第63話
その日、屋敷で待っていると、昼食の後、炎尚が客が来たと知らせてくる。
ギルドマスターのクックが約束通りに来たので、神楽が応接室に案内して待たせている。
その際、クックに同行している人物がおり、一緒に応接室に案内したというので、その人物がゴーレム技師志望の子なのだろう。
応接室に入ると、クックと小柄な金髪の少女が座っていた。
少女はスカートでは無く、長袖とオーバーオールの様な服を着ており、肩まであるくらいの金髪を後ろで縛っている。
「すまない、待たせたな」
「問題ねぇさ。 美味い茶も御馳走になったしな」
クックがそう言ってカップを傾ける。
神楽が煎れた物だろうが、確か紅茶の茶葉は前にアイナが持って来てくれたものだ。
かなり質は良いのだが、俺は紅茶よりコーヒーの方が好みだ。
ただ、コーヒー豆は地下の食料庫にある分しかない。
一度、アイナやマキーシャ達にも説明して飲んでもらったが、全員知らない味でコーヒー豆についても知らないと言われた。
ただアイナが言うには、そう言った植物に関しては森で暮らしているエルフ達の方が詳しいらしいので、暇な時に調べる事にしよう。
ちなみに、味に関しては全員、ブラックは苦過ぎてマズイと言われた。
少女の名は『マドゥーラ』と言い、種族は『ハーフドワーフ』。
随分小柄で未成年かと思ったが、年齢的には既に成人しているらしい。
ドワーフの血が入っている為、余計に小柄に見えるのだと言う。
「冒険者ランクは銀か」
呟きながら、マドゥーラの方を見る。
銀級はそれなりの戦闘力があるはずだが、彼女の体格を見る限り、直接戦闘は得意そうでは無い。
恐らく、ハーフの弊害であろう。
ドワーフの小柄な部分と、人の非力な部分を引き継いでしまったのだろう。
彼女曰く、幼い頃から戦闘が苦手だったので、自然と自身の戦闘力に頼らない戦い方を模索してきたと言う。
その結果、ゴーレムに行き付いたのだと言う。
そして、実験と素材集めの為に冒険者になった。
「取り敢えず、どんなもんか見せて貰うか……」
そう言って、全員で屋敷の外に出ると、マドゥーラが持つゴーレムを召喚してもらう。
「召喚ゴーレム!」
青い結晶が一瞬光ると、青銅色のゴーレムが出現する。
見た目は巨大な盾とランスを持った普通の重装兵。
しかし、こうして改めて見るとこの世界のゴーレムは色々と遅れている。
まず、青銅色なのは素材が青銅に近い合金で出来ているからだ。
青銅は加工はしやすいが、比較的軟らかい為に防御力はそこまで期待出来ない。
更に、マナ効率も悪い為にそれほど力も出せず、稼動時間も短い。
何よりぎっしり詰まっている為、凄まじく重い。
その重さの為に更にマナを消費し、稼働時間がもっと短くなる。
「サガナに来るまでに戦闘があったのか?」
「は、はい、森の中でゴブリンに……」
「良く判るな」
クックがそう言いながらマドゥーラのゴーレムを見る。
盾に防御した際に付く複数の殴打跡と、ランスにも傷が付いている。
そこから推測したんだが……
「ふむ……ゴーレム作ってどのくらいなんだ?」
「えっと、5年くらい作ってます」
誰かに師事してる訳でも無く、5年で戦闘可能なゴーレムを作るか……
才能としてはそれなりにあるな。
「このゴーレムはどのくらい使ってる?」
「22号は半年前に作り終わって使ってます」
……ネーミングセンスはこの際は放置するとしよう。
しかし、半年か……
ゴーレムに近付いて改めて色々と確認する。
予想通り、下半身の関節部分はかなり摩耗している。
「22号って事は他にもあるのか?」
そう聞くと、マドゥーラの表情が曇る。
この作り方だと、新しい素材が手に入ったら、ゴーレムコア以外全部総交換だ。
そうなると、残った分は邪魔になり、再利用の為に解体するか、新しい素材に組み合わせるだろう。
「後の手持ちは、7号と15号が……」
ふむ?
別に持ってるのか。
まぁゴーレム1体だけじゃ、破壊されたら後が無いから予備はあるだろう。
しかし、手持ち3体か。
「取り敢えず、そっちの方も見せて貰えるか?」
「は、はいっ」
そうして現れる2体のゴーレム。
15号は鉄製の22号と同じような重装兵ゴーレムだ。
ただし、持っている武器は両手持ちの大型ハンマー。
ただ、その全身に傷が付き、関節部分もかなり摩耗してガタが来ている。
これだと、大雑把な行動は出来るだろうが、狙った場所を攻撃する様な精密な行動は難しいだろう。
恐らく、その為に22号では整備が楽な青銅の様な合金を使っているのだろう。
そして、7号は……
「……馬?」
「は、はいっ!」
そう、7号は馬型ゴーレムだった。
メインの素材は青銅なのだろうが、所々に鉄素材や魔獣素材が使われている。
大部分は青銅だが、関節部分には鉄素材、蹄や背の一部が魔獣素材になっている。
確かに、馬の蹴りは凄まじい威力だろうが、戦闘に向く訳では無い。
「何でまた馬なんだ?」
俺の問いにマドゥーラが説明してくれる。
彼女曰く、7号は戦闘用では無く、移動目的に作ったテスト機だったのだと言う。
この世界では、馬車や船、騎乗魔獣以外に乗り物は無い。
言い換えれば、それ等を持たねば碌な移動手段が無い。
徒歩で移動するにも限度がある。
なので、それを解消する為にゴーレムを移動手段に使えないか、と作ってみた。
だが、作って初めて判った事もあった。
まず、振動が物凄い。
走らせる度に凄まじい衝撃が起こり、降りると歩く事すら困難になる。
そして、マナ切れするまで走ったとしても、本物の馬で移動するより距離が短い。
更に、マナを充填させるのに3日程掛かる。
デメリットばかりでメリットが少な過ぎる。
ただ、後々で何か良いアイデアが出て改良出来るかもしれないので、残してある。
残念そうに言うマドゥーラを他所に、俺は一人感心していた。
確かに、この作り方だとどうやってもデメリットが多くなる。
だが、作り方を変えればそのデメリットの大半は解消出来る。
そして、7号を見る。
その瞬間、俺は気が付いた。
………そうか、そうだよ。
別に、ゴーレムは人型だけ、と拘る必要はないんだよな。
考えてみれば、簡単な事だ。
無ければ作れば良い。
そう気が付いたら、アイデアがどんどん出て来る。
素材は何を使うか、どうすれば良いか、頭の中で想像のゴーレムが組み上がっていく。
そもそも、ゲームでは他の移動手段に飛空艇や鉄道、長距離転送システムもあった為、ゴーレムで移動するなんて考えた事も無かった。
実際、ゲームの中で移動用ゴーレムなんて持ってるユーザーはいなかった。
故に、今の今まで考えた事も無かったのだ。
こうしちゃいられねぇ。
直ぐにこのアイデアを纏めねば……
「ありがとうマドゥーラ、君のお陰で良いアイデアが出た!」
「え、あ、あのっ」
そう言ってマドゥーラの肩を叩き、直ぐに屋敷に戻る。
叩かれたマドゥーラは訳も判らず、混乱していた。
残されたマドゥーラを見て、クックも困り顔だ。
弟子にするのかどうかを判断する為だったのに、肝心の王牙は走って屋敷に戻って行ってしまった。
どうするべきか……
そう考えていると、屋敷の方から神威が出て来る。
「何か父様が走って入って来たけど、どうしたの?」
そう聞かれたので先程の事を説明する。
すると、神威は何故か納得していた。
「それじゃ、ちょっと待っててね」
そう言い残し、神威が屋敷に入って行く。
しばらく待っていると、神威が戻ってくる。
「オッケーだって」
どうやら返事を聞いて来てくれたようだが、これでマドゥーラは王牙の弟子と言う事になる。
王牙と細かい話をしたいのだが、どうも集中しているようで、屋敷全般を管理している炎尚と話し合いをして欲しいそうだ。
なので、炎尚と今後の事を話し合う。
まず、マドゥーラは現在の仮住まいであるクックの家から、屋敷に引っ越し。
そして、引っ越しが終わり次第、色々と授業をする事になる。
マドゥーラが何度もペコペコと頭を下げ、御礼を言ってクックと共に帰っていく。
帰る二人を見届けた神威が、屋敷の地下に降りて行く。
そして、一つの部屋に入ると、そこには只管に何かを書き続ける王牙の姿があった。
部屋に入ってからそれ程時間は経っていないが、既に椅子の足元には数枚の紙が落ちている。
その一つを手に取って見て見ると、何やら盾の様な物に、配線がいくつも繋がれているような絵が描かれている。
絵の隣にも何やら走り書きが書かれており、アレだコレだと難しい言葉が並んでいる。
「集中するのは良いけど、何するの?」
「俺に怯えない騎乗魔獣を手に入れる為には、どうしても時間が掛かり過ぎる」
神威の方を見ずに答える。
怯えないような魔獣は殆どが高ランクか、出会うのも稀な魔獣だけだろう。
そして、そう言った魔獣がいるのは、大抵がランク制限が掛けられた場所ばかりだ。
これは、冒険者自身を守る為の措置でもあるのだが、俺にとっては面倒な事この上ない。
「マドゥーラのゴーレム馬を見て気が付いたんだよ。 別に騎乗魔獣だけに拘る必要はないってな」
「それで、ゴーレムで作っちゃおうと」
「まぁただのゴーレムを作る予定は無いがな」
そう、コレから作ろうとしているゴーレムはただのゴーレムではない。
零式のノウハウを組み込み、この世界には存在しないであろう俺専用のゴーレム。
その為に作っているのがこの設計図と組み込む回路図。
このゴーレムは零式と違って、参考に出来る完成した姿が存在しない為、設計図と回路図を作ってよく検証しないと失敗する。
ゴーレムコアは、システムから呼び出す素体から使用するし、構成する材料もシステムのショップから購入したのを加工するので問題無い。
しかし、こういう設計図や回路図作りは、地球でのパソコン作業が懐かしく思う。
自分の手で全て線を引き、少しの失敗でも修正液なんて無いので描き直し。
昔の人はよくもまぁこんな作業を続けられたモンだと感心する。
「取り敢えず、問題は……作業場だなぁ……」
アマッシュ達が作業場となる小屋を建て終わらないと、本格的に作業が出来ない。
まぁここで細かいパーツを作りながら待つとしよう。
「それじゃ、晩御飯になったら呼びに来るね」
神威の言葉に手を振って返事をし、再び紙にペンを走らせる。
このゴーレムに必要なのは、緻密な設計と計算だ。
まず、強固なフレーム。
これはメインにオリハルコンを使い、要所にアダマンタイトを使う事で対処する。
マナタンクは零式にも使っているマギタイト。
マナマッスルだが、コレは『ムービングスラッグ』と言う強靱だが、しなやかな特殊素材を使用する。
これの入手方法は、ゲーム中にとあるゴーレムイベントをクリアすると、秘密の製造方法をイベントNPCから教えて貰える。
そして、そのイベントをクリアせずに作ろうとすると、クリアフラグの判定が無い為に必ず失敗する。
アーマーは零式と同じオリハルコンを使う。
ある程度の設計図が出来上がり、そこに回路図を重ねて問題が無い事を確認する。
そんな所で、神威が晩御飯が出来たとやって来たので、一旦終了。
必要な紙以外は屑籠に入れて、部屋を後にした。
さて、勢いとは言え師匠となったからには恥かしくない様に教えねば……
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