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第61話




 豪華な調度品で揃えられた一室。

 そこで数人の男女が巨大な机を囲んでいた。


「さて、今回の一件だが、被害として見るなら今の所は無い」


 白く長いローブを着た男がそう言いながら、その場にいる面々を見る。


「が、結果的に見るなら致命傷となるのは確実です」


「機密情報が漏洩したのは問題ですな……」


「対処は?」


「現在の脱出路は破棄し、予備としていた古い経路を再度検討中ですが……問題は兵站ですな」


「将軍の言う通り、脱出路はどうにかなりますが、問題は兵站です」


 豪奢(ごうしゃ)な鎧を着て髭を蓄えた男の言葉に、ローブの男が頷く。


「直ぐには対処できない上に、変更するにも反発は必至でしょう」


「うむ……仕方無い事とはいえ、民には苦労を掛けてしまうな……」


 所々に金の細工が施された服を着た男が呟く。

 この男こそ、イルディアム王国、現国王『ターガ=リアント=イルディアム』。

 民から慕われ、帝国以外の国との繋がりも強い。


「陛下が気に病む必要はありません。全てはゲルィンが悪いのですから……」


 男がそう言い、ターガ王を見る。


「しかし、アレを任命してしまった私の責任なのだ」


 報告を鵜呑みにし、混乱していたとはいえ調査を疎かにして国の重役にしてしまった。

 そして、国の機密を帝国に流されてしまったのは、任命したターガ王が非難されても仕方の無い事だ。


「何処まで帝国の間者(スパイ)が入り込んでいるのか、調べる必要がありますな」


「グラーズ将軍、間者探しも大事だが、帝国自体の動きはどうなっているのだ?」


「宮廷魔術師殿の心配も大事だが、まずは足場を固めねば……」


「帝国側に忍ばせている者からは動きは無く、現在は王国よりも獣王国に目を向けているようです」


 別の男が言い合いを始めようとした2人に向けて話す。

 それを聞いて、取り敢えず宮廷魔術師側は納得したようだ。


「ふむ、帝国は何を目的しているのか……」


「昔は我が国を手中にしようとしていたが、最近はその目的が不明だな」


「最後に確認された我が国との小競り合いは、10年前のサガナですな」


 ターガ王がそれを聞いて顎に手を置く。

 即位する前、帝国は執拗に王国を狙い続けていた。

 だが、ここ10年位は王国以外の周辺国との国境でも小競り合いが起きている。


「帝国で賢者が頭角を出し始めた頃か……」


「確か、帝国で暴れていた龍を強力な魔法で仕留めたのでしたな」


「龍種を一撃で倒せるような魔術など、人が扱い切れるモノでは無い筈なのだが……」


 各々が思い出す様に話す。

 10年前、王国へと侵攻した帝国側は、その軍を率いていた将軍が龍山に侵入し、卵を割ってしまった。

 その将軍が何を考えてそんな行為に及んだのかは不明だったが、王国との小競り合いの後、帝国へと帰還した際に怒り狂った龍に襲撃を受けた。

 それによって複数の村と町が壊滅し、帝都に迫ってきた龍に対して、当時の騎士団や魔術師、傭兵から冒険者に至るまで多くの者が強制依頼で死亡した。

 更に怒り狂った龍が迫ると言うその絶望の中で、一人の青年が凄まじい魔術を使い、迫り来る龍を倒した。

 この青年こそが、今でも様々な技術を指示し、『賢者』と呼ばれている。

 その後は帝国に所属し、政治から軍事に至るまで幅広く活躍している。


「しかし、強さで言うならあの男も異常ですな」


「あの男……ゲルィンのゴーレムと戦った奴か」


 グラーズがそう言いながら蓄えた髭を撫でる。

 彼自身はその場にいなかったが、数人の部下が見ていたらしく、報告を聞いた時は我が耳を疑った。

 その後、様々な所から報告が上がってきたので、真実なのだろうと納得はしていた。


「報告では、男自身も相当な腕の様です。 静かな暗殺者(サイレントアサシン)を倒したと言う話が……」


 その話でその場にいた全員の視線が一人に向く。


「確かにその報告は受けましたが、消し飛ばしたらしく確認のしようがありませんので、討伐褒賞は渡してはいませんね」


「アキレウス殿、俺の方には報告が来ていないんだが?」


 グラーズがアキレウスにそう聞くと、彼女は困ったような表情を浮かべた。

 それもその筈で、冒険者ギルドと王国の将軍では、管轄が違い過ぎて報告する必要はないのだ。

 だが、彼女からすれば本当なら報告したかったのだが、その時に決闘騒ぎが重なってしまったのと、決闘後もゲルィンによる機密の漏洩問題が出てしまった為、報告が出来なかったのだ。

 その事を説明すると、グラーズの眉間に(しわ)が寄るが、納得はしたようである。


「それ程の男となると、このまま放置するのは危険ではないか?」


「ではどうすると言うのだ?」


「あのゴーレムは没収して国で管理し、男は適当な爵位を与えて管理すると言うのは?」


 グラーズと宮廷魔術師の言葉に、それまで黙っていた男がそう提案する。

 見た目は古びたローブを着た老人だが、その両眼はギラついている。


「ジャシム大臣、それは止めた方が良いと思いますよ」


「ほう、何故かね?」


 レイがそう言うと、ジャシムが腕を組んでそう聞き返した。


「まず、彼についてですが、こちらが好意的に接すれば問題はありませんが、敵対、(ある)いは害意があった場合、手酷い目に合うでしょう」


 そう言って一旦レイは言葉を切る。

 そして、全員を見渡した後、改めて話し出した。


「彼自身は目立つのを非常に嫌っていますから、爵位は受けないでしょうし、その実力に関しては皆目見当も付きません」


「確か、前にアキレウス殿は手合せをして負けたと聞いたが……」


「はい、将軍の言う通り手合せをしましたが……恐らく、全力では無かったのでしょう。 それであの強さですから、下手に武力で抑え込もうとすれば、どれだけ被害が出るか……」


「フン、個が群に勝つ事など出来るモノか」


 ジャシムがそう言うが、レイとグラーズはそれを呆れた様に見る。

 王牙の召喚した零式なるゴーレムが、ゲルィンのゴーレム軍団を単騎で撃破したばかりなのだ。

 それを考えれば、個が群に勝つ事も出来ると言う事に他ならない。


「それで無くとも、やりようはある」


 ジャシムがニヤリと笑みを浮かべつつ、ターガ王の方を見る。

 そして、(うやうや)しく頭を下げた。


「このジャシム、必ず陛下にあのゴーレムを献上致しましょう」


 そう言うと、ジャシムはそのまま会議室から出て行った。

 会議室に残された面々は溜息を吐いた。


「それでアキレウス殿、実際の所どうすれば良いと思う?」


「陛下、私としては『何もしない事』が最善だと思います。 交渉するにしても情報は必要ですが、彼の場合、何処に『龍の逆鱗』があるか判りません」


 その説明を聞き、ターガ王が目を閉じて思案する。

 レイの言った『龍の逆鱗』とは、この世界の(コトワザ)であり、龍の逆鱗に不用意に触れた者は必ず酷い目にあう事から、警告等で良く使われる。


「大臣が何をするのかは我々には判りませんが、陛下にもしも被害を及ぼすようなら……」


 グラーズがそう言いながらターガ王の方を見る。

 将軍の忠誠心は凄まじく高く、もしもジャシムが王牙を怒らせて国と対立するようになってしまった場合、身を挺して王牙と戦うか、ジャシムに責任を取らせるつもりなのだろう。


「将軍の懸念も判るのだが、大臣もそこまで無茶はしないだろう。 最低限の用意はして置くが……」


 その言葉でレイが目を閉じる。

 自身で出来る事を考えるも、出来るのは情報収集程度しかない。

 若干溜息が出るが、下手に王牙を刺激して敵対したくは無い。


 結局、各々で情報交換を密にし、もしもジャシムが王牙を怒らせた場合に備えておく事になった。

 サガナのギルドマスターであるクックにも、協力して貰うようにレイはターガ王から命令書を貰って溜息を吐いていた。





 帝国領首都ライアブルク。

 その中心に聳え立つライアブルク城の一室では、一人の青年が机に広げられた書類を見ていた。

 金髪に金の瞳、整った顔をしており、黒いスーツの様な服を着ている。


「発芽は3割が成功……か」


 青年が書類の一枚を見ながら呟き、次の書類を手に取る。


「状況からBランクからで発芽して、Cランク程度では発芽もしない、微妙だな」


 そこに書かれていた数字には、ある一定の所で線引きがされている。

 呟きながらまた別の書類を手に取る。


「兵装は順調と……船はあと4隻か」


「資材と奴隷を注ぎ込んでいますが、予定数にはまだ到達していませんわ」


 そう言ったのは赤いドレスを着て、金の長髪を靡かせている女性だった。

 彼女は壁際で静かに椅子に座り、小さな手帳の様な物を広げていた。


「まぁ下等な奴等だからね、仕方ないさ」


「それと、建造の方で労働力不足ですと報告がありましたわ」


「またか」


 青年がそう言いながら別の書類を手に取る。

 そこには、遅れた状況を取り戻す為に更なる奴隷の追加の懇願書と、いくつかの足りない資材のリストだった。


「もうこの国の中だけじゃ手に入れるのもキツイしなぁ……」


「王国の方は少々予定外の事が起きて、少々集めるのに不自由しますわ」


「予定外?」


 王国での騒動を女性が青年に説明していく。

 ゲルィンの騒動で、帝国に内通していた王国の貴族や商人等は軒並み逮捕されていた。

 その結果、隠れて奴隷を調達しているルートが殆ど機能しなくなっていたのだ。

 内通者が全滅した訳では無いので、調達する事は可能ではあるが、数を必要とする場合はどうしても数が足りなくなる。


「まったく、ロクな事をしなかったなあの豚は……」


 青年がそう言いながら書類を机に置いた。

 そして、壁際に置いてあった地図を見る。

 そこには赤く塗りつぶされた帝国領と、国境の部分に線が引かれている。


「計画だともう少し先だったんだけどなぁ……」


「それでは?」


「船を3隻と兵装を150出す。 まずは目障りな獣風情から駆除しようか」


 そう言いながら地図のある一点を指差した。

 帝国領の上に位置する山岳地帯、そこを支配している獣人達の国『ガイスランド』。

 男の獣人達は皆屈強な戦士であり、その身体能力も相まって戦闘面では全ての国でもトップクラスの戦力を保有している。

 基本的には狩猟と傭兵で国が成り立っている。

 帝国とは相性が悪いと言うより、帝国人こそが最上の人種であると公言している帝国とは小競り合いが続いている。


「兵装は兎も角、船はまだ極秘ですのに宜しいのですか?」


「獣風情と言っても厄介だからね。 確実に駆除して貰わないと。 それに……」


 そう言いながら机に戻って引き出しを開ける。 

 そこには複雑な魔方陣と、書き殴った様な走り書きが書かれた紙が入っていた。


「必要な素材も手に入れて貰わないと困るしね」


 言いながら引き出しを元に戻し、散らばっている書類を集めて机に並べる。

 その一つを手に取り、扉に向かう。


「それじゃ、陛下に説明してくるよ」


「いってらっしゃいませ、賢者様」


 青年が笑みを浮かべながら部屋を出て行く。

 それを見ながら、女性もその場から消える様にしていなくなっていた。



 その半年後、帝国軍と獣王国軍が激突。

 誰もが何時もの小競り合いで直ぐに収束するだろうと予想していた。

 そして、大陸中に激震が走った。


 僅か2ヶ月で、獣王国が帝国軍に破れた、と。




話数を間違えていました (=ω=;)スミマセン


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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