第50話
エーナル達を探すのもそっちのけで、店主のドワーフと話し込んでしまった。
彼の名前はガガーナン。
ドワーフの中では若輩者らしく、没した師匠の残した店舗を守っている。
彼自身はまだまともに剣を打った事は無く、店舗にあるのは全て師匠の残した『失敗作』だと言う。
失敗作と言うのは、彼の師匠はオリハルコンソード一本を作る為の練習として様々な剣を打った。
だが、どれも何処か納得が出来ず、お蔵入りとなっていた。
最も、その師匠が失敗作と言っているだけで、他人が見れば充分な出来であるのだが。
師匠は腕が良く、個人受注で剣を作っていたので、生活には困らなかったが、儲けの殆どは酒かオリハルコンに消えた。
そして、没する直前に必要量のオリハルコンが貯まった事で、持てる技術の全てを注ぎ込んでオリハルコンソードが完成した。
その後、師匠は没したが、残されたガガーナンはまだ未熟。
なので、残された失敗作をそこそこの値段で売って、自分自身も腕を上げる為に剣を打っている。
試しに彼が打った剣を見せて貰ったが、御世辞にも良い出来とは程遠い物だった。
まず、剣のバランスがズレていて、構えると違和感。
そして、剣を明かりに翳して見ると、表面が微妙に波打っている。
これもバランスの崩れの原因だろう。
刃もそれの影響か微妙にズレている。
確かに、これじゃ売るのは無理だな。
「確かにこれだと売るのは無理だな……」
俺の言葉にガガーナンがガッカリしている。
しかし、失敗作でも基準値以上を満たしていた師匠も流石だな。
「そういえば、オリハルコンが希少ってのは判ったが、それ以外だと何があるんだ?」
「オリハルコン以外となると……」
そう聞いてみると、ガガーナンが思い出す様に教えてくれた。
この世界、各国で採掘出来る金属がまったく違うと言う。
獣王国でヒヒイロカネ、魔王国でアダマンタイト、妖精国でマギタイト。
そして、王国と帝国でオリハルコン。
聖王国は、龍山にいる龍達を刺激しない為に採掘していないと言うが、過去にはその龍山からドラグナイトと言う鉱石が採取出来ていた。
この5種類が、この世界で流通している希少金属で、どれもが別々の特徴を持っている。
ヒヒイロカネは、オリハルコンより軽く硬いが対魔能力が無い。
アダマンタイトは、オリハルコンより遥かに重いが、非常に硬い上に対魔能力も高い。
マギタイトは、オリハルコンより柔らかくて同程度の重量だが、対魔能力が他よりずば抜けている。
ドラグナイトは、どの金属よりも軽くて硬く、更に対魔能力も高いが、流通していないので、最早伝説の素材となっている。
産出量はどれも同程度だが、どれも武具にすると強力な武具になる。
ガガーナンは将来的に、師匠と同じようにオリハルコン製の武具を作りたいと思っているそうで、今は師匠の知り合いのドワーフに定期的に教えて貰っていると言う。
その後、本来の目的であるエーナル達を探す為に店を後にしたが、あの店にある失敗作と言うのは恐らく、師匠がガガーナンの為に残した物だろう。
そうで無ければオリハルコンソードの為に、全てを捧げたような師匠が弟子を取る事は無い。
そして、師匠の知り合いのドワーフと言うのも、師匠からガガーナンの事を言われていたんだろうな。
まぁ、全て俺の想像だけどな。
それからしばらく武器屋を巡ったが、エーナル達には出会えなかった。
仕方なく、待ち合わせている冒険者ギルドで待機する事にした。
冒険者ギルドの酒場で4人を待ちながら周囲を確認する。
こういった場所では絡まれるのがテンプレだが、そう言った事は無い。
と言うのも、そう言った冒険者は全員ギルマスのレイが叩きのめしているらしい。
曰く、『暴れる元気があるなら自分の相手をして貰いましょう』と言って、再起不能一歩手前程度までボコる。
それ以来、冒険者ギルド内では喧嘩は御法度と言う暗黙の了解が出来上がった。
しかし、いくら待てどもエーナル達は戻ってこない。
外を見ると既に暗くなり始めている。
まさか街中で襲われてしまったとは思えないが……
それとも何かトラブルか?
そう考えていると、冒険者の数人が話しながら酒場の方に入ってくる。
「あの坊主共悲惨だなぁ……」
「バシーナもあぁなっちまうとなぁ……」
バシーナと言うのは、確かエーナルの家名だったな。
どうやら、何かしらの面倒事に巻き込まれたみたいだな。
冒険者達の話に耳を澄ませると、どうやら問題の叔父と遭遇、ネチネチ嫌味を言われていたようだ。
しかし、反撃はせずにその場から移動して行った後、その叔父が笑い飛ばしていたと言う。
会った事は無いが、非常にゲスな奴だと判るな。
よし、その叔父の目論見は全部ぶっ壊すとしよう。
明日はダンジョンに向かって試練をクリアする。
その為に、まずはエーナル達を探すか。
エーナル達はあっさりと見付かった。
門の外で4人で何かを話し合っている。
取り敢えず、門から出て4人に声を掛けるが、どうやらまだ武器は手に入れていないようだ。
なので、ガガーナンの店に連れて行き、4人に新しい武具を買わせる。
そして、明日もう一度ダンジョンに行く事を伝えた。
エーナル達と宿で一泊し、朝になったらダンジョンに向かう。
その間、エーナル達からどうやってあの毒煙を突破するのか聞かれるが、これは見て貰った方が早い。
本当なら絶対にやりたくない方法だが、多分、ここでは俺にしか出来ない方法で突破する。
入口の所で仮設テントにいたギルド職員に挨拶してからダンジョンに入る。
そうしてダンジョンを進んで行くと、昨日の襲われた場所に到着する。
うん、予想はしていたが、まだ毒煙は膝くらいの高さで残っている。
これを馬鹿正直に進めば、確実に力尽きるだろう。
「で、どうするんですか?」
「常に回復魔法を使っても良いですけど、魔力が持ちませんね……」
テランとエルがそう言うが、俺の方法は至ってシンプルだ。
「零式」
そう言いながら、零式を召喚する。
巨大なゴーレムが目の前に出現して、膝を突く。
「よし、テラン達は両手に、俺とエーナルは背中だ」
そう、零式に乗って毒煙を突破する。
ただし、この方法だと俺とエーナルはしがみ付くので精一杯で、攻撃に参加出来ない。
なので、両腕で支えられているテラン達しか攻撃出来ない。
そして何より。
ダサい。
ゴーレムにしがみ付いて移動する訳だから、他人から見られるとかなり変に見られる。
しかし、ゴーレムには毒煙は通用しないので、突破するのは問題無い。
そして、この毒煙のお陰で生物型のモンスターとは遭遇しない。
問題は、この先で通路全体を同じ毒煙で塞がれていた場合だ。
そうなったら……もっとやりたくない方法を取るしかない。
零式に乗って進んで行くと、やはりと言うか、予想通りと言うか、そこには充満した毒煙があった。
こうなると、零式は進めても俺達は進めない。
やはり、あの暗殺者はダンジョン内に潜んで毒煙をばら撒いているようだ。
仕方ない……
インベントリからあるアイテムを取り出す。
それは、緑色をした物。
それが5着、目の前に出て来た。
それを全員に手渡す。
エーナル達がそれを広げて、此方を向いた。
「デザインについては何も言うな、こういう装具だから」
俺が取りだしたのは、5着の着ぐるみ。
ただし、そのデザインは所謂、デフォルメされたカエルだった。
フロッグスーツ
-ランク/A-
カエルの着ぐるみ
装備時、全状態異常を無効化する代わりに戦闘スキルは使用不可になる
防御力は皆無
全状態異常無効化。
これがこのフロッグスーツの利点。
戦闘スキルが全て使用不可になると言うのが難点。
そして、見た目が……
「えっと……つまり、全員戦えなくなると……」
イーランがそう言いながらフロッグスーツをまじまじと見る。
露骨に嫌そうな顔をしているのは、エーナルとテラン。
不思議そうな顔をしているのがエル。
だが、こうでもしないと先に進めないのは全員が理解しているので、全員大人しく着ぐるみを着た。
「まぁ戦闘は零式がいるから問題無い」
零式を先頭にして、毒煙の中に入る。
うん、見た目はともかく、問題無く進める。
全員がカエルの姿なので、ちょっと不気味と言えば不気味だが……
出て来るモンスターは零式が叩き伏せ、斬り飛ばす。
と言っても、元気に動いているのはアーマーゴーレムだけで、他のモンスターは毒煙の影響でいなくなっている。
こうなると、ディノリッパー以外の素材を集めておいたのは正解だったな。
もし、あの暗殺者がディノリッパーまで毒煙をばら撒いて倒していたら問題だが、恐らく、そこまで進んではいないだろう。
俺達と戦闘した後、毒煙を撒きながら進んだとしても、ダンジョンの構造が判っている訳でも無いので、自らの足で調べてから要所要所に毒煙を撒いているハズだ。
当然、そのスピードは俺達に比べれば遅い。
逆に、俺達は既に9階層まで進み、最短ルートを知っている。
そのアドバンテージを活かして一気に進む。
もし途中で出くわしたら、零式を盾にして着ぐるみを外し、俺が再び相手する。
今度は最初から全開戦闘で、一気に戦闘不能にする。
大事なのは、今回のダンジョンアタックで確実に試練をクリアする事だ。
そうして8階層を突破し、9階層に到着する。
前回は、此処でエーナル達の武具が消耗してしまった為に撤退したが、今回はここまでロクな戦闘も無く、ただ移動していただけなので体力の消耗も無い。
後は、この階層に毒煙が無い事と、あの暗殺者がいない事を祈るばかりだ。
ちなみに、8階層に毒煙ゾーンがあった為、少なくとも8階層まではあの暗殺者が来ている事になる。
しばらく周囲を探索するが、毒煙ゾーンが見当たらない事からまだ来ていないのか、それとも毒煙を発生させるアイテムが尽きたか……
取り敢えず、このまま9階層を突破して10階層に行くとしよう。
零式が出て来るモンスターを全て圧殺していく。
あの巨剣を使わずとも、零式自身の質量とパワーは十分な武器だ。
アーマーゴーレムをショルダータックルで吹き飛ばし、スナイプローズの攻撃は、零式の装甲を傷付ける事すら出来ずに踏み潰される。
そして到達した10階層。
全員が着ぐるみを脱いで、零式は帰還させる。
ここからは暗殺者にも注意しなければならないが、本来の目的も達成しなくてはいけない。
相変わらずアーマーゴーレムとスナイプローズがいるが、最早敵では無い。
そうして通路を進んでいると、一つの部屋が見えてきた。
ただし、探知レーダーには複数の敵反応。
ゆっくりと部屋の中を確認すると、部屋の奥にスナイプローズ。
ただし、棘は全て無くなっており、その花部分に小さな影が顔を突っ込んでいる。
見た目は小型肉食恐竜だが、艶のある蒼い鱗に全身を覆われ、その尻尾には光を反射する刃があった。
そんな小型肉食恐竜が部屋に3匹いた。
「やっといたか……」
小声で呟き、エーナル達に指示を出す。
ディノリッパー。
動きが素早く、その尻尾の一撃は驚異の威力。
反面、防御力は低く、尻尾にさえ気を付ければそれ程強くは無い。
どうやら、食事の最中らしく、此方には全く気が付いていない。
「それじゃ一気に行くぞ」
まずはエーナル達が相手をする。
彼等の試練なのだから、俺は後方で待機。
もしもの時は手を出すが、それ以外では手を出さない。
エーナル達がゆっくりと部屋に近付き、そして、一気に部屋に跳び込んで行った。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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