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第8話




 冒険者ギルドにやってくると、アイナに屋敷のゴーストを退治し終えた事を伝え、ギルドマスターに面会したい事を伝える。

 マキーシャ達は受付で依頼達成の報酬を受け取り、俺自身はテンドラムから屋敷の権利書を貰い、同時に屋敷の修繕を頼んでおく。


 そして、ギルドマスターとの面会で、大量のゴーストとリッチを退治した事を伝える。


「リッチがいただと?」


 ギルマスのクックの言葉に頷く。

 そして、その証拠にマキーシャが黒魔石を見せた。


「ギルドマスターを始めてから、この街でそんな大物が隠れてたとはな…だが、何故屋敷に?」


 黒魔石を眺めてクックが呟き、その黒魔石を彼女達に返す。

 詳しい話をする前に、彼女達には退室してもらう。

 彼女達は彼女達で、黒魔石の売買交渉があるので退室して貰う理由には丁度良いだろう。


「…コイツが原因だ…」


 インベントリから瓶に入った愚者の石を取り出し、机に置く。

 聖水の中で浮かんでいる愚者の石の周りには、小さい気泡がびっしりと付いていた。


「コレは?」


「死んだ錬金術師が賢者の石を作ろうとして、出来た愚者の石って言う呪物でな、材料に生きた人間が使われていた」


 生きた人間と言った所で、瓶に伸びていたクックの手が止まる。

 気味が悪いだろうな。


「一応、聖水に漬けてあるから外部に影響はない。リッチになってからも相当執着していたようだからな」


「なるほど…それで、リッチの討伐報酬は君に渡して、成功報酬は彼女達に渡せば良いと言っていたが…」


「あぁ、彼女達もそれで納得してる。愚者の石に関しては、禁庫みたいなのがあればそこに永久に保管した方が良いだろう」


「すぐに手配しよう」


 机の脇に瓶を押し遣り、腕を組む。


「一応、言っておくと石に関しては彼女達は何も知らない」


「…わかった、それで討伐報酬なんだが…額が多いんで今すぐに用意するのは無理なんでな、少し待ってもらえるとありがたい」


「別に遅れても問題無いんだが、屋敷の修繕費に当てたいから、なるべく早くしてくれると助かる」


 俺の言葉にクックが頷く。


 禁庫と呼ばれる、冒険者ギルドの奥の奥、危険な代物を封印し、広まらない様にする特殊な倉庫がある。

 錬金ギルドから腕の良い錬金術師を呼び、完全封印を施して愚者の石はそこに封印されることになった。


「そうそう、今回の依頼達成で、お前さんのランクがノービスから銅級に上がるんで、カードの更新を受け付けでやっておくことだ」


「こんな早く上がるもんなのか?」


 俺の言葉にクックが首を横に振った。

 どうやら、かなりのスピード出世のようだ。


「初日にビッグタートル、そして今度はリッチだからな、そんな実力者が何時までもノービスってのはギルドにとっても痛手だからな」


 そう言ってクックがニヤリと笑う。

 つまり、コレからもどんどん依頼を受けて達成しろって事だよな…

 言われた通り、受付にいたアイナにランクアップの件を伝え、ノービスの冒険者カードを渡しておく。

 そしてしばらく待っていると、銅級の冒険者カードが手渡される。

 見た目はノービスの時の紙のカードが、そのまま銅のカードになっただけだ。

 アイナに礼を言って懐にしまうフリをして、インベントリにそのまま放り込んでおく。


 そして冒険者ギルドを出て、その足でスクウェール商会に向かい、テンドラムに会って屋敷の修繕の手配を頼んでおく。

 ゴーストをすべて倒したと伝えたら酷く驚いていたが、流石は商売人。

 すぐに屋敷の状態やそれに対しての修繕内容の確認作業に入る。


 取り敢えず、屋敷の状態は壁と屋根があるだけマシと言う程度なので、ほぼ全体を修繕する事になった。

 内装品に関しては、やはり一切不要と言う事を伝える。

 理由は単純に金が無いと言う事にしておいた。


 実際、今回の修繕で金無くなるし……



 その日の夜、屋敷に入って地下に行く。

 そして錬金術師の部屋に入ると、灯りの魔法が周囲を照らす。


「メニューウィンドウ」


 目の前に薄く発光する青い板が現れる。

 そこのメニューから『システム』をタップし、『拠点製作』を選択しようとすると、その部分は未だに灰色になっており、選択する事が出来ない。

 どうやら、今の屋敷の状態では拠点として認められないようだ。

 まぁ殆ど廃屋だからなぁ…

 止むを得ずメニューを閉じ、屋敷から出て宿に帰った。



 次の日、昼になってから屋敷に向かう。


「さて、それじゃまずはゴミ処理から始めるかね…」


 ジャケットを脱いでインベントリに収納すると、各部屋からどんどんボロボロの家具を運び出す。 

 そうやって半分ほど運び終えると、遠くから小柄な男達が屋敷に向かって歩いてくるのが見えた。


「アンタが屋敷の所有者かい?」


「あぁ、そう言うアンタ達はスクウェール商会からの大工か?」


「おぅ、俺はアマッシュ、後ろのコイツ等は俺の弟子達だ」


 アマッシュと言った男はドワーフ族。

 髭モジャで小柄だが、かなりの筋肉質の男だ。

 そして、後ろにいる男達も同じような見た目をしている。


「それじゃ、壁と屋根、それと各部屋の修繕を頼む」


「おぅっ、それじゃちゃっちゃと始めるぞ!」


 アマッシュの掛け声でドワーフ達が屋敷の修繕を始める。

 彼等は手際良く、解体する所は解体し、補修する所は補修していく。

 それを見ながら部屋から家具を運び出す。


「取り敢えず、住めるようになるにはどのくらいかかりそうだ?」


 地下室の片付けのみを残し、壁の修繕をしていたアマッシュに声を掛ける。

 聞かれたアマッシュが顎鬚を撫でながら考える。


「そうさなぁ…ガワだけなら三日もありゃ終わるが…中は結構時間が掛かるぞ?」


「なるほど…それじゃ引き続き修繕は頼むよ」


 外側だけでも修繕出来れば、多分拠点として登録できるようになるだろう。

 そうなれば、俺のサポートNPCを呼び出す事が可能になって、やれることが非常に増える。


「しかし、この家具類は全部処分で良いのか?」


 アマッシュが言うのは、庭先に浅く掘った穴の底に置いてある半ば朽ちていた家具達だ。

 中には修理すれば使える物もあるだろうが、愚者の石の波動を受けていた為、軽く呪いを受けている。

 売り払ったら軽くヤバイ事になるだろう。

 地下室を含む全部の部屋にある家具は全部処分だ。


「悪いが、全部焼却処分する予定だよ」


「ふむ、まぁ俺等は頼まれた修理をするだけだから良いんだが…」


 アマッシュがそう言い残して、壁の修繕作業に戻る。

 その作業を少し見ていたが、ボロボロの壁を一旦剥して中の骨組みを確認した後、骨組みに魔法を使って強化し、モルタルの様な粘土の様な壁土を塗り付けて均し、更に魔法で乾燥させていく。

 この世界では、魔法は便利な物として利用されている。

 戦闘だけでなく、生活の全てに魔法が根付き、それが当然となっている。


 このペースなら本当に外側だけなら数日で終わるだろう。

 その前にすべての廃家具を処分しなければならない。


 地下室のゴミは一度に運ぶ方が楽なので、大きい麻袋を複数用意する。

 その麻袋にとにかくゴミを詰めると、一度インベントリに収納して外に運び出す。

 特に錬金術関連の道具は厳重に梱包して運び出す。


「さてと、それじゃ一気にいくか」


 アマッシュ達に、ゴミを焼却するのでちょっとデカい音がすると注意をしておく。

 一応了解を得たが、今回のは燃やす量が多いからなぁ……

 周りに被害が出ない様に穴の周りに結界用の短剣を刺し、インベントリから聖水の瓶を取り出す。

 それぞれの短剣に聖水を掛けると、短剣自体が仄かに光を放つ。

 これで準備は完了。


「浄化の炎よ!牢獄となりて焼き尽くせ!聖刻獄炎牢(せいこくごくえんろう)!」


 魔方陣の中に青白い炎が垂直に吹き上がるが、魔方陣により熱と衝撃波は感じない。

 確かに熱と衝撃波は感じないが、周囲に爆音が響き渡った。


「コレの何処がちょっとなんだ!?」


 アマッシュそう言ってくるが、戦闘音と比べれば小さい方だろう。

 まぁ、生活音と比べれば大きいとは思うが…


「取り敢えず、これで燃やすのは終わりだから、大丈夫だよ」


「まったく…油を掛けて燃やすのかと思えば…あんな大魔法で燃やすとは…」


 別に大魔法と言う訳ではないんだけどな…

 そして、呪物と言う物は普通に燃やすだけでは無効化は出来ない。

 今回は、聖属性の炎で浄化したので無効化出来たのだ。

 穴の中にあった廃家具は見事に全て灰となり、フラスコ等の錬金術の道具もまとめて焼却された。

 これで一安心。


「何か修理する際の要求はあるのか?」


 アマッシュに聞かれて少々考える。

 確かに、後から弄るより今の段階である程度弄っておいた方が楽だろう。

 とすれば…


「それじゃ、1階にある台所と風呂場をもう少し広めにして欲しいのと、地下室の片方の部屋の壁を取っ払って一部屋に出来るか?」


「部屋を広げるのは可能だが、地下室はちと手間が掛かりそうだな…まぁ出来んことも無いからやっておこう」


 地下室の四部屋が三部屋に減ってしまうが、かなり広くなる。

 これで鍛冶や錬金術をする為に必要な大きな部屋になり、鍛冶用と錬金用の各炉を設置出来るし、後で防音と耐久強化の魔法陣を施し、部屋自体を強化しておけば安全に使える。


 取り敢えず、要求としてはこのくらいかな…


「それじゃ後は任せても大丈夫か?」


「おう、完璧に仕上げてやるぜ!」


 アマッシュがそう言うと、後ろにいた弟子達も腕を組んで頷いている。

 それじゃ後は任せて俺は冒険者ギルドで金を稼いで、支払いの足しにしなければ……



 冒険者ギルドで適当な依頼を探してみる。

 銅級となるとモンスターの討伐依頼が多く、採取依頼は少なくなる。

 と言っても、採取対象が難しくなり、少し遠出をしないと手に入らないような物になるくらいだが…

 討伐依頼は、ノービスの時はゴブリンだけだったのが、オークやコボルトと言った危険の度合いが上がっている。

 そして、銅級になると大抵がパーティーを組んで行動する事が推奨されている。

 その理由の一つがこの危険度。

 単独で行動すると、身の安全の為に夜は街に戻らねばならない。

 そうなると、自然と行動できる範囲は狭くなり、受ける依頼も限られてくる。

 なので、銅級になると親しいメンバー同士でパーティーを組んで依頼を受ける。

 パーティーを組むメリットは多く、単独で出来ないような依頼を受けたり、遠くまで活動範囲を広げる事が出来る。

 デメリットは単純で、報酬は山分けになるので一人あたりの報酬は減る事と、組むメンバーによっては人間関係で苦労すると言う事だろう。

 この一ヶ月、適当に依頼を受けつつ、色々調べてみた。


 まず、貨幣。

 基本的に紙幣は存在せず、銅、銀、金、白金と額が上がっていく。

 そして、どれも100枚で一つ上に上がるが、後で上の貨幣に両替する場合、手数料として5枚多く持っていかれる。

 そして、白金貨100枚を超えた場合、王国発行の証明書が渡されるらしいのだが、そこまで集めた事が無いらしいので知ってる人はいなかった。 

 流通している貨幣の殆どは銅貨であり、市民も銅貨以上を持っているのは稀だ。

 当たり前だが、貨幣偽造は犯罪なので、やれば間違いなく犯罪者として逮捕される。

 どうやって見分けるのか見ていたが、どうやら貨幣の全てに魔法による付与がされているらしく、偽造してもその効果が無い為すぐにわかるようだ。

 貨幣を手渡しせずに差し出された盆の上に置くと、その盆に付いている水晶が光って全てが本物と判断される。

 逆に、光らなければ偽造貨幣が混じっている事になり、その場で衛兵に取り押さえられ、事情聴取となる。


 この辺の気候は…今の所温暖。

 聞いた話だと雪も降るらしいが、まだ当分先との事。


 最後に食事だが…

 正直に言えば、地球で生活していた俺にとってはそこそこ……マズイ。

 味付けに使うのが塩と多少の香辛料だけで、基本、焼くか煮るだけ。

 パンも何故か色が黒く、最初は焦げているのかと思ったが、小麦粉自体が黒いからだと知った。

 白い小麦粉も存在するらしいが、貴族にしか手に入らない程希少らしい。

 何故そうなっているのかだが、地球にあったような白い小麦は、この世界では育成が難しいらしく、黒い小麦の方が遥かに育成が楽で強い。

 その為、普通の農家では黒い小麦を育て、貴族お抱えの農家が白い小麦を育てている。

 屋敷の修繕が終わったら、拠点のルーム配置で『食料庫』を設定するのも良いだろう。

 当然、売る物ではなく自分達用だ。

 拠点の部屋は、太古から近未来、更にはネタとしか思えないような物まで、ショップで購入していれば自由自在に変更出来る。

 俺は全部購入済みだ。

 それこそ、ゲーム内ポイントで買える物から、現金で買える物まで全部だ。

 その中に、『食料庫』と呼ばれる部屋があるのだが、そこには小麦粉から野菜までほぼ全てが揃っている。

 そう、日本人なら異世界でも恋しい『ジャポニカ米』もある。

 いい加減、日本食が恋しくなってきたなぁ……


 取り敢えず、屋敷を正式に拠点にする為に頑張ろう。

 そう考えつつ、壁に貼ってあったオーク退治を引き剥がした。




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