第49話
あっさりと3人が倒され、残された兵士の目の前には炎の矢の壁。
逃げようとすればそのまま魔法で追撃される上に、戦えば人数差で勝ち目は無い。
エーナルが投降を呼びかけた所、そのまま降伏した。
周囲を確認し、5人をロープで縛り上げる。
持っていたギルマスからの手紙を再確認すると、中身は白紙。
まぁそもそもそんな指示なんて出てないだろうし、此奴等が別の人物から暗殺指示を受けているんだろう。
「さて、それじゃイーランとエルは此奴等の面倒を……」
エーナルが縛り上げられ、壁に並んでいる男達の方を見ながら指示を出した所で、俺が隣に並ぶ。
そして、そのまま棍を盾の様に回した。
短い金属音がして床と天井に複数の投げナイフが刺さる。
テランがそれに気が付いて、投げたと思われる方向に向けて盾を構えてイーラン達の前に跳び出す。
探知レーダーには何も表示されていない。
だが、ソイツはそこにいた。
見た目は全身黒尽くめの小柄な人物。
目元すら黒く塗り、性別すらわからない。
更に、鑑定眼で見ても、『?????』と表記されない事から、卵クジに塗られていたあの塗料で染められているのだろう。
だが、鑑定眼で確認せずとも、この相手が相当な手練れであるのは感じ取れた。
恐らく、エーナル達より遥かに強い。
レイやアーノルドクラス。
相手は余程、エーナルが邪魔なのだろう。
「奴は俺が相手をする。エーナル達は自分の身を護ってろ」
武神棍をインベントリに収納し、武神刀を呼び出して構える。
通路の広さはそれほど大きくは無いので、今回も武神刀頼みだ。
既に短剣を構えている相手には、交渉の余地も無い。
互いにゆっくりと間合いを詰める。
そして、ある一点を越えた時、相手が一気に跳び込んでくる。
突き出された短剣を刀で撃ち返し、更に繰り出された回し蹴りを後方に身体を下げて回避する。
反撃として横薙ぎに刀を一閃するが、切っ先が僅かに服の一部に引っ掛かっただけだ。
しかも、刀から伝わる感触から、あの着ている黒い衣装は布にしては硬い感触からして装具の一種だろう。
その後も数度、攻撃を受け流してからのカウンターをしているが、どれもクリーンヒットした様子は無い。
と言うか、足運びや攻撃してくるタイミングが絶妙で、確実にこちらが反撃し辛い時を的確に攻めてくる。
ここまで戦って想定出来るのは、恐らく、対人戦特化の暗殺者。
しかも、相当な場数を踏んだ歴戦だ。
「………」
ちらりと、その暗殺者が背後にいるエーナル達を見るが、攻撃するには俺をどうにかしないといけない。
ここまで戦って、俺を無傷で突破するのは無理だと判っているはずだ。
「………」
暗殺者は懐から何かを取り出し、地面に叩き付けた。
瞬間、その玉が砕けた後に煙が広がっていく。
「……煙幕か……」
鑑定眼でただの煙である事を確認し、目を閉じて武神刀を鞘に戻して構える。
煙は通路に広がり続け、俺の姿も覆い隠していく。
耳を澄ませ、感覚を研ぎ澄ます。
エーナル達の声や、男達の声を意識から除外していく。
次第に周囲の音が消えて行く。
それは数秒だったかもしれない。
それとも数分だったのかもしれない。
無造作に武神刀を抜刀し、虚空の一部を斬り飛ばす。
瞬間、刀に重い衝撃を受ける。
「グッ!?」
くぐもった声を上げて、相手が遠くに着地する。
拘束して背後関係を調べる為に咄嗟に峰で攻撃したので、致命傷にはなっていないが充分なダメージを与えられたようだ。
煙が晴れて遠くで片膝を突いている相手を確認。
「任務に忠実なのは良い事だが、俺を無視出来ると思ったか?」
刀を再度鞘に納める。
此奴、俺をスルーしてエーナル達に向かおうとしたのだ。
まさか妨害されるとは思っていなかったのか、左腹部のあたりに直撃したようだ。
何の事は無い。
ただ、相手の薄い気配を察知して迎撃しただけだ。
「……」
相手が警戒したように短剣を構える。
だが先程の一撃は相当なダメージを与えたようだ。
その目元が苦痛に歪んでいる。
しかし、再び懐から何かを取り出し床に叩き付けた。
瞬間、先程と違った煙が辺りに広がっていく。
鑑定眼で確認する前に、背筋に悪寒が走る。
一気に後方に跳び、煙から離れる。
「煙に触れるな!」
エーナル達に忠告し、更に後方に跳ぶ。
今回の煙の色は若干黒い。
そして、先程の煙より広く広がっている。
エーナルが拘束した5人を連れ、急いでその場を離れる。
テランとイーランが先行して、物音に釣られてやって来たリザードマンを倒していく。
エルはラメイルバイパーが出た瞬間、魔法で吹っ飛ばしている。
ある程度離れた所で、煙を鑑定眼で確認する。
「やっぱりか……」
鑑定の結果、この煙は猛毒。
それも、呼吸器以外に皮膚からも吸収されるタイプで、もし触れた場合、触れた部分が麻痺して動けなくなり、吸い込んだ場合、呼吸器不全を起こす。
しかも、この毒煙はかなりの時間停滞し、更に、解毒するには中級以上の解毒ポーションくらいしか効果が無い。
こうなると、しばらくはダンジョンに潜る事は出来ない。
見た限り、数日はこのままだろう。
「取り敢えず、ギルドに行って報告だな」
エーナル達と共に別のルートでダンジョンを抜け、一度冒険者ギルドに戻る。
受付で冒険者3人と兵士2人を引き渡し、エーナル達は武器屋に向かわせ、俺はレイに面会する。
後で冒険者ギルドに集合する事を確認しておく。
そして、ダンジョン内であった事を報告。
黒尽くめの暗殺者の所で、レイが机の中から何かの書類を取り出し、俺の方に差し出した。
「恐らく、その暗殺者は『静かな暗殺者』と呼称されている暗殺者でしょう」
レイが言うには、年齢不詳、性別不明、外見は黒尽くめで正体不明。
今までこの暗殺者によって殺害されたと思われる貴族や冒険者は数知れず。
実力者を護衛に付けても、殆ど何も出来ずに殺害されてしまう。
そのターゲットにされた中には、白金級も何人かいるらしく、その実力は確実に白金級クラス。
レイの差し出した書類には、ターゲットにされた人物達の情報と殺害方法、その状況が書き込まれていた。
最重要指名手配犯として、冒険者ギルドでも情報を共有して行方を追っているらしい。
「また面倒な相手が出て来たな……」
「寧ろ、相手にして無傷で生還した貴方の方が凄いと思います」
「まぁそこは良いとしてだ、しばらくダンジョンには入れんだろうな」
入る場合、毒煙をどうにかしないといけない。
制限期間である2週間まではまだ猶予はあるが、もしも消えるタイミングでまた毒煙を撒かれたら入る事が出来なくなる。
もしくは、入った後に入り口付近で撒かれたら出る事が出来なくなる。
寧ろ、俺ならターゲットが入った後、階段付近で使う。
「そこは特別扱い出来ませんので」
だろうな。
そこで、別の方法を考えておいた。
懐からあるモノを取り出し、レイの目の前に置いた。
それは、赤黒い色をした丸い魔石。
「コレは……」
「とある所で手に入れた物だが、コイツでも核に出来るか?」
レイが魔石を手に取って見詰める。
見た目はビー玉を二回り位大きくしたサイズだが、レイの持っている転移石の魔石より大きい。
ちなみに、この魔石をドロップするのは、ゲームでは『デミワイバーン』と呼ばれるワイバーンの一種。
純粋なワイバーンとは違って知能は低いのだが、その力はワイバーン並に高い。
ただし、ある程度の実力者になると、あっさりと狩る事が出来る程度の強さだ。
俺のインベントリには、コイツの魔石やら素材がそれなりに入っている。
これが色々と使えるからだ。
まず、皮は皮鎧にすれば、それなりの防御力と対魔力を持たせる事が出来る。
爪や牙は武具に加工すれば、毒属性が勝手に付いてくる。
魔石は加工すれば、魔法付与する時の初級触媒にもなり、ゲーム中ではかなりの需要があった。
なので、俺のインベントリにはそこそこの数が必ず確保されている。
「この魔石は何処で?」
「企業秘密」
俺の言葉にレイが眉を顰める。
まぁその質問で、充分代用品になるのが判った。
後は、転移石に加工出来るかどうかだ。
それと……
「これからどうするかだなぁ……」
俺の呟きを聞いてレイが不思議そうな表情を浮かべる。
今まで俺はなるべく目立たない様に行動してきた。
本来の実力をある程度隠し、この世界でひっそりと暮らす。
よくあるお話であれば、主人公がその力で無双し、トラブルを解決しながら出会った異性達とハーレムを作る……と言うモノが多い。
個人的に言えば、俺はそういう事は考えていない。
トラブルに首を突っ込むのは、お話の中だけで十分だ。
俺は外見はともかく、中身は42のオッサンで、娘として神威もいる。
正直、面倒だ。
だが、ここ最近、色々な所で暴れ過ぎていると思う。
今回の件が終わったら、しばらくは大人しくしていた方が良いだろう。
「別に好きにしていいのではありませんか?」
「しかしなぁ……」
「常に自重しない、と言う事ではありませんが、たまには自重せずとも良いのではありませんか?」
レイにそう言われる。
確かに、常に自重し続けるのは無理がある。
それなら、ある程度は実力を見せ付けるのも一つの手か……
そんな事を考えつつ、冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドを出ると、武器屋に向かったエーナル達を探す。
流石王都と言うだけはあり、武器屋もかなりの数があるが、その中を一つ一つ探すのは手間だ。
なので、まずはいくつか絞り込む。
条件として、エーナル達の使う武具はかなりのレベルの物だ。
そこで、初心者向きを前面に出している店舗は除外する。
次に、今の状況下で裏路地にある様な、隠れた名店の様な場所に行くのも無い。
なので、ここも除外。
最後に、成金趣味丸出しのゴテゴテした武器屋も除外する。
そうしていくと、一部の店舗しかなくなる。
見た目は普通だが、置いてある物は一級品。
無駄に主張せず、かと言って引き籠っていない。
更に、それなりに明るい場所にある店舗。
俺の目の前にその店舗があった。
ショーウィンドウに置いてあるのは両刃の見事な剣。
値段は書いてないので非売品だろうが、造りはかなりの物だ。
それを横目に見ながら店舗に入ると、そこには様々な武具が置かれており、そのどれもがショーウィンドウの剣並に見事な出来だ。
「いらっしゃい、何かお求めかね?」
店の奥から小柄だが、がっしりした体格の男が出て来る。
ドワーフ族だな。
となると、この店にあるのは全部ドワーフの作った武具か。
「いや、少々人探しをしててな、新しく武器を調達するって言うんで武器屋を巡ってるんだ」
「今日はお前さんが最初の客だが……」
「そうか……」
そう言いながらも、周囲にある武具を見る。
どれも普通の武具と違い、素材にも拘っているのが判る。
鉄に僅かなミスリル銀が混ざっていたり、マナメタルを混ぜ込んでいたりと工夫が様々だ。
気になってショーウィンドウの剣も確認してみる。
オリハルコンソード
-ランク/RRR-
オリハルコン製の剣。
加工の難しいオリハルコンを一流の剣に仕立て上げた逸品。
「オリハルコンか」
俺がそう呟く。
この世界にもあるのか。
オリハルコンは堅くて軽い上に対魔能力が高く、武具にも装具にも使える万能鉱石だ。
反面、加工が凄まじく難しく、更に産出量が少ない為に『オリハルコン製』と言うのはかなり珍しい。
ゲームでは、とあるモンスターが蔓延るダンジョンでそこそこな量が手に入る。
ただ、そこに行くのがかなり手間で、そのダンジョンを活動拠点にして、オリハルコン鉱石を専門に集めていたユーザーも存在する。
最も、全員が全員親切なユーザーでは無く、中には占有しようとして他のユーザーを締め出そうとした馬鹿もいた。
まぁそう言った馬鹿は、全員他のユーザーに排除されていたが。
「ウチのシンボルだから、その剣は売れんよ?」
「あぁ、いや、俺は別に良いんだが……こっちじゃオリハルコンは簡単に手に入るのか?」
「馬鹿言っちゃいけないよ、それだって師匠がずっと集め続けて、死ぬ間際にやっと作れたんだ」
ドワーフがそう話している事から、やはり、こちらでもかなり珍しいんだな。
うん、コレからはホイホイ軽く零式を呼び出すのはやめておこう。
だって、俺の零式は総オリハルコン製だもの。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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