第52話
取り敢えず、ギルドの一室で頭を抱えていたエーナルを確保。
そして、目の前で正座させ、報告を聞く。
レイの報告を聞いたじゃないかって?
本人からもちゃんと聞いておかないと、もしかしたら齟齬があるかもしれんしな。
そして、エーナルが話し始めた。
王牙と別れてから冒険者ギルドに併設されている酒場で一息吐く。
正直な話、あの男といると緊張する。
それは憧れとか、羨望とかでは無い。
恐怖。
それも、自分がどんなに努力した所で届かないであろう高みの実力。
サガナのライカンスロープ退治の後、強くなる為に一時的に特訓してもらっ……
訂正しよう、あれは特訓では無い。
アレは地獄だった。
一ヶ月、迷宮の最奥に軟禁され、目が覚めてから寝るまで只管に訓練。
筋トレから個人での戦闘。
どれも最後まで相手にならなかった。
しかも最終日に至っては、無手の状態からの迷宮脱出。
恨みはしたが、感謝もしている。
確かに自分は強くなっていた。
そうすると、初めて見えてくる事もある。
仲間の大切さ。
友人達の有難味。
家族の暖かさ。
どれも、ここ数年忘れていた事だ。
白金級に上がる為、焦りに焦っていた。
だが、遂にそのその試練を突破し、白金級になる事が出来る。
それがあまりに嬉しく、そして、今まで寂しい思いをさせていた家族に対してすまないとも思った。
しかし、これで王に対して、父上の恩赦を願う事が出来る。
そう思いながら、仲間達と共に祝杯を挙げていた。
本番はまだ先だし、叔父の事もある。
更に、自分達を狙った暗殺者もいる。
問題は山積みだが、今、この時くらいは良いだろう。
そう思っていた。
あの瞬間までは……
店の扉が開き、金属鎧の様な音を響かせて何かが入ってくる。
今まで喧騒に包まれていた酒場が、ゆっくりと波の様に静かになっていった。
そこにいたのはフルプレートメイルと呼ばれる全身鎧に身を包んだ男達。
その兵士が掲げている紋章は、蔦の絡んだ白亜の城。
その後ろから、ゆっくりとした足取りで巨漢の男が現れた。
付き出た腹に、太い手足、香油で押さえつけた銀の頭髪に、ぎらつく様な緑の瞳。
ゲルィン=ルテル=モーラス。
それがゆっくりと酒場の中を見回す。
「おぉ、そこにいるのはエーナルでは無いか」
そう言いながらのしのしとエーナルのいるテーブルに歩いて行く。
その表情は、どうせ失敗したのだろうと思っているのか、ニヤニヤしている。
「約束の最後の年だが、試験はどうなったのだ? うん?」
ゲルィンは様々に手を伸ばし、ずっと妨害し続けてきた。
毎年、無理難題を吹っ掛け、挑ませては失敗させる。
その失敗の最中に命を落とした所で何の問題も無い。
今回は念には念を押し、高い金を払って『静かなる暗殺者』と言う最強の暗殺者まで差し向けた。
今回もギルド職員を買収し、無理難題を吹っ掛ける様に手配し、それでも諦めずに迷宮に入った所で暗殺する。
後は、迷宮自身が死体を処分してくれるのだから証拠も残らない。
それに、もし買収がバレた所で、自分には絶対に到達しないように手配してある。
今回、この餓鬼が失敗すれば……
何かと目障りだった兄も処刑され、自分は年若い美少女である娘を娶る。
しかも、バシーナ家の当主となって。
そうなれば、何もかもが思うが儘だ。
「無事に合格しました。なので約束通り、妹との婚約は破棄になりますよ」
一瞬、エーナルの返答にゲルィンの表情が凍り付いた。
合格した。
つまり、高い金を払ってきた事が全て無駄になっただけでなく、思い描いていた事全てが水泡に帰した。
だが、ここで慌てればそれこそ相手の思う壷になる。
エーナル達を見れば、多少顔が赤くなっている事から、酒を飲んでいたのだろう。
「それはそれは……合格おめでとう、余程、強い仲間に恵まれたんだな」
そう言いながら、エーナルの仲間の3人を見る。
「しかし、良く見れば、どれもみすぼらしい……よくそんなので合格出来たなぁ……」
「みすぼらしいってのはどういう事ですか?」
ボソリとゲルィンが呟くと、それが聞こえたのかイーランが冷たい視線を向ける。
「何、別に大した意味は無い、白金級とはボロでもなれるモノだと思っただけだ。質が落ちてしまったのかな?」
「言って良い事と悪い事があると思いますが……」
ゲルィンの言動は、明らかにエーナル達を馬鹿にしている物だった。
元々の装備は全て消耗し、今は間に合わせの装備になっているが、そのどれもがきちんと手入れがされている。
「それとも何か、ギルドマスターに何か貢いで上げて貰ったのか?」
ゲルィンがねめつける様に視線を這わせる。
「皆、悪いがこれまでにしよう……」
エーナルが立ち上がり、代金を支払おうとする。
それに次いでテラン達も立ち上がる。
「おや、何も言い返さない所を見るに、本当の事だったのか。それとも、サガナで会ったとかいう男にでも上手い処世術でも学んだかね?」
「アンタには関係無いし、約束は約束だろう」
「そう言う訳にもいかんなぁ……実力で上げた訳でないのなら、約束は不履行とさせてもらうしかあるまい?」
エーナルがそう言って去ろうとした時、ゲルィンが溜息交じりでそう言い放った。
「ふざけるな!」
「何もふざけてはおらんよ、実力主義の冒険者が貢いで白金級にあがり、武家でもあるバシーナ家の当主になるなど、そちらの方が問題ではないか? それでは、約束通りには出来まい?」
ニヤニヤしながらエーナルに向けてゲルィンが言う。
「ならば、後でギルドマスターに確認を取れば良いだろう!」
「貢がれた相手が『はいそうです』と答える訳もなかろう、つくづく阿呆なのだな」
「今回の試験、我々は転移石を作る為の指定された素材を集めて来ると言う物でした。10階層まで行き、無事に収集を終えたので合格となったのです」
苛立つエーナルに変わり、テランがそう答える。
転移石の重要性は誰でも理解出来る。
ならば、それを試験内容にしたと言うのも頷ける事だが、大事なのはそこでは無い。
「ふむ、連れていた男が余程強かったのだろうなぁ…」
「どういう意味だ……」
「何、他人に戦わせて自分は高みの見物と言うのは、どういう気分かと思ってねぇ……」
つまり、ゲルィンはこう言っているのだ。
エーナル達は何もせず、同行していた他の冒険者が素材を集め、エーナル達に渡したと。
「ふざけているのか?」
テランの言葉に、ニヤニヤしながらゲルィンがエーナルの方を見ている。
その表情は明らかに侮蔑した物で、まるでそうだと決めに掛かっている。
この場に王牙がいれば、笑い飛ばしていただろうが、運が悪かった。
「他人に戦わせ、自分は高みの見物と言うのは叔父上も同じではないか」
「何?」
エーナルの言葉に、初めてゲルィンの表情が変わった。
「自身では戦えず、ゴーレムを使って後方にいる。ゴーレムに戦わせ、自分は高みを決め込んでいる、そう言う意味では、まったく同じではないですか?」
まさかの反撃にゲルィンがたじろぐ。
今まではそんな事は無かった。
試験に失敗した後、こうやってからかう事で苛立たせ、試験中の不可解な事を忘れさせていた。
「父上も嘆いていた。弟には魔術の才はあっても武術の才は無い、と」
それがトドメだった。
ゲルィンにとって、兄であるエーナルの父は昔から気に障る相手だった。
何をやらせても結果を残し、稀代の天才とまで言われ、若かった頃の王への暗殺を防いだ事で男爵から順々に登り公爵になった。
更に、その時の事から王とは親しくなり、友人として数々の相談に乗っていた。
危機を救ったのは自分も同じハズなのに、自分には異名だけでそんな事はなかった。
妬ましかった。
憎かった。
羨ましかった。
兄のいる場所に自分が立つ。
だが、いつまで経ってもそんな事は出来ない。
いつしか、兄の全てを奪う事だけを考えていた。
そして、エーナルが金級に上がった時、罠を仕掛けた。
実直な兄は見事に罠に掛かり、汚職で捕縛された。
だが、今までの実績から、即処刑では無く終身刑に近い牢屋送り。
姪も母に似て美しく、奪い取る算段は付いた。
だが、それを甥が邪魔をしてきた。
なので、その希望すら叩き折る為に約束をした。
『5年で白金級になれば婚約は破棄する』。
あの兄ですら金級止まりだったのだ。
それに、幾度も妨害した為、遂に今回の試験が最後だった。
それなのに……
そこからは、エーナルとゲルィンの罵倒合戦だった。
テラン達はエーナルを、兵士達がゲルィンを止めようとしたが、まったく意に帰さずに罵倒し合う。
そして、決闘騒ぎとなってしまった。
エーナルから報告を聞き、頭を押さえる。
聞いた限り、確かに俺がいれば笑い飛ばした上で煽って終了する様な話だった。
エーナルは直ぐに頭に血が上るのが欠点だな。
「取り敢えず、これからどうするか考え付くか?」
俺の言葉で全員が沈黙する。
やはり、相手の『城級ゴーレム』がネックなのだろう。
聞いた話では、最上級ゴーレムであり、嘗ては帝国軍すら壊滅させる程の強敵。
そんな奴相手では、分が悪い。
冷静になったエーナルも、やっとそれを理解したようだ。
まずはゴーレム対策をするとしよう。
エーナル達から出来得る限りの情報を聞く。
やはり、パワータイプであり、まともにやり合えばエーナル達に勝ち目は薄い。
そうすると、やはりここはマトモに相手しない方が良いな。
大前提として、俺は手を貸す事はしない。
恐らく俺が手を貸して勝利した場合、それに対して難癖を付け、決闘自体無効だと言うハズだ。
なので、エーナル達だけで勝利出来る方法を考える。
「それじゃまず作戦を伝える」
そう言って、俺はエーナル達に決闘時の作戦を説明した。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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