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第87話




 神威とマドゥーラが簡易宿で一泊し、食事の為に一階に降りてくる。

 昨日の夜に、酔っ払った冒険者達による大乱闘が開催されていたが、すっかり綺麗に片付けられていた。

 相当な騒音になったはずだが、この簡易宿の酒場には騒音対策の為に、遮音の魔道具と魔法陣が施されている。

 その為、睡眠の邪魔にはならないのだ。


 ちなみに、昨日大乱闘に参加した冒険者達は、全員酒場の親父さんによって叩き出されていた。

 ここの親父さん、元冒険者であり、腕っ節だけなら白金級クラスだったのだが、とにかく運が悪い。

 迷宮で見つけた宝箱は9割近くがミミックというモンスターであり、それ以外はすべて罠付き。

 だが、それでもめげずに冒険者を続けていたのだが、仲間を庇って大怪我を受けた為に引退。

 ギルドで新人相手に講習会や基礎講習を開いていたが、平原迷宮の簡易宿を運営する人員の選定に入って確定したという。

 若干、左足を引き摺っているが、それでも実力は高いので、酔っ払っている冒険者なら難なく鎮圧出来る。


 大乱闘を引き起こした冒険者達が破壊した机や椅子は、全て交換されており、その支払いに関しても、暴れた冒険者達から徴収される。

 昨日のあの三人組は、冒険者達によってボッコボコにされた後、簡易宿から叩き出されて戻ってきていないという。


 親父さんに朝食を頼み、それを食べ終えた後、そのまま昨日の夜に出来なかったオーガのドロップ品を分配する。

 牙、爪、皮、魔石等、それを均等に割っていく。

 そして、今回はそれ以外に珍しい事に『オーガの短剣』という短剣が残ったのだ。

 短剣と言っているが、オーガサイズでの短剣なので、人から見ればショートソードサイズだ。

 鑑定眼で見た所、呪いは無く、純粋に耐久度を上げるだけの能力が付いていた。

 売るだけでも、それなりの値が付くだろうが、今回は売らずにそのまま王牙へと渡す予定だ。

 これにも打算がある。

 こう言った能力が付いている武器は、どんな物であれ、種別としては『魔剣』と呼ばれている。

 簡単な能力であれば、人でも付与が可能であり、人工魔剣として出回っている。

 多少の切れ味を上げたり、簡単な魔法を発動させたりと色々ある。

 そして、人には再現不可能な能力が付いている場合、ギルドや国が買い取ってくれるのだ。

 王牙の様に知識がある人であれば、こんな簡単な能力の魔剣であっても、何かしらのヒントを得て新しい人工魔剣を作る可能性がある。

 その為、マドゥーラとしては売るよりも、王牙へ渡すという方針を選んだのだ。

 最も、この異世界の人工魔剣のレベルと、王牙の作る人工魔剣のレベルにはかなりの差がある。

 王牙が本気で自重せずに作った場合、人工魔剣と判断されない可能性すらあるのだが……


 その事に神威は気が付いているが、発覚すれば騒ぎになる為、あえて黙っている。

 そうして、戦利品を別け終えると、リルを連れて平原迷宮からサガナに向けて出発した。




 平原迷宮の中を、3人組がのろのろと移動している。

 剣士の顔には青痣があり、他の二人も何処かしらに痣が出来ていた。


「まったく、これだから野蛮な奴らは嫌いなのだ!」


 キーンがそう言いながら、痛む青痣を摩っている。

 壊れた家具の弁償として資金を取られてしまった後、全員簡易宿から叩き出された。

 その為、現在は懐が少々寒い。

 コーンとカーンも同じような状況だが、今回は運が悪かった。


「それよりも、本当にこっちであってるのか?」


「集めた情報では、此方の方角にあるそうですが……」


 呟いたコーンに、カーンが簡易の地図を開いて確認する。

 目的地まではまだ掛かるが、確実に近付いている。

 それを聞いて、キーンが腰の魔法袋から双眼鏡を取り出した。


「ふむ、コレでも見えない範囲となると、まだ歩くな」


「それで、コイツの効果は間に合うのか?」


 コーンが胡散臭そうに腰に吊るしていた袋を叩く。

 その袋は、大人の握り拳ほどの麻袋。

 それを全員が付けていた。


「計算上、余裕で間に合うはずですよ。 試験では5日間は効果を発揮したそうですから」


 カーンが同じように袋を叩きながら答える。

 そんな事を話しながら歩いていると、目の前からオークが2匹歩いてくる。

 そんな事はお構い無しに、3人は堂々と歩き、オークの視認範囲に入った。

 だが、オークはそのまま3人の横を素通りし、3人組も気にした様子もなく通り過ぎて行く。


「しかし、本当に余裕で見付からねぇんだな」


「聞いた時は疑いましたが、こうも実際に体験すると驚きですね」


「コーン、カーン、さっさと行くぞ!」


 感心していた二人に対してキーンがそう言いながら進む。

 その後も、オークやオーガとすれ違うが、まるでいないかのように素通りしていく。


「外じゃ考えられねぇな……」


「特定の迷宮限定らしいですからねぇ」


「む、アレではないか?」


 話しながら進む3人組の前に、古びた教会が見えてきた。

 これは教会の姿をしているが、実際には入ったが最後、相当な実力者でなければ生還する事が不可能な迷宮、逆さ迷宮の入り口である。

 現在は自己責任で挑戦する事が出来るが、彼等の目的はここに挑戦する事ではない。


「さて、それじゃさっさと済ませるぞ」


 キーンが言いながら教会の扉を開くと、カーンが持っていた魔法袋から一抱えほどの箱を取り出した。

 箱には頑丈な鎖が巻かれ、蓋には封がされていた。

 それをコーンが慎重に外し、蓋を開けると、一瞬、背筋が寒くなった。

 中に入っていたのは布に巻かれた、黒い宝玉が嵌め込まれた短剣。

 だが、それは見るだけで背筋に悪寒が走り、触れてはならないと思わせる。

 その短剣を、白い手袋を付けたキーンが拾い上げると、その短剣を教会の中に放り込んだ。

 短剣が中央付近の床に突き刺さったのを確認すると、キーンが扉を閉める。

 そして、コーンが持ってきていた油を箱に振り掛けると、火を付けて完全に灰にしてしまう。

 その火に手袋を放り込むと、キーンが溜息を吐いた。


「これで依頼は達成になるが、この後はどうする?」


「俺はさっさと帝国に帰りてぇ」


「早めに国に戻った方が良いでしょうな」


 それを聞いて、キーンが頷く。

 元より、長居する必要は無いのだ。

 3人組は足早にその場を後にする。



 しばらくすると、床に突き刺さってた短剣の柄に嵌め込まれていた黒い宝玉がどろりと溶け出し、刃を伝って床に広がり始めた。

 そして、短剣自体が全てが溶けて床に広がると、薄く床の魔法陣が発光し始める。

 だが、その発光もしばらくすると消え、黒い染みの様に広がっていた物も消えていた。

 誰に知られる事も無く、この異常は終わったかに見えた。




 その日、サガナの騎士団長は朝から走り回っていた。

 サガナの街中に、急に魔獣の集団が現れ、大混乱が起きていたのだ。

 貴族が多く住む貴族街は元より、スラムですら魔獣が現れ、暴れているのだ。


「クソッ! 一体何処から入り込んだと言うのだ!?」


 団長が言いながら、通路を歩いている。

 手持ちのポーションが尽き、補充の為に騎士団の詰め所に戻って来たのだ。

 ただ、朝からずっと走り回っていた為、碌な食事すら食べていない。

 空腹感を感じるが、呑気に食事をする暇はない。

 スラムはともかく、貴族街にまで被害がある以上、早急に収束させる必要がある。

 ポーションが纏めてある部屋に入ると、壁際にあった数本のポーションを手に取り、ポケットにねじ込む。


「何者だ!?」


 団長が腰の剣に手を掛け、一気に飛び退いた。

 そこには、黒い外套を身に着け、白い仮面を付けた何かが立っていた。

 先程まで、そこには何もいなかった。


「サガナ騎士団、騎士団長ディーカム=ロメト=トーカー」


 白仮面がそう言って手元の紙を捲る。

 それを見ながら、油断無くディーカムが剣を引き抜く。

 どう考えても、ただ者ではない。

 白い仮面は一切の装飾も無くのっぺりとしており、目の部分だけに穴が開いている。


「処理させてもらおう」


「なっ!?」


 そう言い放った白仮面が、一気にディーカムに向けて跳躍する。

 ディーカムが慌てて迎撃すると、白仮面がディーカムの頭上を飛び越えて綺麗に着地する。

 迎撃した剣を見ると、僅かにだが刃毀れをしていた。

 この剣は魔鉄と呼ばれる素材で作られた特注品であり、並の素材であれば打ち勝てる。

 だが、手入れを怠って雑に扱えば、すぐにボロボロになる事から愛用者は少ない。

 ディーカムは手入れは怠ってはいないので、白仮面の所持している武器が並ではないのだろう。

 そんな白仮面の手には、透き通った刃の短剣のみ。


「チッ……魔武器か……」


 ディーカムが改めて剣を構える。

 最初は油断したが、次はこうはいかない。


 そうしてしばらく、白仮面と切り結ぶ。

 だが、白仮面はまるで実体が無いかのように、斬ろうが突こうが手応えが無い。

 完全に胴体を貫通したかと思えば、そのまま攻撃をして来た。


「流石、騎士団長と呼ばれるだけの事はある」


「化け物がっ……」


 思わず呟くが、実力的には十分勝てる相手だ。

 ただ、何故こちらの攻撃が通用しないのか、それを解き明かさねばならない。


「これ以上時間を掛けると次に支障が出るんでね、終わりにさせてもらうよ」


 白仮面がそう言うと、右手に持った短剣でジャグリングのような事を始めた。

 剣を構え、何を始めても対処出来るようにその様子を見る。


「ほら、一本が二本、二本が四本、四本が八本、八本が十六本……」


 白仮面の言葉通り、短剣がまるで分裂するかのように数が増えていく。

 それはどんどん増えていき、夥しい数の短剣が宙を舞っていた。


「な、なんだ……それは……」


 任意で増える短剣など聞いた事がない。

 もし存在するのであれば、無限に素材を手に入れる事が出来るだろう。


「『夢幻の影斬りインヴォイド・スラッシャー』って言われてたねぇ」


 ディーカムが周囲を確認するが、今までの戦闘で身を隠せるような場所は無くなっていた。

 そうなると、あの数を全て躱しきるか、迎撃しなければならない。


「それじゃ、サヨウナラ」


「く、糞がぁぁぁぁっ!!」


 白仮面から放たれた短剣が、ディーカムに襲い掛かる。

 ディーカムは躱し、弾き、転がるようにして逃げたが、数秒後、一本の短剣が足に刺さり、それを合図にその身に短剣が刺さっていった。

 ディーカムが倒れ、白仮面が脈を確認し、死亡を確認する。

 そして、白仮面が指を弾くと、まるで幻であったかのように、無数にあった短剣が消えて、最初の一本の短剣が残された。

 それを引き抜き、付いた血糊をディーカムのマントで拭うと、懐の鞘に納めた。


「コレで3人目と、あと二人ですねぇ」


 白仮面が、最初に見ていた紙を取り出し印を付ける。

 そこには、すでに二人の名前に印が付けられている。

 商人と貴族の有力者。

 そして、今回の騎士団長。

 全員有能であり、サガナにとっては十分な打撃だろう。

 だが、これだけで本当に機能しなくなるのだろうか、と疑問も浮かんだが、自分が考えても仕方ない事だと思い直し、次の標的を再確認する。


「……コイツが成功すれば国際問題だねぇ……」


 そう言いながら紙を懐に入れ、その場から消えるようにいなくなった。


 しばらくして、いつまでも戻らない騎士団長を探しに複数の団員が戻ってくる。

 そして、荒れた保管庫の中で殺害されたディーカムを発見した。

 普段であれば、その報告は速やかに領主へと報告されるが、大混乱しているサガナでは報告が上がらず、現場では止むを得ず、副団長が命令権を引き継いだ。


 そして、泥沼の如き、魔獣掃討戦が始まった。




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