到着した大門は殲滅に成功。
しかし、一つだけ甚大な被害を受けた大門があった。
聖王国に向かう街道に繋がる大門。
そこにオーガが押し寄せ、兵士達の奮闘空しく大門の開閉装置が破壊されてしまった。
兵士の大半も絶命しているか、重症で動けず、オーガ達によって蹂躙されている。
唯一の救いは、大門の内側は光の雨によって殲滅されている事だ。
と言っても、外側に残っているオーガだけでも10体以上残っているのに対し、動ける兵士は数人のみだ。
光の雨が終わり、上空にあった巨大な魔法陣が消えた途端、オーガ達が大門に殺到する。
残っていた兵士達が剣を構えるが、その切っ先は恐怖で小刻みに震えていた。
「やっと開いてる門があったか……」
そう言いながら、オーガの横手から一人の男が現れる。
その男が見慣れぬ黒い棒を横薙ぎに振るうと、2体のオーガが吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた先で、別のオーガを巻き込んだのを見て、男が門の方に歩いていく。
「とりあえず、手は必要か?」
「ぇっぁっ……そのっ……!?」
「GUROAAAAAAAAA!!」
声を掛けられた兵士が、しどろもどろに答えになっていない返事をする。
返事を待っている男に向かって、巻き込まれたオーガが怒り狂って突っ込んでいった。
男からすれば死角からの攻撃となっていたはずなのに、男が横薙ぎに振り抜かれた棍棒をしゃがんで回避すると、持っていた棒を突き上げ、先端がオーガの喉元に突き刺さってオーガが喉を抑えて転げ回る。
「ん~会話するにもちょっと邪魔だな……」
男が呟いて棒を腰に付いていたポーチに突っ込む。
どう考えても長さ的に収納するのは不可能と思ったが、みるみるうちに入っていく。
そして、そのポーチから別の棒を引き出し始めた。
やがて、完全に引き出されたのは一本の柄の部分が青い十字槍。
「武神大槍、狼星万華!」
その槍を両手で構えると、一気にオーガ達に向かって突っ込む。
そして、槍が一突きされる度に、オーガの体に穴が開いていく。
ただし、兵士達の目に映っているスピード以上に、オーガ達の体に開いていく穴の数の方が多い。
これは簡単な話であり、男の攻撃スピードが速過ぎて、兵士達の動体視力では捉え切れていないのだ。
やがて、蜂の巣になったオーガ達が倒れ、ドロドロに溶けて消えていく。
それを確認して、男が槍をポーチに収納して、兵士達の方に歩いて行った。
「中に入りたいんだが、ここを通っても良いか?」
男の言葉に、兵士がガクガクと頭を縦に振る。
それを確認し、男は優々とサガナに入った。
森の入り口で、数人の男達が倒れ伏していた。
その全員が、腕や足があり得ない方向に曲がり、呻き声を上げている。
「この人数で男一人抑えられないとは……情けない」
そんな男達を見下ろして、青い鎧に身を包んだ人物が立っていた。
面当てを下ろしている為、その顔は見れないが、その口調は明らかに落胆している。
「き、貴様……」
「閣下の御厚意で拾われ、コレまで生かしてきたが……」
「くっ……厚意……だと……?」
覆面をしていた男達が、痛みを堪えながら立ち上がる。
「我らが里を一方的に襲撃し、女子供を人質にした輩が、厚意と抜かすか!」
「フンッ、閣下が手を差し伸べていなければ、お前達の里などとっくの昔に賊の餌食よ」
「今まで汚い仕事ばかりやらせ、いざとなれば斬り捨てる腹だったのだろう!」
「何を言っている。 お前達の利用価値など、その程度だろう?」
そう言って、その人物が剣を抜き、青白い刀身が光を反射する。
そして、先頭に立っていた男に切っ先を向けた。
「さて、私は報告をしなければならないのでな」
一瞬で男に近付くと、剣を振り抜く。
手応えも無く、男が両断されて地に倒れた。
「さっさと処理しよう」
碌に動けない男達が全滅するのに、それ程時間は必要なかった。
路地裏で、男が穴だらけになった服を脱ぎ捨てた。
そして、隠していた道具袋から新しい服を取り出し袖を通す。
ボロボロの服はそのまま路地の傍らに放り捨てる。
「あんなのまでいるなんて、聞いてませんよ……全く……」
男が仮面を装着し、領主邸を見上げた。
「……もう領主を狙うのは無理ですかねぇ……」
一度襲撃に失敗した時点で、警備も増えているだろう。
無理に突破出来ない事も無いが、面倒な上にまだ他のターゲットがいる以上、時間を掛ける訳にもいかない。
何より、時間を掛けてあの女がやってきて、もう一度やりあうような事になったら最悪だ。
自身の秘密がバレない限り、負けはしないだろうが勝つのも難しい。
そして、先程の光の雨が降った後、街中が静かになっている事から、暴れたら余計に目立つ。
「少し様子見してから、最後のターゲットに行きますかねぇ」
そう呟いた瞬間、仮面の下半分がポロリと外れて地面に落ちた。
落ちた下半分を拾い上げると、所々に細かい罅が入っている。
「流石に無傷とはいきませんか……お気に入りだったんですがねぇ……」
着ていた服がズタボロになっているのに、仮面が無事な筈がない。
しかし、仮面の予備など持っていない。
とりあえず、外れた下半分を手に周囲を改めて確認すると、壊れた箱の影から血塗れの足が見えた。
どうやら、魔獣によって殺されたようだが、男にとっては丁度良い。
「少し作戦を変更しますかねぇ……」
男がそう言いながら、箱の影にあった死体に近付いた。
死んでいたのは、ボロボロの服を着た、まだ10にも満たないような子供だった。
サガナ中にいた魔獣は全滅したが、それによる被害は酷かった。
出現が朝方だったとはいえ、それが半日の間続いたのだ。
家屋は元より、出現場所と思われる店舗や倉庫はほとんど倒壊し、人的被害以外にも物的被害も多い。
領主であるゲオルグは、王都に救援を求める為に追加の兵士を送る事を決定し、その人数も10人と多いが、これは領主自身が襲撃を受けた事から、妨害の為に道中襲われる事を懸念した為だ。
そして、住民の救護の為に兵士や騎士に出動の指示を出した。
副騎士団長であるアダムスは、領主邸や貴族街の防衛が出来なくなると言って渋っていたが、領主からの直接命令であった為、渋々従って騎士団を進めた。
重軽傷者は、纏めて教会に送られている。
回復職が常に常駐しており、更に今は聖女であるシーラがいる。
戦闘以外でも、家屋の倒壊に巻き込まれて大怪我を負った住民が運び込まれ、教会にいた回復職総出で対応しているが、回復するより運び込まれる怪我人の方が多く、教会内に収まり切らずに、前の広場に簡易テントを立てて対応している。
切り傷や打ち身程度なら、回復を使える回復職であれば治療するのは楽だが、たまに運び込まれる腕や足を欠損した重傷者は、数少ない上級回復職でしか繋ぎ治すような回復は出来ない。
繋がないで塞ぐだけなら、初級の回復でも対応出来る。
しかし、ここで一つの問題が起きていた。
教会はまだ立て直していた最中であり、全員が慣れている訳ではない。
それに、人数も足りていない状況で、今回の襲撃事件。
教会は戦場となっていた。
シーラは黙々と回復魔法を使い、教会勤めの回復職や臨時で雇った冒険者の回復職が回復魔法を使い、その仲間達が、怪我人を運ぶ為に走り回っている。
重傷者を優先して指示通りに運び、治療が終わり次第、教会横の空地に運び込む。
空地は一時的な待避所となっており、階級に関係なく治療を終えた人々が寝かされている。
「次の患者を!」
建物の倒壊で腕が千切れた男性の腕を、シーラが額に汗を浮かべながら繋ぎ終え、外で待機していた冒険者に次の患者を入れるように促す。
シーラが治療している怪我人は、軒並み重傷者であり、一人治療するだけでもかなりの魔力を消費している。
それでも治療の手を止めず、ほとんどぶっ続けで治療をしているが、未だに患者は減っていない。
そして、上級回復職の半数は既に魔力切れを起こし、気絶したり失神して倒れてしまっている。
「シーラ様、そろそろ休憩されては……」
そう言うのは、シーラが前々から聖王国に応援を頼み、やって来ていた上級回復職の従者の内の一人。
彼女もやってくる重症患者を治療し続け、つい先程まで気絶していた一人だった。
既に助けられる限界数を超えており、このままではシーラもいずれ魔力切れを起こしてしまうだろう。
「まだ大丈夫です。 それよりも今は治療を続けましょう」
新たにシーラの元に連れて来られたのは、左足を失った女性で、傍らには夫が布に包まれた左足を持っている。
女性を寝台に乗せると、夫から切断された足を受け取り、それを洗浄した切断面に合わせた。
シーラが右手で切断された足を抑え、左手を足に翳すと、左手が薄く緑色に輝き、徐々に切断された左足が繋がっていく。
傷口が全部が繋がると、シーラの視界がクラっと揺れた。
それでシーラ自身も既に限界だと理解はしていたが、治療を待つ重症患者はまだまだたくさんいる。
保管されている魔力回復ポーションも、既に数本飲んでいる。
これ以上は飲むのも限界だった。
男がシーラに感謝の言葉を述べながら、治療を終えた女性と共に部屋から出ていった。
「流石に少し休憩しましょうか……」
シーラの言葉で従者がホッとした様に部屋から出ると、外にいた冒険者に一旦休憩する事を伝え、重症患者は別の上級回復職の方へと連れて行くように指示をだす。
従者としては少なくとも1日は休憩して欲しいが、シーラは数時間で職務に復帰するだろう。
このままではシーラが倒れるのが早いか、治療を終えるのが早いかのチキンレースだ。
だが、急に外が騒がしくなり、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「急患だ! 他の奴等じゃどうにもならん!」
担架で運ばれてきたのは、全身が血塗れで、浅い息を繰り返している少女。
聞けば、瓦礫の下敷きになっていたが、運良く地面の陥没に入って命だけは助かったが、その瓦礫で全身がズタズタになってしまっていた。
その為、出血多量でショック状態に近く、普通の上級回復職では対処出来ず、シーラの所に担ぎ込まれたのだ。
「直ぐに診療台に……」
「いけません、シーラ様! もう限界です!」
「ですが、私以外に治療出来ないのですから……」
そう言いながら、シーラがふら付いた足取りで診療台に近付く。
そうすると、少女が微かに何かを呟いているのに気が付いた。
「直ぐに治療しますから、安心してくださいね」
シーラがそう言って、少女の額に掛かっていた髪をかき揚げた。
その時、少女の額に手が触れたのだが、異様な事に気が付いた。
「えっ……コレは……」
瞬間、少女が目を見開き一気に跳ね起きた。
そのまま、驚いて固まっていたシーラに向かい、何処からともなく取り出した短剣を突き出した。
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