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第77話




 少し時は戻り、デリラオサ。


「村長、騎士団は本当に全員行っちまったんか?」


 赤毛の男がそう言いつつ、村長の家にやって来た。

 この赤毛の男は、この村が出来た時からいる古参の一人だ。

 村の面々からも信頼されており、老いてはいても、たまに鉱山に潜っている。

 今朝になって、騎士団長が広場でワイバーンの討伐の為、騎士団全員で討伐に赴くと言っていたのだ。

 普通に考えるなら、防衛として一部は残すのだが、ワイバーンを相手にするには全員が赴く必要がある、と言っていた。

 だが、防衛の事も考え、剣や斧と言った武器や防具を置いていってくれた。

 最悪、奴隷鉱夫の一部が元冒険者なので、彼等を中心に防衛をする事になる。


「最悪、村を一時的に放棄して、騎士団が戻ってきたら退治して貰えば……」


 そんな事を話していると、村の外れの方から叫び声が聞こえてきた。

 村長と赤毛の男が、慌てて窓から外を見ると、村の外れの方から煙が上がっていた。

 更に、村の中央付近にある鐘がカンカンと鳴り響いている。

 誰かが、鐘を叩いて緊急事態だと知らせているようだ。


「一体何が……」


「村長! 俺が様子を見に行くから、鉱夫達に武器を渡しておいてくれ!」


 男がそう言って、煙の上がっている方に向けて駆けて行く。

 村長は言われた通り納屋の鍵を外し、そこに並んでいた剣や斧を取り出す。

 そして、別の鉱夫達に武器を支給する事を伝え、その鉱夫達に剣や斧を持てるだけ持たせ、自身も持てるだけの剣を持って煙の上がった方に向けて駆け出した。

 並ぶ一軒のあばら屋に近い平屋の一つを曲がった瞬間、巨大な魔物が目の前にいた。

 叫び声を上げる間もなく、先頭を走っていた鉱夫が急に現れた魔物に上半身を噛み砕かれた。

 背負っていた武器毎、バキリゴキリと噛み砕かれていく。

 その魔物の見た目は、灰色の鱗の巨大な顎を持った二足歩行の様な恐竜の出で立ちをしており、その表皮は小さい鱗で覆われている。

 その赤い眼がギラリと他の鉱夫達を睨む。

 

「な、なんで村の中に地竜が!?」


「逃げろぉっ!」


 鉱夫の一人が武器を放り出して逃げ出す。

 他の鉱夫達もそれに続いて逃げ出すが、村長や他の鉱夫達はそれを咎めなかった。

 地『竜』と言うが、その見た目はドラゴンには余りにも似ていないので、アースリザードと呼ばれている。

 ただ、ディノより強くリザードよりは弱いと言う微妙な位置にいる亜竜種の一体。

 それでも、一般人や駆け出しの冒険者にすれば、その噛み付きによる顎の威力は驚異的な威力だ。

 その顎の咬筋力は、鉄や鋼の防具程度では防げず、クッキーの如く噛み砕かれる。

 その表皮の鱗はそこまで硬い訳でも無く、通常の弓矢でもダメージを与える事が出来る。

 だが、そもそも出会うこと自体が稀な魔獣でもある。

 その見た目に恐れをなし、戦わずに逃げると言う事が多い為、ちゃんとした情報が出回っていない。

 辺境では、アースリザードを専門に狩る冒険者もいるくらい、対処法を知っていれば楽な相手だ。


「ぎゃぁぁぁぁっ!」


 そんな逃げた鉱夫目掛け、新たに現れた別の地竜が噛み付いた。

 最初の鉱夫と違い横手から噛み付かれた為、鉱夫が悲鳴を上げるが、そのまま噛み砕かれてビクビクと痙攣を始める。


「二頭目ってどうなってんだ!?」


 村長の後ろにいた鉱夫が声を上げる。

 彼は元冒険者であり、生態にも比較的詳しい。

 アースリザードは、少なくともこの辺に複数いる様な魔獣では無い。

 しかも、悲鳴が上がっているのはこの場だけでは無い。

 煙が上がっている他の場所からも、複数の悲鳴が聞こえているのだ。

 全部がアースリザードでは無いだろうが、この事態は異常だ。


「全員散って逃げろっ! 近くの村か騎士団に報告して避難する様に言うんだ!」


 瞬時に村長が村を放棄する事を決め、全員に逃げる様に叫ぶ。

 散って逃げるのは、誰か一人でも別の村か騎士団の所まで辿り付けば、生き残れると言う可能性を増やす為だ。

 そうすれば、何れは村を再建する事も可能だろう。

 最も、村長自身は村を放棄した責任を追及され、それを見る事は叶わない可能性が高いだろうが……

 そうしてその場にいた男達は、後ろで上がる悲鳴を聞きながら逃げ出して行った。



 村長と最初にいた赤毛の男が、未だに複数のアースリザードが暴れている村の横手から何とか脱出した。

 同じ方向に逃げたのはこの二人だけで、他の鉱夫達は別の方向に逃げている。

 そして、村を見下ろせる場所まで上ると、その光景を疑った。

 それ程大きい訳では無いデリラオサだが、それでも鉱山を有する村と言う事でそれなりに大きい。

 その村の中に、見える範囲だけでもアースリザードが10匹以上いた。


「な、なんだよ、これ……なんで……」


 赤毛の男がそう言いながら、膝から崩れ落ちた。

 無理も無いだろう。

 アースリザードがコレだけいるとなると、この場所では再建は不可能だ。

 騎士団がいれば一時的に撃退し、王都へ応援を頼む事が出来ただろう。

 だが、騎士団がいない時に、これだけのアースリザードが村に雪崩れ込んだのは、どう考えてもおかしい。

 そもそも、誰にも気が付かれず、村全体にアースリザードが移動出来るはずもない。

 まるで、誰かが村の中で『召喚』でもしたような……


 その時、背後の茂みがガサガサと音を鳴らした。

 村長と男がハッとなって持っていた剣と斧を構えると、そこから現れたのは、鉛色の鎧を着た騎士が二人。

 それを見て、村長が剣先を下ろし、男がへたり込んだ。


「だ、第八騎士団の騎士さんか……」


「た、助かった……」


「どうしたんだ?」


 騎士の一人がそう言いながら、村長達の方に歩いてくる。

 それを見た村長が不思議に思った。

 そもそも、これだけ慌てていた自分達を見て、何故こうも落ち着いていられるのか。


「む、村がアースリザードにっ!」


「何!?」


 騎士の一人が慌てた様に、村を見下ろす。

 そこには相変わらず、村を蹂躙するアースリザード達の姿があった。


「なんと……」


「逃げられたのは二人だけか?」


「わ、判らんです、必死だったもんで……」


 男がそう言うと、騎士二人が頷き合う。


「そうか……」


「そ、それよりも他の方々は……」


「まぁ落ち着け、ワイバーン退治が終わり次第、総出で駆除に当たる」


 それを聞いて胸を撫で下ろす。

 コレで何とか村は再建出来そうだ。


「む、アレは……?」


 騎士の一人が、村を見下ろして何かに気が付いたようで声を上げた。

 それに釣られて、二人共その方向を見るが別に何かあった様子は無い。

 瞬間、村長の背中から鋭い痛みが走った。

 一瞬何が起きたか判らなかったが、視線を下に向けると、自分の腹部から銀色の剣先が生えていた。

 それを認識した瞬間、喉の奥から熱い液体が込み上げ、口から赤黒い血が噴き出てきた。


「な、なに……を………」


 隣を見れば、赤毛の男は首が無く、赤毛の頭が足元に転がっていた。

 村長自身は、背中から騎士の剣が貫通している。

 どう考えても、致命傷だ。


「まったく、こっち側には来ないから楽だと思ったのにな」


「言うな言うな、他のトコはもっと大変なんだろうしよ」


 騎士がそう言って剣を引き抜き、剣に付いた血糊を振って飛ばす。

 ズルリと引き抜かれた瞬間、村長が腹部を抑えたが、時間の問題だ。


「ど、どうし……て……」


「ぁ? 団長の命令だよ。 村の奴等を皆殺しにしろってな」


 その言葉に村長は目を丸くした。

 信じられない。

 今まで、村の財政を圧迫する程、騎士団は優遇してきた。


「にしても、便利だよなアレ」


「あぁ、どういうルートか判らんが、確か帝国製だっけか」


 騎士の二人がそう言いながら、村を見下ろす。

 そこは既に悲鳴は無く、ただアースリザードが歩き回っているだけになっていた。

 それを見て、騎士の一人が懐から黒い球を取り出して眺めた。


「こんなちっさい玉にあんなのが入ってんだからなぁ……」


「どう言う仕組みなのかは、王都の錬金術師達でも判らんらしいぞ」


「帝国が凄いのか、ウチの錬金術師達が駄目なのか……と、やっとくたばったようだな」


「それじゃ、さっさと処理して戻ろうぜ」


 騎士がピクリとも動かなくなった村長を見て、うんざりしたような口調で話す。

 そして、確実に死んだのを確認する為に、その背に剣を軽く突き刺した。

 反応が無いのを確認すると、腰の袋を外してその中に二人の死体を放り入れる。


「さて、それじゃ後は村の処理か」


「時間的にもうじきアースリザードは球に戻るはずだし、焼くだけかな?」


 袋を二人で持ち、村の方へと戻る。

 その騎士二人が村に戻ると、先程までいたはずのアースリザードは全て消え去っていた。

 村から幾分か離れた場所に、鉱夫達の死体が積まれ、その死体に黒い液体を掛けていた。

 それに村長達の死体を追加すると、火の付いた松明を死体の山に放り投げる。

 すると、炎が一気に燃え上がり、死体が灰になっていく。


「球の回収は?」


「ハッ! 間違いなく全部回収しました!」


 ストランドが炎を見ながら、部下に指示を飛ばす。

 もし、今回の事が明るみに出たら、間違いなく騎士団全員が極刑だ。

 その為、自分達が係わったとする証拠は一つも残してはならない。

 あくまでも、自分達が不在の間に、謎の魔獣によって村は壊滅し、生存者は一人もいない、と言う状態にしなければならない。

 この後の事は、全てあの方に任せておけば良い。


「………違反者は?」


「若いのが10名程です」


「処理して置け」


「ハッ!」


 今回の件、やはりどうしても従えない部下もいる。

 その為、今回の被害者(・・・)として上に報告する。

 流石に被害がゼロというのは怪しまれるだろう。


 シナリオとしては、村を防衛していた若手の騎士達が謎の魔獣によって村ごと全滅。

 戻って来た時には全て終わっていた、と言うモノだ。


 その処理の為に、魔獣素材で出来たナイフや槍を用意してある。

 この処理が終わった後、その武器は全て破壊して破棄。

 そして、第八騎士団は王都へと戻って行った。




 鉱山の村デリラオサ、謎の魔獣によって壊滅。


 その話は瞬く間に王都中に広がり、謎の魔獣探しに冒険者ギルドが依頼を出す程になった。

 そして、その話が広まるのと同時に、ある噂もまことしやかに流れ始めた。


 『デリラオサの壊滅は、指名依頼を拒否した冒険者がいたせいだ』と。


 この噂は、見る見るうちに尾ひれが付き始め、最終的に『指名依頼を受けた冒険者が、報酬額が少ないとケチを付け、指名依頼を一方的に拒否し、違約金を毟り取った』となっていた。


 そして、この噂はあっという間に色々な所に波及していった。

 それこそ、噂が真実であるかのように、凄まじい速さで広がった。


 まるで、その噂を広めるのが目的であるかのように………




面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります


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