第73話
鉱山の村『デリラオサ』は、サガナから馬車で片道3日程掛かる。
本来なら乗合馬車があるのだが、最近は森の縄張りが変動している事で物騒になり、本数を減らして護衛を雇っている。
その護衛を受ける場合、必然的に往復になるので、向こうで依頼を受ける可能性が有る俺達には受ける事が出来ない。
今回は冒険者ギルドから馬車をレンタルし、依頼が終わったら返却する事になっている。
最も、途中でとある実験をしたいので、丁度良いと言えば丁度良い。
丁度中間あたりで、ゴブリンの群れが近くにいるのを索敵レーダーで把握する。
ゴブリンは放置するとあっという間に増えて、近くにある都市にも被害が出る。
一個体としては弱いのだが、集団になると厄介な事この上ない。
と言っても、俺からすればどれだけ集まろうが雑魚な事には変わりない。
なので、前々から考えていた実験をする為に、馬車を止めてジーナ達にゴブリンの群れが近くにいる事を告げる。
それを聞いた彼女達が、各々の武器を取り出していく。
だが、それを敢えて止めさせ、代わりに持って来た魔法袋から取り出す風にして、インベントリからあるモノを取り出した。
アサルトライフルのM-16、同じく、バレットM-82A1。
更に、44マグナムと呼ばれるリボルバーのS&WM29と、オートマチックのデザートイーグル。
そう、この異世界でも銃器は通用するのか、通用するとしてどの程度までなのかを調べるのだ。
今俺が取りだした銃器は、どれもが一撃に秀でた威力を誇る。
お話の中では、銃器はよくチート武器として登場するが、正直な話、無理があるだろう。
魔法でも物理攻撃でもビクともしないような超硬質の龍の鱗を、銃弾は貫通したり吹き飛ばしている事がある。
だが、そんな事はちっぽけな薬莢に収まる炸薬では不可能だ。
もし、実際にそんな龍を確殺するのであれば、一撃で高層ビルの土台を消し飛ばすような威力が必要になる。
そして、そんな威力の炸薬があったとしても、それを撃ち出す銃身の方が耐えられずに内部から破裂するだろう。
更に、その威力に耐える銃身が出来たとしても、射撃時の反動で腕がもげるか、撃った瞬間、身体が吹き飛ぶ。
かの有名な戦艦『大和』の主砲は、その射撃時の反動で大きく船体が傾いたと言う。
簡単に言えば、それと同じかそれ以上の反動が、小型になって使用者に掛かるのだ。
耐えるのは人間には不可能だな。
まぁそれは兎も角、どの程度までなら通用するのか、ジーナ達と試して感想を聞いてみる事にする。
取り敢えず、まずはM-16とM82A1の使い方と特徴を説明。
射撃時に凄まじい爆音がするので、耳栓を付けさせてゴブリンを退治する事になるので、簡単な合図を決めておく。
俺が右手を上げて左右に振ったら中断し、左手で左右に振ったら続行。
そして、ジーナとミナキがM-16を使い、ラナがM82A1を使うのだが、コレにはある程度の理由がある。
M-16はまだ立射が可能だが、M82A1は伏射するしかない。
元々クロスボウを使っていたラナであれば、癖の強いM82A1でも使えるだろう。
逆に、ジーナとミナキはこう言った飛び道具には慣れていない為、数を撃てるM-16にした。
まぁこの異世界には魔法があるので、強力な反動でも耐えられるだろうが、まずはテストだ。
そうして、俺がゴブリンを引き寄せてジーナ達の射撃範囲に入ると、凄まじい射撃音が響き、後ろを走っていたゴブリンの数匹が真横に吹っ飛んでいく。
銃器に触ること自体が初めてのジーナ達の方に、真正面から行くなんて恐ろしい事はしない。
恐らく、数匹まとめて吹き飛ばしたのはラナのM82A1だな。
その後、混乱している残りのゴブリン達を射撃音が短く響き、蜂の巣に変えて行く。
引き連れたゴブリンがいなくなったので、右手を振って合図を送ってジーナ達と合流する。
その後、S&WM29とデザートイーグルを試そうかと思ったが、ジーナとミナキが拒否したので、これは俺一人でテストした。
ゴブリンの群れに残っていた残党を、2丁拳銃で殲滅した。
高レベルの肉体が保持する為、強力な反動で肩が抜けるとかは無かったが、掌がジンジン痛む。
「このクロスボウみたいなモノの威力は、ラナが持っているのより強力なのは無いんですね?」
「多分だが、無いな」
俺が作らない限りな。
「……では、旦那様が知りたい事ですが……」
「あー、その前に、別に屋敷にいる訳じゃないから、普通に呼んでくれて良いんだぞ?」
「習慣付けていないと、外でうっかり、なんて事になりかねません。 メイド長からも言われていますので」
神楽の教育はスパルタだな……
まぁこれは後で神楽と相談する事にしよう。
「威力は確かに凄まじいです。 射程距離もクロスボウより長く、相手は反応するのも難しいでしょう」
それだけなら確かに驚異的だろう。
だが、それを覆して余りあるデメリットをジーナは言った。
まず、その射撃音。
M-16やデザートイーグルならまだしも、M82A1やS&WM29の射撃音は耳栓をしていても凄まじい。
あっさりと自分の居場所を相手に知らせる上に、強力な防御力を誇る相手に耐えられた場合、勝ち目が無くなる。
更に、銃弾。
矢と同じで無くなれば無用の長物になるが、矢の場合はある程度は外でも自作が出来る。
だが、銃弾はそうはいかない。
事前にある程度の数を準備しておく必要があり、その銃弾がイコール戦闘可能時間となってしまう。
そして、一番の問題が不発だった場合。
狙撃の場合は、まだどうにかなるが、接近されていた場合は、次の弾を撃つ前に斬り飛ばされる。
これは冗談抜きで。
次弾を撃たれる前に接近し、その銃なり腕なりを斬り飛ばすのは、この異世界の上位者でも可能な事だ。
そして、この異世界特有の問題点として、魔法の存在がある。
矢には魔法を付与する事が出来るのだが、銃弾には付与する事が出来なかったのだと言う。
所謂、炎魔法を付与して、燃える矢や、風魔法を付与して貫通力を上げる等が出来ない。
銃弾素材の問題なのか、システムから呼び出した物の為による問題なのかは不明。
これの実験もしたいが、今は不可能。
そこから導き出される結論。
「ゴブリンやオーククラスまでなら通用するでしょうが、オーガクラスやそれ以上となると、嫌がらせ位にしかなりません」
それがジーナの下した銃器の評価だった。
ラナはM82A1を気に入ったようだが、流石に物騒過ぎるので回収した。
まぁ対人戦には使えるだろうが、魔獣素材の全身鎧相手では効果は薄いだろう。
しかし、俺も男。
銃器が浪漫武器である事は理解している。
暇が出来たらこっちの素材で色々作ってみよう。
例えば、銃身がアダマンタイト製で、炸薬を魔石にするとか。
まぁ何はともあれ、暇が出来たらだな。
一応、これ等の銃器に関しては、秘密と言う事で口止めしておいた。
そんな事を考えつつ、村へと向かう。
結局、道中で遭遇したのはこのゴブリンだけだった。
ワイバーンが目撃されていたのだから、道中で見掛けるかと思ったがそんな事はなかった。
索敵レーダーにも表示は無い事から、鉱山の方にいるのだろう。
デリラオサは中央部にいくつもの木造建築と、外周部に煉瓦調の建物が並び、煉瓦の建物には長い煙突が聳えている。
恐らく、煉瓦の建物は大型溶鉱炉のある建物なのだろう。
今は煙が出ていないが、鉱石を集積していた間は大量の煙を吐き出していたのだろう。
簡素な門を潜り、その門番に村長宅を訪ねると、村の外周部に近い場所の旗が立っている家と教えて貰った。
門で馬車を預け、村の中を歩く。
すれ違う村人達は、男女共に皆肌が浅黒く、筋骨隆々としている。
しかし、誰もが活気は少なく、意気消沈している。
大型溶鉱炉が稼働している時は、皆活気溢れていたのだろうが、今は何時襲来するか判らないワイバーンに怯えているのだろう。
このデリラオサから供給される金属は、全体から見れば微々たる量かも知れないが、モンスターから手に入れる以外での大事な供給源だ。
村長は早くワイバーンを討伐して欲しいのだろうが、何故、騎士団がこうも動かないのも聞かねばならない。
そうして村長宅に到着。
見た目は他の木造建築より一回り大きく、入口の脇に赤い旗が立てられていた。
取り敢えず、ドアをノックすると、中から何かドタドタと足音が聞こえてきた。
出て来たのは、今まですれ違った村人よりも一回りは大きな体躯のオッサン。
髪は焦げ茶に近い色だが、白髪が半分以上混ざっている。
「依頼を受けてくれるのか!?」
開口一番、オッサンがそう言ってくるが、まだ受けた訳では無い。
と言うより、面識が無いのに良く俺だと判ったな。
一応、村長宅の中に入れて貰い、事の経緯を詳しく聞く事にする。
まず、最初に目撃されたのは鉱山から帰る際、一人の鉱夫が遠くにいるのを目撃し、その際は『まだ遠いからこっち来る事は無いだろう』と、放置して村に帰ってきた。
次の日、鉱山へ向かった所、その遠くにいたワイバーンが鉱山に棲み付いてしまっていた。
その為、まずは騎士団へと報告したが、調査した後に討伐すると言われ、既に一ヶ月が経過している。
何度も陳謝したが、調査が終わっていないと言われ続け、これ以上は待つ事も出来ない。
代表者達を集め、最終手段として冒険者に依頼を出す事になったが、今回の依頼の関係上、確実に解決して貰わなくては非常に不味い事になる。
そこで、規格外として噂になっている冒険者に指名依頼を出そうと言う事になった。
しかし、操業停止状態の村にある蓄えをギリギリまで削っても、報酬は銀貨で250枚と言う低額。
ワイバーンを相手にするなら、報酬は金貨が相場になるのだが、この村はそこまで稼いでいる訳でも無い為、無理してもコレが限界。
なので、討伐したワイバーン素材は全て冒険者に譲り、宿泊や食事と言った費用は全て村持ちでどうにか引き受けて貰えないだろうか、と村長から説明された。
ワイバーン素材と言うのは地味に高額だ。
皮から牙、爪、骨から魔石、眼球や内臓に至るまで、すべてが何かしらの素材になる。
そう考えると、その全てを譲ってくれると言うなら充分だろう。
後ろにいるジーナを見れば、彼女も頷いている。
この村の状況は理解したし、相手するワイバーンの数はこれから調べれば良い。
「よし、それじゃ……」
返事をしようとした瞬間、家の外から騒がしい声が聞こえてきた。
何か、言い争いをしているようだが、部屋の中からだとよく聞こえない。
そうしていると、部屋の扉が勢い良く開かれた。
「村長! 勝手に冒険者如きに依頼を出したと言う話は本当か!」
入ってきたのは銀の鎧を着た金髪の青年。
その背には赤いマントが付けられ、腰には一振りの剣が下げられている。
「こ、これはストランド団長さん、確かに冒険者殿に依頼を出しましたが、これは……」
「黙れ! この鉱山の防衛を任されているのは、僕等第八騎士団だぞ! それを冒険者如きに依頼するとは……」
村長の言葉を遮って、ストランド団長と呼ばれた青年がそう言いつつ俺の方を見る。
その視線は、明らかにこちらを見下していると言った視線。
「これは村の存亡にも関わる事態、これ以上村の操業を停止していたら、それこそ再稼働させるのに……」
「村長、僕等を無視して依頼を出すと言うなら、村に騎士団は不要と考えて、僕等はこの村を引き払って国に帰る事になるが?」
「そ、それは困る!」
「それなら今回の件、改めて全て僕等に任せると言う事で良いね?」
その言葉で、村長が申し訳なさそうに俺の方を見た後、頷いた。
まぁ、恒久的に守ってくれる騎士団と、移動していなくなる可能性のある冒険者では、村長としては村を維持する為に、騎士団を選ばざるを得なだろう。
「そういう訳だ、君らは帰っていいぞ」
ストランド団長はそう言いながら、俺達の方を向いた。
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




