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第83話




 サガナ行きの乗合馬車に揺られ、二日目。

 王都に向かう際はゴブリンが出て来たが、今の所、索敵レーダーには近付いてくる赤い点は確認出来ない。

 俺の隣では、アイナが一緒に乗っていた少女と楽しそうに話している。


 今回、乗合馬車を利用しているのにはいくつか理由がある。

 まず、純粋に護衛の人数が足りない事。

 ヒルデベルク家の私兵を使えば、護衛の人数は確保出来るが、そうするとヒルデベルク家自体が手薄になってしまう。

 王国貴族である以上、私設の兵士を確保しているのは良いのだが、その数は30人と些か少ない。

 この少なさの理由は単純で、強力な兵士を大量に保有して国家転覆を狙う事を防ぐ為だ。

 特にヒルデベルク家は武勇に優れた貴族である為、30人以上を保有する事は禁じられていると言う。

 あのベルガーの爺さんだが、御年90歳なのに、地竜(アースリザード)程度なら素手で殴り倒せるらしい。

 若い時は『殲滅の拳』と言う二ツ名を持ち、対峙した相手を震え上がらせたと言う。

 アーノルドの事を坊主と呼んでいたから、それなりの歳だとは思ったが、まさか90歳だったとは……


 乗合馬車の護衛は、その都度に冒険者を雇っているのではなく、乗合馬車の商人が個人的に契約している専属冒険者達だ。

 腕は良いが遠出が出来ないと言う、結婚したりして王国に根を下ろしている冒険者達と契約するのだ。

 それ以外にも、それなりの腕しかない冒険者を雇い、熟練の冒険者に師事させて技術を継承させ、腕を上げさせて冒険者向けの商人に紹介して仲介料を取ったり、迷宮で活躍させて宣伝させたりする。

 そうする事で、その乗合馬車商人の所に、新人冒険者や伸び悩んでいる冒険者が集まり、熟練冒険者に師事させながら、護衛をさせる。

 そうして、乗合馬車商人は専属の護衛が定期的に入ってくる為、余程の事が無い限り、護衛の追加募集はしない。


 今回利用している乗合馬車は、熟練の冒険者が3名、新人5名と言う組み合わせで、熟練3人はこの道15年とかなり長い。

 御者に新人と熟練が1人ずつ、そして馬車の前後にそれぞれ新人2人と熟練1人と言う別け方だ。

 そして、全員が剣と盾を持ち、馬車の中には穂先が箱に入って固定された槍が置かれている。

 この熟練者達、魔法使いがいればかなり安定したパーティーだと思ったが、実は御者を務めている熟練者は魔法使いらしく、外見で判らないように同じような格好をしていると言う。

 ワンドやロッドと言った魔法の補佐武器を持っていないと思ったが、彼の持っている剣、実は見た目が剣なだけでワンドの一種。

 野盗や盗賊に襲われた際、この見た目に騙されて魔法によって制圧する事が多々あったと聞いた。

 しかし、近接戦闘が出来ない訳では無く、ある程度は戦えるように鍛えているらしい。


 二日目にしてオークが3匹出て来たので、護衛達の動きを見つつ、索敵レーダーで周囲を確認しておく。

 熟練が1匹を早々に片付け1匹の相手をし、新人が二人掛かりで残りの1匹の相手をする。

 そして、後ろにいる護衛は、周囲に目を光らせている。 

 新人達の動きはしっかりしており、互いに隙をカバーしあっている。

 そうして倒したオークは、馬車に備え付けられていた魔法袋に収納される。

 血抜きやら解体やらは、休憩地や拠点に到着したら行われるそうだ。



 そして、四日目。

 コレと言った襲撃も無く、馬車が進んでいると、前方から2頭の馬が走ってくるのが見える。

 普段なら、ただの移動しているだけの相手だと思ったが、どうにも様子がおかしい。

 街道をかなりの速度で走り、まるで何かから逃げているような感じだ。

 それを見て、御者が馬車を街道脇に寄せて停車する。

 止まった馬車を確認したのか、馬が徐々にスピードを落としていく。


「そこの馬車! 直ぐに引き返せ!」


 馬に乗っていたのはサガナの領兵だった。

 二人共銀色の軽鎧に身を包み、短いが青いマントを付けている。

 ちなみに、赤いマントは王国の騎士のみであり、領兵は青いマントを付けている。


「一体何があった? かなり急いでいるようだが……」


「現在、サガナで多数の魔獣が出現している! 我々は王都への救援要請へと向かっている!」


 御者の熟練がそう聞くと、領兵の一人がそう言った。

 それを聞いた乗客達がざわつき始める。

 一瞬、魔獣大暴走(スタンピード)かと思ったが、どうにも様子がおかしい。

 もし魔獣大暴走だった場合、冒険者ギルドから王都の冒険者ギルドに通信がいく手筈になっていた筈だ。

 その為、普通なら領兵が馬で駆けて知らせるなんてしないはずだ。


「ギルド間通信はどうした? 魔獣大暴走なら通信をするのが普通の筈だが……」


「急に魔獣が街中に現れ、通信魔道具がある施設は軒並み使えなくなっている! 判ったら直ぐに引き返すのだ!」


 そう言って、領兵達は再び馬を駆けさせて行く。

 それを見送り、護衛の冒険者達が集まって相談を始める。

 どうやら、戻るか進むかで揉めている様だ。

 熟練者達は見える所までは進み、サガナには入らないと言う意見と、直ぐに引き返すべきだと言う意見。

 新人達は、進んで救援すると言う意見。

 

「……王牙さん、どうしますか?」


 アイナが心配そうに言うが、俺にとっては選ぶ選択肢は無い。

 馬車がこのまま進むか引き返すにしても、俺は先行してサガナに向かう。

 最も、神威達がいる時点で問題は無いだろうが、あの領兵が言った『急に魔獣が街中に現れて』と言う部分が引っ掛かる。

 通常、サガナの様な塀に囲まれている街中に魔獣が現れる場合、大抵は小型のネズミ程度で、下水道等から出て来るくらいであり、領兵が王都へと救援を頼みに行く程の事にはならない。

 つまり、考えにくい事であるが、街中で魔獣大暴走クラスの状況が起きていると言う事だ。

 そんな事を考えていると、どうやら結論が出たようだ。


「すまないが、馬車は此処で引き返す。 払って貰った金は王都に戻り次第、返金手続をする事になる」


 御者をしていた熟練がそう言って、新人達と一緒に馬車の向きを変える。

 さて、それじゃ俺は行くとするか。


「悪いが、俺は此処までだ」


「此処で降りてどうするつもりだ?」


「このままサガナに向かう」


 その一言で熟練の一人が息を呑んだ。

 魔獣大暴走が起きている中に一人で突っ込むと言っているのだから、当然と言えば当然だ。


「……若造、悪い事は言わん……ソイツは止めといた方が良い。 お前さんも冒険者なら手柄を立てたいのだろうが、魔獣大暴走は手柄を立てるとかそう言う次元の話じゃない」


 熟練の一人がそう言って、左腕に出来た傷跡をなぞっている。

 どうやら、昔に魔獣大暴走に挑んだ事があるようだ。


「手柄を立てたい訳じゃないさ。 少々気になる事があってな、それを確認したいだけさ」


「……まぁ儂等に止める権利は無いか……じゃが、払った金は返せんぞ?」


 返金出来ないのは当然だろう。

 それに頷くと、熟練達は溜息交じりに馬車に乗っていた他の乗客達に確認していく。

 俺もアイナに声は掛けておくとしよう。


「という訳で、アイナは王都の冒険者ギルドから連絡が来るまで待っていて欲しいんだが……」


「……戦えない私が行っても足手纏いですからね……でも、くれぐれも無茶はしないでください」


「判ってるさ」


 そう言い残し、自分の荷物を手に取る。

 荷物と言っても、小さい魔法袋のポーチくらいだが。

 さて、予定じゃ馬車であと三日だったが、俺の足なら半日掛からずサガナに行ける。

 しかも、街道を進むのではなく、一直線の最短距離でだ。

 伊達に、調査でサガナの周辺を走り回った訳じゃない。

 今自分がいる場所の大凡の検討も付いている。

 じゃ、急ぐか。



 森の中を一気に駆け抜け、道中でどうしても回避出来ないモンスターは最速で倒していく。

 ゴブリンとオークは棍で一薙ぎして倒し、そのまま放置して素材は回収しない。

 今の所、ビッグタートルは進路上にはいないのだが、レーダーに単体でいるモンスターがおり、嫌な予感がする。

 しかも、間違いなく、もうすぐ接敵してしまうのだが、意を決して突っ込む。


 そこにいたのは、オークを貪り食っていたグラップグリズリーだった。

 顔の周りを血で染めたグラップグリズリーが、威嚇の為にその場で立ち上がって巨大な体躯を広げる。


「GUOOOO!」


「邪魔だぁっ!」


 一気に加速してグラップグリズリーの懐に跳び込み、その胸部に向けて『武神』を発動させずに右拳を突き込む。

 ベキメキと骨が砕ける音が拳から伝わり、グラップグリズリーが吹っ飛んで背後にあった巨大な木に叩き付けられた。

 そのままピクピクと痙攣しながら地面に倒れる。

 生きていたとしても、あのダメージでは先は短いだろう。

 本来なら素材回収をしたいが、時間が無いのでこのまま放置し、その場を後にする。



 そうして進んでいくと、レーダーにいくつもの赤い点が現れ始める。

 どうやら、サガナから溢れたモンスターが森の中に出てきているようだ。

 そして、遠くからも見えるサガナの状態は酷いものだった。

 至る所で黒煙が上がり、巨大な壁の一部が崩れている。

 しかも、街の上には数十体のモンスターの姿も見え、それが思い出したかのように街に向けて火を吐いている。

 サガナが陥落しているように見えるが、地上から魔法と思われる火の玉や、岩塊が飛び交っている事から、まだ交戦している奴等がいるようだ。

 そうしていると、サガナで一番高い尖塔がまばゆい光を放ち、白く輝く巨大な魔方陣がサガナの上空に現れる。

 その魔方陣のサイズは、完全にサガナをカバーする程であり、しかも、いくつもの精密な魔方陣で構成されていた。

 知識のある魔法使いや魔術師なら、この魔方陣がどれだけ非常識なのかが判る。

 通常なら、魔方陣は行使する術者の力量によって、そのサイズがある程度決まっている。

 そして、今回のような超巨大な魔方陣ともなると、最早普通の術者が使えるレベルを遥かに逸脱している。


 ゆっくりと回転していた魔方陣に、いくつもの光の玉が収束して出来上がっていく。

 まるで夜空の星のように、その数が加速度的に増えていき、それが一気に地上に向けて降り注いだ。

 遠くから見ていると、まるでサガナに向けて光の雨が降っているようだ。

 その光の雨が直撃している空を飛んでいたモンスターが、地上に向かって落ちて行く。

 だが、他の建築物はダメージがないようで、光の雨が当たっても何も起きていない。



 それを見ながら、足を緩めた。

 どうやら、アイツ等が本気を出したようだ。

 こうなると、最早俺が行かなくても終息するだろう。

 そんな事を考え、手元の棍を勢い良く回転させると、カツンと何かが弾き飛んだ。


「……さて、これは随分な御出迎えだ事で」


 そう言いながら棍で肩を軽く叩く。

 先程、弾き飛ばした透明な刃を持ったクナイの様な暗器が、地面に刺さっている。

 この場所に来た際、レーダーには映らなかったが、何か存在感があった。

 周囲を見回すが、何処にも姿は無い。

 だが、確かに周囲に複数がいる。


「かくれんぼか? それとも鬼ごっこでもするか?」


 そう言ってインベントリから、短剣を取り出し、振り向き様に背後の木の上目掛けて一気に投げる。

 凄まじい勢いで一直線に飛んだ短剣が何かに刺さり、くぐもった声を上げて何かが地上へと落ちた。


「どんなに上手く隠れても、逃げられねぇぞ?」


「……チッ……化け物め……」


 そう言いながら、周囲に数人の黒尽くめが現れた。




面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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