第44話
「はい、なんでしょうか?」
「ギルドマスターはいるかな?」
俺の言葉に青年が少し考え込んでいる。
恐らく、今日のギルマスの予定とかを思い出してるんだろうが……
「面会の約束とかされてますか?」
「いや、少し聞きたい事があってな」
「御約束していないのであれば、面会の約束を取ってください」
うん、事務的にはそれで良いんだけどな。
今回は無理でも捻じ込んでもらわないと困るんだ。
「取り敢えず、王牙が来たって言って来てくれないか? それで多分通じるはずだ」
「はぁ……」
青年が渋々と言った感じで席を立って奥に消えて行く。
まぁ後は結果待ちだな……
青年がギルドマスターの部屋に付くと、軽く扉を叩いた。
「どうぞ」
部屋の中からの返事を聞き、青年が扉を開ける。
そこには、椅子に座り、いくつもの書類にサインをしているギルドマスターの姿があった。
書き終えたペンを置き、レイが青年の方を見る。
「何かありましたか?」
「受付でギルドマスターに会いたいと言う冒険者が……」
それを聞いて、レイが溜息を吐く。
彼女は元白金級冒険者『荒鷲のアキレウス』と有名であるが為、一目会いたいと言う冒険者が実は結構存在する。
そう言った冒険者には、基本的に会う事は無い。
そうで無くても、今はかなり忙しいのだ。
「最近また増えましたね……」
「試験がありますから、そう言った冒険者も増えているのでしょう」
青年の言葉は的を得ている。
普段は各地に散っている高ランク冒険者も、試験の為に集まってくるのだ。
この色でのランク制度、実は王国と魔王国、獣王国でしかやっていない。
帝国はランクはランクでもF~Sとアルファベット表記であり、妖精国ではランクそのものが存在しない。
なので、帝国では王国の冒険者ギルド発行の冒険者カードはあまり意味を持っていないし、妖精国は大森林の奥地にいる魔獣がかなり強い為、他人に構っているような暇は無い。
「どうしましょうか?」
「いつものように、忙しくて会う事は出来ないと……」
「わかりました、あぁ、それから……」
当たり障りのない返答を伝えて帰るよう指示を出し、青年が部屋を出ようとした時に思い出したかのように呟いた。
「冒険者はオウガと名乗っていましたが……」
「……それを早く言いなさい」
そう言ってレイが額に手を置いた。
それから数分待っていると、青年が慌てたように戻ってきた。
どうやらあの様子なら、ちゃんと伝わったようだ。
「どうだった?」
「ギルドマスターが御会いになるそうです」
それを聞いて、青年に案内してもらう。
しかし、本当にいてくれて助かった。
ギルドマスターの部屋に案内されると、前に会った時と同じ姿でレイが立っていた。
「御久し振りですね」
「本当にな」
「相変わらず、暴れているようで……」
そう言って握手をして、椅子に座る。
だが、世間話をする為に来たのでは無いので、さっそく本題を切り出すとしよう。
「少し確認したいんだが、今回の試験で使ってるダンジョンだが……」
「迷宮に関する情報でしたら、私の口からは言えませんよ?」
そりゃ、ギルマスが一番知ってるだろうからな。
だが、今回はそれが好都合。
懐から5枚の紙を取り出す。
「このモン…魔獣があのダンジョンにいるのか確認したいだけだ」
文字の方を下にして、レイの方に差し出す。
レイが怪訝そうにその紙の内の1枚を捲って見る。
そして、次の紙を捲ると、見る見るうちに表情が曇っていく。
「……確認と言いましたが、どういった意味でしょう?」
「今回、試験の手伝いをする事になったんだが……入り口の所でクジ引いて、その魔獣を倒して素材を持ち帰ればクリアと言われてな」
そう言うと、レイの眼が大きく開かれる。
そして、残りの3枚も確認する。
「そんな指示は出していませんし、それに、此処に書いてある魔獣はどれもあのダンジョンでは確認されていません」
やっぱりそうだろうな。
つまり、これで二通りの事が確定した。
一つは、あの受付の男が嘘を付いている。
もう一つは、確認されたがギルドには報告していない。
最初の方だったら、別に問題は無い。
だが、二つ目だった場合、これは大問題となる。
冒険者ギルド側が意図せず、死地に将来有望な冒険者を送り込んでしまった事になるのだ。
「それじゃ、これからなんだが……」
俺はそこでレイにある提案をした。
コレからの事を考えると、ここからは冒険者ギルドをも巻き込んだ方が後々楽になる。
エーナル達は簀巻きにした男を前に、王牙の帰りを待ち続けていた。
余りに五月蠅いので、男には猿轡を噛ませてある。
そうしていると、受付に一人の少女がやって来た。
金髪で黒い皮鎧を着込み、腰には2本の剣を下げている。
年齢は恐らく20歳にも到達していないだろう。
「すまない、試験を受けに来たのだが……」
「あぁ、ゴメンよ、ちょっとゴタゴタしていて今中断しているんだ」
エーナルがそう言うと、少女が困ったような表情を浮かべる。
聞けば、少々事情があり、さっさと試験を受けたいと言う。
それを聞いて、テランが別のテントから受付出来る職員を連れて来る。
休憩中だったようだが、今の状況では仕方ない。
若干不貞腐れているようだが、机の下から書類を取り出して少女の前に置く。
「それじゃ、書ける所だけで良いから書いて」
少女が懐から冒険者カードを取り出し、スラスラと書類を書いて行く。
そして、あっさり書き終えると、それを職員に渡した。
「あぁ、そう言えばそのクジを引いて出た魔獣を狩って来れば良いって」
エーナルが机の端に置いてあった黒い箱を指差し、少女に教えると、少女が頭を下げた。
それを見て一瞬、唖然としていたが、職員が慌ててそれを止めようとしたが、素早く抜かれた少女の剣が職員の目の前に突き出され、職員がその場で固まった。
そして、少女が黒い箱に手を突っ込むと、一気にたくさんの紙を掴み出した。
掴みだした紙を机にバラ撒くと、片手で器用にクジを開いて行く。
「ふむ、テンペストウォーカーにキリングタイガー……フォレストイーターまでいるではないか……」
少女が言った魔獣は、どれも天災級と呼ばれる魔獣であり、白金級の冒険者が束になっても勝てるかどうか怪しい。
大昔、1体のテンペストウォーカーが現在の獣王国の山中に現れ、破壊の限りを尽くし、多くの獣王国の白金級冒険者が敗れ去った。
最終的に、聖王国の霊山にいた古代龍が相手をして倒したとされ、その際に出来た破壊跡が今でも巨大な崖となって残っている。
「お前達、本当にこのダンジョンの中にこの魔獣達がいるのだな?」
「そ、それは……」
剣を突き付けられた男が大量の汗を流しながら呟く。
それを睨みつけていた少女が、腕を振るうと、剣の切っ先が男の足の爪先に突き刺さった。
ただ、血が流れていない事から、どうやら指の間に突き刺さったようだ。
「ひぃぃぃっ」
それを受けて、男が尻餅を付く。
だが、少女はもう一振りの剣を引き抜いて男に突き付けた。
「もう一度聞くが、確認は出来ているんだな?」
「かかかっ確認は出来ているっ! こ、こんな事して冒険者ギルドは黙っていないぞ!」
男が強がるようにそう言う。
確かに、見た限りでは少女がギルド職員を脅しているような物だ。
しかし、この男は運が無い。
「そうか、確認が出来ているか……」
少女が突き刺した剣を引き抜いて鞘に納める。
そして、ダンジョンの入り口の方へと向かう。
「な、何をしてるっ貴様は失格だ! 冒険者ギルドの職員に対しての暴挙っ! 降格も覚悟して置けっ!」
男がそう言いながら少女が書いた書類を手に取る。
そして、赤い文字で『失格』と書き、更に『問題有、降格案件』と書き綴る。
当然の事だが、試験中に冒険者ギルドの担当職員に危害を加えれば、問題有りとして調査された後、高確率でランクが落とされる。
ただし、調査の結果、職員側に問題があれば、処分はされず、試験もやり直しが出来る。
だが、それを聞いても少女は動じた様子は無い。
それ所か、口元に笑みを浮かべていた。
「ほう、私を降格処分……か……面白い事を言う」
少女が振り返り、男の方を睨む。
その赤い双眼は力強く、最後まで書こうとしていた男が、まるで蛇に睨まれている蛙の如く萎縮していた。
「一体、何の権限があって降格処分を決めたのだ?」
「そ、それは……我々は試験官であって……き、貴様はその試験を受けに来た冒険者で……」
男が声を絞り出すように言う。
確かに、ギルド職員を脅し、ルールに従わなければ、失格になるのは当然でもあろう。
そう、試験を受けに来ているのであれば。
「……私は試験など受けに来てはいない」
少女がそう言ってエーナル達の方を向く。
今度は、エーナル達が蛇に睨まれた蛙の状態になるかと思われたが、エーナル達は別に普通に立っていた。
「ふむ、私の殺気も平気で受け流すか……随分と鍛えられたようだな」
少女が笑みを浮かべてそう呟くが、エーナル達には何の事だかさっぱりわからない。
これは、ダンジョン内での訓練で、常に威圧を当てられていた結果であり、エーナル達はそんな事は気付いていない。
そして、少女が再び職員の男の方を睨む。
「さて、本来ならココで貴様達を処断するのが一番なのだが、ここまで大掛かりな以上、背後関係を洗わなければならん」
少女が鞘に納めた剣の柄に手を置く。
その立ち振る舞いは堂々として、まるで見た目と釣り合っていない。
「今回の試験に関わったギルド職員の名簿を速やかに提出し、この場から一時撤収せよ!」
張りのある声で少女が職員全員に指示を出す。
それを聞いて、職員達が慌てて撤収準備を始めようとしたが、その全員が少女の方を見た。
何故、関係も無い少女の指示で撤収しなければならない?
だが、頭では何故かその指示に逆らう事を拒否していた。
「お前達にはちゃんとした試験を受けさせるように手配をしよう」
それを横目に、少女がエーナル達の方にやってきてそう言った。
だが、エーナル達がいくら考えても、この少女にそんな権限があるとは思えなかった。
そうして戸惑っていると、何処からか笑い声を必死に抑えている様な声が聞こえてきた。
「クッ……駄目だっもう我慢出来んっ」
そう言いながら、俺は被っていたマントを外し笑った。
暫く笑った後、事態を飲み込めないエーナル達に詳しく説明する事にした。
「まず、此方の方なんだが……」
「随分と偉そうでしたけど、誰なんですか?」
エルがそう聞いてくる。
まぁ偉そうなのは当然なんだよ。
「自分で説明しますよ」
少女がそう言って、前に出る。
エーナル達はその前に立っているのだが、知って驚くだろうな。
その後ろには、撤収作業をしながら此方を見ているギルド職員達。
そして、少女が肩に手を掛けて、勢い良くマントを外した。
そこに立っていたのは、金髪に白い軍服の様な服を着た女性。
腰には2本の剣を刺し、その背には金の荒鷲が刺繍されている。
「王都冒険者ギルド、現ギルドマスター、レイ=アキレウス」
そう名乗りを上げた。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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