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第59話




 ドラゴンが大きく息を吸うと言う行為の後に起こす行動は二つある。

 一つは『恐怖(テラー)』の効果を含む咆哮。

 もう一つは、その属性に依存する『息吹(ブレス)』。


 黒龍の息吹は、あらゆる物を朽ちさせる『アシッドブレス』と呼ばれている。

 コレを耐えるには、対魔能力の高い素材を使用した防具か、魔法による防御しかない。

 しかし、アンデッド化した事により、その『アシッドブレス』はより凶悪に変化する。

 アンデッドは元々持っていた属性に加えて、『腐食』の属性を得る。

 故に、元々腐食属性の『アシッドブレス』が強化され、最早、出回っている様な物質では防ぐことが不可能になってしまっていた。



 先程咆哮を使用した事により、次に来るのは確実に『アシッドブレス』だ。

 魔法を使用出来るシシーは『恐怖』により直ぐには動けない。

 もしかしたら、防御魔法が使えるかも知れないブラウも、同じように効果を受けてしまっている。

 ならば、自分自身でどうにかするしかない。


「焼き尽くせ!『黒炎轟砲(コクエンゴウホウ)』!」


 神威の合わせた両手の間に巨大な黒い炎の弾が現れ、それが勢い良くブラックドラゴンゾンビの顔面に向かって放たれる。

 その黒い炎を『アシッドブレス』が迎撃する。

 通常なら、『アシッドブレス』に押し負けるのだが、神威自身のレベルの高さによる補正が加わり拮抗出来た。

 だが、これは鬼神装具の特殊スキル。

 つまり、これで終わる事は無い。


「弾けて広がれ!『炎陣散牙(エンジンサンガ)』!」


 神威の発動させたコンボスキルにより、拮抗していた炎の弾が爆発し、『アシッドブレス』を巻き込んでブラックドラゴンゾンビの顔面を焼く。

 それによってブラックドラゴンゾンビの『アシッドブレス』は中断されたが、まだブラウ達は回復し切っていない。


「早く回復してねっ!」


 神威はそう言うと、鬼神棍を構えてブラックドラゴンゾンビに向かって掛けて行く。

 此処にいると、ブラックドラゴンゾンビの攻撃範囲にブラウ達を巻き込んでしまう。

 神経を研ぎ澄まし、動きを注視して次の一手を先に読む。

 当然、相手はアンデッドの為、通常では有り得ない動きをしてくる事もある。

 だが、どうやっても動きには限度があるのだ。

 腕の振り、尻尾の薙ぎ払い、牙による噛み付き……

 それを確認してから回避するのではなく、繋がる筋の動き、重心の移動、踏込み、全てを捉えて最適な動きをする。


「『鬼炎陣(キエンジン)』!」


 炎を纏った棍でブラックドラゴンゾンビの片足を薙ぐ。

 普通なら強固な鱗と対魔防御で耐えられるような攻撃。

 だが、アンデッド化した事により、強固な鱗は脆くなり、対魔防御も著しく落ちている為、一気に削り取られていく。


「GUGYAAAAAAAAAAAAAA!!」


 既に痛みを感じる事の無いはずのブラックドラゴンゾンビが、その一撃で苦痛の叫びをあげる。

 そして、神威に向けて長大な尻尾を振り抜く。

 だが、神威はその尾と床との僅かな隙間を、スライディングですり抜け、そのままブラックドラゴンゾンビの懐に入り込む。


「危ないってね!」


 そう言いながらも神威は僅かな隙を突いて、ブラックドラゴンゾンビを確実に削っていく。

 常に父である王牙や炎尚から、どんな相手でも効果的な攻撃方法を教えられている。

 その一つに自分のペースを作り、相手をそのペースに巻き込む事が大事であると言われていた。

 そうして相手にペースを掴ませず、始終有利に戦闘を進める。

 これが高い知能がある相手では、仕切り直す等で回避されてしまう。

 だがアンデッドにはそういった知能は最早存在しない。

 ただ、目の前にいる生者に対して攻撃を加える。

 それがアンデッドの行動理由にして全てだ。


 しかし、ここで神威にとって予定外の事が一つあった。

 それは、単純にブラックドラゴンゾンビが巨体過ぎる事。

 逆さ迷宮に入る前に出会ったギュガスオーガを、縦に数体並べた程の大きさがある。

 目測で20~30メートル程。

 普通ならこれほどの巨体を相手にした事は無い。

 いくら攻撃しても僅かずつしか削れず、逆に相手の攻撃は一撃でも喰らえば致命傷は確実。

 父である王牙なら、恐らく楽に耐えて蹂躙するのだろうが、神威自身には不可能だ。


「後どれくらい削ったら倒れるかな……コレ……」


 神威が若干うんざりする様に呟く。

 先程から足を集中攻撃しているのだが、ブラックドラゴンゾンビは未だに元気?に動いている。

 尾の攻撃を跳び越え、その上部を棍で薙いで削り取る。

 神威が持つ鬼神装具にも、武神装具の『武神獄龍破』の様な一撃特化の特殊スキルは存在する。

 だが、神威はそれの使用を王牙によって禁止されていた。

 何故禁止するのか、その理由はちゃんと説明されていたので神威も納得はしている。


 だが、現状ではどうしても威力が足りない。

 どうするべきか、そう悩んでいると、神威の横を光の矢が通り過ぎて行った。


「すまないっ加勢する!」


 そう言って、ブラウが光を放つ剣を構えてブラックドラゴンゾンビに向かっていく。

 ブラックドラゴンゾンビの左右からは、マキーシャとリョウが挟み込むように向かい、神威の後方からはシシーが魔法の矢を撃ち出し続ける。

 やっと『恐怖』の効果から脱したようで、シシーの強化魔法によって強化された3人が攻撃に参戦出来るようになったのだ。


「『ソードグレイヴ』!」


「『アックスビート』!」


 ブロウの剣がいくつもの光に別れ、ブラックドラゴンゾンビの全身に突き刺さる。

 刺さった部分が浄化され、鱗がボロボロと剥がれ落ちて行く。

 マキーシャの斧が地面を叩くと、ブラックドラゴンゾンビの足元が爆発を起こし、僅かにだがブラックドラゴンゾンビの体制が揺らぐ。


「『ソードグレイヴ』!」


 その揺らいだ瞬間を狙って、ブラウの光の剣と同じスキルをリョウが使用し、同じように邪魔な鱗を剥していく。

 ただ、飛ばされた光の数はブラウより少ない。

 それを受けた後、ブラックドラゴンゾンビが全身を回転させて、その長い尾で床に転がる瓦礫をまるで散弾の如く周囲に撒き散らした。

 盾を持たないマキーシャは近くにいたブラウの影に入り、リョウは離れているシシーの前に立って盾を構える。


「守護の盾よ! 『フォートレスシールド』!」


 シシーの魔法によってブラウとリョウの目の前の光り輝く盾が現れ、飛ばされてきた瓦礫を弾き飛ばす。

 一方、神威は棒高跳びの要領で棍を使って高く跳び上がり、上空で飛ばされた瓦礫を全て回避していた。

 着地した後は、再びブラックドラゴンゾンビに向かって駆け出し、その脚を削り取っていく。

 仲間を瓦礫から守り切ったブラウ達も再び攻撃に参加する。

 ブラウの輝く剣がブラックドラゴンゾンビの片腕を切り裂き、リョウの剣が片足を切り裂く。

 マキーシャはブラウに対して攻撃する為に背中を向けたので、その背を駆けて思い切りその片翼を根元から斬り飛ばした。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 苦痛の声を上げたブラックドラゴンゾンビの片目に、シシーの放った魔法の矢が突き刺さり、懐に潜り込んだ神威がその腹部を一気に薙ぎ切る。

 そこからズルリと腸がはみ出し、凄まじい腐臭が辺りに広がる。

 それに怯む事無く、マキーシャが斧を背に突き刺し、暴れるブラックドラゴンゾンビの背にしがみ付く。


「往生際が悪いよ! 『アックスバスター』!」


 マキーシャが一瞬の隙で斧を引き抜き、一気に駆け上がってその首に向けて斧を振り下ろした。

 だが、斧が当たった瞬間、一際堅い音が響いてその斧が弾かれた。

 それと同時に、ブラウの剣が胸の部分を切り裂こうとしたが、剣先は刺さらず、そのまま流された。

 明らかに龍種としての防御力が、首や重要器官のある部位を守っている事を示していた。


「どうする?」


 リョウがブラックドラゴンゾンビの反撃から退避してきたブラウに聞く。

 アンデッドを確実に倒す方法は、実はそれほど難しい事は無い。

 頭部を完全に破壊する、胸部にある核を破壊する、跡形も無く完全に破壊する……

 他にも浄化魔法を使ったり、成仏させる等、方法は多い。

 だが、逆を言えばそれ等が使えない場合、最も厄介な相手になるのだ。

 そして今回の事を言えば、頭部と胸部は硬過ぎて破壊出来ず、浄化魔法はシシーの疲労の関係上使えず、成仏させるのも不可能。

 いつもの面々なら倒す事は充分可能だろう。

 だが、今の状態は疲労が溜まり、マナもギリギリの状態で、相手の攻撃に対して最大の警戒をしなければならない。

 このままでは、削り切る前に順々にやられてしまう事は明白だ。

 手詰まり。


「こうなったら止むを得ない……かな?」


 後で怒られる事になるだろうが、このままではどうにもならない。

 だが、どれ程の影響があるのか、正直な所判らない以上、最悪の事態も考えておかねばならない。

 ポーチに偽装してあるインベントリから、必要になるであろうアイテムを選別していく。

 アイテムの選別をし、隙を見て一気に飛び退いてシシーの隣に並ぶ。


「ご苦労様です、休憩ですか?」


 シシーがそう言いながら杖を構えている。

 今でも僅かな隙に魔法で攻撃し、仲間の回復と補助に気を付け続けている。

 一手でも回復や補助が遅れれば、それは仲間の危機に直結する。

 神威がポーチから3つの小瓶を取り出して、シシーに渡した。

 渡されたシシーは、それを見て目を丸くしていた。


「コレから無茶するから、終わったら順番に使って」


 そう言いながら神威が使う順番を説明する。

 まず、状態異常回復ポーション。

 無色透明で、等級が高い物はあらゆる状態異常を回復させる事が出来る物で、当然、かなりの金額が掛かる。

 次に、体力急速回復ポーション。

 薄い紫色で、消耗した体力を一気に回復する事が出来るポーションで、疲労困憊状態からでも一気に回復する事が出来る。

 ただし、精神的な疲労に関しては回復しない為、ぐったりしつつも動けると言った感じだ。

 最後に、回復力増加ポーション。

 薄い青色で、自身の回復力を底上げしてくれるポーションであり、怪我を受けた際にその回復を早める効果がある。

 どれも最高品質の物であり、もしも買って揃えようとした場合、王都の一等地に小さい家が建つくらい掛かる。

 だが、最高品質のポーションは、溢れる程に持っているので問題無い。

 本当なら『完全回復ポーション(エリクサー)』を使いたいのだが、そんなのを出せば後々質問攻めになる事が予想出来るので、敢えて複数のポーションを使用する事にしたのだ。


「それじゃお願いね」


 神威がそう言いながら棍をインベントリに収納し、ブラックドラゴンゾンビに向かって駆け出す。

 そんな時に、ブラウがブラックドラゴンゾンビの尾の攻撃を受けて吹き飛ばされた。

 途中でマキーシャが受け止めたが、その衝撃で大きく後退する。

 吹き飛ばされたブラウは、何とか盾で防御はしていたようだが、衝撃で腕の骨が折れたらしく、戦線復帰は絶望的のようだ。

 二人が吹き飛ばされたのを見たリョウは、仕切り直す為に一旦下がったのだが、その脇を神威が通り過ぎる。


「巻き込まれない様にしてね!」


 そう言いながら神威がブラックドラゴンゾンビに向かって行く。

 ブラックドラゴンゾンビに考えるような理性は残されていないが、それでも神威を脅威と認識しているのか、ブラウ達に追撃をせずに神威と対峙している。

 神威は大きく息を吸い込むと、両拳に力を籠めた。


「『鬼神』発動!」




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