第4話
テンドラムが見せてくれた物件。
最初の一軒目。
「こちらは、二階建てとなり、一階に20部屋、二階に10部屋の合計30部屋、地下室が5ありまして郊外にありますが、少々問題がありまして、銀貨700枚になります」
「その問題とは?」
俺の疑問をアイナが代わりに訊ねる。
良い物件なんだろうが、そもそも広過ぎるかな……
「はい、地下にローチマウスと言う小型魔獣が棲み付いておりまして…何度も駆除しているのですが、どうしても駆除しきれないのです」
ローチマウスとは、簡単に言うとドブネズミと『黒光りするアレ』を合体したようなモンスターだ。
見た目は確かにネズミなんだが、その背中には黒光りする翅が生えている。
正直、絶対に会いたくないモンスターの一つだ。
「……次は?」
「次は……」
俺の言葉にテンドラムが次の紙を目の前に移す。
部屋数の合計は18あるが、地下室は1部屋。
そして、御値段は訳有物件として銀貨500枚と安い。
だが、訳有の物件なのだ。
その理由が……
「カビ?」
「はい、屋敷中にこびり付いていまして……」
聞けば、地下室からカビが大発生。
清掃しても一月程で再発生してしまい、清掃代だけでも馬鹿にならないという。
いや、普通に病気になるだろソレ……
「他にも…住んでいた当主が妻を殺害した部屋に残った血の跡が……」
更に殺人現場なのかよ……
悪いが、どっちも却下じゃ。
「えー最後の物件なのですが…かなり問題がありまして…正直に申しますと、オススメは出来ません」
テンドラムがそう言って口籠る。
ゴキネズミ屋敷とカビ殺人屋敷以上に訳有ってどんな屋敷だよ……
「一応聞いておこうか……」
「はい…部屋数は一階と二階が10部屋ずつの合計20部屋となりまして、地下室が4部屋あります」
ふむ、部屋数とかは十分だな。
「値段は?」
「…銀貨300枚となります」
…そこまで安いって本当にどんな訳有なんだよ…
「で、どんな訳有なんだ?」
「元々、この屋敷は錬金術を嗜んでいた貴族が所有していたのですが…」
「ふむ…それで?」
「十数年前、その…爆発事故がありまして、その貴族が死んでしまったのですが…」
「もしかして、あの郊外にあるあの幽霊屋敷ですか!?」
テンドラムの話の途中でアイナが声を上げる。
どうやら、かなり有名な物件?のようだ。
「なんだ、その幽霊屋敷ってのは?」
「屋敷にその死んだ錬金術師のゴーストが徘徊しておりまして、更に廃屋になってから浮浪者が侵入して呪い殺されて、ゴーストになるという……」
悪循環だな……
「実は、その幽霊屋敷なんですが、ゴースト退治の依頼が冒険者ギルドにも来ています……」
「……ランクは?」
「銀級以上です…」
売んな、そんな危険物件。
と言うか、他に対処方法ないのか。
「ゴーストが現れてから、この物件はいくつかの不動産商会で持ち回りをしておりまして…」
テンドラムが言うには、この物件は数年程で次の不動産商会に譲渡し、その度に教会に高い御布施を払って浄化を依頼しているが、最近では最早それでも追い付かないと言う。
「なので、冒険者ギルドにもゴースト退治として依頼を出しているのです」
「ちなみに報酬は?」
「確か銀貨300枚ですね」
アイナが答えてくれる。
売値が300枚で、報酬が300枚。
つまり、依頼を達成すれば報酬で購入可能。
「…………」
「駄目ですからね?」
思考を読んだのか。アイナが釘を刺してくる。
いや、まだ何も言ってないのだが…
「一応、まだ、ノービスなんですから、銀級依頼を受けるのは無理です」
一応とまだの部分に力が入っている。
アイナに言われなくても、ノービスで受けられないのはわかっている。
「だが、何も知らずに入って殲滅するのはOKだよな?」
「聞いちゃったんですから駄目です」
ナイスなアイデアだと思ったんだが…
「取り敢えず…どんな状況なのか確認してみるか?」
俺の提案で、テンドラムに連れられてアイナと共に幽霊屋敷に向かう。
本当にヤバイ状況なら、忠告するくらいは出来るだろう。
そして、やってきた幽霊屋敷。
うん、想像以上だわ。
探知スキルで表示されるレーダーには、生者に対して敵意を持っている相手がいる場合、赤い点として表示される。
逆に敵意を持っていなければ、青い点になるのだが……
屋敷を中心にして真っ赤。
いや、マジでコレヤバイ状況だ。
冗談抜きで、これ以上放置すると幽霊屋敷からゴーストが街に溢れ出してしまう。
寧ろ、よく今まで溢れ出してこなかったものだ。
「アレがその屋敷なのですが…」
テンドラムがそう言いながら、屋敷の枯れ果てた生垣だった場所を越える。
瞬間、屋敷の方角から強烈な威圧感を感じた。
だが、二人共何も感じていないのか、気にした様子も無く進んでいく。
「二人共、ちょっと大事な話があるから、少しこっちに来てくれ」
俺の言葉を受けて二人が不思議そうな表情を浮かべるが、そのままこっちに戻ってくる。
そして、敷地を出ると威圧感も消失する。
この幽霊屋敷、マズすぎる。
「どうしたんですか?」
「…まず、テンドラムさん、この屋敷にいるゴーストだが、予想以上にヤバ過ぎる。すぐに対処しないと街に溢れ出すぞ」
俺の言葉を聞いてテンドラムが驚いた表情を浮かべる。
恐らく、溢れ出すとは思っていなかったのだろう。
「待ってください。王牙さんはそれがわかるんですか?」
アイナの言葉に頷く。
寧ろ、何故誰も気が付いていないのかが疑問だ。
「探知スキルを持ってるからな。それにしても、アレは異常だ。」
まず、あの数。
通常、ゴーストがあそこまで密集している事は無い。
そうなると、何かしらの理由があってアレだけ密集している事になる。
思い当たる予想もあるが、もしもそれが正解だとすると、単独でやるには厳しい。
「アイナ、早急にキミの伝手で銀級以上で口が堅く、信頼出来る冒険者チームに接触出来るか?」
「…何を考えているのか、聞いても?」
アイナが少し考えて聞いてくる。
さて、今回の大事な前交渉だ。
「…この話は他言無用だ。あの幽霊屋敷だが…多分、『ハイ・ゴースト』か『リッチ』がいる」
俺の言葉に二人が絶句している。
更に言えば、テンドラムの表情が見る見るうちに青くなっていく。
だが、それも無理もない。
ハイ・ゴーストは、文字通りゴーストの上位種。
能力が純粋に上がった程度だが、一般人や駆け出し冒険者には絶望的な相手だ。
しかし、それなりの腕を持っていれば、倒せない事は無い。
だが、問題はリッチだった場合だ。
ゴースト系のモンスターは、ある一定以上の力を持っていたり、異常な進化をしてリッチになる事がある。
その能力は最早、ゴースト系の最上位クラス。
退治するには上位の聖魔術か、聖属性の武器が必要になる上、リッチの攻撃は全て魔術による呪いが付与されている。
受けるだけで呪われ、それで呪殺されるとリッチの眷属にされてしまう。
「テンドラムさん、冒険者ギルドに出している依頼の報酬額を600枚まで増やして欲しい」
「ろ、600枚ですか…」
表情を青くしたテンドラムさんが呟くように言う。
だが、リッチがいた場合、適性価格だろう。
いや、若干少ないかもしれん。
「まず、手順はこうだ。」
二人に俺の考えた作戦を伝える。
大前提として、この幽霊屋敷を単独で攻略するには難しい。
なので、まずアイナにさっき言った条件の冒険者を雇い、共に攻略する。
成功報酬は、その冒険者に全額渡し、俺自身は屋敷を貰う。
そして、中で見た事は誰にも喋らないと言う事。
危険と判断した場合や、もしリッチに対処出来ないと判断した場合、撤退してギルドマスターの判断を仰ぐ。
「これを一週間以内に済ませたい」
「それでは、私は一週間以内に冒険者チームを紹介すれば良いんですか?」
アイナの言葉に俺は首を横に振る。
「いや、冒険者探しは三日以内に頼みたい。俺がその冒険者と会って話をしてから決めたい」
これは譲れない。
何せ、ノービスが銀級を雇うというのだ。
不満があって、土壇場で裏切られたりしたら堪らない。
「三日…それだとかなり数が減りますけど…」
「かなり無茶だとは思う。あの状況を見るに時間が無い」
俺の言葉にアイナが考え込む。
恐らく、条件に合う冒険者チームを選定しているのだろう。
「テンドラムさんは今の条件で良いか?」
「あ、あの物件は一応、複数の不動産商会で所有していますので、勝手に報酬額を上げてしまう事は…」
テンドラムの言葉も納得出来る。
今回、報酬額を上げてしまった場合、もし失敗して次の不動産屋に譲渡する際、報酬額を下げる訳にはいかない。
これがもし、テンドラムの所だけだったら、話は簡単なのだが……
「…それじゃ、テンドラムさん自身が200枚、俺が100枚追加で出して、報酬額事態は300枚のまま、と言うのはどうだ?」
その言葉で、テンドラムの目に力が戻って行くのが見える。
やはり、こういう所は商売人なのだろう。
「……条件を付けても宜しいでしょうか?」
「条件によるが、どんな条件だ?」
「はい、まず、依頼達成で屋敷の権利は確かに御譲りします。ですが、長期間放置していましたので、かなりの部分を手直ししなければなりませんでしょう?」
テンドラムの提案は、その修繕を全てスクウェール不動産でやらせて欲しいと言うものだった。
内装に関してはルームアイテムで揃えるつもりだが、外装部分だけでも十分ありがたい申し出だ。
「内装に関しては、こちらの好みがあるので断る事になるが、外装部分だけで良いなら……」
「それで十分で御座います」
そう言ったテンドラムが頭を下げる。
そして、各自その場で解散として、足早に戻っていく。
テンドラムは外装修理の手配。
アイナは選定した冒険者チームへの連絡。
そして俺は、その冒険者チームとの面接を行う為に、ギルドの部屋を借りる許可を貰うのでギルドマスターに会いに。
さぁ、忙しい一週間の始まりだ。
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