第69話
シロウ=ミツヒデ。
嘗て、ランク12位まで到達した上位ユーザーの一人であり、俺とクソジジイの知り合いでもあった。
俺が武神刀を入手した際、手解きを受けた事があり、それ以来、たまに連絡が来ては共に遊んだ事もあった。
何よりもその特徴的な装具を使っている事でも有名であり、某国のユーザー達からは蛇蝎の如く嫌われているが、本人は笑いながらあしらっていた。
剣の柄に付けている鳥の人形は、彼が一番最初に手にしたレアドロップであり、効果を得られなくなった今でも、常に大事にしていると聞いている。
「マキーシャ達は絶対に手を出すな」
俺がそう言いながら棍をインベントリに戻し、武神刀を装備する。
ハッキリ言えば、本当にミツヒデ本人なら、マキーシャ達は絶対に勝てない。
俺でも厳しい。
だが、俺が知っているミツヒデは、嘗ての大規模イベントである『古龍討伐作戦』に参加していた時が最後だ。
武神刀を腰に据えて近付いて行く。
口の中が乾いてカラカラになる。
だが、不思議と不安は無い。
「アンタにならこっちの方が良いだろう?」
その言葉に怨霊武者が構えを変える。
武者特有の構えである正眼の構えから、剣先を下げた下段の構え。
それに対し、俺の構えは居合。
普通なら、俺の攻撃の方が早く到達するのだが、『日輪』にも特殊な能力が存在する。
一瞬で怨霊武者が踏込み、下から剣、否、刀を振り上げる。
それを受けて居合を放つが、刀の軌道が変化し、放たれた居合を迎撃する。
武神刀と刀が打ち合った瞬間、怨霊武者の左腕が動き、更に短い刀を抜いて斬りかかってくる。
怨霊武者の力も利用して飛び退いて回避するが、飛び退いた速度に合わせて怨霊武者が刀を構えて追撃してくる。
通常ならそんな速度で追撃する事など不可能だ。
それこそが『日輪』に備わった特殊能力、『速度倍加』と『反射速度倍加』だ。
装備武具の種別が『刀』系の際にのみ発動するのだが、純粋に厄介な能力だ。
先程の様にこちらの攻撃に対して、途中からでも反応して迎撃し、その速度で追撃する。
言うなれば、攻撃されても到達前に潰してしまえば良い、というコンセプトだ。
その為に、カウンターに対してカウンターを仕掛ける事も可能なのだ。
それを極めたのが、ミツヒデだ。
強化された反射速度で察知し、強化された速度で倒す。
『近接に置いて敵は無し』と嘗てミツヒデが言っていたが、実は対処方法がいくつかある。
一つは、単純に遠距離から極大魔法を使い、回避出来ない程の高範囲を一気に吹き飛ばす。
もう一つは、その反射速度よりも早く攻撃をする。
他にも、落とし穴系の罠を仕掛け、それに嵌めるという方法もある。
ただし、ミツヒデも高ランクユーザーである為、魔法も使えるのでどれも現実的では無い。
本人の拘りで、魔法よりも刀を使っているだけだ。
横薙ぎに振われる刀に対し、受け止めれば力が入らずに押し込まれる。
例え押し止めたとしても、もう一本の刀は止められない。
ならばどうすれば良いか。
振り抜かれる前に、振られる刀を握っていた拳を思い切り蹴り上げる。
普通なら拳を砕く程の威力がある俺の蹴りだが、攻撃を中断させる程度にしかならない。
だが、それでも体勢を立て直せる程度の時間は確保出来た。
しかし、そこで疑問が湧く。
ミツヒデであれば、あの状態からでも連撃を繰り出してくる。
だが、怨霊武者はその場で再び二本の刀を構えている。
もしやと思って再び、怨霊武者に斬りかかり、ワザと隙を作る。
すると、そこに反応して怨霊騎士が刀を突き出してくる。
それをギリギリで回避し、再び斬り合う。
そして、確信した。
怨霊武者はミツヒデであってミツヒデでは無い。
もし、本当にミツヒデであれば、あんな見え見えの隙に引っ掛かりはしない。
そして、それは同時に、ミツヒデの意思は存在しないという事だ。
ただ、名前だけが同じだけの存在。
無性に心が冷えて行く。
さっさと終わらせよう。
そう考えるが、怨霊武者の強さは本物だ。
上下左右、隙無く斬撃が繰り出され、一瞬の油断で此方がやられる。
振り抜かれた怨霊武者の攻撃で、壁際まで吹き飛ばされるが、これは想定内の行動だ。
すぐさま『瞬天』を使って彼我の距離を詰める。
怨霊武者目掛けて武神刀を振り抜こうとしたが、抜き放つ一瞬の間で怨霊武者が武神刀の柄頭に蹴りを放ち、武神刀を抜き放つ事が出来ずに『瞬天』が不発になる。
だが、移動のスピードはそのままなので、身体を更に滑り込ませ、怨霊武者にショルダータックルをぶちかます。
怨霊武者がそのぶちかましで吹っ飛び、篝火の一つを巻き込むが、そのまま地面を転がってすぐに立ち上がって刀を構える。
ミツヒデの意思は無いが、その歴戦の経験は持っている。
嘗て、ミツヒデ相手に『瞬天』を使った際、同じ方法で潰された事がある。
それならば……
「アンタを送るにはコレが一番だろう」
武神刀を鞘に納め、武神装具を全てインベントリに収納し、再び居合の構えを取る。
嘗て、ミツヒデ本人に教えて貰い、習得は出来はしたが、ミツヒデ本人には届かなかったスキル。
それからも自分なりに磨き上げたスキル。
その居合の構えを見て、怨霊武者が同じように刀を鞘に納め、同じ姿勢を取った。
意思や記憶は無くとも、同じ選択をしたようだ。
コレは一度放てば防ぐモノ無し。
太刀スキルが絶技『一閃』。
じりじりと、同じ構えで互いに距離を縮める。
このスキルは射程距離が極端に短い。
だが、その中でも最大の威力を発揮する間合いがある。
そうして、その最大威力の間合いに入った瞬間、怨霊武者が抜き放ち、それに僅かに遅れて俺が抜き放つ。
鉄と鉄が打ち合う様な甲高い音が響き、俺と怨霊武者が交差する。
そして、ゆっくりと互いに刀を鞘に納め、キンッと鳴った瞬間、俺の腹部から左肩に掛けて凄まじい衝撃が走った。
上着が斬り裂かれ、血飛沫が飛ぶが、そこまで深い傷では無く、致命傷では無い。
恐らく、怨霊武者の放ったのはスキルでは無く、ただの居合。
もしも、同じスキルだった場合、裂傷ダメージだけで済むはずが無い。
その証拠に、怨霊武者は腹部から左肩に掛けて凄まじい裂け方をしていた。
血こそ出ていないが、人であれば確実に致命傷となるダメージ。
その証拠に武者鎧の端の所々が黒ずんで崩れ始めている。
終わりだ。
そうしていると、怨霊武者が腰に据えていた刀を外し、それを俺の方に突き出した。
それはまるで、刀を俺に差し出している様な状態だ。
罠であるかもしれない。
だが、不思議と身体が動いてそれを受け取っていた。
『日輪』とセットになっている二本の刀、太刀の『日光』と脇差の『月光』だ。
俺が受け取ったのを確認したのか、怨霊武者はゆっくりと黒い塵となって消えて行った。
どうやら、これで終わりのようだ。
しかし、困った事になった。
元々、ドラゴンゾンビの魔石を求めて来たのに、出て来たのは怨霊武者。
一度しか挑戦していないが、もしかしたら、神威達が倒したブラックドラゴンゾンビは、初回のみの特別なダンジョンボスだったのかもしれない。
あちらでも似た様なダンジョンはあったのだ。
冬季イベント限定だったが、一番最初は『スノーマン』と言う雪だるまの様なダンジョンボスが現れ、それを倒すと限定アイテム『スノーボックス』と言うアイテムを手に入れられ、それ以降だと『スノーフィギア』と言う雪で出来たマネキンのボスに変わり、手に入るアイテムも『スノードロップ』と言う中級ポーションと同じ程度の回復アイテムに変化する。
ちなみにこの『スノーボックス』は、所謂ガチャアイテムだ。
ただし、これから手に入るアイテムは超高額品だったり、二度と手に入らない限定品だったりする。
とあるユーザーが偶然手に入れ、出たアイテムがクローズドβテスト参加ユーザー限定の特典装備で、ネットで騒がれていた。
それ以降、イベントダンジョンが発表されると、上位ユーザーが一気に殺到して大混乱が起きた為、運営側がイベントダンジョンを複数用意する事態になった。
そうなると、最早この逆さ迷宮ではドラゴンゾンビの魔石は手に入らない。
これは大問題だ。
「か、回復します」
シシーがそう言いながら魔法で傷を治療してくれる。
ゆっくりと斬られた傷が塞がっていくのだが、若干むず痒い。
斬られた服までは直らないので、戻ったら神楽に直して貰おう。
「しかし、強い強いと思ってたけど、本当に常識外れな強さだね」
マキーシャがそう言いながら、若干呆れ顔で俺の方を見る。
下手に目立ちたくないから、出来るだけ地味に過ごそうとしているだけなのに……
その時、マキーシャの斧が目に入る。
それなりに刃の部分が欠けている。
「マキーシャ、その斧は手入れしてるのか?」
「あぁ、簡単には出来るんだけど、刃の所は硬過ぎて鍛冶屋でも断られたのさ」
その斧は前に渡した白銀シリーズだが、どうやらサガナの鍛冶屋では手入れが出来なかったようだ。
まぁ確かにこの世界のレベルだと、使った素材によっては研ぐのも無理だろう。
気になってリョウの方を見れば、頷いて剣を見せてくれた。
こちらもやはり、所々が欠けていた。
自動修復スキルは付与してあるが、レベルが低いので直るスピードは遅い。
「上に戻ったら手直しするか……」
取り敢えず、逆さ迷宮は攻略し終えたが、新たな問題がいくつか残った。
魔石、ユーザー、迷宮。
この中でも一番の問題は、ユーザーの存在だ。
今まで考えないようにしてきたが、この異世界には間違いなく、別のユーザー達がいる。
だが、それにしても疑問がある。
それは、ユーザーが関わったと思われる技術が無い事だ。
優れた技術と言う物は、自然と広がっていく。
しかし、サガナと王都では、そう言う物は見当たらなかった。
まぁ俺が知っている場所なんて、それこそ少ないのではっきりとは判らない。
そんな事を考えながら、最奥の宝物庫に入る。
相変わらず、そこには僅かな金貨や小振りの宝石、くすんだ色のミスリルの短剣があるだけだ。
取り敢えず、全て回収して中央にある魔方陣に足を踏み入れた。
一瞬の浮遊感を感じた後、朽ちた教会の真正面に戻ってきた。
その後、冒険者ギルドに戻ってクックに攻略が完了した事と、最奥のダンジョンボスが変わっており、もしかしたら、もうブラックドラゴンゾンビは現れない可能性がある事を伝えておく。
流石に何度も攻略する気は無いので、判断はクックに任せる。
ちなみに、俺が攻略に要した日数は僅か1日。
マキーシャ達の斧と剣を預かり、地下の作業場でメンテする。
シシーの杖に関しては、直接攻撃する訳では無いので、修復スピードが追い付いているので、今の所問題は無い。
インベントリからメンテ用の砥石を取り出して、刃を研いで欠けた部分を補修する。
マキーシャ達の使い方が粗くないので、メンテ作業はそこまで苦労する事も無かった。
そして、インベントリから武神刀を取り出し、鞘から少し引き抜いた。
「……やっぱりか……」
そこには、光を反射する刃はボロボロになり、更に刀身には細かい罅が無数に走っている武神刀の姿。
予想はしていたが、最後に放った絶技スキルの影響でこうなってしまったのだ。
太刀の絶技スキル『一閃』は、絶大な威力を誇るが、その代償として使用した太刀が大破してしまう。
下手をすれば刀身が砕け散り、武器そのものを失う危険性がある。
武神刀にも『自動修復』を高レベルで付与してあるが、この状態から運用可能になるまでは相当な時間が掛かるだろう。
「ゆっくり休んでくれ……」
呟いて、作業場の壁に武神刀を掛け、その隣に『日光』と『月光』を並べた。
さて、悩んでも仕方ない。
他の方法を考えるとするか。
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