第91話
サガナの上空に魔法陣が現れる少し前、外周部にある孤児院ではマキーシャ達が柴隊と共に、押し寄せる魔獣を押し留めていた。
ここにはオークやオーガ以外に、フォレストウルフという大型の狼型の魔獣が多く押し寄せていた。
柴隊は無理に倒そうとせず、とにかく撹乱し、その隙を突いてマキーシャ達がトドメを刺していく。
そして、孤児院の入り口ではシシーが結界魔法を使い、その隣ではドーザードとチャモ、柴隊がクロスボウを連射している。
ドーザードは隻腕である為、撃つ度にチャモがクロスボウを装填する。
柴隊にはそれなりに大きなクロスボウではあるのだが、一頭がそれを背負って、もう一頭が装填して撃っている。
ドーザード達が孤児院にいたのは偶然であった。
柴隊の生活を支える食事や寝床等、ドーザードの所有している家で収まり切らなくなってきたのを受け、各所にある孤児院が支援を申し出ていた。
これは、孤児院側からすれば、柴隊の世話をするだけで周辺の危険が減るという思惑がある以外に、孤児院にいる子供達と遊ばせている間に、大人達は別の作業が出来るようになる。
その為の下見に来て、実際に子供達と柴隊を遊ばせていたのだ。
そして、細かい契約を決めようとしていた矢先に、今回の魔獣騒動が発生したのだった。
「左手オーク5! 右手オーガ4!」
「そろそろ矢が無くなるぞ! ボウ隊は装備を交換しとけ!」
ドーザードがクロスボウを構え、左手から来たオークを狙い撃ちながら、クロスボウを背負っていた柴隊に指示を出す。
矢が完全に無くなる前に、柴隊は武装を変更し、ショートソードと鎖鎌を取り出す。
鎖鎌は元々、暴徒鎮圧用にとドーザードが考案し作ってはおいたのだが、柴隊が拘束する前に、周囲の住民達が柴隊を守る為に奮戦し、結局使う事が無かった物だ。
この鎖鎌、鎮圧用の為に鎌の部分は丸みを帯びており、直接のダメージはほとんど無いのだが、鎖部分はとにかく頑丈に作られている。
鎖自体はそれなりに細いのだが、オーガが力一杯引いても千切れる事が無く、一度絡みつくとまず脱出が出来ない。
新たに現れたフォレストウルフに向け、柴隊が進路方向を遮るように鎖を投げ、それに引っ掛かったフォレストウルフがコケて後続を巻き込む。
それを飛び越えたフォレストウルフに対しては、柴隊が飛び掛かってショートソードでその脚を斬り付けていく。
こうして小さくない手傷を与え、動きが鈍った所をマキーシャ達によって倒されていく。
オークやオーガは巨体であるが故に、動きが素早く、体躯が小さい柴隊とは相性が凄まじく悪い。
オーガの脚に鎖を引っ掛け、鎌を地面に突き刺して固定すると、柴隊がそのまま別のオーガに向かっていく。
「おりゃっ!」
マキーシャの振るう斧が、鎖に引っ掛かって動けなくなったオーガの首を一撃で斬り飛ばす。
その横から飛び出たリョウが、そのオーガの肩を踏み越えて、背後にいたフォレストウルフに斬り掛かる。
斬り飛ばした後、更に別のフォレストウルフを蹴り飛ばすと、その横からマキーシャが飛び出して、別のフォレストウルフを迎撃する。
「二人共、体力は大丈夫か!?」
「アタシは平気だよ!」
「同じく」
ドーザードに二人が答え、孤児院の周囲を走り回っていく。
『冒険者とは体力が基本である』という古い教えを、マキーシャ達は大事にしていた。
どんなに強い武器や強固な鎧を手に入れたとしても、体力が無ければ意味が無いのだ。
最悪、依頼に失敗して逃走する際、体力が無ければ逃げ切る事も出来ない。
その為、マキーシャ達は日頃から訓練し、スタミナは人一倍以上持っている。
オーガが持っていた棍棒で地面を薙ぎ、土砂を巻き込んで吹き飛ばす。
リョウは盾で守ったが、柴隊がその吹き飛ばされた土砂に巻き込まれ、地面を転がる。
その攻撃で数頭の柴隊が行動不能となるが、別の柴隊が回収し、孤児院の中に運び入れる。
孤児院の中には管理している大人以外に、孤児が十数人いる。
その大半が、両親が魔獣によって殺害されたサガナの近隣にある村の出身である。
被害にあった村で、孤児となった子供を養うのは到底無理がある。
なので、王国では領主がいる街に孤児院を作り、そこでそう言った孤児を引き取らせているのだ。
その為、孤児院自体の造りも長く使う事を前提に頑丈になっている。
壁であれば、オークの攻撃程度なら耐えられるだろうが、窓や入り口では耐えるのは無理だろう。
それに、破壊されて入られたら孤児達に勝ち目は無い。
「『ソードラッシュ』!」
リョウが光を放つ剣を連続して振るう。
その一撃一撃がオークを倒し、オーガの持っていた棍棒を楽に斬り飛ばす。
斬り飛ばされた棍棒を放り捨て、オーガがリョウに拳を振り下ろした。
これを普通に盾で受ければ、受け流す前にそのパワーで押し潰されてしまう。
なので、受ける事無く、足捌きのみでその拳を回避し続ける。
回避した際に、剣を振るってオーガに小さいながらもダメージを与えた。
「『アックスバスター』!」
その攻撃で多少は怯んだオーガに対し、マキーシャが背後からその首を一撃で斬り飛ばす。
地面に着地した後、孤児院に近付いていたフォレストウルフの一団に向かい、マキーシャはそのまま駆け出していく。
ドーザードやチャモ達柴隊が対応しているが、彼等ではどうしても殲滅力が追い付かない。
「なんかここら辺に集まって来てないか!?」
ドーザードが言いながら、片腕で巨大な斧を振るって近付いてきたオーガを薙ぎ払う。
その振り抜いた後の隙はチャモが埋め、どうしても大振りになるドーザードを補佐している。
その言葉通り、孤児院の周りにいる魔獣達が孤児院に集まり始めていた。
と言うのも、孤児院周りは既に生存者がいなくなりつつある為だった。
「考えるより動き続けるしかないね!」
マキーシャが目の前にいたオーガを蹴り飛ばし、反動で別のオーガを斬り伏せる。
リョウは増え続けるオークを積極的に倒すようにし、柴隊は集まって来たオークとオーガを足止めしている。
そうしていると、追加でやって来たオーガの中に、一際体躯が大きい個体がいるのが見えた。
しかも、簡素だが革鎧のような物を身に着けており、持っている武器も木を押し固めた棍棒ではなく、岩を括り付けた様な石斧だった。
「何時かは来るかと思ったが……オーガソルジャーが出たぞ!」
ドーザードがその一際体躯が大きいオーガを見て、マキーシャ達に注意を促す。
オーガの上位個体であるオーガソルジャーは、普通なら早々出て来る事は無いのだが、これ程の異常事態であれは、出て来ても不思議では無いと、ドーザードは考えていた。
ただ、マキーシャ達と柴隊の連携を上手く組み合わせれば、倒せない相手では無い。
そう考えていた。
だが、現れたオーガソルジャーの行動は、ドーザードの予想を裏切った。
オーガソルジャーが、その石斧で周囲にいたオークやオーガを叩き殺し始めた。
通常、魔獣は同士討ちをする様な行動は行わない。
当然、群れの指示に従わなかった場合は、見せしめの為に嬲り殺しにされる事はあるが、今の状況で行うのは明らかに異常だ。
だが、目の前のオーガソルジャーは、周囲にいた仲間のはずのオーガやオークを屠っている。
「誰かがオーガソルジャーをテイムしてたのかい?」
「いや、オーガはともかく、ソルジャーはテイム出来んはずだが……」
マキーシャとリョウが、ドーザードの所に一旦集合して息を整える。
現れたオーガソルジャーに対し、周囲の魔獣達は一切の抵抗もせず、どんどん叩き伏せられ消えていく。
まるで、オーガソルジャーに倒されるのを目的としているかのように……
「ッ! ゴシュジン! クラスアップ!」
「ぁ? クラス……アップ………って不味い!」
その光景を見ていたチャモが、ドーザードに向かって声を上げた。
そして、その言葉でドーザードは気が付いた。
クラスアップ。
稀に起こる魔獣の上位個体への進化。
通常は、長い月日と膨大な経験によって起こる過程であり、そこに至る可能性がある個体も、進化をする前に冒険者や国によって討伐される為、上位個体は誕生し難い。
オーガの場合、オーガからオーガソルジャーになり、オーガソルジャーから……
「二人共、直ぐに攻撃しろ!」
ドーザードが残り少ないクロスボウを構え、マキーシャ達に指示を飛ばす。
マキーシャ達は返事をする事なく、オーガソルジャーに向けて駆け出していた。
もし、この考えが正しいのであれば、あのオーガソルジャーが狙っているのは……
マキーシャがオーガソルジャーの背に向けて斧を振るい、リョウがその脚目掛けて剣を横薙ぎに振るう。
だが、オーガソルジャーの振り下ろした石斧が、目の前のオーガを倒した瞬間、その足元から黒い何かが噴き出し、二人を弾き飛ばした。
弾き飛ばされた二人は、地面を転がりつつも体勢を立て直し、武器を構える。
黒い煙がオーガソルジャーを包み、ドーザードの放ったクロスボウの矢を弾く。
やがて、その黒い煙がオーガソルジャーに向かって収束し、脈打ちながらその体躯が変容していく。
赤みを帯びた体躯は黒ずんで大きくなり、身にまとっていた革鎧が硬質化して、まるで鎧の様になっていく。
持っていた石斧も、黒く鋭い鋭利な斧になっていく。
「GUGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
全ての黒い煙がオーガソルジャーに吸い込まれ、オーガソルジャーが空に向かって吠える。
それだけで、その場にいた全員の皮膚が焼け付く様な痛みが走る。
「オーガジェネラルになったか……」
将軍の名を持つオーガ。
その強さは、金級冒険者クラスが複数いて倒し切れるかどうかというレベルだ。
現状、マキーシャ達と碌に動けないドーザードでは、到底倒し切れる相手では無い。
ドーザードが歯噛みしていると、その横から複数の柴隊が飛び出して行く。
「止せ! ソイツに鎖鎌は通用せん!」
ドーザードが止めるが、柴隊の速度は速く、既にオーガジェネラルに鎖を投げ掛け、動きを阻害させようとしていた。
ソルジャーなら何とかなっただろうが、相手は更に上のランクになったジェネラルだ。
オーガジェネラルが巻き付いた鎖を掴み、一気に引いて振り回し始める。
その圧倒的なパワーに慌てて柴隊は鎖鎌を手放したが、今度は鞭の様に振るわれた鎖によって弾き飛ばされてしまった。
「ドーザード! 後は任せたよ!」
マキーシャが、鎖を振り回しているオーガジェネラルに向かって駆け出す。
「どうする気だ!?」
「切り札を使う! 暫くアタシの前に出るんじゃ無いよ!」
マキーシャがそう言って斧を構え、呼吸を整えてオーガジェネラルを見据えた。
これから行うのは、確かに強力だが、一歩間違えれば二度と帰れなくなる方法だ。
「狂暴化!」
マキーシャが叫び、それで気が付いたオーガジェネラルが、振り回していた鎖を横薙ぎに振るった。
柴隊を薙ぎ散らした鎖が、マキーシャに直撃する瞬間、マキーシャはそれを片手で掴み、逆に鎖を引いた。
鎖を引かれるなど思ってもいなかったオーガジェネラルは、それでバランスを崩した。
「ガァァァァァァァァァッ!!」
まるで獣の咆哮の様な声を上げ、マキーシャがオーガジェネラルに飛び掛かる。
その両目は、白目の部分まで深紅に染まっていた。
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