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第48話




 零式(れいしき)と呼ばれたゴーレムの両目が、緑色に光を放つ。

 そして、ゆっくりと、その巨剣を両手で構えた。

 腰を落とし、迫り来るアーマーゴーレムにその切っ先を合わせる。


「グォォォォォォッ!!」


 零式が吼えた瞬間、その背にある全てのブースターが蒼白い炎を噴き出し、その巨体を一気に押し出した。

 巨剣を振り上げ、大上段に構えたソレをアーマーゴーレム達に向かって振り下ろす。

 端から見れば、ただの振り下ろし。

 だが、それに凄まじいパワーと巨大な質量が合わさった場合どうなるか。


 鳴り響く轟音と地面を揺らす衝撃。


 俺の後ろでエーナル達が騒いでいるが、今は気にしない。

 巻き上がった土煙が晴れた時、立っていたのは零式だけだった。


 巨剣が振り下ろされた場所を見ると、巨大なクレーターの様になっており、いくつもの(ひび)が天井まで走っている。

 アーマーゴーレムがそこにいた事すら、今では確認出来ない。

 残った素材は……外殻2つと魔石が1つ。

 零式を呼び戻し、状態を確認する。

 今の戦闘で消費したマナは、マナタンクの1パーセントにも満たない。

 これなら、色々と試す事も出来るな。

 そう考えながら、零式の召喚を解除すると、零式は光になって消滅した。

 ゴーレム召喚の項目を見ると、問題は無いようだ。

 まぁ他の検証は後回しにしておこう。


「さて、それじゃ戻るぞってどうした?」


 振り返った先で唖然としているエーナル達の姿が見えた。


「い、いや……あの……あのゴーレムは……一体……」


 エーナルがやっとの事で言葉を絞り出す。

 今目の前で起きた事が信じられないようだ。

 彼等からすれば、巨大なゴーレムが蒼炎を噴き出し、巨大な剣でアーマーゴーレム達を消し飛ばしたとしか見えない。

 まぁそんな状態でいられても困るので、早急に戻って来てもらおう。


「まぁ上に戻ったら詳しく説明してやるから、さっさと行くぞ」


 その言葉で、エーナル達が一応平静を取り戻す。


 そうやって戻って5階層まで到達すると、探知レーダーに複数の反応が接近してくるのが確認出来た。

 数は集まった状態で5。

 速度から考えて、リザードマン達にしては遅いし、ラメイルバイパーは5匹も集まる事は無い。

 そうなると……他の冒険者か?

 ここは敢えてエーナル達には知らせない。

 どう対処するか見てみよう。


 そうして気にせずに進んでいると、目の前から全身鎧を着た2人の兵士と、いかにも冒険者と言った風体の男達が3人歩いてくる。

 そのメンバーが此方を見付けると、手を振ってきた。


「そこにいるのはエーナルと言う冒険者か?」


 そう言ってきたのは全身鎧の片方。

 他の面々は周囲を警戒しているようだ。


「エーナルは確かに僕だが……」


「冒険者ギルドのギルドマスターから大至急の連絡です!」


 そう言いながら、兵士が腰の袋から何か折り畳まれた紙を取り出した。


「ギルドマスターが?」


「エーナルと言う冒険者に此方を渡す様にと」


 エーナルが近付きながら俺達の方を振り返る。

 その後ろに付く様に、俺が後に続く。


「良くもまぁこんな所まで来れたもんだ」


「緊急と言う事で、腕の立つ冒険者に護衛を頼みました。流石にこれ以上、下には行けませんが……」


 俺の言葉に兵士がそう返してくる。

 エーナルが差し出された手紙に手を伸ばした。


「ぐぇっ!?」


 瞬間、俺が無造作にエーナルの襟を掴んで一気に引き戻した。

 そして、先程までエーナルがいた空間を剣が通り過ぎた。

 そのまま、俺の蹴りがいきなり剣を振り抜いた兵士の腹部を蹴り飛ばした。


「バレバレだからな」


 隣ではエーナルがかなり咳き込んでいるが、テラン達に任せる。

 兵士達は既に剣を抜き、後ろの冒険者達もニヤニヤと笑みを浮かべながら武器を構えている。

 まぁ蹴り飛ばした方は、腹部を押さえながらではあるが……


「何故っ……」


「ギルマスが俺に任せるって言ってたのに、コイツに手紙ってのは変だからな」


 ダンジョンに入る前、レイは俺に対して『後は任せる』と言っていたのだ。

 それでも緊急の用件があるなら、エーナルでは無く、俺に渡す様に言ったはずだ。

 それに、探知レーダーの表示、コイツ等赤なんだよ。


「バレたって結局やる事は一緒だろ?」


「そこの二人はさっさと殺して、後ろの女共は俺等が楽しんで良いんだろ?」


「ヒヒヒッ楽しみだなぁ……」


 後ろの冒険者共は清々しいまでのゲスっぷりだな。


「さて、どうしたモンか……」


 見た限り、コイツ等はそこまで強くは無い。

 そうすると……


「エーナル、お前達で相手してみろ」


「えっ!?」


「いや、俺が相手しても良いんだがな、弱い者苛めするのは流石になぁ……」


 俺の言葉で冒険者共がギャーギャー騒ぐが無視。

 多分、俺が相手したら全員纏めても瞬殺か、手を抜いても秒殺だからな。

 だが、エーナル達なら訓練の成果を如何無く発揮するのに丁度良いだろう。


「そもそも、此奴等程度ならお前達でも十分相手出来る」


 そう言ってエーナル達の後ろに回る。

 寧ろ、ここで梃子摺ったらそれこそ訓練し直しと言った所だ。

 エーナル達が武器を構え、冒険者達とぶつかる。


 数の上では4対5とエーナル達が不利だが、エーナル達にはエルによる魔法がある。

 後方に下がっていた兵士の目の前に、大量の炎が矢となって現れる。

 初級魔術『炎の矢(ファイアアロー)』。

 簡単な魔法であり、炎属性の魔法の矢を撃ち出す魔法だ。

 それが撃ち出される事無く、空中に停滞して壁となっている。


 エーナルの剣が相手の剣と打ち合う。

 相手の剣は見た目的には普通の剣だが、柄の部分に赤い宝石が嵌っている。

 他の相手も、持っている装備の一部に同じ宝石が付けられている。

 剣は柄に、斧は刃に、ローブの留め具にと言った感じだ。

 そして、打ち合った瞬間、エーナルの剣が刃毀(はこぼ)れを起こす。

 恐らく、あの武器には何かしらの強化が施されている。


「『ソードマイン』!」


 冒険者の剣の切っ先が床を削りながら振り上げられ、その剣の軌跡が連続して小爆発を起こす。

 あのスキルは確か、振った軌跡上に爆発を起こすが、その爆発はあまり威力が無く、ただの目晦ましスキルだったな。


「『ソードブレイク』!」


 更に振り上げた剣を一気に振り下ろし、エーナルが持つ剣に叩き付ける。

 あのスキルは文字通り、相手の剣を破壊するスキルだな。

 ここまで連戦していたエーナルの剣は既にボロボロの状態で、打ち付けられた瞬間に半ばから折れ飛んでしまった。

 それを見てニヤリと冒険者が笑みを浮かべるが、次の瞬間、エーナルの拳がその顔面にめり込んだ。


「『インパクトナックル』!」


 エーナルが殴り飛ばした男が吹っ飛んで壁に叩き付けられて沈黙する。

 訓練中、エーナルとテランにはとことん叩き込んだ技術がある。

 それが、無手になった場合の戦闘方法。

 基本的に、武器を使う相手はその武器を失えば、戦闘能力はガタ落ちする。

 だが、元々武器を使わない相手の場合、そんな制限も無い。


 代表的なのが、少し前にあったモンクスタイルのアーノルドだ。

 彼は自身の卓越した技術と筋力で、武器を不要とする戦闘を可能にした。

 あそこまでとは言わないが、エーナル達も無手になった場合の戦闘方法は必要だ。

 そう考えて、模擬戦をした後に叩き込んだ。

 結果的に、エーナルは『インパクトナックル』と言う打撃力をアップする拳スキルを取得した。

 まぁそれ以外は駄目だったが……



 テランは冷静に予備の盾で相手の攻撃を受け流し続ける。

 相手の武器は片手斧。

 刃が剣より肉厚でその分重く、剣の様に繊細な動きは難しい。

 だが、直撃すれば致命傷は必至。

 しかし、今回は相手が悪過ぎる。

 一撃に特化しているとはいえ、動きがどうしても直線になりやすいのに、相手はガードを主体とするテラン。

 攻撃を完全に盾で受け流し、重い斧を振り続ける相手のスタミナをどんどん奪っていく。

 ここで重要なのは、受け止めるのではなく『受け流す』と言う点だ。

 重い一撃を盾で受け止めれば、当然、相当な衝撃が盾を貫通して腕に来る。

 だが、受け流す事が出来れば、腕に貫通してくる衝撃は最小限に抑え込む事が出来る。

 更に、受け流された相手は、攻撃動作を修正する為に余計に体力を消耗させる事も出来る。

 テランの訓練では、無手での戦闘法を教えるのと並行し、盾を中心にした戦闘法を叩き込んだ。

 今では、持っている剣はただの予備だ。


「『シールドバッシュ』!」


 テランが斧の一撃を受け流した瞬間、一気に踏み込んでその右腕に向かい、盾スキルの初歩スキルである『シールドバッシュ』を叩き込む。

 この『シールドバッシュ』、実は盾によるただの強打であり、ダメージとして見るにはそこまで高い訳では無い。

 だが、ちゃんと使用者が意図して使えば、それは最大の効果を発揮する。


「んがぁっ!?」


 受けた男の右腕は、今まで斧を振り続けた為に疲労が溜まり、更に手汗も相当な物だ。

 そんな所にダメージが低いながらも強烈な殴打を受ければどうなるか。

 ズルリと男の手から片手斧がすっぽ抜ける。


「『シールドラッシュ』ッ!」


 テランが動揺している男に向かってさらに踏み込み、その上半身に盾の連撃が叩き付けられる。

 このスキルも本来は初歩の盾スキルである。

 しかし、武器を落した事で動揺して体勢を崩し、更に体力を消耗している状態で直撃すれば一溜りも無い。

 男は盾の連撃を受けてその場に崩れ落ちた。



 イーランは落ち着いて弓を構える。

 対する男は小さいナイフを両手に構えている。

 その風体はある意味異様だ。

 全身を覆う様なローブを着て、顔は上半分だけ白い仮面で隠している。

 背丈も猫背で大きいのか小さいのか良く判らない。

 そして、男の片手が霞む様に振られた瞬間、イーランが身体を傾けて矢を放つ。

 その背後でナイフが壁に当たる金属音が響き、イーランの矢は相手のローブの端を貫通する。

 男はすぐに懐から別のナイフを取り出し、それをイーランに向けて更に投げる。

 ナイフ使い。

 投擲スキルは投げられる物に対し、あらゆる補正が掛かる。

 それこそ、投げナイフは当然補正が掛かって当たり前だが、そこら辺で拾った石ですらその補正が掛かるのだ。

 だが、このスキルの最も恐ろしい点は、この『投げられる物』の定義である。

 ぶっちゃけ、椅子や死体であっても、『投げられれば』補正が入るのだ。

 イーランは壁や天井すらも利用して投げ続けられるナイフを回避し続け、その後ろにいるエルは直ぐに土壁を作り出して隠れる。

 その間にイーランが射抜いたのは男のローブのみ。

 無理な体勢や回避の途中で射った矢は狙った場所には当たりにくい。

 男もそれを理解しているのか、イーランを休ませるつもりは無い様で、引っ切り無しにナイフを投げ続ける。

 だが、この男の誤算はイーランの放つ矢だけに注意していた事だ。

 当然、外し続けたと思っているイーランの矢は、ある一点を狙い続けていた。

 やがて、男が懐に手を入れて初めて動揺した。

 いかに多くのナイフを準備していたとしても、それには数に限りがある。

 当然、使えば無くなるのだ。

 それを見て、イーランが一気に男に向かって駆ける。

 慌てて男がその場から逃げようと後ろに下がった瞬間、ローブの端を踏んでそのまま後ろに向かって倒れる。

 男が自身のローブを見た瞬間、イーランの目的を初めて理解した。

 ローブの端が、数本の矢で完全に地面に縫い止められていた。

 イーランは外していたのではない。

 確実に無力化する方法として、男のローブの端を狙っていたのだ。

 更に、それを察知されない為に、ワザと矢を外し、男に誤解させていた。

 急いで立ち上がろうとした時には、既にイーランは目の前に迫っており、慌てて下がろうにもローブが縫い止められて動く事も出来ない。

 そこにイーランの全力の蹴りが男の顎に炸裂し、ナイフ投げの男はそのまま仰向けに倒れ沈黙した。




それでは、また3日後にお逢いしましょう


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