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第75話




 屋敷の一室で、マドゥーラが一枚の紙を前にしてうーんと唸っている。

 これは彼女が出された課題であり、本来なら一月後に師である王牙に見せるはずだった、新型ゴーレムの設計図だ。

 自身では納得のいくものであると考えているが、零式と比べて考えると、どうしても十歩は差があると感じてしまう。


 この新型ゴーレムのコンセプトは、『耐えてからの一撃で倒す』と言うもの。

 見た目は小型と中型ゴーレムの間位だが、防御力とパワーは異常と言えるクラスになっている。

 その反面、見た目に反して非常に重く、移動スピードも遅い。

 どうして零式はあれ程早く動く事が出来るのか、師匠に聞けば教えてくれるだろう。

 だが、そこは聞かない。

 師匠が望んでいるのは、聞いて実現させる事では無く、自身で見て、考え、模索し、答えを見付ける事だろう。

 零式をもう一度思い出す。

 そして、もう一度設計図を見る。


「やっぱり、根本から考え直さないと駄目かなぁ」


 呟きながら別の紙を取り出し、今の紙は別の引き出しにしまっておく。

 描き上げた設計図は、失敗作であろうがなかろうが全部保管している。

 何かの切っ掛けで、使える場面が来る可能性も有るからだ。


 新しいゴーレムの設計図を描くにしても、コンセプトが決められない。

 自身で考えられるコンセプトで色々描き上げたが、どれもがしっくりこなかった。


「よしっ」


 こうやって悩んだ時は、他の人に聞いてみると意外な所で閃く事がある。

 それに、この屋敷には冒険者兼任の人達もいる。

 そう言った別の視点からも、何かヒントがあるかもしれない。




 最初にやって来たのは、この屋敷のメイド長、神楽さん。

 今は屋敷の一室で、晩御飯の準備をしていた。


「ゴーレムですか?」


「はい、何かヒントが欲しいんです」


 そう言われて、神楽が大きな瓶を置いた。


「そうですね、私個人としては、戦闘面よりも生活面での補佐をして頂けるゴーレムだと便利と思います」


「生活面……ですか?」


 言われてどういう事か考えてみる。

 普通、ゴーレムと言うのは戦闘用の物であり、生活面を補佐すると言う意味が判らない。


「はい。 ゴーレムは単純な命令と動作であれば、人よりも確実に実行出来ますね?」


 ゴーレムの頭脳は、生物と比べれば複雑な思考は出来ない。

 逆を言えば、単純な動作を命令すれば、それを延々と繰り返す事が出来る。


「例えば、このバターを作るのに、ゴーレムがあれば随分と楽になります」


 神楽が机の上にあった小瓶を手に取る。

 現在、バターは温度を極端に下げて、長時間振り続ける事で凝固させています。

 ただし、作業は全て人力。

 この屋敷では、神楽さん達メイドの皆で暇な時に作っています。

 他にも、庭掃除や薪割り等、単純だけど力が必要で時間の掛かる物がいくつもあります。

 もし、この作業がゴーレムによって自動化されれば、かなりの助けになるでしょう。

 

 神楽さんに御礼を言いながら、その場を後にしました。



 次にやって来たのは、ジーナさん達の部屋。

 ジーナさん、ラナさん、ミナキさんの3人は現役の銀級冒険者です。

 神楽さんの実力に憧れ、この屋敷で働きながら修行を付けて貰っているそうです。


「ゴーレムのヒント?」


 ジーナさんが不思議そうに言ったので、神楽さんと同じように説明しました。

 しばらく、ジーナさん達は考え込んだ後、壁際に置いてあった箱を持ってきました。


「私達は斥候、諜報用のゴーレムが便利だと思いますね」


 その箱から出されたのは、前の授業で作ったネズミ型ゴーレム。

 ただし、師匠が色々と改造したらしいので、性能的には随分と高性能らしいです。


「人型と言うのも便利です。 しかし、斥候や諜報であるなら、このネズミの様な動物型と言うのも便利です」


 ジーナさんが言う様に、このネズミ型ゴーレムは、パッと見ただけではゴーレムとは思えません。

 ゴーレム技師は『ゴーレムは人型である』という前提があります。

 非人型ゴーレムを作ると、大抵は変人扱いされますが、師匠は『面白い』と言っていました。

 そう考えると、このネズミ型ゴーレムの様に、動物の形をしたゴーレムと言うのもヒントになります。


「いざという時に武器や防具になる、と言うのも……」


「……飛び道具になるのも良い……」


 ラナさんとミナキさんの言うのは、ゴーレムと言うより、魔剣や魔装と言う感じですね。

 世の中には、『合言葉(キーワード)』で鎧になるゴーレムと言うのがあるそうです。

 私は見た事ありませんけどね。

 しかし、飛び道具ですか……


「ラナ、アレは効果が薄いって総評だったでしょ?」


「……夢を見ても良いと思う……」


 3人は何か知っているのでしょうが、教えてくれそうにありません。

 取り敢えず、いざという時に武器になったりするゴーレムは面白そうです。

 でも、構造がかなり難しそうですね。

 それにしても、飛び道具……

 ゴーレムに弓矢を持たせるんでしょうか?

 それとも投げ槍?


「後は、討伐依頼を受けているなら、前衛を担当してくれるゴーレムがいた方が良いですね」


「確かに、私達の様な女性の冒険者だと、前衛を担当してくれる人は珍しいですからね」


 私の知っている人だと、マキーシャさんとリョウさんがいますが、確かに珍しいですね。

 でも、世の中には女性でありながら白金級と言う人もいます。

 最も、そう言う人は本当に稀ですけど……


「抑え込んでくれている間に、対応出来ますからね」


 そうなると、爪付きの盾を持たせるのも良いですね。

 でも、ジーナさん達の意見も面白いです。



 最後にやって来たのはこの屋敷の筆頭執事の炎尚さん。

 見た目は細身の初老の老人で、いつもニコニコしていて、とても優しい方です。

 でも、恐ろしく強い神威さんでも勝てない程強い方です。

 師匠と比べても、遜色が無いほどの強さですので、絶対に敵対したくはありません。


「ふむ、ゴーレムですか……」


 今までの経緯を説明し、何か良いアイデアが沸くと良いんですが……

 私の説明を聞いて、炎尚さんが少し考え込む。

 しばらくして、炎尚さんが私の方を改めて見てくる。


「別に、マドゥーラ様が作りたい物を作るのがよろしいのでは無いでしょうか?」


「私の作りたい物、ですか?」


 私の言葉に、炎尚さんが頷く。


「どんなゴーレムでも得手、不得手はあるでしょう。 それならマドゥーラ様が作りたいゴーレムを作るのがよろしいかと」


 私の作りたいゴーレム。

 師匠に最初に言った夢は『城級ゴーレムを超えるゴーレムを作る事』。

 だが、その夢の為にはいくつもの障害が存在します。

 今は基本をしっかりと学ぶべきでしょう。


「それに、ゴーレムは基本的に応用が出来ませんからね」


 それはどういう意味でしょうか。

 騎士型ゴーレムであっても、戦わせる以外にも、荷物を運んだり土木作業をする事は出来ます。


「例えば、フォークはスプーンの代わりにはなりません。 逆に、スプーンをフォークの代わりに出来ません」


 それは形状が違うのですから、当然の事ですね。

 ですが炎尚さんが言いたい事は判りました。

 騎士型ゴーレムであれば、戦わせること以外に使用した場合、その能力は十全に発揮されません。

 それぞれに適応した能力のゴーレムには負けます。

 逆に、平均的な万能型にしたとしても、結局、特化させたゴーレムには及びません。


 ですが、ここである事に気が付きました。


 何処で特化したゴーレムの形状は、決まるのでしょうか?

 さっそく騎士型、作業型、工事型と覚えている限りのゴーレムを思い出していきます。


 騎士型は言う間でも無く、人型であり、騎士鎧風の出で立ちをしています。

 ですので、剣や槍、盾と言った人が使う武具をそのまま使用する事が出来ます。


 作業型は、それぞれの作業に特化させた末端部分を持っています。

 指先が恐ろしく細い物、逆にハンマーの様になっている物、複数の腕を持つ物。

 その為、細かい作業を延々続ける事が出来ます。


 工事型は、作業型の大型バージョンと言った感じです。

 全体的に大きく、土木作業や建築作業に使用されています。

 腕が直接スコップの様になっていたり、不安定な場所でも作業出来るように、下半身が多脚型と呼ばれる複数の脚を持っている物もいます。


 こうして思い出しながら、ある事を考えてみます。

 例えば騎士型に、工事型の多脚型の下半身を付け、腕も工事型のパーツに置き換えてみました。

 こうなると、胴体部は騎士型ですが見た目は工事型です。

 そして、他のゴーレムにも同じようにパーツを交換させてみます。


 そうしていて気が付きました。

 特化したゴーレムと言う物は、結局の所、特化させたパーツを持ったゴーレムである、と言う事です。


 それなら、もしも……


「炎尚さん! ありがとうございました!」


「いえいえ、御役に立てたのなら幸いでございます」


 炎尚さんに御礼を言って、さっそく作業している自室に戻りましょう。

 今考えている事が実現出来れば、新たなゴーレムの運用法が確立されるでしょう。


 自室に戻り、机の上に新しい紙を広げ、隣に皆から聞いて纏めたアイデアを書き込んだ紙を置きます。

 さぁ、描き上げましょう!




 数日後、師匠が帰ってきました。

 予定では一月位は戻らないと言う話でしたが、どうやらトラブルがあったようです。

 ですが、丁度良いです。

 まだ全部は描き上がっていませんが、現時点で描き上がった設計図を見て貰いましょう。



 見て貰っている間、すごく緊張します。

 描き上がった設計図は全部で5枚。

 私的には画期的で、斬新なアイデアだと思いますが、今までのゴーレムの常識を粉砕する様な物に仕上がってしまいました。

 それを一枚ずつ、師匠がじっくりと見ています。


 しばらくして、師匠が溜息を吐きながら、設計図から目を上げました。

 駄目だったんでしょうか……


「……マドゥーラ、このアイデアは誰からか聞いたのか?」


「い、いえ、皆からの話を聞いて、私なりに実現させてみたら、そうなりました」


 そう答えると、師匠が何か考え込むように目を閉じました。

 凄く緊張します。


「あ、あの、やっぱり駄目ですか……?」


「…………試しに作ってみると良い」


 ニヤリと、師匠の口元が笑みの形に上がり、そう言ってくれました。

 つまり、合格と言う事でしょうか?


「実際に作ってみて、どう言った問題があるのか、何処に気を付ければ良いのか、確かめると良いだろう」


 師匠がそう言うと、炎尚さんが両手に乗るくらいの小さな箱を持って来てくれました。

 箱の中を開けると、そこには白い結晶が入っていました。


「ゴーレムコア……それに、これは……」


「等級は兵士級のコアだが、実験に使うならそれくらいで良いだろう」


 師匠にもお礼を言って、部屋に戻ります。

 この新型ゴーレムの基本フレームは、狭い部屋でも作れますからね。



 マドゥーラが部屋を出て行った後、俺は先程の設計図を思い出す。

 アレは確かに、この異世界には存在しないアイデアだろう。


「炎尚、マドゥーラは天才だな……」


「我々は聞かれたので、意見を述べたまでですが、それだけでこのアイデアに辿り付いたのは、確かに天才ですな」


 椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。

 それを見て、炎尚が紅茶を用意してくれた。

 ゆっくりと飲み、改めて設計図を思い出し、呟いていた。


「……ゴーレムでコア思想とはな……」




年末になりまして、大変リアルがバタバタしております

一応、次回更新は1月7日を予定しております


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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