第74話
ストランド団長が村長に依頼を取り消させる。
別にこう言った依頼の取り消しに関しては、よくある事なので別段問題は無い。
特に、討伐や調査依頼に関しては、それを知らずに別の冒険者が討伐したり、問題を解決していたりして報告せずに何処かに移動してしまった場合や、一過性の問題だったりして自然と解消された場合、依頼主は依頼を取り下げたり、取り消したりする事がある。
今回の場合、騎士団が討伐すると言う事で、俺への指名依頼を取り消すと言う事なのだが、まぁ別に問題は無いか。
「それじゃ、俺に対しての依頼は取り下げる、で良いんだな?」
「……申し訳ありません、村の今後を考えると……」
村長がそう言うが、村の今後を考えれば選択肢は無い。
だが、その様子を見ているストランド団長の表情がニヤけているのが若干イラッとする。
しかし、脅されていたとしても村長側から取り消しがされてしまっては、俺に出来る事は無い。
「それじゃ、冒険者達には引き払って貰って、此方は話をしようか」
ストランドがそう言いながら村長の方に歩いて行くが、それを俺が片手を上げて止める。
それでストランドが若干苛立ったような表情を浮かべる。
「まぁ依頼の取り下げは構わないんだが、このままだと村長側に違約金が出るんじゃないか?」
違約金と言う言葉で、村長の表情が曇る。
やっぱりあったか。
通常、ギルドへ依頼した後に、その依頼を取り下げる場合、不慮の事で遂行が不可能になったりした場合を除いて、違約金として依頼料の一部がギルドに徴収される。
これは、ギルドでの作業や掲示板への張り出し等の作業費用の分と、それに掛かる人件費分なのだが、指名依頼の場合、それに関わる冒険者へも路銀や準備する際の準備金も含まれる。
今回の場合、3日分の食料や馬車のレンタル代、諸々の諸費用が掛かっている。
だが、この村の財政はかなり厳しい。
もし、ここで違約金を払ったら、それこそ冬を越すのも一苦労になるだろう。
「俺がギルドと交渉する代わりに、村長が一筆、騎士団側からの要請で取り消す事になった、と書いて欲しい」
つまり、村長や俺の都合では無く、騎士団が要請したので俺への指名依頼を取り消して欲しい、と言う風にギルドには報告する。
その上で、俺が内密でクックに、騎士団長が村の防衛を放棄して撤退する様な事を言われていて止むを得なかった、と報告して違約金を取らない様に説明する。
違約金の全額免除は不可能でも、一部免除は狙えるはずだ。
「その上で、それを了承したとして騎士団長もサインを入れてくれ」
最終的に騎士団としてでは無く、ストランド個人での要請と言う形になったが、依頼の取り下げの書状を書いてもらった。
その書状を持って門番に預けた馬車に乗り、サガナへと帰る事になった。
初日に野宿をした場所に到着したので、そこで野宿となった。
ジーナ達が枯れ木や小枝を集め、俺がテントを張る。
索敵レーダーで周囲の安全は確認しているが、薪集めのジーナ達の目視で縄張りの主張を探して貰う。
折れた木々や、捲れ上がった木の皮、地面に残った足跡、探せば色々と痕跡はある。
それで判ったのは、ここ等辺はトライホーンボアの縄張りであり、それも比較的古い事からしばらくは来ないだろう。
そうして、野営開始。
食事はトマトベースのボアの煮込みと、自家製の白いパン。
それを食べつつ、今日の事を思い出してみる。
デリラオサは国営の鉱山から、鉱石を採取し精錬している。
だが、不可思議な所があった。
村だろうが町であろうが必ずいる存在がいなかったのだ。
「旦那様、デリラオサで少々話が……」
ミナキがそう言ってやってくる。
ジーナとラナは食事の後片付け中。
「前に行った時と比べて、奴隷鉱夫の数が増えていました」
「奴隷が?」
聞けば、村の中で出会った村人の大半が奴隷だったと言う。
一般人と奴隷の見分け方だが、赤い首輪が借金奴隷、黒い首輪が犯罪奴隷だと言う。
そして、デリラオサにいたのは、犯罪奴隷ばかりだったらしい。
「それ以外にも気になる事があったな」
「気になる事、ですか?」
「あぁ、あの村だが……子供が一人もいなかった」
そう、大人や初老の老人はいたのに、子供が一人もいなかった。
奴隷だから子供がいない訳では無く、普通の鉱夫もいたのに、子供が一人もいないと言うのは異常だ。
現在はワイバーンがいるので、安全の為に避難しているだけかと思ったが、あの報酬金額から考えると移動の際に雇う護衛代や、移動先での生活費を全て賄うのは無理がある。
戻ったらマキーシャ達に聞いてみるが、これが以前からだった場合、あの村はかなりブラックな職場だ。
子供が不要でありながら、一定数以上の住人(奴隷含む)が存在して村が成立している。
それはつまり、定期的に人がいなくなって住人(奴隷含む)が補充されている、と言う事だ。
それが事故なのか、意図的なのかは不明だが、まぁ恐らくは事故が大半だろう。
この異世界ではどうやって採掘しているかは判らないが、鉱山であるならば落盤事故もあるだろうし、この異世界にはモンスターも存在する。
そのモンスターによる被害もあるだろうが、そこは騎士団が頑張るのだろう。
あの騎士団がちゃんと機能していれば、だが。
そうしてサガナに到着。
帰り道では何に出会う事も無く、無事に済んだのだが、コレはコレで微妙だな。
別に襲われない事は良い事なのだが、道中で倒したモンスターは冒険者の臨時収入となる。
つまり、今回の遠征だが……
大赤字。
護衛依頼を受けた訳でも無く、個人で馬車を借り、行った先で依頼を受けてもいない。
馬車のレンタル代もそれなりに高い。
こうなると、道中のモンスターを退治して、僅かでも稼ぎたい所だった。
行きでは銃のテストも兼ねてゴブリンを狩ったが、ゴブリン自体は凄く安い。
ゴブリン狩りだけで生計を立てる冒険者はいない。
この理由は簡単であり、安過ぎる為、労力に見合わないのだ。
単体では弱いゴブリンでも、群れれば脅威になる。
俺や神威達ならソロでも、ゴブリンの群れ程度何の問題も無く殲滅できるが、他の冒険者が出来るかと言えば、答えは否だ。
それでいて、討伐報酬は雀の涙程度。
なので、普通の冒険者はゴブリンを発見したら、狩りはするが、積極的に探して狩る事はしていない。
「と言う訳だ」
クックに村での事を説明すると、クックの眉間に皺が寄っている。
まぁ指名依頼を出しておきながら、騎士団の横槍で破棄されたのは冒険者ギルドとしても思う所はあるのだろう。
辺境の村や騎士団の庇護下にある街で、こういった行為が横行していれば、由々しき事態だ。
場合によっては、冒険者ギルドの仕組みに、国が喧嘩を売っているとも取られかねない。
「判った。 コレに関しては儂の方でギルドからの正式な報告として、国の方に苦情を入れて置こう。 それと違約金に関してだが……」
「完全に無くすのは無理か?」
「………ギルドとしては無理だが、あの村はウチの冒険者も多く利用しているからな、今回はギルドマスター権限でどうにかしよう」
そう言いながら、クックが村長と騎士団長の連名で書かれた手紙を手に取る。
口約束では無く、この依頼を取り下げると言う手紙が今回は大きい。
これがあれば、正式な要請で指名依頼を取り消した事、もし問題が起きた場合でも、サガナ冒険者ギルドと俺には一切の罰則が無い事が証明出来る。
取り敢えず、後々の事はギルドに丸投げし、俺はマキーシャ達にあの村での事を詳しく聞く事にした。
結局、マキーシャ達に話を聞いた所、子供が一人も見当たらなかった事に付いては不明だった。
マキーシャの話だと、去年までは十数人だが子供はいたと言うが、ワイバーン騒動で別の村に避難しているのでは? と言う事だった。
あの村の近くに別の二つの農村があり、もしもの時は避難する事があるらしい。
ただ、ここ数年はそう言った事は無かったが、今回はワイバーンが現れたと言う事で避難している可能性が有る。
依頼金額についても、あの村が潤っていた時期ならまだ出せただろうが、あの騎士団長が来てから、警護費用だの損耗品代だのと、理由を付けて村から出させている結果らしい。
ワイバーンが襲来した件についても気にはなるが、これ以上は何も出来ないので、マキーシャ達と別れて屋敷に戻る事にした。
「騎士団長、目撃されたワイバーンの行動予測範囲から算出した巣の位置です」
銀の全身鎧を装備した兵士の一人が、ストランドに一枚の紙を渡した。
そこには、デリラオサ村を中心にした簡易の地図が描かれており、鉱山付近に丸が書かれていた。
ストランドがそれを見ながら指先で机を軽く叩く。
「よし、それでは討伐作戦を実行する。 予定通り、準備を開始しろ」
「はっ!」
兵士が敬礼をして部屋から退出していくのを見ながら、ストランドが机の引き出しにその地図をしまった。
そして、別の引き出しから板に固定された小さな丸い水晶と、握り拳くらいある丸い水晶を取り出して机に置く。
小さな水晶に指を置いて魔力を流すと、水晶の色が紅く変色した。
それを確認すると、次は丸い水晶玉に同じようにして魔力を流し、台座の部分に浮かんだ名前の部分をなぞった。
「………何の用だ……」
しばらく待っていると、水晶から誰かの声が聞こえてくる。
それは、周囲を警戒する様な小さな声。
「御安心を。 周囲には誰も居ませんし、遮音の魔法具も使用していますので」
「それで連絡を寄こしたと言う事は……」
「はい、予定通り冒険者は追い返しました。 後は手筈通りに……」
「うむ、此方も其方が終わり次第動ける様に準備して置く」
「しかし、本当によろしいのですか? 鉱山一つを放棄すると言うのは……」
ストランドがそう言いながら扉の方を見る。
別にこの村に愛着があるとかでは無く、国を思うのであれば、鉱山は保有している方が良いのだ。
「鉱山一つとあのゴーレム、国防を考えれば答えは簡単じゃろう」
「……では、私の方はコレで……」
そう言うと、丸い水晶の色が白く変色し沈黙した。
それを確認し、ストランドが額に浮いた汗を拭いながら、椅子に深く腰掛ける。
二つの水晶を再び引き出しの中に戻し、机の脇に置いてある水差しから水を飲む。
「……さて、それじゃいないワイバーンを探しながら、討伐作戦を始めるか……」
壁に掛けられている剣を腰に吊るし、扉に手を掛ける。
その際、机の方を振り向いた。
あの冒険者を追い返す際、村長を脅したのと、書かれた手紙に自身のサインをした事を報告し忘れていた事を思い出したのだ。
「……まぁいいか、問題無いだろう」
呟いてストランドが部屋から出て行く。
冒険者と騎士団長の言い分であれば、間違いなく騎士団長である自分だろう。
それに、自分の後ろ盾には実家以外に、今回はかなりの大物が付いているのだ。
騎士団詰所の窓から見える並び始めた兵士達を見ながら、笑みが浮かぶ。
今回の件が上手くいけば、こんな辺境の騎士団では無く、王都にある守護騎士団や、国の根幹である王を護衛する王都近衛兵団も夢では無い。
そんな事を考えつつ、並ぶ兵達の前に立った。
さぁ、精々私の為に踊ってくれたまえ。
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