第51話
部屋に跳び込んだエーナル達に気が付いたディノリッパーが、慌てて此方に振り向く。
たが、完全に整う前にイーランの矢がディノリッパー達の足に突き刺さる。
そして、手前のディノリッパーにテランのシールドバッシュが叩き込まれ、エルの氷魔法がもう片方のディノリッパーを氷漬けにする。
その間をエーナルが通り抜け、奥のディノリッパーに向かって駆け抜けて行く。
奥にいたディノリッパーは口から蜜を垂らし、その尾をエーナルに向かって横薙ぎに振り抜いた。
エーナルはディノリッパーの尾をジャンプして回避し、そのままディノリッパーの首を斬り飛ばした。
その3匹を倒した後、ドロップしたのは……
「魔石が2個の尾が1本か……」
目的は試練用の魔石集めだが、この尾も需要がそれなりにある。
元々、鋭い切れ味を誇るのでそのまま武具の素材になり、高値で取引されている。
だが、エーナル達の目的は魔石だ。
しかし、今回はエーナルだけでもクリア出来ればいので、これ以上は彼等の判断だ。
「……よし、戻ろう」
エーナルがそう言う。
別に此処に来れるのは今回だけでは無い。
無事に試練を突破した後、また来れば良いのだ。
しかし、無事に帰るのは難しそうだ。
当然、戻ると言う事はあの暗殺者に襲撃される可能性が高い。
さて、どうなるか……
行きと同じように着ぐるみを着て階層を上がって行く。
だが、暗殺者に襲撃を受ける事無く外に出てしまった。
コレは予想外。
取り敢えず、王都に戻り冒険者ギルドでギルマスに報告。
直ぐに手続をすると言うので、エーナル達を残して俺は此処で退室。
その足で王都の門を出て平原を歩く。
しばらく歩き、王都からかなり離れた所で足を止める。
周囲には何もいない。
「さてと、ここ等で良いだろう?」
そう言って振り返る。
当然、そこには誰も居ない。
そう、誰も居ないハズだった。
瞬間、その場に黒い装束を身に纏った暗殺者が現れた。
そう、ダンジョンの中からずっと後を付けられていたのだ。
「……何故……」
「確かにお前さんの隠蔽は完璧だよ」
そう、完璧だ。
故に、判り易かった。
「俺達は5人いたが、『存在感』は6人分あった」
探知レーダーも隠蔽で欺ける。
だが、人と言うのはその場にいるだけで、ある種の『存在感』がある。
更に、探知レーダー以外に別の方法で察知する方法も存在している。
それが、『魔力放射探知』と呼ばれる方法。
これはユーザーの中でも、かなりコアなユーザーしか知らない方法だ。
と言うより、上位陣は皆習得している。
そして、これは『スキル』では無いので、習得するには純粋な努力しかないのだ。
この方法、上位ユーザーが殆ど習得している理由として、簡単に言えば『探知レーダーを欺くモンスターが増える』からだ。
自分自身の放射する魔力には一定のパターンがある。
例えるなら、水面に落ちた水滴で波紋が出来上がり、その波紋の途中で何かがあれば遮られる。
それは木であったり、石であったり、壁であったりと様々だが、大きく遮られるモノがある。
それが同じように魔力を放射している『何か』である。
なので、探知レーダーを欺いてもコレには引っ掛かる。
そして、慣れればその放射範囲を自分でコントロールし、ワザと広げる事も出来る。
俺の最大範囲は半径30メートル。
その範囲内で常に隠蔽している相手がいれば、そのパターンを把握し、常に監視出来る。
周囲に人が大勢いたとしても、何の問題も無い。
それとは別に、俺自身の能力とも言うべき方法。
それが『存在感』と言う、曖昧なモノを感じ取る方法。
例えるなら、部屋に入ろうとした時、先に誰か入っているなぁと感じる時があるだろう。
それが極端に尖った性能とも言えば良いだろう。
前にクソジジイに相談した時、コレは俺自身のこれまでの経験で培われたモノで、他人が習得するのは無理だと言われた。
その後は……相談した事を後悔した。
簡単に言えば、修行内容が濃くなった。
その感覚に、この暗殺者は引っ掛かった。
そして、いつ襲撃してくるか注意していたのだが、途中からターゲットがエーナルから俺に変わっていたようだ。
どうやら、ターゲットであるエーナルより先に、俺を始末しないと駄目だと判断したらしい。
迷惑極まりない話だが、大人しくやられる気は無い。
そうして、この暗殺者との戦闘が始まるが……
正直な話、全力が出せる状態であるなら何の問題も無い。
繰り出される攻撃を全て弾き、逆にカウンターで暗殺者に着実にダメージを与える。
身体能力だけ見るなら、この暗殺者はかなりの腕前で、上位ユーザーにも匹敵するだろう。
だが、匹敵するだけだ。
それだけでは、俺には届かない。
冷静に、突き出された短剣を棍で打ち上げ、ガラ空きになった腹部に拳を叩き込む。
暗殺者が吹っ飛ばされ離れた所に着地するが、腹部を押さえて膝を突く。
現在、俺は武神スキルを発動はしていない。
それでも、この圧倒具合。
ここまで戦って、この暗殺者も実力の差がどれ程あるのか理解しているだろう。
だが、油断はしない。
この暗殺者は、過去に白金級すらも倒しているのだ。
そんな相手がこんな簡単に終わるはずが無い。
それを察したのか、暗殺者が此方を睨んだまま、立ち上がる。
「……やり難い相手だ……」
そう言いながら、口元のマスクを剥ぐ。
そこには皮膚が剥がれ落ちた様な肉と、剥き出しの歯があった。
グロいな。
そして、腰の袋から何かを取り出し、それを口に放り込んだ。
「最早使うまいと思ったが……」
何かを噛み砕いた瞬間、暗殺者を中心にして黒いオーラの様な物が噴き上がる。
そして、暗殺者が一気に跳び込んでくる。
その速度は先程までの速度では無く、異常な程上がっている。
更に突き出された短剣を受け流した際、その筋力も倍近く上がっていた。
先程噛み砕いたのは、どうやら何かしらの能力を上げるアイテムだったようだ。
だが、そんなアイテムが何のデメリットも無い訳が無い。
恐らく、一定時間能力を上げる代わりに、効果時間が終了した際、能力がガタ落ちするのだろう。
しかし、この速度と攻撃力を考えれば、白金級を倒したと言うのも納得出来る。
今まで圧倒していた相手が、急に能力アップしてくるのだ。
その差に反応し切れず、敗れたのだろう。
だが、この黒いオーラは見ていてかなり不快に感じる。
即座に、棍をインベントリに収納し、武神を発動。
青白いオーラを纏った拳を暗殺者に叩き込むと、黒いオーラが一瞬拳に纏わりついた後、霧散した。
俺の身体に影響は無いようだ。
だが、これではっきりした事もある。
あの黒いオーラは危険なモノだ。
放置すれば必ず悪影響を及ぼす。
ならば、相手の効果時間が切れるのを待つ事などせず、本気で一気に終わらせるべきだ。
ここから一気に俺の攻撃が暗殺者を削っていく。
拳の一撃が暗殺者の身体を抉り、蹴りの一撃が吹っ飛ばす。
吹っ飛んだ後も一気に追撃し、反撃など許さない。
俺の急な攻勢には暗殺者も予想外だったのか、完全に勢いに呑まれている。
そして、徐々にその青白いオーラが右腕に集まっていく。
暗殺者の黒いオーラは、既に最初の時と比べるとかなり小さくなっていた。
さぁ、これで終わりだ。
ワザと大振りな攻撃で隙を作ると、それに反応した暗殺者の攻撃が来る。
本来なら、こんな見え透いた罠に引っ掛かる様な相手では無い。
だが、暗殺者には正常な思考能力は残っていなかった。
それは、効果時間が残り少なくなり、更には俺自身の予想以上の強さに対しての焦りが産んだミス。
そして、それは絶対にしてはならないミス。
その攻撃を最小限の動きで回避し、オーラが十分にチャージされた拳が暗殺者の身体を打ち貫く。
「武神獄龍破ァッ!」
打ち貫いた瞬間、オーラを一気に解放する。
青白い爆発の眩い光が辺りを包み込んだ。
その光が収まった後、そこに立っていたのは俺だけだった。
暗殺者の姿は、影も形も残されていなかった。
そして、俺はその場を後にした。
王都に戻り、暗殺者の件をギルマスのレイに報告する為に冒険者ギルドにやってくると、受付嬢の一人が此方にやってくる。
ただ、その表情を見る限りかなり慌てているのが判る。
そして、要件を言っていないにもかかわらず、直ぐにレイのいるギルマスの部屋に案内された。
どういう事だ?
「やっと来たか! 探していたんだ!」
部屋に入るなり、レイにそう言われるが、此方にも外せない状況だったからなぁ。
どういう事か詳しく説明して貰おう。
レイの言った話の要点を纏めると、俺がいない間にエーナル達は再び叔父と遭遇、その場で売り言葉に買い言葉で、決闘騒ぎに発展してしまったのだと言う。
しかも、その遭遇した場所と言うのが、ココ、冒険者ギルドに併設されている酒場だった。
レイがその騒ぎに気が付いたのは、決闘を受諾してしまった後らしく、これを撤回させるにはエーナル達より上の貴族が介入しなければならないと言う。
レイも一応貴族なのだが、ギルマスでもある為、後からでは介入する事は出来ない。
このままだと、エーナル達が負ける事は確実、と言うのがレイの予想だった。
俺の予想ではその叔父と言うのがいくら強くても、今のエーナル達には勝てないと思うのだが……
その疑問にもレイは答えてくれた。
「叔父の名前は『ゲルィン=ルテル=モーラス』と言うのだが、本人の戦闘力は無いに等しい。だが、問題なのは奴の操るゴーレムなのだ」
ゲルィンは、その知略と膨大な内包魔力でゴーレムを作り出し、戦わせる事が出来る。
過去、帝国の侵略軍の一軍をゲルィンのゴーレム軍が壊滅させ、更にその功績を称えられて、王自身が直々に異名を与えた。
その異名こそ『城崩しのゲルィン』。
何故、城崩しなのかと思ったが、これはゲルィン自身のゴーレムの『等級』が関係していると言う。
ゴーレムにはそれぞれ等級が存在し、下から『尖兵』『騎士』『近衛』『王』『城』となっている。
その城級ゴーレムを操れば、城ですら簡単に崩し落とせる事から、引き継がれる異名なのだと言う。
ゲルィンの前にその異名を持っていた術者は、何十年も前に没しており、帝国の軍を打ち破った功績も合わせ、稀代の術者として持て囃されたと言う。
成程、それが今回の助長の原因でもあるな……
そのゲルィンの操る城級ゴーレム相手では、エーナル達に勝ち目は無い。
だが、決闘にそんなの持ち込んで良いんだろうか……
聞けば、ゲルィンは決闘の条件として『互いの能力を全て使用する』とし、それを良く考えなかったであろうエーナルが受諾してしまったのだと言う。
つまり、相手は確実に出してくる。
エーナル達との特訓から、ある程度の実力は予想出来るが、少なくとも、帝国軍の一部を相手にして壊滅させたような相手では勝ち目は薄い。
となれば……
「俺が介入したら不味いかね?」
「一応、パーティー登録してあるので、問題はありませんが……どうする気ですか?」
俺の質問にレイが聞き返してくる。
どうする気?
そりゃ当然。
「立ち塞がる相手は、倒すまでだ」
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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