第79話
俺がデリラオサが壊滅した事を知ったのは、冒険者ギルドでのとある一幕だった。
その日、俺が冒険者ギルドで依頼を探していると、数人の野郎冒険者に囲まれた。
そして、村を見捨てた最低野郎がどうのとか言われたのだが、意味が判らない。
他の面々も俺達の方が悪いと言う雰囲気を出しており、受付嬢のミーニャに話を聞くと、俺達が報酬が少ないとして受けなかった事で、防衛が隙を突かれてデリラオサが壊滅した、と言う噂が広がっているのだと言う。
そもそも、俺達が受けなかった位で防衛が失敗するなど、どう考えてもありえない事だ。
ただ、サガナのギルドではそれは誤報であり、正式に依頼が取り下げられた事、俺には責任が無い事を周知していたのだが、外からやってくる冒険者には周知が追い付いていない。
クックが王都の冒険者ギルドを通じて報告しているはずだが、噂が終息する気配はない。
取り敢えず、その噂を信じている外部の冒険者に関しては、サガナ冒険者ギルドが正式に噂は誤報である事を教えている。
しかし、問題もある。
周知されている街中であるならともかく、それ以外だとかなりの頻度で絡まれる。
正義感の強い勘違い馬鹿がその大半であり、森の中でいきなり襲撃をされた際は、容赦無く叩きのめしてサガナの警備隊に引き渡した。
他にも、平原迷宮でクリスタルディアーを狩っている最中に、広範囲殲滅魔法を使われて巻き添えにされそうになった。
直接襲撃されるなら返り討ちにすればいいのだが、間接的となるとそうもいかない。
まぁ冒険者ギルドには報告しているので、該当する冒険者達は後々厳重注意、もしくは悪質だった場合は降格処分となる。
そして、現在はクックに呼ばれて冒険者ギルドの一室で待機している。
何か重要な事があるとかで、早急に相談があると言われたのだが……
「待たせたな」
クックがギルドナイトの一人を連れてやってくる。
普段であれば、アイナが秘書的な立ち位置で一緒にいるはずだが、どうしたのだろうか。
聞けば、アイナはクックの頼みで現在王都にいると言う。
そして、どういう理由で呼ばれたのかを聞くと、デリラオサ壊滅の責任を取らせる為、接収部隊がサガナに向かって出発した。
そのターゲットが俺であり、接収した物を運ぶ為に、サガナの運輸ギルドに声が掛かっている。
時間稼ぎをしている間に対処するから、くれぐれも大人しくしていて欲しい、と言うのがクックの話だった。
確認すると、例の手紙の事は報告済みだが、それでも何故向かって来ているのかは不明。
取り敢えず、危害を加えられない限りは大人しくする事は約束するが、神威達が危険に晒された場合は容赦しない事は伝えておく。
しばらくは依頼を受けずに、屋敷で待機する事にするか。
王都の貴族街の一等地。
その一角に、赤い屋根に白い壁、高い塀に囲まれた巨大な屋敷がある。
一台の馬車が荘厳な門を潜り、立派な玄関の前で停車する。
その馬車の脇に掛かれている紋章は、金色の巨大な獅子。
「おかえりなさいませ、アイナ御嬢様」
「出迎えありがとう、リュスト。 お父様達は?」
「旦那様達は執務室でお待ちです」
リュストと言われた初老の老執事が馬車の扉を開け、礼をしつつアイナに聞かれた事を答えた。
アイナはそれを聞いて、巨大な屋敷の中をどんどん進んで行く。
道中、何名ものメイドとすれ違うが、脚は止めずに短く挨拶をして先を急ぐ。
そうして、執務室に到着すると、軽くノックをしてから扉を開けた。
執務机に向かって座り、書類仕事を片付けている一人の男。
それとは別に、ソファに座りっている初老の男。
書類仕事をしているのが、ヒルデベルク家現当主、シンカー=オーツ=ヒルデベルク。
そして、ソファに座っているのが、前当主、ベルガー=ロア=ヒルデベルクである
「お父様、御爺様、ただ今戻りました」
「うむ、お帰りアイナ」
「久々じゃな、孫娘よ」
シンカーが読んでいた書類を机に置くと、机に置いてあったベルを鳴らす。
それを聞いて、やって来たメイドにお茶を頼み、アイナにソファに座る事を勧めた。
アイナがそれを受けてソファに座ると、シンカーがその対面に腰掛けた。
「して、今日はどうしたのだ? 連絡では急用だと言う話だが」
「シンカーよ、久々に孫娘が戻って来たのだから、ゆっくりとさせてやらんか」
メイドが煎れてくれた紅茶を飲みながら、ベルガーがそう言う。
アイナは仕事の関係上、年に数回しか屋敷に帰ってこない。
ベルガーは孫娘を人一倍大事に思っており、本当なら今の仕事を放り投げてサガナに行きたいのだが、周囲がそれを必死に止め、アイナにも説得されて大人しくしている。
「そういう訳にもいかんでしょう。 国営の鉱山が一つ潰れた皺寄せや、地域の治安報告、私が担当する分だけでも寝る間も無いのですよ?」
それを聞いて、ベルガーが渋い顔をする。
ベルガーも今の話には心当たりがあり、周囲からも対処の為に知恵を貸して欲しいと言われているのだ。
「今日はそれに関する話なのです。」
アイナの言葉に、二人が顔を見合わせる。
そして、アイナの話を大人しく聞き始めた。
アイナが時系列順に説明を始める。
最初はアイナにいくつか質問をしていたシンカーだが、途中からは質問もせずに黙って聞いていた。
ベルガーは最初から目を閉じて最後まで聞いている。
「………つまり、ジャシム大臣が主導でその冒険者を嵌めたと言う事か……」
ベルガーが呟き、シンカーが顎に手を置く。
この時、シンカーの脳裏には二つの選択肢が浮かんでいた。
もし娘のいう事が本当であるなら、後々の事を考えて恩を売っておくと言う選択。
娘のいう事が本当であっても、大臣側に付いて国力を上げると言う選択。
「実際の所、そのゴーレムはどの位の性能なのだ?」
「本人に確認はしていませんが、城級ゴーレム以上の性能は確実です」
アイナは王牙への確認はしていないが、ギルド間での情報から、客観的に考えた結果を話した。
まず、パワーは言う間でも無く、防御面も相当な物であり、破壊するのであれば、城級ゴーレムを数体用意するか、高位の魔術師を準備しなければならないだろう。
もしも、あのゴーレムと同等の性能は無理でも、近い性能のゴーレムを揃える事が出来れば、相当な軍事力の向上は確実。
ただし、今回の様に無理に接収するとなると、確実に王牙は敵となり、手に入る利益よりも敵対した事による損失の方が遥かに多くなる。
そう話したアイナの意見を聞いて、シンカーが再び考える。
その王牙と言う冒険者の話は、実は報告が上がって来ている。
その報告内容から、こちらから敵対する事は極力避けなければならないが、向こうから敵対した場合は白金級を招集して対処しなければならない、と言うのがシンカーの考えた事だった。
今回の場合、ジャシム大臣側はどうして勝てると思っているのかは不明だが、行動を起こしてしまっている。
本来なら協力するべき事なのだが、今回は明らかにマズイ。
「儂は直ぐにターガ王に進言しに行くとしよう」
「では、私は大臣を拘束する準備をします」
ベルガーがそう言ってソファから立ち上がる。
孫娘の話を聞き、即座に止めるべきだと判断したようだ。
そして、そそくさと部屋から出て行った。
シンカーは壁に掛けてあった細剣を手に取り、直ぐに老執事のリュストに指示を飛ばす。
それを見て、アイナはカップに残っていた紅茶に視線を落した。
ヒルデベルク家。
武家でありながら文官としても優秀な人材を輩出し、王国でも有数の大貴族。
何より、前当主であるベルガーは現王の師であり、王から堂々と王相手でも苦言を言う事が許可されている。
シンカーも元軍のトップであり、グラーズ将軍は後任となる為、軍にも顔が効く。
勿論、顔が効くだけで、自由に軍を動かす事は出来ないが、充分な証拠と根拠があれば、将軍に話を通して軍を動かす事も可能。
そのシンカーが屋敷を出発した際、気になる点があった。
アイナの話によれば、デリラオサの村長と第八騎士団の騎士団長の連名で依頼を取り下げると言う手紙が存在し、それはギルドマスターのクックが所有している。
実際に内容を見た訳では無いが、アイナが言うにはその冒険者に責任は無いと言う事を証明する事が出来ると言う。
それでも、ジャシム大臣は兵を動かした。
そうなると、考えられる事は二つ。
一つは手紙の存在を知らない場合。
報告ミスか伝達ミスで、その手紙の存在を大臣が知らずに兵を動かした。
もう一つは、手紙があろうが、握り潰せると考えている場合。
どうやって握り潰すつもりなのかは判らないが、権力で潰す事は出来ない。
ゲルィンの汚職事件を受けて、隠れて重犯罪行為をしていた貴族は、軒並み更迭されている。
ならばどうするのか。
シンカーが頭の中で、もう一度情報を整理する。
そうしていると、ある事に気が付いた。
その手紙は、その冒険者、村長、騎士団長の3人が揃っている場合は効力を発揮する。
だが、もしもこの3人の内、関係者が全員居なくなった場合、その手紙は効力を十全に発揮出来なくなる。
そして、村長は死亡が確認され、その冒険者と騎士団長は生存している。
もし、何らかの理由で騎士団長が死亡した場合、その手紙が実際に騎士団長達が書いた物であるかどうかを証明する事が出来なくなってしまう。
冒険者の男がいくら言ったとしても、信用されないのは確実だ。
「直ぐに騎士団長を押さえなければ不味いか……」
シンカーが呟いて、手早く手紙を書き上げると、馬車に同行していた私兵の一人を呼び、急ぎ将軍に渡す様に送り出した。
手紙の内容は、『今回の村が壊滅した事に第八騎士団が関与している疑いがあり、放置すれば口封じされる可能性がある』と言うモノ。
軍を動かすように依頼はしていないが、真面目な将軍の性格を考えれば確保しに動くだろう。
もし、第八騎士団が関与していない場合でも、手紙の内容を証言させる為に確保して置く必要がある。
そして、関与していながら偽証した場合、それが判明した際は重罪となる。
将軍がいる軍施設は、貴族街と城下街を跨いで建てられている。
これは、軍は貴族だけでなく一般人も保護の対象にしているからだ、と言われているが実際には少し違う。
実際には、元々王都が誕生する前のまだ小さな街だった頃、外周部に素早く移動する為に軍の駐屯施設が建造されたのだが、それが王国になって大きくなっていき、現在の形になっただけなのだ。
何度か、今の施設から移動するべきだと言う話が出たのだが、あの施設には、実は王族が逃げる為の隠し通路が王城から伸びている。
その為、下手に放棄する事が出来ないのだ。
茶色のレンガで組み上げられた重厚な施設に到着すると、奥から数人の兵士が駆けてくる。
施設内の兵士の動きを見る限り、既に将軍は最低限の部下を連れて第八騎士団のいる宿舎に向かっているようだ。
短く挨拶した後、将軍が戻るまで部屋で待たせてもらう。
退役するまで元々この施設にいたので、案内も不要であるのだが、施設内を勝手に歩き回るのは不味いので若い兵士に案内してもらう。
そうして部屋で待っていると、将軍が兵達を率いて戻って来た。
そして将軍から、第八騎士団騎士団長、ストランドが既に死亡していた事を告げられた。
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