表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/105

第84話




 王牙が王都へ向かい、帰路に着く頃。

 サガナ領主の屋敷前に、銀の鎧に赤いマントを付けた兵士達が並んでいた。

 彼等は王都所属の兵達であり、大臣でも自由に動かす事が出来る唯一の兵達である。

 ただ、所属している兵達の大半が、大臣に付き従う者達ばかりで構成され、ほぼ全員が何かしらの問題行為を犯して他の部隊から追放されたりしていて、他の兵達や騎士団からの評判は良くない。

 その為か、大臣以外からの出動要請が下された事は殆ど無く、大臣から下される任務も、大臣が邪魔と判断した貴族や商人から難癖を付けて、根こそぎ奪い取っていくと言う任務が多い。

 別名『徴収隊』と呼ばれ、王や他の騎士団から苦情を言おうにも、正当な理由の元に徴収していると言う事と、大臣が手を回して揉み潰している。


 そんな徴収隊が屋敷の前で整列し、大臣が出て来るのを待っている。

 窓からその様子を見下ろし、ジャシムが満足そうに口角を歪めている。

 今回はサガナ領主に話を通し、スムーズに徴収作業を進めるのだ。


「さて、今回は協力して頂きましてありがとうございますな」


 ジャシムがそう言って頭を下げた。

 目の前に腕を組んで座っているのは、現領主であるゲオルグ=ケールズ=サガナ。

 銀髪をオールバックに纏め、その眼光は鋭く、一目で無能な領主では無い事を感じさせる。

 そんな彼も、目の前のジャシムとは仲は良くない。


 ジャシムは協力と言っていたが、大臣の権力は領主の権力より強いのだから、協力を要請されたら余程の事が無い限り拒否など出来ない。

 ただ、せめてもの嫌がらせとして領兵は出せない事を了承させ、更に不必要な戦闘行為と略奪行為は認めない事を容認させてある。

 つまり、兵は通すが協力などしない、と言っている様なモノだが、ジャシムはコレを認めた。


「……兵を通すだけだ。 もし失敗しても此方に文句は言うな?」


「……ククク……成功して泣き付いても遅いですがね」


 ジャシムが寄こした命令書には、鉱山の村の一つを壊滅させた原因の冒険者にある疑いがある為、拘束するのが目的とあったが、どう考えても胡散臭い。

 そもそも、拘束が目的なら徴収隊では無く、別の部隊を連れて来るべきだろう。

 それなのに、徴収隊なんて連れてきた時点で、拘束以外に何かを持ち出そうとしているのが丸判りだ。

 ジャシムが仰々しく礼をして屋敷からを出て行くのを確認すると、すぐに机の引き出しから小さな水晶玉を取り出し、それを握って魔力を流した。

 すると、部屋の外からワゴンを押したメイドを連れて、一人の老執事が部屋に入ってきた。


「……奴等を監視し、情報を集めよ」


「了解致しました」


 メイドが煎れた紅茶を一口飲み、ゲオルグが溜息を吐く。

 老執事に指示を出したが、嫌な予感が頭から離れない。

 もし、ジャシムがやろうとしている事が、サガナに対して多大な不利益を招く様なら、ジャシムには悪いが隠居して貰う事になるだろう。

 だが、今は監視をする程度の事しか出来ないが 何か起きた場合、すぐに動けるだけの手筈は整えておく。

 そう考えつつ、ゲオルグは残っている紅茶を飲み干し、部屋を後にした。




 領主の館から、ジャシムと徴収隊が出て来た頃、サガナの一角にある小さな屋敷では、一人の男がローブを着ている人物の前に立っていた。

 ただ、その男の表情は青く、手渡した紙を見ているローブの人物に視線を泳がせている。


「ふ~ん……つまり、ターゲットは5人、でも、あのバケモノはいないって事?」


「は、はい……何か特別依頼とかで王都に……ただ、すぐに戻る様な事を言っていたらしいですが……」


 聞かれた男がそう答えると、ローブの人物が顎に手を当てて考え始める。

 考え込んでいるのを見て、男の表情が更に青くなっていく。

 今、この人物の機嫌を損ねると、自分の命は無い。

 同士であると言えば聞こえはいいが、実際にはただ利用価値がある間だけは生かされ、利用価値が無くなれば即、切り捨てられる。

 男は帝国からの間者として長い間行動しているが、ゲルィンの起こした騒動で、王国内にいる間者の殆どは捕縛されてしまっている。

 自身もかなり怪しまれており、近い内に姿を消す予定だった所に、今回の任務が下されてしまった。


「よし、それじゃ一応、影共に召集を掛けて、街道で待ち伏せして貰おうか」


「か、影ですか……い、今の状況では……」


「良いんだよ。 どうせ今回の件が終われば用済みなんだから」


 そう言って、ローブの人物が立ち上がる。

 それを見て、男が頭を下げると、ローブの人物は部屋から出て行った。

 しばらくして、男が溜息を吐きながら椅子に腰掛けた。

 『影共』と呼ばれていたのは、ある条件で帝国に飼われている暗殺集団の事だが、『今回で用済み』という事は、切り捨てられると言う事だ。

 つまり、帝国は彼等を最早必要としていないか、代わりになる『ナニカ』を手に入れたことになる。

 それが、人員なのか、技術なのかは、長く帝国から離れていた為不明だが、一つだけ判っている事もある。

 ターゲットになっている男は災難だ。




 王牙の屋敷に買い物から急いで戻って来たジーナがいた。

 色々な所を回っていた事のあるジーナ達は、当然王都でも活動していた時期がある。

 偶然、領主の屋敷から出て来た徴収隊と、大臣の姿を目撃した。

 少し前、盗賊ギルドから王牙が大臣に狙われていると連絡を受けていたので、大臣が徴収隊と共にいるのであれば、間違いなく動いたとみるべきだろう。

 このままだと、屋敷にある物は根こそぎ奪われる。

 そう考え、急いで炎尚と神楽に報告をしたのだが……

 

「そうですか」


「何も問題有りませんね」


 ただそれだけだった。

 この二人にとっては問題にすらならないのだろう。


「それより、頼んでおきましたピクルスは買えましたか?」


「あ、はい」


 神楽に言われ、ジーナが手持ちの袋からピクルスの瓶詰を取り出した。

 それを受け取り、神楽は台所の方に向かって行った。

 ラナとミナキは屋敷の掃除と洗濯中。

 炎尚は外でワイルドチキンや畑の世話。

 神威とマドゥーラ、リルは依頼の為に屋敷には居ない。

 これ以上は騒いでも仕方ない事だと考え、ジーナも仕事に戻っていった。

 ココでは、自分の常識など通用しないのだ。




 そうして、屋敷に勢揃いしたジャシムと徴収隊、そして、その背後に運輸ギルドのメンバーが立っていた。

 綺麗に刈られた生垣の向かいで、二列に兵が並んで、その前にジャシムと一際豪華な鎧を着込んだ男が立っている。

 その豪華な鎧の男こそが、この徴収隊の隊長であり、元々所属していた部隊で、暴行や恐喝行為を繰り返し、除隊寸前の所をジャシムにスカウトされた。

 それ以来、ジャシムの指示で様々な相手から強制徴収を行っていた。

 その際、必要以上に徴収した分は、そのまま徴収隊の裏収入となり、報告には記載していない。

 今回のターゲットになっている屋敷も、金目の物は全て頂く予定だ。

 それ以外にも、珍しいゴーレムや魔道具を所有しているらしく、そのゴーレムに関しては、手に入れば別途報酬を出すと大臣が言っていた為、全員がやる気だ。


 そんな徴収隊の裏にいる運輸ギルドのメンバーだが、全員やる気が無い。

 そもそも、ギルドマスターであるキリガンからは、『どうせ無駄になるから適当に付き合っておけ』と言われているのだ。


「さて、それじゃ行くかぁ」


 そう言って、ジャシムと徴収隊の隊長である男が屋敷に向かう。

 綺麗に手入れがされた庭を進み、扉を叩く。

 しばらく待つと扉が開き、中から炎尚が出て来た。


「何か当家にご用でしょうか?」


「ここの家主に、一つの村を壊滅させた容疑と、とある疑惑が掛けられている」


「それにより、これより屋敷内の強制徴収を行う、と言う通達だ」


 ジャシムと隊長がそう言うが、炎尚は首を傾げている。


「旦那様でしたら、じきに戻ると思いますが……それに、徴収と言われましても、当家には滞在している御客様もおりますので……」


「そんな事、我々には関係ないわ!」


 隊長がそう言って炎尚を押し退けて屋敷内に入る。

 瞬間、隊長の背筋に凄まじい悪寒が走り、反射的に剣を引き抜いて構えた。

 そして、周囲に視線を飛ばし警戒するが、周囲にはジャシムと炎尚しかいない。 


「どうなされました?」


「き、貴様……こんな事をして……」


「こんな事? 私は何もしておりませんが……あぁ……もしかしたら……」


 炎尚がそこまで言って一旦言葉を切った。

 そして、屋敷の中を見回した。


「元々、この屋敷にはリッチがいたそうですが、旦那様が退治しましたが、何かしらに呪いが残っているやもしれませんね」


 その言葉で、隊長の顔から血の気が引いていく。

 そもそも、リッチは幽霊系魔物の中でも上位の存在。

 正規の騎士団や魔術師、教会に所属している聖職者ならともかく、問題児の集まりである徴収隊には対処など出来るはずもない。

 もし、そう言う相手が出て来た場合、他の騎士団や現地の冒険者を雇って対処してきた。


「く、くそっ!」


「何をしておる! さっさと始めんか!」


 隊長が悔しそうに言って、屋敷の外にゆっくりと後ずさっていく。

 ジャシムはまだ屋敷の中に入っていないので、後ずさって出て来た隊長の背中に向かって叫ぶ。

 そんな様子を遠くから兵達が見て、ザワ付き始める。

 問題児の集まりと言えど、それなりに修羅場は潜り抜けている。

 そんな面々を腕っ節で纏め上げている隊長が、思わず後ずさっているのだ。


「別に私としましては、彼方が呪われようが構いませんが……」


 炎尚がそう言って、押された際にずれた襟を正し、目の前にいる二人に視線を向ける。

 明らかに隊長の方は、リッチがいたという話を聞いて恐怖している。

 恐らく、過去にそう言った相手と戦って酷い目にあったのだろう。


「それでも、屋敷に入りますか?」


「チッ……ジャシム様、一旦出直しますよ」


「な……何を言っているのだ! おい!?」


 隊長が悔しげに背を向けて、部下達の所に戻っていく。

 それを見て、慌ててジャシムが追い掛ける。

 炎尚は、全員が屋敷から見えなくなるまで見送り、見えなくなってから屋敷の中に戻った。

 屋敷の中に入った後、周囲を見回した後、階段の横手を見る。


「神楽さん、全員御帰りになられましたよ」


 そう言って、倉庫代わりの部屋に歩いて行った。

 すると、階段の横手にある陰の一つから、神楽がスルリと現れた。


 隊長が屋敷に押し入ってきた瞬間、階段の陰に隠れていた神楽が、隠蔽状態から威圧を放ったのだ。

 神楽の威圧は王牙よりも弱いと言えど、常人から比べれば充分過ぎる威力だ。

 そんな威力の威圧を直撃させられれば、いかに場馴れしている相手であっても、一溜りも無い。

 勿論、リッチの呪いなどでは無い事は、最初から炎尚には判っていた。

 しかし、このまま彼等が引き下がるとは思えない。

 もしそうなった場合、此方が有利になる様に情報を集める必要がある。

 だが、個人で情報を調べるには、今回は時間が無い。

 やはり、ここは専門の情報屋を活用すべきだろう。

 炎尚を見送った神楽がその場で一礼すると、再びその姿を消した。




面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ