第78話
ここはサガナの冒険者ギルド。
その一室には錚々たるメンバーが揃っていた。
冒険者ギルド、ギルドマスター、クック。
錬金術師ギルド、ギルドマスター、フォン=ソバージュ。
魔術師ギルド、ギルドマスター、フィーテル=リズ=ウィンバッハ。
商人ギルド、ギルドマスター、エジン=ソロダン。
運輸ギルド、ギルドマスター、キリガン=クランマ。
盗賊ギルド、ギルドマスター、ノル。
サガナに存在するギルドのギルドマスター達が、部下二人を連れているので、狭い部屋が余計に狭くなっている。
「さて、全員に集まってもらったのは他でも無い。 最近王都で噂になってるアレに付いてだ」
クックがそう切り出すと、全員の視線がクックに集まる。
その視線も、好機、嫌悪、興味無しと様々だ。
「私としては、盗賊ギルドのギルマスまでいるのが判らないんだけど?」
「滅多な事で表に出ない此奴を引っ張すとはの……」
錬金術師ギルドのギルマスであるフォンが、盗賊ギルドのギルマスであるノルの方を見てそう言うと、同意する様に商人ギルドのギルマスであるエジンが続く。
ノル自身は全身黒尽くめでフードにマスクを付けている為、表情は見えず、服装もダボダボのローブなので体型も判らない。
言われても気にした様子も見えない。
フォンは緩いウェーブの掛かった緑髪に青い目の女性で、服装は錬金術師と一目で判る様にと、魔術師が着る様なローブでは無く、所謂白衣に近いローブを着て、その腰の部分にはいくつかの試験管がぶら下がっている。
一応、中身は安全らしいが、自己申告なので本当の所は判らない。
商人ギルドのギルマスであるエジンは、初老に手が届きそうな白髪の男で、服装もそこら辺にいる様な服装ではっきり言って目立たない。
だが、その眼光は一般人より遥かに鋭い。
「それほど今回の件がヤバイって事なんだろ?」
運輸ギルドのギルマスのキリガンが腕を組んで言う。
キリガンは褐色肌の筋肉質の男であり、その頭は見事にツルリと剃られており、その半身には黒い刺青が彫られている。
「しかし、噂はあくまで噂、ですからね」
そう言ったのは、魔術師ギルドのフィーテル。
此処にいるメンバー唯一の貴族出身者であり、見た目は金髪ショートで金眼の優男、そして、魔術師特有の黒いローブを着て、その随所に貴金属のアクセサリーを装着していた。
その貴金属全てが、何かしらの魔道具であるらしい。
「この話は確定事項では無い、と言う事をまず念頭に置いてくれ。」
フィーテルがキリガンに言うと、クックが話を続けた。
それで、再び全員の視線がクックに集まる。
「今回の噂の詳しい出所は判らんが、恐らく、その冒険者個人を狙っての事だろう」
「ちょっと待ってくれ、たかが冒険者1人の為に村一つを潰したってのか? それも鉱山付きのを」
キリガンの言葉は当然である。
鉱山付きと言うのは、採掘を担当する村の事であり、必ず複数の村が存在する。
デリラオサ以外にも2つ存在し、どれか一つの村が何らかのトラブルで操業停止になっても、ある程度は対応出来るようになっている。
そうして、長い期間に渡って国庫を潤している。
その一つを、冒険者1人の為に放棄するなど普通では考えられない。
「その冒険者が、ただの冒険者なら、こんな事にはならなかっただろうが……最近、異常な成果を出してるあの冒険者だ」
「『記録破り』ですか」
「………王牙さんか、確かに、彼なら納得ね」
接点があるフォンとフィーテルが納得したように言うと、接点が無いキリガンが不思議そうな表情を浮かべる。
エジンは商売柄、色々と話は聞いているので驚きはしていない。
ノルは、裏の世界でも有名になってきている相手である為、詳しく知っている。
「そして王都での一件、アレが直接の原因だろう」
「あぁ、城級クラスを倒したって言うアレね」
あの一件は、意外な程あっさりと終息していた。
と言うのも、その城級ゴーレムを呼び出した術者が、『国家反逆罪』及び『国家転覆罪』と、重罪になったと知れ渡った為だ。
その為、あの戦闘は国が手を回したと、住民達は思っていると言う。
「城級ゴーレムをあっさりと倒したと言う話ですが……本当なんですかね?」
「本当だ、と言うか、恐らくだが個人でも倒せると思うぞ」
その言葉で、フォンとフィーテル、ノルの視線がクックに向く。
通常、城級ゴーレムクラスになると、個人で対処出来るのは、白金級クラスでも相当上位の実力が必要になる。
それを良く知っている3人は、その話だけで簡単に敵対するような事は無くなるだろう。
だが、余りそう言う話に触れる事のないエジンとキリガンは、良く理解していない。
「その考えに至った理由を聞いても?」
「……これは絶対に他言無用だが……奴より腕が下の、奴の娘がほぼ単独でブラックドラゴンゾンビを倒している」
本来なら黙っている事なのだが、この場にいるメンバーなら、他言無用と言って置けば言い触らす事は無い。
ただし、ブラックドラゴンゾンビを倒したと言う所で、フォンとエジンの眼が一瞬だが光る。
フォンはその素材から様々な物が作れる為、エジンはその素材が高く売れる為だ。
もし、下手に何処かの店ででも売買されたら大損だ。
「素材は!?」
「売買されたと言う話は聞いていませんぞ?」
「落ち着け、物が物って事で売っちゃいないそうだが、何か使う予定があるとかで売らんらしい」
興奮したフォンとエジンを宥め、クックが話を続ける。
「相手の目的は判らんが、恐らく、奴の持つ戦力か奴自身じゃろう」
「つまり、何かしらの罪で国に縛り付けるか、戦力を取り上げる為?」
フィーテルの言葉に、クックが頷く。
それを見て、エジンがノルの方を改めて見た。
「成程、それでノルを……」
「しかし、キリガンは? その話を聞く限り、一番無関係だと思うけど?」
フォンの言葉で、ノルへ向いていた全員の視線がキリガンに向く。
そう、ここにいるメンバーの中で、一番無関係に見えるのが運輸ギルドだ。
運輸ギルドは、大規模な輸送、物資保管を主としたギルドであり、大きな街に最優先で置かれる。
そして、国からの依頼で、食料や物資の大規模輸送を専門とし、各街の食料庫を管理している。
更に、戦争が起きれば、軍事物資も運ぶ等、国にとっては重要なギルドの一つだ。
だが、その言葉にクックが首を横に振った。
「もし、狙いが奴自身じゃなく、その戦力を狙っていた場合、確実にキリガンに声が掛かる」
「どういう事だ?」
「今、奴が持ってる戦力だが、かなり特殊なゴーレムと、執事とメイド、それとフェンリルの幼体だが……」
「成程、ゴーレムを運ぶとなると、術者以外じゃ運輸ギルドに依頼するしかないですな」
エジンの言葉で、キリガンが成程と手を叩いた。
だが、そこでキリガンが再び思案顔になる。
「ん? そうなると何が問題なんだ?」
「ハァ……ホントに脳味噌まで筋肉になってんの?」
フォンがそう言ってキリガンの方を見る。
他のメンバーは、此処までの話と、対象の冒険者の話で、ある程度は理解出来ている。
もし、あの冒険者と敵対した場合、ブラックドラゴンゾンビ以上の単体戦力と、城級ゴーレムすら対処出来ないゴーレムを相手にする事になる。
現在のサガナの全戦力を集めたとしても、1時間でも持てば良い方だ。
しかも、これは相手が王牙だけだった場合だ。
実際には、王牙と敵対した瞬間、その娘である神威、執事とメイドである炎尚と神楽も敵対する事になるだろう。
そうなれば、王国中の戦力を掻き集めなければ、対処など出来ない。
「もし、国からそう言う依頼が来たとしても、なんとかかんとか理由を付けて時間稼ぎしろって事よ。 で、すぐに私等の誰かに話しを通すって事」
「成程な! そうならそうと言ってくれりゃ良いんだ」
キリガンがフォンに説明されて、笑いながら答える。
本当に大丈夫なんだろうかと、フォンがキリガンの連れてきた同行者の方を見る。
若い男女だが、男の方は呆れた様に頭を抱え、女の方は苦笑している。
その様子を見る限り、コレはいつもの事なのだろう。
「ノル、そっちじゃ何か掴んでないか?」
クックがそう言うと、ノルが懐から一枚の紙を取り出して机に置いた。
それをフィーテルが手に取り、内容を読むと、それを隣にいたエジンに回す。
渡されたエジンが内容を読み、キリガンへ、そしてフォンに回ってからクックにやってくる。
内容を読んだ面々の表情は、かなり渋くなっている。
「………そう言う表情にもなるか……」
クックが回ってきた紙の内容を見て呟いた。
そこには、現在の王都で起きている事、関わっている貴族や関係者、そしてそこから導き出された狙いが書かれていた。
「まさか、大臣が主導してるとは……」
「……どうすんだ? 正直、相手が本当に大臣だったら、時間稼ぎもロクにできねぇぜ?」
キリガンがそう言うが、無理も無い。
この国では、相当な上位の相手であり、下手に対処するとあっという間に今の地位から降ろされる。
特に、運輸ギルドは国と関わりが深いので、無下に扱うのは不可能だ。
「大臣の狙いがゴーレムであるなら、時間稼ぎは可能だ」
クックが自身の考えたシナリオを話す。
まず、大臣側から依頼が来た際に、超重量のゴーレムを運ぶような台車は数が少ないので、全て商人ギルドで使用していると言う風にし、実際に商人ギルドでレンタルして貰っておく。
これでは商人ギルドはマイナスになってしまうが、ここで冒険者ギルドが今まで保有していた大型魔獣素材を、いくつか売却する為に商人ギルドを利用し、その鑑定や査定の為に錬金術ギルドと魔術師ギルドを利用する。
つまり、表向きは損をする所は無い。
実際には、魔獣素材を放出する冒険者ギルドが、一番損をする事になるのだが。
「それで、何を放出するんだ?」
エジンの眼光が鋭くなる。
恐らく、今の段階で売却先を検討しているのだろう。
「まず、メインはビッグタートルの完全な甲羅、次にグリーンアースドラゴンの頭骨、そして、オーガナイトが持っていたビッグハンマーだが、他にもいくつか放出する予定だ」
「どれも一級品ですね」
言われた品々を思い浮かべ、フィーテルが呟く。
ビッグタートルの完全な甲羅は、以前、王牙が倒して持ち込んだ物だ。
実は、完全な形状を保ったままと言うのが珍しく、今まで売れずに残っていたのだ。
グリーンアースドラゴンの頭骨は、別の場所から流れてきた品であり、倉庫の肥やしになっていた品だ。
竜種でありながら飛ぶ事が出来ないので、強いのだが一部の冒険者からは巨大トカゲと言われている。
オーガナイトの持っていたビッグハンマーも、別の場所から流れてきた迷宮産の品。
金槌をそのまま巨大化させたような鉛色のハンマーであり、力の強い獣人種やドワーフ族以外では、持ち上げるだけでも辛い。
だが、その質量での威力は、異常な威力になるだろう。
これ等を時間稼ぎの為に放出する。
「……確かに、普通では売れないような品ですな」
「ハイッ、個人的に頭骨が欲しいです!」
フォンがそう言って手を上げる。
錬金術には、そう言った魔獣由来の素材が必要な場合が多々ある。
「んじゃ、頭骨は錬金術師ギルドが売却するって事で良いのか?」
「いえ、ちゃんと公平に行きましょう」
クックの言葉をエジンが却下する。
こういうのは、公平にしなければ後々禍根を残す。
「で、時間稼ぎはそれで良いとして、それからはどうするの?」
「うむ、大臣相手でどれ程効果があるかは判らんが……一応、村長と第八騎士団ストランド団長の連名で、王牙への依頼取り下げを証明すると言う手紙がある」
クックが例の手紙を机に置く。
もし、これが本来の効力を発揮すれば、今回の件は全くの問題は無い。
だが、相手はこの国の大臣だ。
何かしらの理由を付け、無効と言ってくる可能性が高い。
「その時間稼ぎをしている間に、儂は伝手を頼ってみる」
「大丈夫なのですか?」
「まぁ……その伝手が何処まで話を上げてくれるかによるの」
フィーテルの言葉に、他の面々も心配そうな表情を浮かべるが、クックの伝手を信じるしかないだろう。
手紙は再びクックが大事にしまい、それからいくつかの確認をし、話し合いは終了となった。
運輸ギルドは貴族が多く住む貴族街と呼ばれる場所と、一般人が住む下街の境目辺りにある。
キリガンは運輸ギルドに併設された一軒家に住んでおり、何かあればすぐに対処出来るようにしている。
「おーす、戻ったぞー」
キリガンがギルドの扉を開くと、着ていた深蒼のローブをソファに放り投げる。
そして、首をゴキゴキと鳴らしながら、自身の机に向かう。
その机には、書類がいくつも積み重なっていた。
「……ったく、昨日片付けたのにもう溜まってんのかよ……」
「マスター、この書類は一昨日からあった気がしますが?」
同行していた女性が机にあった書類の一つを手に取って告げるが、キリガンはそっぽを向いた。
それを見て、女性が溜息を吐くと、積み上がった書類の一番上に真新しい封筒が置かれているのが目に入った。
それを手に取り、封蝋を見て眉を寄せた。
女性がキリガンにそれを見せると、キリガンも同じように眉を顰めつつ、それを広げて内容を読んだ。
「……いくらなんでも速過ぎねぇか?」
そう呟いて、キリガンは女性をすぐに連絡員として冒険者ギルドに向かわせ、男の方は商人ギルドに走らせた。
その封筒の封蝋に押されていたのは、盾に羽ペンをあしらった意匠であり、これを使用している貴族は一つしかない。
現大臣である、ジャシム=テグ=ダイナモンだけである。
そして、キリガンは深く溜息を吐いた。
これから、サガナは静かに戦場に最も近くなる。
自分達が、その渦中に否応なしに巻き込まれていくのだと。
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




