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第60話




 スキルを発動させた瞬間、神威の両拳と両足から炎が噴き出す。

 ただし、その炎の色は黒く、どう見ても普通の炎とは違っていた。

 ブラックドラゴンゾンビが未だに残っていた柱に自身の尾を叩き付けて砕くと、瓦礫毎、神威に向けて弾き飛ばす。

 普通なら回避するのだろうが、神威は逆にその瓦礫に向かって突っ込んで行った。

 瓦礫に当たる瞬間、神威が炎を纏った拳でその瓦礫に触れる。

 途端に瓦礫が黒く変色し、(ちり)となって崩れていく。

 ブラックドラゴンゾンビも予想外の事だったらしく、突っ込んできた神威に対して反応が遅れた。

 そして、その反応の遅れは戦場では命取りとなる。


「ハァァァァッ!」


 神威がブラックドラゴンゾンビの脚を殴った瞬間、それまで武器が触れた部分の僅かしか削れなかったのに、その一撃で大きく抉り取っていった。

 続けて裏拳で更に削り取ろうとした瞬間、ブラックドラゴンゾンビが大きく息を吸い込んだ。

 この時点で咆哮をする意味は無い。

 ならば、やってくる事は一つしかない。


「GOGAAAAAAAAA!!」


 ブラックドラゴンゾンビの『アシッドブレス』が、至近距離から神威に向かって放たれる。

 自身はダメージを喰らわないからこそ出来る荒業。

 神威はその場に留まり、迫り来るアシッドブレスを見上げている。

 だがそれが触れる前に、炎を纏った回し蹴りを放つと、アシッドブレスが黒い炎に巻き込まれて炎上していく。

 黒い炎はブラックドラゴンゾンビの顔面まで到達し、大きく燃え上がった。

 ブラックドラゴンゾンビが堪らずに顔を振って消そうとするが、その程度で消える筈も無く、やがてその炎が顔から首へと広がっていく。 

 消えない事に苛立ったのか、ブラックドラゴンゾンビが神威に向けて尻尾を大きく振り下ろす。

 それに対し、神威は回避せずに逆に突っ込んで行った。


「『黒蛟(クロミズチ)』!」


「RUGAAAAAAAAAAAAA!?」


 神威の拳にあった黒い炎が伸び、まるで蛇の如く(しな)ってその尾を迎撃し、根元から真っ二つに切断した。

 予想していない反撃と、更に受けたダメージにブラックドラゴンゾンビが叫び声を上げ、神威に向けて腕を振るった。

 それを紙一重で回避し、『黒蛟』とは逆の腕で薙ぎ払うと、ブラックドラゴンゾンビの腕が大きく抉り取られた。

 そして、顔から首に掛けて燃え広がった黒い炎は、そのままジリジリと胸の辺りまで進んでいた。




 そんな激闘の様子をマキーシャ達は離れて見ていた。

 腕が折れているブラウはシシーの回復魔法を受け、それを守る様にリョウが盾を構えている。


「何ともまぁ……強いとは思ってたけど此処までとはねぇ……」


 マキーシャの呟きに、リョウが頷いている。

 あのブラックドラゴンゾンビに対して、圧倒的優位に立っているのだ。

 それだけでも白金級の腕はある。

 だが、このまま倒し切れるかは判らない。 


 何故なら……


「でも、神威の表情を見る限り、かなりキツそう」


 リョウの言葉通り、神威の表情はかなりの苦痛に耐えているようにも見える。

 今の神威の姿は、王牙の使った『武神』と言うスキルに良く似ている。

 ただ、王牙の方は蒼白いオーラを身に纏っていたが、神威は黒い炎を拳と脚だけに纏っている。

 しかし、良く見て見れば、最初に見た時よりも黒い炎の範囲が広がっている。

 最初は拳だけだったのが、今では肘と膝の辺りまで到達している。


「王牙の方は酷い筋肉痛になるってだけだったけど……」


 それは前に聞いたデメリット。

 似ているなら、神威のスキルにも、相当なデメリットがあるはずだ。

 だが、同じ物でない以上、そのデメリットも別なのだろう。

 そうしていると、マキーシャ達の方に斬り飛ばされた尻尾が吹っ飛んでくる。


「っ!?」


「『アックスバスター』!」


 慌ててソレをマキーシャが叩き落す。

 普通なら文句の一つでも言う所なのだろうが、さすがにそんな事はしない。

 ブラックドラゴンゾンビとの戦闘を全部任せているのだ。

 この程度の危険はこちらで対処するべきなのだ。


「流石に余裕が無いみたいだね」


 マキーシャ達の後ろには動けないブラウとシシーがいる。

 普段の神威なら、斬り飛ばした後の事も考える余裕がある。

 だが、今はその余裕が無い。

 それ程、ブラックドラゴンゾンビは脅威なのだ。


「ま、こっちはこっちで注意すれば良いさね」


 マキーシャの言葉にリョウが頷き、未だに死闘を繰り広げている神威とブラックドラゴンゾンビに目を向けた。




 振り抜かれる腕を潜り抜け、その際にその腕を蹴り上げる。

 その瞬間、両脚に激痛が走るがソレに構っている暇は無い。

 歯を食い縛り耐えつつ、潜り抜けた先で脇腹に向けて拳を叩き込む。

 メリメリと鱗が飛び散り、同時に腕にも激痛が走る。


 今、私の身体は限界を超えた反動を受け続けている。

 更に、この黒い炎によるダメージも同時に受けている。

 『鬼神装具固有スキル』である『鬼神』は、そういうスキルだ。

 父様の持つ『武神装具』と似た能力ではあるが、この『鬼神』は目に見えて違う所がある。

 それがこの黒い炎。

 スキル発動中は常に状態異常の『火傷』を受け続け、スリップダメージを受ける。

 そして、最初は拳と足だけだが、それが徐々に広がっていく。

 燃え移れば対象が息絶えるまで燃え続け、早々消す事は出来ない。

 だが、このスキルは使い過ぎれば、その炎は自分全身をも焼き尽くし、そのまま消滅する。

 父様は『武神の反動が現実でアレなら、余程の事が無い限り鬼神は使う事は許さん』と言われている。

 だが、今は使うしかない。

 マキーシャ達の実力は本物なのだろう。

 だが、目の前にいるこの相手は、文字通り『格』が違うのだ。

 生物の最強種、『龍』のアンデッド。

 『あちら(ゲーム)』では、嬉々として父様や炎尚達と戦った事のある相手だが、今は現実。

 一つのミスで致命傷を受ける。

 完全回復ポーションを使えば回復は出来るだろう。

 だが、使う様な暇は無い。

 床を凄まじいパワーで叩き付けただけで、周囲に向けて小さい破片が飛ぶ。

 その破片一つ一つが、まるで弾丸の如き威力を持っている。

 マキーシャ達の距離なら問題は無いが、至近距離にいる私には問題になる。

 下手に受ければ、これからの行動に支障がでる。

 だが、そろそろ良いだろう。

 自然とブラックドラゴンゾンビの眼を見る。

 濁り、光を失ったその眼からは、恨み、憎しみ、悲しみと言った感情を感じる事が出来る。

 こんな迷宮(ダンジョン)に閉じ込められていなければ、何処までも広い空を飛んでいたのだろう。


 終わりにしよう。



 神威がブラックドラゴンゾンビから大きく後退し、かなりの距離を取る。

 ブラックドラゴンゾンビは今までの事から警戒してか、その場に留まっていた。


「此処に(すが)れ、(つど)え、我が意に従え」


 神威の掲げた掌に纏っていた黒い炎が収束し、小さくなっていく。

 それは次第に一つの形を織り成し、黒い鞘に収まった一本の銀鍔の刀となった。

 ゆっくりと神威がそれを腰に据え、居合の体勢を取り、ブラックドラゴンゾンビを見た。 


「『黒天・鬼神斬(コクテンキシンザン)』」


 瞬間、神威の姿が消えた。

 マキーシャ達もブラックドラゴンゾンビもそう錯覚した。

 『獄地』と言う固有スキルがあるが、それすらも霞む速度。

 本人以外には、まるで消えたと錯覚する程の踏込みと抜刀。


 ブラックドラゴンゾンビの背後にいた神威が、ゆっくりと抜いた刀を鞘に戻す。

 その刀身は、光をも吸収するような黒。

 キンッと鞘に収まった瞬間、ブラックドラゴンゾンビの頭部がズルリと斬り落とされて地面に落ち、次に力を失った身体が倒れ伏した。

 倒れ伏した瞬間、土埃が周囲に巻き上がる。

 そして、神威の手から黒い刀は空気に溶ける様にして消滅した。


 ブラックドラゴンゾンビはそのまま溶け、ゆっくりと消滅していく。

 後に残されたのは、巨大な赤黒い魔石と、巨大な漆黒の爪が10本。

 それを確認し、神威はその場に倒れた。

 肉体と精神の限界。


 慌ててマキーシャが神威に走り寄って抱き上げると息を呑んだ。

 神威の両腕は酷い火傷で、殆どの皮膚が炭化し、指先に至ってはほぼ全てが炭化している。

 腕でコレなのだ。

 両脚も同じ状態になっていると考えられた。


「シシー! 神威にも回復魔法を頼む!」


 マキーシャに言われるまでも無く、シシーは向かって来ていた。

 ブラウの方はリョウが添え木をしている。


「……コレは酷過ぎますね……」


 シシーが顔を(しか)めながら、両手を神威の腕に(かざ)す。

 淡い光が神威の腕を照らしたが、一向に回復する様子は無い。


「回復しない?」


 シシーが籠める魔法量を増やして試すが、回復する様子は一向に見えない。

 魔法を間違えたとは思えない。

 そうなれば、神威の体質か、別の要因があるはずだ、とシシーは考えたが、そこで神威に渡されたポーションを思い出した。

 それを取り出し、説明された順番通りに神威に飲ませた。

 1本目の状態異常回復ポーションを飲ませた瞬間、神威の両腕と両脚が白く淡い光を放つ。

 2本目の体力急速回復ポーションを飲ませると、気を失っていた神威が目を開いた。

 3本目の回復力増加ポーションを飲ませた瞬間、それまで炭化していた皮膚や指先が、まるで逆再生をするかのように再生していった。

 ゆっくりと指を動かし、足を動かして神威が回復した事を確認し終える。


「何とか勝てた……」


 神威がそう言いながら立ち上がるが、若干足元がふらついている。

 見兼ねたマキーシャが神威を背負い、リョウがブラックドラゴンゾンビのドロップを回収する。


「今まで見たサイズで最大ですね」


「このサイズだと買い取るのも大変だろうね」


 シシーとマキーシャがリョウが持って来た魔石を見ながら呟く。

 赤黒い魔石は、バスケットボールよりも二回りほど大きい。

 コレだけでも、金貨ウン千枚クラスになるのだろうが、神威はコレを売る気は無い。


「これは売らずに父様と相談する。それに……」


 神威がそこまで言って言葉を切る。

 気にはなる事だったが、軽々しく口にするべきではないと判断したからだ。

 『もしかしたら、この逆さ迷宮はユーザーが関わっているかもしれない』と。


 関係しているかもしれないと気が付いたのは、最初の部屋とブラックドラゴンゾンビのいた部屋の扉にあった文字だ。

 文字はこの世界の物だが、書いてあった内容に心当たりがあったのだ。

 ゲームでも似た様な『逆さ迷宮(リバースダンジョン)』は存在し、その一つに誰かがチャレンジしている間は挑戦出来ず、最後のボスに龍がいると言う物があった。

 ただし、ゲームの方ではボスに挑戦する部屋の前に脱出用のテレポーターがあり、報酬が減る代わりに安全に脱出出来ると言う機能があったのだが。

 当然、その迷宮も王牙達はクリアしていたのだが、神威と言えども挑戦した全ての迷宮を記憶している訳では無い。

 ブラックドラゴンゾンビを『鬼神』を使って倒した際、前にも同じような事があったと思い、それで共通点を思い出したのだ。



 その後、部屋の奥には扉があり、その先は宝物庫になっていたのだが、出来たばかりの迷宮ではほとんど財宝らしい財宝は無く、僅かな金貨や宝石があるだけだった。

 そして、その部屋の中央に光を放つ魔方陣があり、それが脱出用の魔方陣と言う事で全員がその上に乗ると、魔方陣の光が強くなったかと思った瞬間、一瞬の浮遊感を感じた後、全員が一層目にあった教会の真正面に立っていた。


 周りを見回せば確かに調査していた迷宮の草原であり、目の前には逆さ迷宮に行く原因となった、古びて朽ち掛けた教会が建っている。


「どうやら、戻って来れたようだね」


 マキーシャがそう言って全員を見回す。

 生き残れたとは言え、全員ボロボロだ。

 どのくらい迷宮にいたのかさえ判らないが、大なり小なりの怪我をしているので、急いで戻った方が良いだろう。

 マキーシャは神威を背負っているし、ブラウは応急処置で何とか歩く事は出来るが、戦闘は流石に無理だ。

 リョウとシシーに道中の戦闘は任せ、全員が迷宮を後にする。


 サガナに戻り、ストレアと合流した面々は、自分達が逆さ迷宮に閉じ込められていたのは、実に6日間であった事を知らされた。




面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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