第86話
屋敷に徴収隊がやってきている頃、神威とマドゥーラは平原迷宮で新型ゴーレムの最終調整を行っていた。
相手に選んだのは、平原迷宮ではそれなりの数がいて、それなりに強いオーガの群れ。
最初はオークを相手にしたのだが、新型ゴーレム相手では弱過ぎて調整に向かなかったのだ。
その為、オーガを相手にする事にしたのだ。
「壱式! 防御!」
マドゥーラの指示で、ゴーレムがオーガの強力な棍棒の一撃を盾で受け、凄まじい音が辺りに響き渡る。
オーガは自身の膂力を活かし、そのまま棍棒を押し込むが、ゴーレムの盾はビクともしない。
ゴーレムが僅かに盾を押し込むと、オーガが押されまいと押し返した瞬間、盾が一気に引かれてオーガが体勢を崩す。
その体勢が崩れたオーガに向かって、ゴーレムが持っていた巨大なハルバードを振り下ろした。
体勢を崩した状態で、そんな一撃を躱せる筈も無く、オーガの巨体が両断された。
壱式と呼ばれたゴーレムの現在の武装は、タワーシールドに巨大なハルバード。
それらを片手で軽々と振り回すのだ。
他にも、予備の武装はいくつかあるのだが、現状ではこの構成が一番安定している。
タワーシールドで防御し、巨大なハルバードで薙ぎ払う。
このハルバードは片手で運用するのが前提だが、当然、両手で持って振り回す事も可能だ。
その際の一撃は、オーガの棍棒と打ち合った瞬間、棍棒諸共オーガを両断するほどの威力。
「ここら辺のオーガも終わったかな?」
神威が頭の後ろで腕を組み、周囲を見回した。
彼女の言う通り、今いる周辺のオーガは全て殲滅してしまった。
此処以外にいるオーガまで狩ってしまうのは、流石に他の冒険者達の迷惑になる。
「マナ消費もダメージも想定内っと……これからどうしましょうか?」
「んー……壱式の騎士型はこれで良いとして他は?」
「狩猟型と斥候型も試したいけど、オーガがいないんじゃ試せないもんね」
壱式はボディを中心とし、他のパーツを装着する事で様々なタイプに換装する事が出来る。
その中で実戦でのテストを必要とするタイプは、『騎士型』『狩猟型』『斥候型』の3タイプ。
騎士型は、盾で守って強力な一撃で反撃するオーソドックスな戦い方をする。
狩猟型は、片腕に巨大なクロスボウを搭載し、専用の鉄の矢を撃ち出す中遠距離の戦い方をする。
斥候型は、武装こそショートソードや軽量パーツで構成され、人を背負った上で偵察任務の為に素早く動く事が出来る。
これ以外にも、土木型や建設型等もあるのだが、別にこの場でテストする必要は無い。
「でも、他のを試すとなると一旦、工房まで戻らないと……」
マドゥーラが呟いて壱式を見上げる。
王牙の所有している零式に倣って、『壱式』と名付けた新型ゴーレムの見た目は、銀色の全身鎧に仕上げている。
パーツ毎に換装する事が可能にはなっているが、ゴーレムである以上、それぞれのパーツはそれなりに重量がある。
その為、換装作業をする場合、しっかりとした土台とクレーンが必要となるので、屋外では換装作業をする事が出来ないという欠点が存在していた。
「換装して対応幅を広げるアイデアは良いですけど、換装する場所に戻らないといけないのは、不便ですねぇ」
「………いっその事、換装させるゴーレム作る?」
神威の一言で、マドゥーラが考え込む。
確かに、換装専用のゴーレムがあれば、どんな場所でも対応が出来る。
「……………いいですね、それ」
「リル、戻るよ~!」
神威がそう呼ぶと、遠くからリルが走って戻ってくる。
そして、二人は平原迷宮の入り口に出来た簡易宿に戻ると、机に紙を広げてあーでもないこーでもないと必要な条件を纏めながら、設計図を書き始めた。
まず、絶対条件として、壱式よりも大型で重量がある事だ。
壱式より小さいと換装作業は出来ないし、重量が軽いとバランスが取れない。
他にも、外したパーツを保持する為に、腕を複数にし、太い脚部には換装作業時に安定させる為にアンカー、そして巨大な平たい尾状のパーツ。
カウンターウェイトと、いざという時の為にタワーシールドも背中側に装着させる。
そうして描き上がったのは、複数の腕を持つ、巨大な亀のようなゴーレム。
「基本はこれで良いとして、後は実際に組んでみてかな?」
「それじゃ、これから上に戻って、炎尚からゴーレムコアを貰って、工房で作業する?」
神威がそう言うと、マドゥーラも頷いた。
そもそも、オーガを狩り尽くした時点で、壱式の最終調整は終わったも同じなのだ。
問題があるとすれば、所持している旧式ゴーレムとの連携だが、こればかりは性能差がありすぎて連携は不可能として、壱式を主軸に運用し、旧式ゴーレム達は下がった際に前に出して防御させる。
新しいゴーレムコアは、炎尚が王牙から複数預かっており、必要であればいつでも貰えるように手配されている。
「時間的に外は夜になるでしょうし、今日は泊まりましょうか」
マドゥーラが壁際に鎮座している柱時計を見る。
平原迷宮は常に昼の為、中にいると時間感覚が狂ってしまう。
その為、入り口にある施設には時計が置かれ、昼に一度、中央の管理施設で鐘が鳴らされるようになっている。
そして、宿の窓には全て鎧戸が付けられており、外の明るさをかなり遮ってくれるようになっており、寝るのに不便は無いように工夫されている。
柱時計を見る限り、時刻的にはまだ夕方。
だが、平原迷宮からサガナに戻るとなると、閉門時間には間に合わないだろう。
その為、今回はここで一晩休み、明日帰る事にしたのだが……。
「おぉぉっ! 良い女がいるじゃねぇか!」
そんな事を言って現れたのは、ここら辺ではあまり見ない鎧を着た男達三人組。
一人は金髪に銀の鎧、赤マントに豪華な鞘に収まっている剣を下げ、同じような豪華な盾を背負っている剣士。
二人目は同じ金髪だが、青マントに手入れの行き届いた革鎧、腰には複数の短剣と、宝石がゴテゴテと装着された弓と矢筒を背負っている斥候風。
三人目は、銀髪に金刺繍の施された白いローブ、巨大な宝石が付けられた銀のロッドを持った神官。
ここまで聞けば、その身形から裕福な冒険者か騎士、貴族の関係者かと思うだろう。
だが、その三人組を見てマドゥーラが眉を顰めた。
それもそのはずで、剣士は一言でいえば超肥満体型、斥候風の男はガリガリに痩せ、他の二人よりも頭一つ分身長が高いが、目の周囲が落ち窪んでいる。
神官の男に至っては、肌は青白く、剣士に劣らぬ超肥満体型で、金髪はべっとりと脂ぎっている。
少なくとも、女性であれば関わり合いになりたいとは思わないだろう。
「こんなシケた国に送られて、毎日つまんねぇって思ってたが、良い女がいるんなら問題ねぇな!」
「ケッ、テメェが馬鹿しなきゃ今頃、帝都の一等地で悠々暮らせてたハズなのによぉ」
「アレは……そう、アレだよ、俺が悪いんじゃねぇよ、アイツが色目使ったら……」
「とにかく、そこの御嬢さん方、我々と一緒に食事などいか………」
「結構です」
「休憩に入りますので」
神官が声を掛けてきたが、バッサリと拒否する。
こういう場合、察しの良い男なら脈無しと判って諦めるが、察しの悪い男の場合、侮辱されたと思ってしつこく付き纏ったりする。
だが、この三人組は、そのどちらでも無かった。
「おいおい、断るなんて俺達が誰か判らねぇんじゃねぇの?」
「仕方ねぇよ、帝国から離れ過ぎてるこんな糞田舎じゃ」
剣士と斥候の二人がそう言いながら、神威達の前に邪魔するように移動する。
そうして、三人組は懐から金色に輝く一枚のプレートを取り出した。
「こんな糞田舎の冒険者ごっこしてる連中とは、格が違うんだよ」
斥候の男が『冒険者ごっこ』と言った際、周囲の冒険者達の空気が変わった。
この場にいる冒険者達は、平原迷宮に入る事を許可されている実力者達だ。
そんな彼等に向かって『ごっこ』と言ったのだ。
「薔薇の貴公子キーン=ハスラー!」
「帝都の陰、コーン!」
「そして、私が再誕せし真の御使い、カーン=リンガーナ」
「俺達3人がギルドランクBの『栄光の翼』さ!」
そもそも、王国ではパーティー名を決めて名乗る事は皆無だ。
これは、王国がクーデターで帝国と分裂した時、クーデターを起こした貴族達に加担した冒険者達の殆どが、当時の王国でも有名なパーティーばかりであり、帝国に奪い取られた領土で暴れ回り、王国側の冒険者達へのイメージが凄まじいまでに悪化した。
その為、王国に残った冒険者達は、パーティー名を付ける事を避け、代表者としてリーダーが名乗るだけにしているのだ。
逆に、帝国では冒険者達は立国の立役者達として、大々的に祭り上げられている為、パーティー名を付ける事に戸惑いも無ければ躊躇も無い。
「……帝国のランクBってこっちだと何ランクなの?」
神威が別の机で酒を飲んでいた男に声を掛ける。
声を掛けられた男が、赤ら顔のまま少し考え込む。
そして、同じ机にいた仲間達に視線を向けると、仲間達も首を傾げている。
「ぁ~………確か帝国じゃSが最上位らしいからなぁ……金か銀くらいじゃねぇの?」
悩み抜いた男がそう答えた。
乱暴な答えだが、これは言いえて妙である。
そもそも、王国と帝国では大本が同じ冒険者ギルドがあるが、冒険者ランク制度だけが別になっている。
元々、帝国でも冒険者のランクは、王国と同じ物を採用していたのだが、今の賢者が『現状のランク制度ではランクが少な過ぎて実力が把握し切れない』、『王国と同じシステムを採用しているのは帝国の威信に係わる』と進言し、今のアルファベットランクに変更された。
当然、当初は反発もあったが、細かいランク別けになった事で実力の把握が楽になったと、評価されている。
最も、反発の声を上げていた者達は、いつの間にか帝国から姿を消していたのだが………
「ヘースゴイネーツヨインダネー」
神威が凄い棒読みでそう言いながら、後ろにいるマドゥーラの方を見る。
その彼女の表情もうんざりしていた。
ちなみに、リルは宿に併設されている厩で休憩している為、この場にいない。
もしいれば、一騒動が起きていただろう。
「そんな俺達と関係が持てれば、この先安泰だぞ?」
「近く帝国は大陸全土を取り戻っ……」
「コーン! それはまだ機密事項だ!」
コーンの口を、カーンが慌てて塞ぐ。
ただ、その勢いでコーンが弾き飛ばされ、キーンを巻き込んで別の机に縺れ込んだ。
当然、巻き込んだ机には別の冒険者グループがおり、全員酔っ払っている。
冒険者とは基本的に血の気が多く、王牙やジーナ達の様に冷静な冒険者というのは結構珍しい。
そんな血の気の多い冒険者が酔っている所に、身形だけは豪華な奴が倒れ込んでくる。
後は、説明など不要であろう。
酔っ払い共の大乱闘開幕である。
なお、神威とマドゥーラはささっと回避して部屋に戻っていた。
誤字報告ありがとうございます~
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




