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第5話




 そうして幽霊屋敷攻略を開始した。

 二日目にしてアイナに紹介された冒険者チームは2チーム。


 最初のチームは、完全に俺の事を見下していた。

 ノービスに命令されるのは堪えられるか、と言って出て行った。 

 無理も無いと思うが、報酬が安いってのは無いと思うが…


 二つ目のチームは、言うなれば熱血タイプのリーダーが主力になって、チームを率いている。

 人数は六人と多いのだが、主力がリーダーを含めて二人、他のメンバーはその二人に補助魔法を掛けているだけで、戦闘にはほとんど参加していないと言う。

 こういうチームは、普通の戦闘なら問題は無いが、突発な事態が起こると対処できない。


 出来る限り、ある程度の事態には対処できなければならない。

 特に、今回はほぼ全員が戦えないと無理だろう。


 紹介してくれたアイナには悪いが、両チーム共選考落ちだ。


 もし明日、紹介してくれるチームが戦力にならないと判断した場合、一人で攻略しなければならない。

 確かに出来ない事は無い。

 だが、もしそんな事をすれば、俺はこの街にいられなくなるだろう。

 しかし、コレばかりはどうしようもない。


「王牙さん、良いですか?」


 部屋の外からアイナが声を掛けてくる。

 丁度飲もうと思っていた紅茶のカップを机に置く。


「次のチームか?」


「はい。それと…最後のチームになります」


 そうか、あの条件で集められたのは三チームだけだったか。


「入ってもらってくれ」


 そう伝えると扉が開き、アイナが数人の冒険者を連れて入ってくる。

 見た目は皮鎧を装備したアマゾネス、軽鎧の女戦士、女神官。


 アマゾネスは紅い長髪に褐色肌、全身に切り傷、柄の長い片刃斧か。

 女戦士は短い金髪、白い肌、そして灰色の軽鎧と、剣に盾のオーソドックスだな。

 そして女神官は、黒髪、日本人に近い肌の色、黒い神官服を着て水晶が付いたロッドを持っている。


「アタシ等を雇いたいっていうノービスはアンタかい?」


 どうやらアマゾネスがリーダーのようだ。


「話しだけでも聞いてくれると助かるんだがね」


「アイナの頼みじゃ無下むげには出来ないからね」


 ふむ、この冒険者チームは好印象だが…


「一応、聞いてるかもしれないが、俺は王牙、狼=王牙だ」


「アタシはマキーシャ、一応チームリーダーさ」


「私はリョウ=サイシェル」


「私は、シシー=アン=テイナーと申します」


 アマゾネスがマキーシャ、女戦士がリョウ、女神官がシシーね。

 一応、簡単に互いに自己紹介を終え、今回の目標を話す。


 まず、大前提。

 ゴーストを殲滅し、屋敷を解放。

 報酬は全額+300枚を彼女達が全取り。

 ただし、内部で起きる事は一切他言無用。


「アタシ等はそれで良いけど、アンタはそれで良いのかい?」


 マキーシャにしてみれば、あんな廃屋同前の屋敷を手に入れても、修復で相当な金額が飛んでいくのが簡単に予想出来る。

 それを判っていて、今回の無謀とも言える依頼を出している。


「とにかく、安心して落ち着ける拠点が欲しいんだ」


 俺の言葉に、三人が首をかしげる。

 まぁ理解できないだろうなぁとは思うが、仕方ない事だ。


「確認したい事があるんだが、君達はゴーストの相手をした事は?」


「何度かね、遺跡とか潜ってると大抵出くわすよ」


 マキーシャがそう言うと、他の二人も頷く。

 戦法は、シシーが二人に魔法付与を行い、シシー自身も魔法による攻撃が可能。

 マキーシャは斧を使って一撃で相手を薙ぎ倒し、リョウは相手の攻撃を受け流してからのカウンター。


 ふむ、三人共戦闘可能か……


「それじゃ、最後に三人の武器を見せてもらっても良いか?」


「アタシ等の武器をかい?」


 俺の要求にマキーシャが顔を顰める。

 だが、これは幽霊退治に必要な事なのだ。


「大事な商売道具だからねぇ、見せるだけってんなら……」


 そう言ってマキーシャが自分の斧をテーブルに置く。

 その作りは見事だ。

 さっそく鑑定眼で付与されている魔法を確認する。


 両手斧で物理攻撃力は充分だな。

 付与魔法は威力増加Lv2と強靭Lv3と、通常なら充分。

 剣と盾も同じような物で、盾の方には物理防御増加Lv2が付いていた。

 ロッドは、詠唱加速Lv1と魔法威力増加Lv1、そして何故か殴打力増加Lv4が付いている。


 うん、これは魔法付与しないとゴースト相手は無理だな。


 だが、これくらいなら恐らくあの方法で大丈夫だろう。


「充分わかった、ありがとう」


 その言葉で、マキーシャ達は武器を戻す。


「それじゃ、二日後にまた来てもらっても良いだろうか?」


「それは契約成立って事で良いのかね?」


 マキーシャの言葉に頷く。

 そして、懐から銀貨100枚の詰まった袋を机に置いた。


「取り敢えず、前金として銀貨100枚になる」


 リョウがその袋を受け取り、中身の銀貨をシシーと共に数える。

 これは別に失礼な事ではなく、依頼人によっては金額を誤魔化している事があるので、その場で互いに数えるのが通例だ。


「確かに100枚あるよ」


 数え終えたリョウとシシーが袋に銀貨を戻す。

 これでもし、次に数えた際に枚数が減っていたとしても、俺に責任は無い。

 リョウが袋を荷物袋に入れると、マキーシャと握手してその日は別れる。


 それじゃ、二日後までに必要な物を準備するか。




 そして、二日後。

 幽霊屋敷の前に完全武装のマキーシャ達と、いつもの恰好の俺が立っている。

 今回、俺は棍は使わずに帯刀している。

 室内戦が容易に想定出来るので、いつもの棍だと長過ぎるのだ。

 刀も割合長いが、棍よりは短い。


「アタシ等はシシーの魔法付与をして貰えるけど、アンタはどうするんだい?」


「あぁ、俺には不要だ」


 マキーシャに魔法付与の事を聞かれたが、俺の刀は元々が万能に仕上げてあるので問題無い。

 獄雷Lv10という特殊な魔法付与がされて、常に刀身がうっすらと青白く放電している。

 まぁ昼間だと気が付かないだろうけどな。


「まぁとにかくだ。まず一気に屋敷に突入する」


 俺の言葉にマキーシャが頷く。

 幽霊屋敷の敷地にも、相当数のゴーストがいるのを確認出来るが、外で戦えば三人が物量で押し負ける。

 そうならない為に準備をしてきたが、外では流石に人の目がある。

 なので、まず屋敷に入ってしまう事にした。


「話だと敷地にもいるって言われてたと思ったけど?」


 シシーが二人に魔法付与を行いながらこちらを見てくる。


「如何せん数が多過ぎる。なんで一気に大元を叩く」


「まぁ依頼主がこう言ってるんだし、アタシ等はそれに従うまでさ」


 マキーシャが魔法付与を受けた斧を担ぐ。

 斧は刃の部分が紅く燃えているが、触れている髪や皮膚が焼けるような事は無い。


 予想はしてたが、あんまり効率は良くないな。


 鑑定眼で見た結果、斧に掛けられたのは『魔炎Lv2』という魔法属性の炎だ。

 確かにゴーストにも有効だが、別に炎を出す必要はない。

 俺なら、炎を内部循環させて灼熱化させる事で消費魔力を抑える方法を取る。

 炎の分、魔力が無駄になるからだが、それを今説明する気はない。


「それじゃゴースト退治を始めようか」


 俺の合図で、マキーシャを先頭に屋敷に向かって走り出す。

 そして、敷地に踏み込んだ瞬間、あの威圧感が全身を襲うが、今回は気にする必要はない。


 今から『アンタ』を倒すからな。


 前方左右と白いもやの様なゴーストが現れるが、マキーシャの振るう斧で正面のゴーストは焼き払われ、リョウの剣が左のゴーストを切り払う。

 そして、右にいたゴーストは俺の居合で両断し、消滅する。

 シシーは魔力の温存に努め、屋敷内に入ってから頑張ってもらう。



 そして、その後も数度の襲撃を受けたが、難なく突破して屋敷の玄関に到着。

 両開きのそこそこ大きな扉に、巨大な南京錠が付けられている。

 テンドラムから預かっている鍵を取り出すと、それで南京錠を外して扉を開ける。

 マキーシャが最初に中に入り、リョウ、シシー、俺の順で中に入ると扉を閉める。


「よし、まずは第一段階突破だな」


「で、こんな無謀な方法でこの先どうするんだい?」


 俺の言葉にマキーシャが斧を構えたまま聞き返した。

 そう言うのも無理はない。

 現在、俺等の周囲には白い靄が大量にいるんだから。

 ちなみに、光源はマキーシャの斧から出ている魔炎のみ。


 探知レーダーを確認すると、真っ赤だな。


 だが、慌てずに俺の『威圧』を解放する。

 瞬間、白い靄の様なゴースト達が一瞬で霧散していった。


 俺の持つスキル『威圧』は、意志力の弱い存在に対して絶大な効果を誇る。

 相手を怯えさせたり、モンスターが戦わずに逃げたりする。

 当然、ゴーストも例外ではなく、低級ゴーストなら瞬間蒸発するだろう。

 探知レーダーにも、俺の周囲にいたゴーストの反応が消えている。


 まぁ、それでもその効果範囲外は真っ赤だけどな。


「い、今のは…」


 シシーが杖を握る手に力を込めて呟く。

 マキーシャは斧を、リョウは盾を構えている。


 ただし、俺に向けて。


「敵、あっち、俺、味方」


 俺の言葉を受け、三人が慌てて向き直す。

 無理も無い。


「まぁその前に、渡す物があるんだがな…」


 そう言って俺のインベントリから、いくつかのアイテムを取り出す。


 白い刃の斧、同じく白い剣と盾、赤い水晶が先端に嵌め込まれた白い杖。

 これ等はゴーストにも攻撃が通る魔法武器だ。


 二日で用意するのはちょっと厳しかったが、何とか間に合った。

 この二日間、宿に籠ってインベントリの中にあった素材から、彼女達用の武器を自作していたのだ。

 ちなみに、全部完成したのは今朝だったりする。


「こ、コイツは?」


「今回のゴースト退治に使おうと思ってな。準備して置いた」


 斧は、斧術Lv4、強打Lv4、強靭Lv4、自動修復Lv2、神速Lv3、体力増加Lv4、魔炎Lv4。

 剣は、剣術Lv4、連撃強化Lv2、強靭Lv4、自動修復Lv2、神速Lv4、魔雷Lv4。

 盾は、物理耐性Lv4、魔法耐性Lv4、強靭Lv4、自動修復Lv3、体力増加Lv3。

 杖は、魔力増加Lv4、詠唱加速Lv3、強靭Lv3、自動修復Lv2、範囲拡大Lv3、聖魔Lv4。


 俺、頑張った。


 まぁ専用の設備が無いから、武器の強化は4までしか出来なかったんだが……


 それでも、ただの鉄の武器より十分効果が高い。

 ゴースト相手なら十分通用する範囲だ。


「こ、これ、魔剣?」


 リョウが剣を手に取る。

 シシーは新しいロッドと、今まで使っていたロッドを見比べている。


 まぁ自作品だけど、魔剣の部類かなぁ……


「まぁ自作品だからなぁ…魔剣に含んでいいのか……」


「「「自作!?」」」


「取り敢えず、ゴーストが来てるぞ?」


 その言葉で、マキーシャが振り返り様に新しい斧を振う。

 斧の切っ先に触れたゴーストが、あっさりと両断されて消滅した。

 リョウが振った剣も、ゴーストをあっさりと消滅させる。


「聖なる光よ!セイントフレア!」


 シシーの放った光の玉が複数のゴーストを消し飛ばす。

 が、その光の玉のサイズは大人を包めるサイズ。


 それを見たマキーシャとリョウ、更に放ったシシー本人も固まっている。


「んーやっぱり拡大Lv2だとアレが限界か……」


 最大まで強化していれば、今の一撃で正面部分のゴーストは全て消滅させられたはずだ。

 屋敷を手に入れたら、本格的に強化出来る設備を揃えるべきだろうか……


 そんな心配を他所に、三人の視線がこっちを向いていた。




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