第66話
そしてやって来た平原迷宮。
入り口を潜れば何処までも続く一面の平原であり、まばらに木が生えている。
「さて、依頼はオーガの大牙の入手だが……ハスタ、本当に良いんだな?」
「あぁ! 俺様の実力を見せてやるぜ!」
俺の言葉にハスタが答えるが、その後ろの神威とマドゥーラの二人は呆れた様に見ている。
まぁ俺も同じ気持ちだがな……
平原迷宮は地図が作られ、一応だが簡易的に魔獣の生息域が判明している。
現在は位置口近くに黒色羊を集めて牧場の様になっており、簡易の宿泊施設も建設している。
この場所から1日ほど移動した場所が、目的のオーガの生息域になる。
ハスタは始終、オーガは一人で自分が倒すと息巻いていたので、実際にさせてみる事になっていた。
当然、神威とマドゥーラは反対したが、判らせる為に敢えてやらせると言う事をこっそりと教えておいた。
もちろん、危険であれば介入するつもりだが、もしもハスタの実力が本物で、オーガにも通用するなら何の問題も無いのだ。
俺と同じで、ランクと実力があってないだけ。
そう考えてはいるが、望みは限りなく薄いだろう。
その為に、今回のパーティーでは臨時としてハスタがリーダーとなり、神威やマドゥーラを率いて準備や方針を決める事になっているのだが……
始終、一人で倒すと言って、作戦も何も相談すらしていないのだ。
取り敢えず、最初は一体から試すという事にはなっているので、一番身軽な神威が釣ってくる事は決定している。
そして、今回、マドゥーラを連れているのは、新型ゴーレムの実験の為だ。
と言っても、22号の一部を改造しただけで、大半は既存のままだ。
改造したのは両腕だけで、肩から先を内骨格式にしてある。
その為、比較的柔軟な動きを出来る様になっており、武器も巨大な盾と両手持ちのハンマーに変更している。
神威とマドゥーラの話を聞きながら、生息域に向かって行くと、遠くに赤黒い巨体がちらほらと見え始めた。
「さてと、神威、適当に一体釣って来てくれ」
「了解」
神威が返事をして、遠くから見えていたオーガの一体に向かって駆けて行く。
別に集団でも対処出来るが、今回はハスタの腕を見るのが目的なので、無茶せずに個別に対応する。
待っていると、神威が駆け足で戻ってくる。
その後ろから、棍棒を持ったオーガが一体だけ走って来た。
それじゃ、頑張ってもらうか。
「こっちだ!」
「GUOOOOOOOOOO!」
ハスタがグレートソードの柄に手を掛けて走り出す。
オーガはそんなハスタを見て、視線だけを神威に向けた後、その棍棒を振り抜いた。
凄まじい風切音と共に振り抜かれた棍棒を、ハスタは後ろに飛んで回避すると、一気にその懐に飛び込む。
そして、その腹部目掛けて、ハスタがグレートソードを両手で振り抜いた。
直撃した、そう思った瞬間、金属同士を叩き付けた様な不快な音が響き渡る。
ハスタの眼が見開かれ、オーガの腹部を見た。
そこには僅かな傷が出来ただけで、まったくと言っていいほど、ダメージを与えられた様子は無い。
慌ててハスタが駆け抜けると、今までいた場所にオーガの拳が叩き付けられた。
そんな様子を見ながら、俺は溜息を吐いた。
予想はしていたが、やはりと言うか、ハスタに高い実力は無い。
通常、オーガクラスから鋼鉄製のただの武器では倒せない。
その原因が、オーガの皮膚だ。
恐ろしく硬く、集中すれば鋼鉄の如く硬くなって、鋼鉄ですら弾き返す。
もちろん、使用者の膂力や技量で通用する場合もあるが、そんな事は稀だ。
俺の場合は膂力で押し切り、神威の場合は技量で貫通させる。
他にも、武器に魔力を付与させる事で切れ味を上げたりするが、ハスタはそのどれも出来ない。
武器が特別なのかと思ってみたのだが……
『鋼のグレートソード』
-ランク/E-
鋼鉄製のグレートソード
攻防共に使えます
ただのグレートソードだった。
最初はコレだけの自信を持っているのだから、魔剣とか知性持ちの剣かと思ったが……
これだとオーガを倒すには相当な腕が必要になる。
そうしていると、ハスタが再びオーガの隙を突いてグレートソードを叩き付ける。
だが、先程と同じように甲高い不快音を響かせてグレートソードが弾かれる。
そこにオーガの腕が振り抜かれ、ハスタが慌ててグレートソードで受けるが、一気に弾き飛ばされる。
吹き飛ばされたハスタは地面を転がるが、反動を利用して立ち上がる。
受けた瞬間、弾かれる方に向けて一気に跳んだ為、見た目ほどダメージは無い。
だが、決定打も無いので、じりじりと体力は削られていく。
そのハスタがちらりと此方を見るが、俺等は無視する。
インベントリから握り飯を取り出し、神威とマドゥーラにも渡しておく。
やはり、こういう時には握り飯だな。
ハスタが再びオーガに向けて駆け出すが、オーガの方はハスタが自分を倒せるような腕を持っていないと判断したのか、最初の頃の様に無理に棍棒を振るでもなく、ハスタの振りに合わせて棍棒を振り、グレートソードを打ち据えている。
オーガの使う棍棒はただの木では無い。
普通の木の枝を何重にも合わせ、その恐るべき握力で握り固めて超圧縮されており、その硬さは鋼鉄にも匹敵するが、元々が木である為、良く撓る。
そんな物と打ち合っているグレートソードが、何度も耐えられる筈も無い。
刃はボロボロになり、所々が凹んでいる。
「舐めるなぁぁっ!」
ハスタが叫んで一歩踏み出し、一気にオーガの胸板目掛けてグレートソードを突き出した。
全身の体重と剣のバランスが乗った最高の一撃。
例え、オーガと言えども無傷で済むはずが無い。
そう信じて突き出した剣が、オーガに触れた瞬間、甲高い音と共に半ばから砕け散った。
それは当たり前の結果だった。
何度も攻撃し、何度も防御したグレートソードは限界だった。
そんな限界状態で、非常に硬いオーガの皮膚に剣を突き込めば、ダメージを蓄積させたグレートソードは砕けてしまう。
「そ、そんなっ……」
「GAAAAAAA!」
砕けたグレートソードに唖然としているハスタの隙を、オーガが見逃すはずもない。
気が付いた時、オーガの振り抜いた拳がハスタの身体を打ち上げていた。
咄嗟に防御用の『プロテクト』を使用した為、何とか致命傷は避けたが、凄まじいダメージで直ぐには動けそうもない。
ゆっくりとオーガがハスタに接近し、棍棒を振り上げる。
今までオーガ程度、オークを倒せた自分であれば楽勝だ、と考えていた。
だが、実際には手も足も出ず、こうも簡単に殺されようとしている。
「た、助け……」
「GUGAAAAA!」
命乞いをした所で、オーガに通用するはずもない。
オーガが一気に棍棒を振り下ろした。
襲い来る恐怖から目を閉じてしまうが、何時まで経っても棍棒に殴られた痛みは来ない。
「これで判っただろう。 お前に無理だと言われたのが」
そう言われて目を開けると、棍棒は触れるスレスレの所で止まっていた。
握り飯を持った男が、その先端部を片手で掴んで止めていた。
オーガが驚いた様に棍棒を引くがビクともしない。
まるで、岩に固定されたように、棍棒は男の手に捕まれている。
「まったく……」
「GAA……」
「五月蠅い、黙ってろ」
無理矢理棍棒を奪い取り、オーガの顔面に向けてその棍棒をぶん投げる。
直撃したオーガが、顔面を押さえながら数歩下がるが、放置する訳にもいかない。
「二人共、片付けておいてくれ」
そう指示すると、オーガに向かって神威とゴーレムが向かっていく。
リルはマドゥーラの護衛の為に残っている。
ゴーレムの振り抜いたハンマーが、オーガの腹部に直撃すると、凄まじい音が響き、オーガが両膝を付く。
神威自身はなるべくトドメを刺さない様に攻撃し、鬼神刀で腕や脚、肩と言った場所を浅く斬っている。
そして、オーガの振り上げた拳はゴーレムの持つ大盾に遮られ、その隙に神威によって脚を斬られる。
僅かな傷ばかりだが、そのどれもが動かす度に痛みを伴い、オーガの集中力を奪っていく。
終わりは直ぐにやって来た。
オーガが大振りに繰り出した拳に合わせ、ゴーレムが大盾による『シールドバッシュ(モドキ)』を叩き込む。
それが直撃したオーガが吹き飛んで地面を転がり、置き上がろうとしたオーガに向かって神威が鬼神刀を振う。
その一振りでオーガの首が飛び、地響きと共に倒れてゆっくりと溶ける様に消えて行く。
そして、残ったのは立派な牙が2本。
「二人共ご苦労さん。 引き続き残りは頼みたいんだが問題無いな?」
「私等は大丈夫だけど、コレはどうするの?」
「い、今のは調子が悪かっただけだ! いつも通りなら……」
神威にコレ呼ばわりされたハスタは未だに認めようとしていないが、彼の実力はかなり低い。
確かに動けてはいる。
だが、それだけだ。
剣を振うスピードも、回避の為の反射神経も標準クラス。
何より、あまりに魔獣を舐めきっている。
「武器も失っている上に、そもそも通用しないんじゃ邪魔になるだけだろ、戦ってるのを見とけ」
俺の言葉に反論出来ず、ハスタは仕方なく折れたグレートソードを持って付いてくる。
その後、一日掛けてオーガの大牙を集め、迷宮の中で休憩を挟んでサガナに戻る頃には周囲は薄暗くなり、門が閉まるギリギリになってしまった。
冒険者ギルドで依頼達成を伝え、収集した牙を提出し、報酬を受け折る。
なお、大牙10本に対し、討伐したオーガは17体。
その内、10体は神威が倒し、6体はマドゥーラのゴーレムが倒した。
最後の一体だけ俺が倒したのだが、使用したのはごく普通のテーブルナイフ。
技量と知識があれば、こんな物でも倒せるという事を実践しただけだ。
方法としては、最初に膝を蹴り砕き、倒れたオーガの眼球から脳目掛けてナイフを突き刺しただけだ。
確かにオーガの皮膚は硬いが、生物の共通点として眼球は全く硬くない上に、眼底の部分は視神経が脳まで短距離で繋がっている為に隙間がある。
そこを突けばテーブルナイフであろうが倒す事は出来るのだ。
まぁテーブルナイフ自体は駄目になるがな。
勿論、知識が無ければ骨に当って致命傷にはならず、余計に怒らせるだけなので真似する事はさせない。
少なくとも、単独で倒せるようになるまではオススメ出来ない。
さて、それじゃハスタに色々と冒険者の指導役として教えてやるとするか……
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




