第55話
※主人公は不在です
王牙がエーナル達と王都に向け、出発してから2日後。
サガナでは新たに発見された迷宮への調査隊を編成していた。
見付かった迷宮は所謂『平原型』と言う、迷宮の中に広大な平原を持つ特殊な物だった。
このタイプの迷宮は探索するには時間こそ掛かるが、階層自体は少ない事が大半で、従来の迷宮で確認されている物で、最大でも5階層までだ。
更に、今回は恐らく生まれたばかりの迷宮である為、階層自体も2階層くらいしかないだろうと予想されている。
冒険者ギルドでもそれを踏まえ、銀級とギルドが許可した冒険者に調査を依頼する事になっていた。
ギルドマスターであるクックは、腕を組んで机に広げられた書類を睨んでいた。
今回の調査の為に依頼する人員の選定作業だが、それ程悩むべき人数では無い。
それでも悩んでいるのは、その中に神威がいたからだ。
これまでの実力や、従魔としているフェンリルのリルがいる事から、本来なら問答無用で依頼を出したい。
だが、もしもの事があった場合、王牙に何を言われるかと言うより、何を仕出かすか判らない。
まぁ同行する冒険者にはマキーシャ達や、ブラウとストレアがいる。
本当なら、神威の代わりにジーナ達に依頼を出したかったのだが、数日前から大森林の調査依頼でサガナにはいない
ジーナ達が戻ってからとも考えたが、ダンジョンは物によっては貴重な資産になるので、なるべく早く調査するように領主様からも指示を受けている。
万が一の事は無いだろう。
そう考え、6人に対して調査依頼を出す事にした。
ただし、調査するのは1階層のみで、下への階段があった場合、降りずに場所だけを記録、数日掛けて諸々を調査する事になった。
全員が部屋に集められ、調査の概要を聞く。
もちろん、依頼を受領するか拒否するかは自由であるが、全員これを受諾した。
ただ、マキーシャ達はグラップグリズリー戦で破損した装具がまだ直っていない。
コレに関してはギルドの方でレンタルする事になったが、損失は考えなくて良いと言う。
本来なら損失分は報酬から差っ引くのが普通だが、今回は未踏破迷宮の調査と言う事で、サガナとしては必要経費と割り切ると言う考えだ。
もしも、この迷宮で上位魔獣やレア種が確認出来れば、サガナとギルドにとって大きな収入源となる。
いなかったとしても、平原迷宮と言うのは色々な事に使えるので、それなりに収入は上がる。
マキーシャ達がレンタル出来る装具を選び、全員が新しい迷宮へと向かう。
迷宮の入口は草原の中にあり、そこだけ土が盛り上がり、洞窟の様になっていた。
その前にギルドナイトが数名と、連絡用の馬が数頭繋がれている。
もしも迷宮から魔獣が出て来た場合、ギルドナイトが応戦し、対応し切れなかった場合、馬を使ってサガナに連絡する為だ。
ブラウがギルドナイトに調査依頼の報告と、予定を伝える。
正式に依頼された物である為、ギルドナイト達が入口を閉鎖していた鎖を外す。
「それじゃ、慎重に行こう」
ブラウの声に全員が頷く。
今回の目的はあくまでも1階層のみの調査になる。
発見した冒険者の話だと、夜に入ったのに中では太陽が昇っており、恐らく1日中晴れのタイプだと言う。
ブラウを先頭に、マキーシャ達、そして神威とリル、最後にストレアの順で洞窟を下りて行く。
そして、暗い階段を降り切ると長い直線通路となり、遠くに光が見える。
此方からは光の向こう側は見えない。
もしも魔獣がいた場合に備え、ブラウが剣を抜いたのを切っ掛けに、全員が武器を構えた。
そして、ゆっくりと警戒しながら全員がその光を潜ると、そこは真昼間の広大な平原になっていた。
足元の草は踝程度しかなく、まばらに木々が生えている。
周囲を見回すが、別段普通の平原であり、振り返れば地上にある洞窟と同じように、出て来た所も洞窟となっていた。
リョウが荷物の中から赤い布の付いた旗を取り出し、それを洞窟の脇に突き刺して固定する。
この旗は『起点の旗』と呼ばれる魔道具であり、対になる『終点の針』と呼ばれる方位磁石のような魔道具に反応する。
これで此処から入った事が判るようになり、もしも迷ったとしても此処に戻って来れるようになっているのだ。
リョウが少し離れて小さな方位磁石の様な魔道具が、ちゃんと作動している事を確認する。
「見た所何もないね」
マキーシャが呟きながら、改めて周囲を見回す。
確かに何もない。
普通なら、何かしらの生き物がいてもおかしくないが、見えるだけでも草と木くらいしかない。
「取り敢えず、先に進んでみよう」
ブラウが剣を鞘に戻し、歩き出す。
全員が同じように武具を戻して、後に続く。
神威の探知レーダーにも赤い点が無い事から、この近くに魔獣はいない。
何より、リルが警戒していないのも大きい。
そうしてしばらく進んでいると、遠くの方に何か黒い物体が見えてきた。
ストレアが荷物から双眼鏡を取り出して確認する。
「あれは……多分、黒色羊の群れ」
「黒色羊って……マジかい?」
「黒い毛に金色の角、多分、間違いない」
ストレアの言葉にマキーシャが驚いている。
黒色羊と言うのは、魔獣の中でも結構なレア種で強さは並だが、その毛と角が高い金額で取引されている。
黒い毛は紡げば最高級の糸になり、角は加工し易く装飾品として高い需要がある。
ちなみに、現在確認されている生息域は、獣王国と魔王国の境目くらい。
そこで大事に飼育されている僅かな分が、市場に流れているのみなのだ。
もし、本当に黒色羊だった場合、大発見である。
「他に何か見える?」
「少し待って……」
シシーの問いにストレアが双眼鏡を覗きながら視線を動かす。
しばらくして、その視線がある方角で止まった。
そして、双眼鏡を下ろしてゆっくりと息を吐き、双眼鏡を改めて覗く。
「何かいた?」
「……多分だけど、ギュガスオーガ」
その言葉に神威とリル以外が唖然としている。
ギュガスオーガと言うのは、オーガ種の中でも特異な進化を遂げた、特殊個体である。
体長は2メートル以上あり、知能こそそこまで高くは無いが、簡単な罠を仕掛けたり、単純な力だけでもかなり強い。
外では金級クラスの冒険者が集まって討伐する様な魔獣である。
「どうする?」
「倒しちゃえば良いんじゃないの?」
ブラウの言葉に、簡単に神威が答える。
ギュガスオーガの恐ろしさは駆け出し冒険者でも知っている事だが、生憎、神威は別に気にしていない。
どんなに恐ろしい相手であっても、父である王牙や炎尚達に鍛えられた実力は伊達では無い。
「簡単に言うが……」
「それに、方角から考えると、そのオーガの狙いって黒色羊じゃない?」
それを聞いてブラウがストレアに視線を移すと、それに気が付いたストレアが頷いた。
黒色羊以外に、ギュガスオーガが狙う様な魔獣は近くにいない。
別に神威にとっては黒色羊は倒されても良いが、サガナの事を考えると黒色羊は保護しておきたい。
「よし、ギュガスオーガ以外に危険な魔獣はいないか?」
「……見える範囲には居ないみたい」
ストレアが周囲を再確認するが、ギュガスオーガ以外には居ないようだ。
それを聞いて、ブラウ達が頷き合い、即座に戦術を組み立てる。
と言っても、ブラウとリョウが真正面で攻撃を惹き付け、マキーシャと神威が遊撃し、シシーとストレアが魔法で援護、リルはもしもの時の為に離れて待機する。
ギュガスオーガの真正面に立った二人が盾を構え、スキル『ウォーブレイブ』と『ウォークライ』を発動させる。
『ウォークライ』は相手の注意を自身に惹き付け、『ウォーブレイブ』は周囲にいる味方の攻撃力を上げるスキルだ。
ギュガスオーガが持っていた巨大な棍棒を振り抜き、二人に対して攻撃を始める。
それを掻い潜り、ブラウの剣がギュガスオーガの横腹を薙ぎ切る。
だが、その硬い体表に僅かな傷を付けただけだった。
それを確認した後、逆側をリョウが斬り付けるが、こちらも同じように僅かに傷が付いただけである。
「私達の攻撃力じゃダメージには程遠いわね」
「『アックスバスター』ッ!」
リョウが呟いた瞬間、背後に回り込んだマキーシャの一撃がその背に炸裂した。
バキリと凄まじい音が響き、ギュガスオーガが倒れ込む。
『アックスバスター』は一撃特化の斧スキルであり、単純だがその威力は凄まじい。
直撃したギュガスオーガの背には、大きな切り傷が出来上がっており、その威力を物語っている。
だが、ギュガスオーガにとっての最大の災難は此処からだった。
「『鬼炎撃』!」
倒れ込んだギュガスオーガの目の前に、跳び込むようにして入り込んだ神威の炎を纏った拳の一撃が顔面に炸裂する。
炸裂した瞬間、炎がギュガスオーガの顔面から噴き出す。
ギュガスオーガが叫び声すら上げられず、炎を消そうと両手で顔面を抑える。
「『フロストエッジ』!」
「『ウィンドショット』!」
そこにシシーとストレアの魔法が追撃として放たれる。
『フロストエッジ』は氷の刃を射出する魔法であり、切れ味は籠められた魔力に依存する。
今回は牽制程度にしか籠めていないので、当たった部分の体表を僅かに切っただけになった。
『ウィンドショット』は風の弾丸を射出する魔法。
当たった場所で炸裂し、打撃としてもダメージが残る為、体表が硬かろうが問題無い。
それが左膝に直撃し、再びギュガスオーガを転倒させる。
「『業火一閃』!」
神威が炎を纏ったままの拳を地面に叩き付けた瞬間、倒れたギュガスオーガの頭部の下から青白い炎が噴き上がり、その頭部が一瞬で消滅した。
相手の『鬼炎撃』を当てた場所に『業火一閃』で追撃する。
コレが『鬼炎撃』からのコンボスキルである。
ゆっくりとギュガスオーガが消えて行き、後に残ったのは牙が数本と皮だった。
牙は装飾品にも武具の素材にもなり、皮は装具の素材として高く取引されている。
「……今のは……一体……」
青白い炎で消滅したギュガスオーガを見ながらブラウが呟く。
冒険者としてそれなりに長く活動し、アーノルドと共に色々な場所を巡っているが、神威が使ったスキルは見た事は無かった。
『鬼炎撃』には似ているスキルはあるが、『業火一閃』に関しては見た事が無い。
唖然としていると、その肩が叩かれた。
振り返ると、マキーシャがいた。
「あの親子に関しちゃ気にしない方が良いよ。」
そう言われて、神威の方を改めて見る。
神威は残された牙と皮を拾って、リルの背にある鞄にしまっていた。
この鞄は柴隊に渡されている物と同じ物で、調査が終わった際にギルドに提出して、査定して貰う物だ。
収納し終わった後、神威達が此方にやって来る。
「それで、この後は?」
シシーが聞くが、周囲にいるのは黒色羊の群れだけなので、移動を再開する事にした。
それから出会った魔獣は『ニードルビートル』『フロストラビット』『フレイムスワロー』と言う、どれもが一癖も二癖もある魔獣ばかりだった。
『ニードルビートル』は巨大なヘラクレスオオカブトの様な昆虫型魔虫で、地面にいる間は楽な相手だが、飛んだ場合、その超硬質な角で鋼鉄の盾ですら貫通する突進をしてくる。
『フロストラビット』は、白い雪兎の様な外見で愛くるしいが、見た目とは裏腹に超低温の『息吹』を使用し、相手を凍り付かせて来る。
更に、その脚力も強く、蹴りは凄まじい威力を発揮する他、敵わないと見るや、その脚力であっという間に逃げてしまう。
『フレイムスワロー』は燃える羽根を持つ燕で、空中から一気に突撃し、その羽根で焼き切っていく。
しかも、一撃離脱型の戦法で、攻撃を仕掛けた後は一気に上昇して此方の攻撃は届かない。
だが、今回は相手が悪かった。
ニードルビートルは空中に飛び上がる前にリョウとブラウの『シールドバッシュ』で叩き潰され、飛び上がった個体もマキーシャの斧と神威の棍で横から叩き落された。
フロストラビットは極寒の息吹を使った瞬間、まったくダメージを受けないリルに噛み砕かれた。
フレイムスワローは攻撃の瞬間、シシーとストレアに迎撃されて撃墜された。
「ここまで面倒な魔獣ばかりの迷宮は珍しいな……」
それがブラウの素直な感想だった。
通常、平原型迷宮と言うのは、基本的に平原にいる魔獣が中心となって出現する。
それこそ、迷宮の中であったとしても食物連鎖はあるのだが、ここまでに出会った魔獣には統一性も無い。
黒色羊、ギュガスオーガ、ニードルビートル、フロストラビット、フレイムスワロー。
ギュガスオーガは主に岩場が多い山岳地帯。
ニードルビートルは森林地帯。
フロストラビットは氷山が多い極寒地帯。
フレイムスワローは高温の火山地帯。
唯一、平原にいるのは黒色羊だけで、他は全く別の場所にいる事が多い。
更に、この中では食物連鎖の底辺は草を除けば黒色羊だけだ。
「これからどうする?」
「取り敢えず、今日はここまでにして野営しよう」
マキーシャとブラウがそう決定する。
ただ、周囲は常に昼間である為、見通しは良い。
そんな中である程度安全だと判断した場所にテントを張り、交代で仮眠を取る事になった。
迷宮調査は始まったばかりである。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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