第67話
ハスタを椅子に座らせ、アイナから調べて貰った事を教えて貰う。
やはりと言うか、予想通りと言うか、大規模な討伐依頼は出ていなかった。
そうなると、ハスタが倒したというオークは恐らく……
まぁ取り敢えず、今回の失敗に関して指摘して行かないとな。
「さて、今回の依頼でハスタがやらかした失敗だが……」
「失敗じゃない! ちょっと調子が悪かっただけだ!」
ハスタがそう騒ぐ後ろでは、神威とマドゥーラは呆れた表情を浮かべている。
更にその隣にいるアイナも困った表情を浮かべていた。
「そっちだけじゃねぇ、準備段階から失敗してるんだよ」
そう言うと、ハスタがは?と声を漏らす。
まず、平原迷宮でのオーガの討伐依頼と言う事で、事前にどういう相手なのか、周囲の状況を冒険者ギルドから教えて貰うのは当然の事だ。
更に、その情報を元に道具を準備をし、場合によっては予備の武器を用意しておく。
そして、準備を終えて出発する前に、冒険者ギルドに立ち寄って変化が無い事を最終的な確認をする。
もし、ちゃんと情報を調べていれば、オーガ相手に通常の鋼鉄製の武器が通用しない事も判ったはずだ。
他にも、分布している場所や、効果的な攻め方も教えて貰えただろう。
それを一切せず、依頼を受けた後、話も聞かずに出発した。
冒険者としては失格。
駆け出し冒険者であれば、死にたがりと取られても仕方ない。
「判ったか、自分がどれだけ阿呆な事したのか」
「そ、それでも俺はオークを倒せたんだ! 今回はたまたま……」
「そのオークについても話がある」
ハスタの自身の根源となっている、『オークを単独で倒した』という事実。
だが、それについても疑問があったのだが、冒険者ギルドに討伐されたオークを持ち込まれた為に認められていた。
しかし、オークが単独で行動しているという前提が可笑しいのだ。
そもそも、オークはゴブリンと同じで基本的に群れで行動している。
単独でいるオークと言うのは、おおよそ4タイプに別れている。
群れが大規模討伐によって壊滅し、逃げた個体。
群れ同士の衝突によって負けた群れのボス。
老いて群れにいられなくなった個体。
そして、オークの中でも力が弱く、群れの邪魔になると判断された個体。
まず、大規模討伐依頼が無かった事により、残党の線は無くなる。
次に、負けたとはいえ、ボス級オークが人族の子供に負ける事など考えにくい上に、持ち込まれたオークは首を切断されていた以外では外傷が無かったと報告にはある。
そして、老いたオークと言う可能性も皆無だ。
そもそも、群れにいられなくなる程、老いたオークと言うのは逆に珍しい。
オークの場合、成長していく中で進化し、ソルジャーやジェネラルになる事が多く、ただのオークのまま老いる事はまず無い。
そして、群れの邪魔になる程弱いというのは、通称では弱個体と呼ばれる。
弱個体は見た目は通常個体と変わりないが、とにかく弱い。
今回の事で言うなら、オーガの弱個体であれば、鋼鉄製の武器であっても容易く討伐する事が可能だ。
オークの弱個体の場合、健康な農夫に農具のフォークや鍬を持たせ、戦ったとしても倒す事が出来るのだ。
文字通り、滅茶苦茶弱い。
当然、恵まれた体躯をしていれば子供ですら倒す事が出来るのだ。
弱個体は外見が通常個体と変わらないが、その体内にある魔石が小さく、それで判断する事が出来る。
持ち込まれたオークの部位ごとに売買した記録が残っており、その中にあった魔石の買い取り額が、当時の情報と比べると半分程度しかない。
この半額程度になるというのにもいくつか理由があり、魔石が割れていたり、質が悪かったりすると大きく減額される。
首を一撃で切断したのであれば、心臓部にある魔石が傷付く事はまずあり得ない。
つまり、質が悪かったか、通常の半分程度の大きさしかなかったという事だ。
流石にサイズまでは記録されていなかったが、最早、考えるまでも無いだろう。
「つまりだ、弱いオークを倒しただけであって、実力がある訳じゃない」
「オークの生態はそこまで判明して無いと思いましたが……」
「俺も昔調べてた奴から聞いた事があるだけだがな」
アイナが疑問を口にするが、そこは誤魔化しておく。
正しくは、修業時代にオークの群れを討伐する時、生き残る為に自分で調べた事だ。
真正面からぶつかった所で、その物量で押し潰されるのは目に見えていたので、どうすれば良いかネットで色々調べた際に得た雑学だ。
流石に、こっちの世界でそれを説明した所で理解出来ないだろうから、第三者から得た知識としておく。
それを聞いて、ハスタの表情が見る見るうちに青くなっていく。
今の今まで自分はオークを倒したという事で、住んでいた村でもそれを理由に威張り散らしていた。
そして、そんな自分は将来的に有名な冒険者になるのだからと、村の少ない財貨から武器を購入してサガナにやって来た。
だが、実際にはそのオークは村の大人でも倒せる程の弱いオークで、威張れるような相手では無かった。
もし、この事が村に知られれば、村で強引に掻き集めた費用を返せと言われるだけで無く、追い出されるだろう。
「ど、どうすれば……」
「そこまでは俺も知らん」
頭を掻きながらハスタの呟きに答える。
正直な所、ハスタに見所が無い訳では無いが、一から教えるとなると遥かに時間が掛かる。
前に短期間で教える事が出来たエーナルは、基礎が出来ていたので短縮出来たが、ハスタの場合は完全に一からになる。
それこそ、武器の選び方から動きに至るまで。
流石にそんな時間は俺にはない。
「どうにかなりませんか?」
「流石に時間がなぁ……」
アイナがそう聞いてくるが、これ以上手を広げると、俺の自由時間が完全に無くなってしまう。
しかし、一応指導役として今後の事だけは考えるか。
ハスタの状態を見れば、これ以上生意気な事は言わないだろう。
そうなれば、他の冒険者に任せても問題は無い。
そして、今回のハスタの動きを見る限り、ハスタに向いている武器は重量のあるグレートソードでは無く、その身軽さを活かせる短剣かショートソードだろう。
別に今のままグレートソードでも良いのだが、圧倒的に腕力が足りていない。
まぁ成長期だろうから鍛えればいいのだが、軽々とグレートソードを振り回せる程の筋力となると、筋肉ダルマに近くなる。
ハスタの外見でそれは酷だろう。
「マドゥーラに教えるのと、商会に卸す品を作るのと、依頼を受けるのと……」
今やっている事を改めて数えてみる。
一週間の内、6日間は既にやる事で埋まっている。
そこに更にハスタの事を捻じ込むとなると、俺の休みが無くなる。
まぁ、商会に卸す品を作るのは、炎尚と神楽に任せる事も出来ない事は無いが、出来る限り自分でやっておきたい。
「取り敢えず、ハスタに関しては短期で俺がどうにかして、後は……マキーシャに任せるのじゃ駄目か?」
「一度匙を投げてますから、聞いてみないと私では判断出来ません」
取り敢えず、もう一度頼めるかアイナの方で確認して貰う事にした。
後はハスタの今後に関してだ。
一同を引き連れて冒険者ギルドの訓練場に向かう。
サガナギルドの訓練場に始めて来たが、結構しっかり作られている。
大きさとしては少し広めの体育館くらいの大きさがあり、天井も高い。
地面は剥き出しの土だが、しっかりと固められている場所と、ワザと緩くなっている場所、更には砂地や水場を想定している場所まであった。
その脇に訓練用の武具が置いてある場所があり、そこからグレートソードとショートソードの木剣を持って来た。
「さて、ハスタに聞くが何故グレートソードを選んだ?」
「そ、それは……一番威力が高いし、いざとなれば盾にもなるし……」
聞かれたハスタがそう答える。
確かに、グレートソードは一撃の威力はあるし、その幅広の剣腹は盾にも出来る。
だが、扱うにはそれ相応の技術力と筋力が必要だ。
駆け出し冒険者が扱うにはかなり難しい。
「取り敢えず、コレを振って見ろ」
木剣のグレートソードを渡し、相手として零式を召喚する。
召喚した零式にハスタが目を丸くするが、グレートソードを両手で構える。
そして、零式目掛けてグレートソードを大上段から振るうが、それを防御する事も無く零式は受け止めた。
「もう一度だ」
俺の指示で再びハスタがグレートソードを振るう。
だが、今度は零式が僅かに動いてグレートソードが空振りし、切っ先を地面に叩き付ける。
やはり、ハスタは振う事は出来ても、それを途中で止める事は出来ない。
「今ので判ったと思うが、お前には振っても止める事が出来ない。 一撃で相手を倒せなかった場合、それが大きな隙になる」
「こ、こんな重いのを途中で止めるなんて無理だ!」
俺の言葉にハスタがそう言うが、出来ない事は無い。
それを判らせる為に、今度は俺が同じグレートソードを振るう。
地面に到達する前に切っ先を止め、そのまま下から掬い上げるように振り上げる。
この程度、俺には何の問題も無い。
「鍛えればこのくらいは出来る。 だが、それは『鍛えれば』だ。」
そう言って次は神威が振るうが、此方は流れる様にグレートソードを振るう。
俺が直線的に振うのに対して、神威は曲線的に振う。
俺より筋力が無い神威の場合、無理に止めず、流れる様に重量を利用して振り回しているのだ。
「神威の様に筋力が無くても振り回す事は出来るが、高い技術が必要になる」
グレートソードを地面に突き刺し、今度はショートソードの木剣をハスタに渡す。
剣の間合いの関係上、今度は俺が相手になる。
「それじゃ、次はそれで来てみろ」
ハスタは最初は戸惑っていたが、すぐにショートソードを構える。
そして、それを振り被って斬りかかってきたが、隙だらけだ。
軽く避けて平手でハスタの頭を叩いた。
「ってぇ!?」
「阿呆、グレートソードと同じ振り方してどうする」
ショートソードの振り方は小さく鋭く、振り抜かずに次に繋ぐ。
与えるダメージは小さくなるが、逆に次の攻撃が早く出せる。
圧倒的質量の一撃で叩き潰すのではなく、手数と隙を狙う武器だ。
相手からの攻撃は、回避するか、盾を使う事で防御する。
ハスタの身軽さを考えるなら、盾を持って最低限防御し、回避を主体にすれば早々やられる事は無いだろう。
「まだまだやるぞ」
そうしてハスタには新たに丸い小盾を渡し、グレートソードで付いた癖を修正していく。
回避出来る時は回避し、受ける時は受ける。
ショートソードを振う時は、常に次に繋がる様にさせる。
結局、ハスタが訓練場に疲労で倒れて動けなくなるまで、相手をした。
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