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第70話




 逆さ迷宮から帰還して一週間。

 ハスタに関しては、無事にマキーシャ達に引き継ぐ事が出来たのだが、新たな問題に頭を抱えている。

 一つは魔石を入手出来なかった事で、ゴーレム完成の目途が立たなくなった。

 こればっかりは仕方ないとしても、一番の問題は他ユーザーの存在だ。

 今の所、それらしい人物には出会っていないのだが、それが辺境だからなのか、王国領にいないからなのかは判らない。

 しかし、他の国にいるとしても、新しい技術は広まっていない。

 優れた技術や文化は勝手に広がっていく。


 そんな事を悩みつつ、依頼ボードの前で立ち尽くす。

 貼ってある依頼は平原迷宮での依頼が多く、他の場所が少なくなっている。

 神威は神威で、リルとマドゥーラと共に平原迷宮でオーガ討伐に行っているので、久々に一人だ。

 それならば、俺はのんびりと森の調査依頼を受けるとしよう。


 依頼内容は森の調査だが、これは平原迷宮に冒険者が集中してしまった事が原因だ。

 平原迷宮が現れる前であれば、冒険者達は森に入って依頼を遂行し、自然と調整が出来ていた。

 だが、今では平原迷宮に冒険者達が集中してしまった事により、森の中は魔獣の巣窟になっている。

 新人冒険者や、定期的に森で作業する冒険者達が間引いているが、それでも追い付かなくなってきているという。

 最近は、ドーザードがチャモ達柴隊に罠や武器の使い方を覚えさせ、柴隊の中で調査隊を作っている。

 最初の頃は調査だけしか出来なかったが、今では柴隊同士で連携し、トライホーンボア程度なら倒せるまでに成長している。

 そんな柴隊だが、実は再び一悶着があった。

 数日前に森の中で、柴隊と同じ種類のコボルド達と遭遇した柴隊がいて、現在の自分達の事を話した所、なんと同行してきてしまった。

 その数、40頭。

 ドーザードの所で一時的に預かりとなるが、こうなると現在の住処である冒険者ギルドでは手狭になってしまった。

 なので、ドーザードの所有している屋敷に全員引っ越し、交代で冒険者ギルドに出張する事になった。

 それを聞いて、ドーザードが屋敷を所有している事にも驚いたが、それだけ柴隊が受け入れられた事にも驚いた。

 専用装備もちゃんと作られており、最初の柴隊を一番隊、新しく来たコボルド達は二番隊となり、専用装備に刻印が刻まれた。

 胸当ての左胸の部分に、漢数字の『壱』『弐』と刻印されており、一番隊がリーダーとなり、二番隊を率いる事になっている。

 将来的には、二番隊が街中を担当し、一番隊は街の外を担当する予定だ。


 そして、今回は柴隊から2頭が同行する。

 同種のコボルドと遭遇した場合の為に、と言う考えもあるのだが、実際には危険を察知して対処する為に、調査する冒険者には同行させているらしい。

 危険な魔獣と戦闘になった場合、柴隊が持ち前の逃げ足で逸早く離れ、遠吠えを使う事でサガナに危険を知らせる。

 それを受けてドーザードがクックに連絡し、討伐専門の柴隊を派遣する。

 討伐専門のコボルドには、専用の試作武器が支給されている。

 短剣と小盾の基本装備はもちろん、石突の部分を鎖に繋ぎ、いくつもの返しが付いていて刺されば抜け難くなっている銛の如き槍や、背負って2頭で使うクロスボウ等、実験的な武器が運用されている。

 同行する柴隊の2頭は、武器として短剣と小盾、そして鍵爪を装備し、それ以外にもロープや毛布、火打石等の道具を鞄に入れている。


 門の所で調査依頼の事を説明し、サガナを出発して森に突入。

 柴隊の2頭と離れ過ぎないスピードで森の中を駆け抜け、周囲に目を走らせる。

 ここ最近、誰も森に入らなかった事で森の縄張りが若干変わっている。

 本来ならビッグタートルがいる場所に、トライホーンボアが数頭いたり、ゴブリンが数頭固まって行動していたりした。

 トライホーンボアに関しては、襲って来た場合のみ討伐し、ゴブリンは問答無用で殲滅する。


 トライホーンボアが突進してきたので、武神棍を構えつつ迎撃する。

 鋭い角をギリギリで回避しながら、棍で前足の片方を掬い上げると、トライホーンボアはバランスを崩してそのまま地面を転がっていく。

 そして、立ち上がる前に柴隊の1頭がその首に短剣を突き刺し、もう一頭がその短剣に向けて下から小盾を打ち込んだ。

 突き刺さった短剣が小盾に押され、一気にトライホーンボアの首を深く斬り裂き、夥しい量の血が噴き出す。

 結局はそれが致命傷となり、トライホーンボアは沈黙した。

 今の連係を見る限り、この2頭はかなりの練度を誇っている。


 討伐したトライホーンボアは一時的に俺預かりにし、更に進む。

 途中で薬草が分布している場所を発見し、冒険者ギルドから支給された地図に書き込む。

 支給された地図は2種類あり、片方は今まで使っていた物で、もう片方は何も描き込まれていない新品だ。

 この新品の地図に、今回の調査結果を書き込んで冒険者ギルドに提出する。

 そうする事で依頼達成になるのだ。

 道中で発見した茸や毒草の場所も一緒に記録する。

 この毒草も使い方次第である為、勝手に処分は出来ない。


 しばらく進んでいると、誰か別のパーティーの野営跡と思われる焚火跡を発見した。

 燃えカスが冷え切っている事や、周囲に残されている状況からして、一日は経過しているだろう。

 森の調査依頼を受けた際、同時に森にいるパーティーの事を聞いた際、現在、3つのパーティーが森にいる。

 二つは薬草採取依頼を受けた初心者のパーティーであり、此処まで奥には来ないだろう。

 最後の一つは、ビッグタートルの討伐依頼を受けた銀級パーティーだったはずだ。

 ライカンスロープ討伐作戦の後、平原迷宮が生まれた事により、冒険者があまり森に入らず、数が増えたゴブリンやオークによって縄張りが随分変わっている為、ビッグタートルは森の奥に引っ込んでいる。

 だが、これは少々不味い。

 森の奥に行くと言う事は、強い魔獣の縄張りに接近する事に他ならない。

 もし、運悪くグラップグリズリーの縄張りに入れば、命は無い。

 柴隊に頼み、この場所で野営したと思われるメンバーを追跡する。

 一日程度であれば、柴隊の嗅覚で十分追う事が可能だ。

 当然、調査しながらだがな。


 そうして進んで行くと、どうやら鉱山側に向かって進んでいるようだ。

 旧式の地図だと、既にビッグタートルの縄張りには入っているようだが、周囲にその痕跡は無い。

 だが、冒険者達の足跡らしき痕跡は残っているし、柴隊も進んでいる。

 そのまま進んで行くと、遠くの方から戦闘音が聞こえてきた。

 見える所まで進んで確認すると、ビッグタートルを囲むようにして、数人の男女が戦っていた。

 見る限りでは、人族、狼獣人、エルフ、ドワーフだな。

 狼獣人と人族の男が気を引き、ビッグタートルの後ろにドワーフがハンマー……じゃないな、ありゃ鶴嘴(ツルハシ)か?

 そして、エルフの女が離れた所で杖を構えている。

 取り敢えず、様子を見るとしよう。



「ゴルド準備は良いか!」


「任せておけぃ!」


「ケヴィン、ダリアも準備は良いか!?」


 狼獣人の掛け声でゴルドと呼ばれたドワーフが鶴嘴を構える。

 ケヴィンと呼ばれた赤髪の男と、金髪のダリアと呼ばれたエルフが頷く。 

 そして、狼獣人がビッグタートルに向けて駆け出し、巨大な盾を構える。

 それに反応して、ビッグタートルが一気に首を伸ばし、盾に向けて頭突きをブチかますが、狼獣人の筋力に支えられた盾はビクともしない。

 その隙にケヴィンが側面に回り込み、持っていた槍を突き出してビッグタートルの脚に突き刺した。

 だが、槍は深くは刺さらず、表面に多少刺さった程度だ。

 そして、背後からゴルドが鶴嘴を振り上げ、ビッグタートルの甲羅目掛けて一気に振り下ろす。


「打ち抜けぃ!『インパクトピック』ッ!」


 振り下ろされた鶴嘴が、強固な甲羅を打ち抜き、深々と突き刺さる。

 ビッグタートルの甲羅を打ち抜く程の威力は凄まじいが、アレでは点でのダメージでしかない。

 寧ろ、点での高い貫通力だからこその威力だろう。


「GYUOOOO!」


 甲羅を打ち抜かれたビッグタートルが、その痛みで激しく甲羅を左右に振り、ゴルドを振り落とそうとする。

 ゴルドもそれに逆らうような事はせず、鶴嘴を手放して甲羅から離れた。

 それを確認し、ケヴィンと狼獣人も一旦下がる。


「ダリア!」


「言われなくても判ってるわよ!『サンダーショット』!」


 ダリアがチャージしてあったのであろう魔法を放った。

 確か、『サンダーショット』は単体に対して雷撃を撃ち込む魔法スキルだったはずだ。

 通常なら、ビッグタートルの表面を流れて大したダメージは与えられないが、ビッグタートルの甲羅には鶴嘴が突き刺さり、内臓まで達している。

 いくら外側が耐性を持っていても、直接内蔵に通電されては如何なビッグタートルと言えど、一溜りも無かった。

 『サンダーショット』が直撃した後、痙攣しながらビッグタートルが地面に倒れる。

 そして、狼獣人が油断せずにその首を斧で切断した。

 これでビッグタートルの討伐は終了したようだ。


「ったく、まだ痺れてるぜ……」


「あの攻撃防げるのは、この中じゃリアジタだけだからなぁ」


 リアジタとと呼ばれた狼獣人が、手を振りながら呟く。

 確かに、あの威力を直接受け止められるのは、獣人以外だとドワーフ位しかいない。


「ちょっとゴルド!何でこんなトコに刺しちゃうのよ!」


「仕方なかろう!他ン所は刺さらんのじゃ!」


 ビッグタートルの傍では、ゴルドとダリアが口論している。

 どうやら、ダリアは鶴嘴を甲羅の中央に近い所に突き刺した事に対し、ゴルドに怒っているようだ。

 ビッグタートルは甲羅に高い価値があるので、出来る事なら余り傷物にしたくはないのだ。


「このままじゃ、『レコードブレイカー』に負けるじゃない!」


「なぁ、別にそれは良いんじゃないのか?」


「だなぁ、俺等は別に稼げれば良い訳だし……」


「良い訳無いじゃない!」


 憤慨しているダリアに対して、ケヴィンとリアジタがそう言うが、彼女にとっては大事な事なのだろう。

 しかし、久しぶりに聞いたな『レコードブレイカー』。

 ……って俺の事言ってるのか、コイツは。

 ゴルドは黙々とビッグタートルを解体し始めている。


「私は超有名な冒険者になるのよ!それなのに大問題だわ!」


「あーわかったわかった、取り敢えず、コイツを片付けてからな?」


 ケヴィンがビッグタートルを指差しながら言うと、ダリアは一瞬だけムッとしたが、渋々と言った感じで解体に参加する。

 実は、俺の索敵レーダーには先程から不審な赤い点がいくつも表示されている。

 それが彼等を中心にしてじりじりと接近しているのだが、彼等は気が付いていないようだ。

 普通なら、リアジタの嗅覚で察知出来るのだろうが、彼の嗅覚は現在ビッグタートルの流した大量の血のせいで効いていない。

 この接近する赤点達は、彼等の狩ったビッグタートルを狙っているのだろう。

 恐らくゴブリンだろうが、このままだと彼等は急襲される。

 冒険者なのだから、こう言ったトラブルに関しては自己責任になるのだが、ここで見てるだけと言うのもどうかと思うので、注意するとしよう。


「あー、そこの4人組、囲まれてるぞー」


 俺の声で、解体の手を止めてリアジタが咄嗟に斧を手にし、ケヴィンはリアジタが持っていた盾を構える。

 ゴルドは鶴嘴では無く、腰の袋から両手持ちのポールアックスを取り出し、ダリアは杖を構えた。


 そして、茂みの一つから、緑色の小鬼が跳び出してきた。

 4人は跳び出してくるゴブリンを、連携しながら安定して倒し始めた。


 まぁアレで大丈夫だろう。




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