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第6話




 屋敷にいるゴーストは大きく分けて3種類。

 浮遊霊と地縛霊と悪霊だ。


 浮遊霊には別段悪意はないようで、他の地縛霊と悪霊が引き寄せ、その意思に引き摺られてこの屋敷に留まっているようだ。

 地縛霊は、この屋敷で呪殺された浮浪者達だろう。

 そして、悪霊は恐らくこの屋敷で最初に死んだ錬金術師だろう。


「今のは…?」


「ロッドに付与した魔力増加と範囲拡大の効果だな」


 魔力増加が付与されると、半分以下の魔力で通常の威力と同等の効果を得られ、範囲拡大は文字通り、効果範囲を広げる効果を持っている。

 本来であれば威力の低い下級の魔法も、中級の魔法と同等の威力になる。

 ただし、拡大は付与レベルが低いのでそこまで大きくはならない。

 おおよそ、レベルが一つ上がる事に元の大きさの倍になるのだが、あの魔法は元々あそこまで大きくはならない。

 恐らく、元々効果を高める為に効果範囲を大きくしていたのだろう。


「まぁ細かい話は終わってからするとしよう」


 話している間も、周囲に集まっているゴーストは増え続けている。

 接近してきたゴーストを居合で両断し、増え続けるゴーストの対処をどうするか考える。


 まず、広範囲に効果を及ぼす攻撃は却下だ。

 そんな攻撃したら、これ以上屋敷が壊れてしまう。

 だが、通常手段で倒すには些か数が集まり過ぎている。


「しかし、こうもゴーストが多いと苦労の割に儲けは少なそうだね」


 マキーシャが斧を振るって数体のゴーストが消滅する。

 その裏ではリョウとシシーが共にゴーストを倒している。

 そう、マキーシャの言う通り、ゴースト退治というのは儲からないのだ。


 と言うのも、ゴーストは『精神体(アストラルボディ)』という実体を持たないモンスターだ。

 倒せば、霧散し何も残さない。

 通常、モンスターを倒せば戦利品としてその素材が入手できる。

 爪、牙、骨、皮、肉と様々だが、何よりも高値が付くのはモンスターの体内から手に入る魔石だ。

 

 だが、魔石にしろ通常素材にしろ、実体が無ければどれも手に入らない。

 今回倒したモンスターはゴーストだけだ。


 そう、ゴーストのみ。


「変だな…」


「どうかしたの?」


 リョウが盾を構えつつマキーシャと立ち位置を交代し、こちらに声を掛けてくる。


「…話によると多数の浮浪者が呪殺されてるはずなのに、ゴーストしかいないってのがな…」


「良くわからないのだけど…?」


「呪殺されたなら、ゾンビ、グール、スケルトンもいるはずだ、なのに出てくるのはゴーストだけだ」


 そう、本来ならゴースト以外にも出てくるはずだ。

 だが、出て来たのはゴーストのみ。

 それに、呪殺されているはずの浮浪者達の死体すらない。


「言われてみれば確かにそうですね」


 シシーが小さな複数の光の玉を撃ち出し、ゴーストを消滅させる。

 だが、やはり焼け石に水と言った状態だ。


「何故、死体すらないんでしょうね…」


「一気に殲滅できりゃ良いんだがな」


 まぁ、多分本気で威圧を使えば広範囲でも対応可能だろうが、至近距離の彼女達が耐えられないだろう。

 それに、アレは地味に疲れる。

 それに、多分だがシシーの魔法力と技術力を考えれば、広範囲に効果のある魔法を知ってるんじゃないだろうか。


「あの…一つ提案があるんですけど…」


 そう言って、シシーが肩で息をしながら戻ってくる。

 マキーシャとリョウも、体力増加のスキルを付与してあるが、そろそろ限界だろう。


「撤退以外で何か良い方法あるのか?」


「…屋敷の中央で浄化魔法を使えば…多分、杖の性能を考えれば…ただ、いくつか問題が…」


 シシーが申し訳無さそうに言う。

 ここまでの戦闘でかなりの魔力を消費してしまったが、持ってきている魔力ポーションは低級しかなく、発動に必要な魔力まで回復しきれるかは不明だという。

 もし、魔力が足らずに魔法が不発した場合、発動者には『反動リバウンド』が起こり、肉体と精神の両方に大ダメージを受ける。


「ふむ、確かに範囲魔法の反動は怖いな…」


「それでも、現状を打破する為には、必要な事だと思います」


「対処法が決まったんならどうにかしてくれないかい?」


 マキーシャが疲れた表情で戻ってくる。

 その後ろにはリョウが同じ表情で立っていた。

 だが、俺が魔力を補充してやれば、反動の心配はないだろう。


「魔力の回復については考えがある。取り敢えず、屋敷の中央に向かうぞ」


 三人を連れて屋敷を戻る。

 そして、最初に入った玄関エントランスに戻ってくる。

 ここが丁度屋敷の中央部になっている。


「それじゃ俺が魔力を補充するが…触れても大丈夫か?」


「あ、はい、大丈夫です」


「それじゃ、アタシ等はもうひと踏ん張りだよ」


 許可を得てシシーの右肩に触れる。

 そして、徐々に魔力をシシーの方に流していく。

 ゲームでは『魔力譲渡』と言うスキルを使う事で、自身の魔力を他人に譲渡する事が出来る。

 だが、必要以上に魔力を渡し過ぎると、今度は逆に『魔力酔い』というバッドステータスが起こる。

 マキーシャとリョウは向かってくるゴーストに対して、シシーに攻撃が届かない様に護衛している。

 当然、右肩に触れている俺もロクに攻撃出来ない。

 シシーは杖を構え小さく詠唱を続け、水晶の部分に光の輪の魔方陣が出来上がっていく。


「浄化の光よ!不浄を滅する陣となれ!セイント・ファーライル・サークル!」


 シシーの魔法によって彼女の足元に光の魔方陣が球状に広がっていく。

 その魔方陣に触れたゴーストが粒子になって消えて行く。

 探知でも、無数にあった赤い点が円状に消えて行くのが確認出来た。

 そして、シシーの魔力がガンガン減っていくのが確認出来るので、減る度にどんどん譲渡していく。

 この程度ならまだまだ問題無い。


 やがて、杖に出来ていた魔方陣が消え、シシーが構えを解いた。

 どうやら、終わったようだ。


「あの…もう充分ですよ?」


 シシーがそう言って振り向くが、その顔が赤い。

 どうやら若干、魔力酔いの症状が出ているようだ。

 すぐに魔力譲渡を中断し、肩から手を離す。


「これでゴースト退治は終わりかい?」


「あぁ、ゴースト退治『は』終わりだ」


 マキーシャが斧を構えて周囲を警戒する。

 取り敢えず、探知にはゴーストらしき赤い点は存在しない。


「・・・何か引っかかる言い方ですね?」


 俺の言葉でリョウは何か察したようだ。

 そう、探知にゴーストの反応は無い。


 だが、地下に赤い点が1つ残っている。


 シシーの浄化魔法は、シシーを中心に球状に広がっている。

 つまり、地下だろうが上空だろうが、ゴーストであれば逃げ場はない。


「…地下に1体、何かいる…」


 その言葉で三人の表情が固まる。

 固まるのも無理は無い。

 浄化魔法でも倒せないゴーストと言うものは通常存在しない。


 つまり、地下にいるのは『ゴースト』では無い。


「…アタシ等で倒せるかい?」


「…はっきり言わせてもらうと…すまないが無理だろう」


 マキーシャに聞かれたのでそう答える。

 彼女達には悪いが、もし地下にいるのが予想通りの相手なら、『普通』の冒険者である彼女達では相手にすらならないだろう。

 これは俺が渡した武器の能力を加味しても覆る事が無い。


「何がいるってんだい?」 


「…状況を考えるに最有力なのはリッチ、最悪な場合で…『不死の王(ノー・ライフ・キング)』だ…」


「こんな街中に『不死の王(ノー・ライフ・キング)』がいるなんて有り得ない」


 リョウの言葉にシシーが頷く。

 まぁ不死の王は最悪の場合だ。

 もし、本当に不死の王がいた場合、被害がこの程度で済むはずが無い。

 不死の王はアンデッド系統の最上位の存在だ。

 その力は視線だけで相手を呪殺し、存在するだけで周囲に死をばら撒く。

 そして、その効果範囲はこの街を優に越える。

 他にもその異常な生命力は、人が使える浄化魔法程度では揺るがない。

 だが、今回の場合、被害は屋敷の敷地内限定。

 ただし、幾つか判らない部分がある。


「まぁ、いるのは多分リッチだと思うが…それも確定出来ない…」


「何でだい?」


「リッチだとしても、何故死体が一つも無いのかが…」


「私達が見てないだけで、地下室にあるとか?」


 マキーシャの問いに答えた後、リョウがそう質問してくる。

 だが、それも確率が低いと思っている。


「リッチに呪殺されたなら、高確率でゾンビやグールになる筈だ。そのゾンビやグールが、何もせずに地下室に籠ってるとは思えない」


 そう、ゾンビやグール、スケルトンと言った低級アンデッドは基本的に察知した生者を無差別に襲う。

 この幽霊屋敷には、たまに浮浪者が入って呪殺されてゴーストになる。

 その際、低級アンデッドは必ず察知して襲い掛かっている。


「確かめる方法は?」


「…気は進まないが、俺が確認するしかない」


 そして、探知で地下室にいる赤い点が、徐々にこちらに向かってきているのが確認出来る。

 こりゃ早くしないと不味い事になる。


「取り敢えず、君達は一旦外に出ていた方が良いな…」


 そう言って刀の柄に手を置いて、地下室の扉を睨む。

 赤い点は既に地下室の扉の前にいる。 


「…アタシ等は力不足だと?」


「悪いが…議論している時間が無いっ!」


 縮地と言う歩法スキルを使い、一気に扉に近付く。

 彼女達の反論を聞く余裕は最早無い。


武雷閃(ぶらいせん)!」


 居合から放つ事が出来るこの刀での最大威力武術スキル。

 この攻撃は自身から直線状に極大の雷撃を纏う斬撃を飛ばす。

 青白い雷撃が扉を撃ち砕き、その奥にいた相手に直撃したはずだ。


 これで倒せれば一番なのだが…


「…駄目か…」


 砕けた扉の向こうに、ボロボロの黒いローブを着ている『ソレ』は立っていた。

 そして、その前には魔方陣が描かれた青い薄い膜が出来ている。

 アレを防御出来るとなると、かなり力を持っているリッチだ。


「ヨクモッ我ガ眷属ヲッ!」


「結界張って隙を見て逃げろっ!」


 リッチの周囲に複数の青白い炎の玉が現れ、それが此方に撃ち出される。

 一発の威力は恐らく相当な威力を持っているだろう。


「我ガ悲願ノ邪魔ヲスルナァァァッ!!」


 撃ち出された炎の玉は全て刀で斬り飛ばす。

 だが、その数が問題だ。 

 斬り飛ばしても斬り飛ばしても、次から次に撃ち出されてくる。

 普段なら避ければ良いのだが、この位置から動く事は出来ない。

 俺の後ろにはマキーシャ達がいる。

 一発でも斬り損ねれば彼女達に被害が及ぶ。

 唯一の救いは、俺の装具の能力で斬り飛ばした炎の玉は消滅していく事だ。

 問題は俺の体力が尽きるのが先か、リッチの魔力が尽きるのが先かだが、残念だが俺の体力が尽きるのが先だろう。

 メインで使っている棍が使えればと悔やむが、玄関エントランスはそこまで広くは無い。

 出来れば『最終手段』は使いたくないが、このままだとジリ貧だ。


「貴様モ贄ニナレェェェッ!!」


 撃ち出される玉が徐々に炎以外に雷、水、風、土と増えていく。

 流石、魔法の知識が人を凌駕しているだけはある。

 そして、その弾幕に俺も徐々に後退させられる。


 …止むを得ないか…


「武雷閃!」


 極大の雷撃で複数の玉を纏めて消し飛ばす。

 この攻撃は別にリッチにダメージを与える為じゃない。

 ある事をする為に一瞬だけ注意を逸らす必要があった。


「無駄無駄無駄ァッ!」


 リッチの前に再び青白い魔方陣が壁となり、飛来した雷撃を弾き飛ばす。

 だが、次の瞬間その魔方陣が砕け散った。


「ッ!?」


「速攻で終わらせるッ!」


 超高速で拳を繰り出し、リッチの魔方陣を打ち砕く。

 超至近距離での格闘戦。

 これが俺の最強戦術の一つ。


 俺の装具、『武神装具』にはある特殊スキルがある。

 それは、武具を持っている時には発動しない。

 見た目はただの銀色の籠手と脛当て。

 元々、俺が装備している武神装具は、武具の装備状態ではステータスを倍まで引き上げる。

 だが、武具を手放した徒手空拳になった際、あるスキルが発動可能になり、自身のステータスを大体100倍程度まで引き上げる。


 それが『武神』と言うスキル。


 全身を青白いオーラが包み、超高速の拳と蹴りがリッチの防御魔法を破壊し、ボロボロのローブを削り取っていく。

 リッチに反撃する暇など与えない。

 リッチが炎の玉を作り出そうとした瞬間、手刀が炎の玉ごと貫通して乾いた皮膚を削り飛ばした。


「我ガ悲願!我ガ夢!」


「悪夢って夢はいらねぇんだよ!」


 自爆覚悟のリッチの大火球を拳が貫き、リッチの顔面を掴んだ。

 そしてありったけの力を籠めて、そのまま床に叩き付ける。

 更に、全身のオーラを拳に集中させる。


武神獄龍破(ぶしんごくりゅうは)ァ!」


 籠手に集めたオーラを一気に解放し、リッチを青白い爆発が包み込む。

 これは武神スキル発動状態で、相手と接触しているという限定条件でのみ使用出来るスキル。

 発動中に一回しか使えないが、その威力は肉体と精神の両方に絶大なダメージを及ぼす。


「アト少シ…錬金術ノ悲願…」


 そう言い残して、リッチは消滅した。

 そこには黒い水晶の様な魔石だけが残っていた。




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