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第71話




 ゴブリンの数は大凡30匹前後。

 一体一体は弱いのだが、これ程まで数が揃うと脅威だ。

 リアジタ達は十分強いのだろうが、流石にこの数では無傷とはいかないだろう。


「さて、少しは援護するか」


「「アゥッ!」」


 俺の呟きに柴隊の2頭が吠えて返事をし、短剣と小盾を構えて駆けて行った。

 あくまで援護するだけであって、俺自身は大立ち回りをする気は無いので、インベントリから癇癪豆を取り出す。

 そして、コレからゴブリンが来るであろう茂みに向け、指弾で癇癪豆を弾き飛ばす。

 その茂みから跳び出してきたゴブリンの頭に、撃ち出した癇癪豆が直撃する。

 瞬間、パンッと癇癪豆が弾け、ゴブリンの頭部が一緒に弾け飛んで、辺りに血肉やら脳髄を撒き散らす。

 本来なら、討伐証明として片方の耳を切り取る必要があるのだが、今の状況だとそんな暇は無い。

 回収は諦めて貰う。


「な、なんだ!?」


 ケヴィンが弾け飛んだゴブリンの方に気を向けた瞬間、ゴブリンの一匹が横手から飛び掛かる。

 だが、それを柴隊の片方が跳び込んで蹴り飛ばし、吹っ飛んだ先でもう一頭の柴隊が短剣で斬り飛ばす。


「此奴等、サガナの柴隊か!?」


「さっきの声からして誰かいるんじゃろって!」


 リアジタがそう言いながら、斧を振ってゴブリンを纏めて薙ぎ払い、ゴルドがポールアックスでゴブリンを叩き潰す。

 ダリアは風の魔法で生み出した不可視の刃で、ゴブリンを屠っていく。

 体勢を立て直したケヴィンは、柴隊と協力してゴブリンを倒し始めた。

 レーダーで遠くにいるゴブリンに指弾を撃ち込みながら、その数を減らしていく。

 そうして、集まったゴブリンは全て倒し終えたようで、赤い点が無くなった。


「ご苦労さん」


 戻ってきた柴隊に持っていた干し肉を与える。

 アレだけの数を相手にして、まったくダメージを受けていない。

 さて、一応彼等にも挨拶はしておくか。



「無事なようだな」


 茂みの奥からそう言いながら一人の男が歩み出て来る。

 咄嗟にリアジタとゴルドが武器を構えるが、その男の足元には先程の柴隊がいる事から、サガナの冒険者だろう。

 ただ、その恰好は両手足だけに見慣れない防具を付け、背には棒を背負っているだけという異様な格好だ。

 黒いロングコートと在り来たりなズボン、焦げ茶のブーツと余りに森の中を進むには不釣り合いだが、その雰囲気は歴戦の戦士を感じさせる。

 リアジタとゴルドが武器を下ろしたのを確認して、その男が歩いてくる。


「助かりました、僕等は依頼を受けてここまで来たんですが……」


「ちょっと貴方!余計な事はしないでよ!」


 礼を言って状況を説明し始めた時、ダリアが男に向かって怒り出す。

 最近、上手くいかない事が多くてカリカリしていたが、この状況ではかなり不味い。

 もしも、この男がサガナの冒険者で、自分達が依頼を受けている事を知らなければ、密猟者としてギルドに報告される可能性だってあるのだ。

 それに気が付いているリアジタとゴルドが、騒ぐダリアの襟首を掴んで離れて行く。

 改めて説明しないと……


「助けて貰ったのに仲間がすみません」


「気にするな、俺はただ調査依頼を受けて森を調べてるだけで、目の前で死なれたりしたら目覚めが悪いからな」


 男がそう言いながら、丸まった羊皮紙を見せてくる。

 そう言えば、ギルドの依頼に森の調査があった。

 この男はその依頼を受けている最中で、偶々、自分達に遭遇したのだろう。


「一応忠告だが、解体作業をする時は、一人は見張りに立たせた方が良いぞ。それだけでも強襲される事は減る」


「忠告感謝します。今回は色々と焦っていて……」


 ビッグタートルを探すのに手間取って、依頼期限があと二日しか無いのだ。

 解体した後、直ぐに戻らないと間に合わない。

 今回の依頼を失敗すると、ペナルティの違約金以外に冒険者ランクが落とされる可能性がある。

 この違約金が結構痛く、貯蓄の方も少し心許無い。


「まぁ頑張れよ」


 男はそう言うと、柴隊を連れてそのまま森の中に消えていく。

 その後ろ姿を見ながら、ふと盾を持ったままの手を見た。

 その手はびっしりと汗をかいて湿り、持っていた盾の持ち手も湿らせていた。


「……あの男、強さの底が見えんな」


 ゴルドがそう言いながら戻って来た。

 其方を向けば、ゴルドの眉間には深い皺が出来ている。


「もし、戦闘になったら……」


「儂等じゃ時間稼ぎすら出来んじゃろうな」


 リアジタとダリアが、解体したビッグタートルの素材を魔法袋に収納して戻ってくる。

 手持ちの魔法袋はあまり容量が大きくないので、甲羅や爪、頭骨と言った必要な素材以外は、全て捨てる事になる。

 ダリアが残っている残骸に魔法で火を放ち、灰にしていく。

 下手に残せばゴブリン達の餌になって、奴等を増やす原因になるだけでなく、腐敗して病気の原因にもなる。

 基本的に、持ち帰れない魔獣素材はこうやって処分するのが決まりだ。


「それじゃ帰って報告するぞ」


「リアジタ、警戒しながら頼む、ダリアも準備だけはしておいてくれ」


「そんな初歩的な事、言われなくても判ってるわよ」


 リアジタは頷き、ダリアは文句を言いつつも返事をする。

 ゆっくりとだが確実に森を進み、サガナに辿り付いたのはそれから一日経っていた。

 そして、受付で達成を報告し、森での出来事を報告すると、受付嬢からあの男の話が聞けた。


 あの男こそ、ダリアが執着していた『記録破り(レコードブレイカー)』の冒険者。

 実際に目の前にして、力量の差を思い知らされた。

 それは自分達と比べる事すら無意味と感じる程の差だった。




「あ、そういや名乗ってなかったな……」


 彼等と別れてしばらくしてから、名乗っていない事を思い出した。

 まぁサガナに戻ればまた会えるだろうし、今回は仕方ないと諦めよう。

 今から戻って改めて名乗るのもアレだし……

 そう考えながら森を進む。

 旧地図だとグラップグリズリーの縄張りに入っているが、それらしい痕跡は無い。

 更に少し進むと、レーダーに赤い点が現れる。

 かなり遠くにいるが、一つしかない事から恐らくグラップグリズリーかな。

 察知されない距離で確認すると、やはりグラップグリズリーだった。

 見ていると木の一本を薙ぎ倒し、その木の実を齧っている。

 距離を把握し、地図に書き込む。



 離れた所で野営をしつつ、書き込んでいる地図を確認すると、かなり縄張りが変動している。

 浅い所にフォレストウルフやゴブリンが縄張りを伸ばし、オークやビッグタートルが奥地に移動している。

 コボルドには出会えなかったが、縄張りの中をウロウロと移動しているようだ。

 柴隊と同じコボルド達はもうこの付近にはいないようだ。

 まぁこれ以上増えてもドーザードの負担が増えるだけだし、増えない事は良い事なのだろう。

 周囲の警戒は柴隊がしてくれるが、それに頼り切るのも危険なので自分でも警戒はする。


 そうやって色々と調査をしながら森を進む。

 途中、オークの集団を発見して叩きのめし、ブル型コボルドとも遭遇したが、一目散に逃げて行った。

 それ以外に薬草の群生地を発見したが、場所が結構奥地に近いので来るのは無理だろう。

 一応書き込むが、判断は冒険者ギルドに任せる。


 そうして数日間森の中を探索し、細かく書き込んで完成した地図を冒険者ギルドに提出する。

 ギルドで報酬を貰い、併設された酒場でこれからどうするか改めて考える。

 目的の魔石が入手出来なかった事で、このままゴーレムを起動させる場合、機能の幾つかをオミットする事になる。

 だが、そうなるとただのちょっと強いゴーレムになるだけで、かなり勿体無い。

 それなら、このまま入手するまで死蔵するのが一番か……


「お、そこにいるのは王牙じゃないか」


 その声に振り返ると、そこにいたのはドーザード。

 がっしりした身体だが、その片足には膝の部分から棒の様な義足を装着している。

 禁忌スキルを使用し、片腕と片足を失った為に義手義足を装着しているが、この世界の義肢装具の技術は高くない。

 義足は棒だし、義手に関してはマネキンの腕の様な物。

 つまり、足は兎も角、腕を失えばまず冒険者としては引退だ。

 ドーザードの場合、柴隊の隊長として就任したので、引退ではあるが継続的な収入が見込めるので、高待遇になっている。


「柴隊には助かったよ」


「ガハハハ! うちの柴隊は強くなっただろ?」


「アレは予想以上だったな」


 ドーザードが自慢するように言うが、アレは予想以上に強くなっていた。

 どうやって訓練してるのか疑問だったが、簡単な話だった。

 現在、冒険者ギルドには金級のアーノルドが治療の為、在住している。

 そのアーノルドから、柴隊の一部が座学と言う形で戦い方を学んでいるのだ。

 その後、柴隊同士で動きを最適化し、運用した結果が連携を駆使したあの強さに繋がっている。


「それに、王牙に付けた2頭は特に強い奴だからな。 その内、ライカンスロープになる可能性もあるぞ」


 柴隊の中から、上位種であるライカンスロープが出て来るのは半ば予想はしている。

 アレだけ強くなっていれば、その内進化するだろう。

 そうなると、柴犬顔のライカンスロープか……

 似合わねぇなぁ……

 そんなドーザードの足元には、副隊長として同行しているチャモがいる。


「親父、いつもの飯と酒を頼む!」


「……入り浸ってんのな……」


「まぁ料理なんざ出来んしな!」


 確かに、今まで冒険者稼業として活動していれば、ほとんど料理なんてしてないよな。

 だからって、『いつもの』で通じる程、入り浸らなくても良いんじゃないだろうか。

 酒場の親父が持って来たのは、片手でも食える骨付き肉とフランスパンの様なパンと、エール。

 その骨付き肉の一つをチャモに渡し、ドーザードが齧り付く。


「しかし、これで柴隊は60頭越えか……」


「今度、ギルドマスターと相談して、食事の用意をするメイドでも雇わにゃならん」


 全頭が一辺に食事をする訳では無いが、60頭分の食事を用意するのはかなり面倒だろう。

 屋敷の一部を柴隊の宿舎として解放しているが、柴隊の食事の準備や洗う為の人員は別に雇う必要がある。

 一応、サガナの治安維持の為に活動しているので、そこら辺から補助金なりが出る。

 その補助金から雇うのだろうが、選定の為にクック達と相談する必要がある。


 まぁ、最近はマスコットとしても親しまれているようなので、募集すれば直ぐに揃うだろう。


 そうして、ドーザード達と別れ、途中で買い物をしつつ自宅に帰る。

 屋敷隣の小屋は半分以上が完成しており、もう少しで完成となるのだが、魔石問題が解決しない限り、マドゥーラとの授業で零式を分解するくらいしか使い道が無い。

 後は、マドゥーラのゴーレムの改造に使うくらいか。

 しばらくは、マドゥーラのゴーレム改造がメインになるかな……

 魔石入手に付いては、最悪王都で行われるオークションで入手する事も視野に入れるとしよう。


 いくら必要になるだろうなぁ……




面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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