第82話
特製チェインメイルを全身に装着し、鱗を一つずつ装着し終える。
そして、天井のクレーンで巨大なユニットを背中部分の接続部に乗せ、ガッチリと固定。
最後に、頭部パーツの上部を開いてゴーレムコアを嵌め込み、頭部パーツを閉じる。
これで新型ゴーレムの見た目だけは完成。
だが、補助動力であるサブコアが無い為、起動すら出来ない。
早く手に入れなければ……
そんな事を考えつつ、巨大な布を被せておく。
そんな中、冒険者ギルドに呼ばれたので、冒険者ギルドに行く。
疲れた顔をしたクックからの指名依頼で、王都にいるアイナの護衛をして欲しいと言う依頼。
聞けば、帝国が獣王国に攻め込んだ為、王都にいた獣人達が軒並み帰国してしまい、護衛に不安があるのだと言う。
サガナにいる獣人達も大多数が帰国しており、討伐依頼も徐々に滞ってきている。
更に悪い事に、デリラオサを壊滅させた謎の魔獣の警戒で、腕の良い冒険者を護衛として複数人動かすのは無理だ。
そこで、俺の出番と言う訳だ。
単騎でありながら、数人分の働きが可能、そして護衛対象であるアイナとも知り合い。
これほど最適な人選も無いだろう。
そして、今回はライカンスロープ戦で負った怪我が治ったアーノルドとブラウ達が、王都に帰ると言うので行きの護衛も兼ねて同行する。
彼は王都に戻った後、王立学園の教職員となる予定だ。
アーノルドのパーティーメンバーであるブラウ達は王都に戻った後、進退を決めるらしい。
アーノルドに代わるメンバーを探すのか、それとも、共に王立学園の教職員となるのか……
まぁ決めるのは彼等だから、俺は口出しはしない。
予定としては、行きに一週間、帰りに一週間の計二週間。
一人なら往復一週間でいけるが、同行者がいる以上、そちらに合わせる必要がある。
「と言う訳で、二週間程留守にする。 その間、工房は自由に使って良いんだが、布が被せてあるのは未完成で危険だから、触らんようにしてくれ」
夕食後、工房に置いたままの新型ゴーレムの事を、マドゥーラ達にはちゃんと注意して置く。
システムで呼び戻せばいいのだが、起動していない状態では判定が無いらしく、呼び戻す事が出来ない。
更に、インベントリに収納しようとしたが、大き過ぎてインベントリにも収納出来ないのだ。
その為、布を被せて置いておくしかない。
一応、零式を使って奥の方に移動させては置いたので、マドゥーラが工房を使って組み立てたりする事には問題無い。
マドゥーラとジーナ達に関してはコレで良いとして、炎尚と神楽には別に指示を出しておく。
俺が不在の間、もしも家族に危険が迫り、サガナが危機に陥った場合にのみ、全力で危険を排除する事を命令して置く。
ユーザーの存在が判明した時点で、ユーザーが敵対する可能性が無い訳では無い。
その際、普段であれば対応出来るのは俺を除けば、神威でギリギリだ。
だが、この二人は違う。
エンドコンテンツ『終焉の底』のクリアで入手出来たとあるアイテム。
それを使用した事で、炎尚と神楽はユーザーに匹敵する力を発揮する事が可能になっている。
ただし、普段は普通のサポートNPCと変わらず、俺の許可が必要だ。
その為、今の時点で許可を出しておく。
これで、心置きなく出掛ける事が可能だ。
ブラウが操る馬車に乗り、街道を進む。
現在は、見張りと鈍った身体の調子の取戻しを兼ねて、アーノルドが歩いている。
病室代わりのギルドの一室では、それ程身体を動かす事が出来ず、柴隊に戦術等を教える際に僅かに動いただけだった為、かなり筋肉が落ちてしまったと嘆いていた。
そうして、馬車に揺られつつ街道を進んでいると、街道脇からゴブリンが数匹跳び出してきた。
現在はブラウが外で警戒していたのだが、生憎、ブラウがいるのは馬車の反対側。
恐らく、馬車の御者をしていたのがストレアだったので、それを見て襲撃しようとしたのだろう。
ゴブリンを見て、アーノルドが馬車から飛び降りる。
「ゴブリンではあるが、丁度良いのである!」
ブラウが対処しようと剣を抜こうとするが、アーノルドが片手でそれを押しとどめた。
そして、自身の拳を固める。
「ここは吾輩が相手をするのである!」
拳を構えたアーノルドがゴブリンの真正面に立つ。
全身に力が漲り、服がはち切れんばかりに張っている。
「さぁ!」
そんなアーノルドの掛け声で、ゴブリン達が混乱し始めたようだ。
「さぁ!」
アーノルドが構えたまま、ゴブリン達に迫る。
それを見て、ゴブリン達は恐怖したのか、一目散に森の中へと逃げて行った。
構えていたアーノルドは、唖然とそれを見ていた。
まぁ、筋肉マッチョのオッサンが、気迫交じりに迫ってきたら、言葉が通じなくても逃げ出すわな。
戦えなくてがっかりしていたアーノルドをストレアが慰め、ブラウは溜息交じりに警戒に戻る。
結局その後、野営中にオークが数匹現れ、アーノルドが嬉々として粉砕しただけで、無事に王都へと到着した。
馬車を冒険者ギルドに返却し、アーノルド達と共にアイナの実家であるヒルデベルク家の屋敷に向かう。
俺はヒルデベルク家の場所までは知らなかったが、恐らくそれなりに大きい貴族なのだろうと予想し、冒険者ギルドで聞けば判るだろうと思っていた。
だが、受付で聞かされたのは、ヒルデベルク家のある一画は衛兵が警備しており、許可が無い一般人や冒険者が無暗に入ると、衛兵詰所まで連れて行かれてしまう、と言う事だった。
その為、冒険者は冒険者ギルドから衛兵詰所に知らせを走らせ、許可証を入手するのが通常だが、その許可証の発行には数日掛かるらしい。
それを聞いて、若干頭を抱えてしまう。
俺としては、さっさとサガナに帰りたいのだ。
そうしていると、アーノルドがその許可証を持っていて、尚且つ、ヒルデベルク家を知っていると言う事で案内してくれると言う。
それは助かると言う事で、アーノルドに案内されながら王都を進むと、前回『魔獣祭』をしていた広場を通り抜け、更に奥へと進んで行く。
石畳の地面を見ると、あの時に斬り裂いた石材は交換されたのか、傷跡は無く、そこで戦闘があった事すら判らなくなっていた。
そして、道中に数度、衛兵に尋問されたが、アーノルドの持っている許可証とアーノルド自身の冒険者証を見せる事で解決した。
流石金ランク。
だが、アーノルドの強さを見ていると、白金級になっていてもおかしくないと思ったのだが、アーノルド自身が答えてくれた。
今はかなり試験が緩くなっているが、昔はかなり難しく、アーノルドも突破する事が出来なかったのだ。
その結果、白金級に上がる事も無いまま、今まで活動していたのだと言う。
ただ、王都冒険者ギルドのギルマスであるレイが、冒険者ギルドの組織の最上位である『グランドマスター』と言う人物に、ランク試験に付いて見直しするべきだと進言しているらしく、近々、試験内容が変わるかもしれないと言う噂がある。
確かに、試験内容を見直すと言う点については賛成だ。
そうして到着したヒルデベルク家の屋敷。
いやぁ貴族とは思ってたが、こりゃ凄いわ。
正しく大貴族。
うちの屋敷の数倍は大きい。
アーノルドが言うには、ヒルデベルク家は名門中の名門であり、アイナには二人の兄と一人の妹がいる。
ただし、兄二人は既に婿入りしており、妹は社会勉強として別の街で生活していると言う。
そんな事を話していると、ブラウが門番にこちらの用事を伝え、門番が走って行く。
暫く待つと、屋敷の入口から駆けて行った兵士が戻ってきて、案内してくれるらしい。
屋敷の中を歩き、一室で待たされる。
この部屋の調度品はどれも見事な物で、小物一つとっても庶民には手が出ないだろう。
「お待たせしたのう」
そう言いながらアイナと共にやって来たのは、アーノルドに負けず劣らずの筋肉ムキムキの爺さん。
その爺さんとアーノルドが握手をしている。
「御久し振りですな、ベルガー卿殿」
「アーノルドの坊主も、怪我はもう良いようだな。 ライカンスロープにやられたと聞いた時は死んだのかと思ったぞ」
この二人はどうやら知り合いのようだ。
その後ろにいるアイナに視線を向けると、二人を見て苦笑している。
互いに自己紹介をした後、ベルガー爺さんに勧められて全員がソファーに腰掛ける。
「それで、今日は何の用だ? まさか世間話をしに来ただけと言う事はあるまい」
ベルガー爺さんがそう言って、俺達の方を見回す。
なので、ギルマスであるクックからの指示でアイナの護衛を頼まれた事を話す。
それを聞いて、ベルガー爺さんが考え込む。
「成程、確かにランクの高い獣人の冒険者の大半は、戦争に行ってしまったからのぅ」
「そこまで戦況は酷いのですか?」
「今までの帝国ならば、小競り合いで済んでおったのだが……どうも今回は違うようだ」
ベルガー爺さん曰く、普段は一ヶ月もすれば自然と戦況が落ち着くらしいのだが、今回は怒涛の勢いと言うべき速度で、帝国側が獣人国側を押し込んでいるらしい。
そして報告では、帝国側は新型のゴーレムが投入されているらしく、それが帝国側を勢い付かせているようだ。
他にも巨大な建物が帝国側の本陣にあったりと、今までの帝国軍とは違うと言う報告もあったらしい。
俺的にはその新型ゴーレムと建物に興味がある。
この異世界にあった従来のゴーレムは、大量に用意する場合、そこまで強く出来無い。
その原因は、その作り方にある。
素材に直接コアを埋め込むのでは、素材の強度がそのままゴーレムの強度になる上に、強度が上がると重量が増え、動かすだけでマナを馬鹿食いする為に起動時間もそれ程長くは出来ない。
だが、獣人国の兵士と互角に渡り合っていると言うならば、帝国側のゴーレムはそれを解決した様だ。
どうやってなのか、興味は尽きない。
現状、攻められていない王国は手が出せないが、人道的支援として魔王国を経由し、難民受け入れを表明している。
「さて、それでは孫娘の事、宜しく頼む」
ベルガー爺さんがそう言って頭を下げた。
随分と世話になっているのだから当然、サガナに無事に送り届けるつもりだ。
その後、サガナ行きの乗合馬車に乗り、王都からサガナへと向かった。
「……末恐ろしい男だの、坊主は勝てるか?」
「全盛期でも、御遠慮願いたいですな」
向かい合う様に座ったベルガーとアーノルドが、グラスを片手に話し合っている。
二人が話しているのは、先程、娘の護衛と言う事でやって来た王牙の事だ。
ベルガーは一目見た瞬間、自身との実力差を素早く感じ取っていた。
「やはりそうか、あんな男がいるなら、儂の部下に勧誘したいが……」
「無理でしょうな、あの男には権力とか買収は効かんでしょう」
二人の評価は、権力でも買収でも動かない男、と言う感じだ。
そして、実力も高い事から敵対する事も最善では無い。
「これは弟子にも言って置かんと不味いのう」
「陛下が何か?」
ベルガーの呟きにアーノルドが不思議そうに聞く。
アーノルドは治療の為にギルドの一室に缶詰状態だった為、ここ最近の情報を知らないのだ。
そんなアーノルドにベルガーは、現状で知りうるだけの情報から、話をしても差支えない範囲の情報を話した。
つまり、王牙の持つ零式を狙って暗躍している貴族がおり、権力を使えば問題無く奪えるだろうと考えている。
だが、ベルガーが直接会った事で、その考えは完全な間違いだと判断出来た。
それを止める為、陛下自身に報告し、その貴族を止める様に進言する。
「では、儂は直ぐに行くとするかの」
ベルガーがアーノルドに寛いでいてくれと言って、部屋から出て行く。
空はまだ明るいが、コレからの事を考えると溜息しか出ない。
だが、気を奮い立たせ、王城に向けて歩き出した。
すべては、王国の安全の為に。
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