第43話
最近、毎日暑い上に仕事が忙しくて執筆が進みませぬ……
コレハマズイ……
王都の貴族街、その一角に一際大きな屋敷が、銀のグリフォンを紋に持つバシーナ家である。
エーナルの実家ではあるが、家族は誰も住んでおらず、現在は叔父の『ゲルィン=ルテル=モーラス』が居住している。
エーナルの家族は、現在、母親と妹だけが王都が運営している修道院で生活している。
その一室で、巨体を揺らしながら一人の男が、齎された報告書を見ていた。
そこには、エーナルの現在の動きが記されており、サガナから王都に向かっている事が記されていた。
更に、詳しい事が掛かれた報告書も存在するが、読み終えて既に焼き払われている。
この巨体の男こそ、バシーナ家を乗っ取ろうとしているゲルィンその人である。
「ふむん、つまり問題は無いのだな?」
「……現状、試験官の数名を買収して不利になるように仕向けてある……これ以上、下手に動けばギルドに察知される」
報告書を読み終えたゲルィンが、部屋の隅に立っていた別の男に確認を取る。
聞かれて答えた男は、全身を黒い装束で包み、その目元しか露出していない状態で、静かに立っていた。
「報告では、サガナで一ヶ月間行方が掴めなかったとあるが?」
「……ダンジョンを借り切って籠っていたと報告があった……ダンジョンの中では我も迂闊に追跡は出来ない」
「ふむん……それに付いてだが、この男は何者だ?」
その言葉で僅かだが、男の視線が動く。
「……少し前から活動している銀級冒険者で、相当な腕を持っている……あの荒鷲にも勝ったと言う話だ」
「あの女も焼きが回ったな、銀級程度に負けるとは!」
ゲルィンがそう言いながら笑うが、男は不気味に佇んでいた。
ひとしきり笑うと、ゲルィンが男の方に視線を戻す。
「それで、もし失敗すれば判っているだろうな?」
「……失敗など有り得ん……が、保険はある」
「フンッ儂が終われば、貴様等も終わりだと言う事を忘れるな」
ゲルィンのその言葉を最後に男が部屋から消え、そこにはただの闇だけが蟠っていた。
読み終えた報告書を机の脇に置いてあった燭台に翳し、火を点けて灰皿に落とす。
その明かりに照らされた顔は、醜く笑みに歪んでいた。
乗合馬車に揺られて一週間。
エーナル達は王都に到着した。
馬車から降りて、各自が自分達の荷物を担ぐ。
馬車の中は暇だったので、エーナル達と多少の雑談をしたのだが、前にサガナ、王都間を二日で踏破した話をしたら、酷く驚かれた。
思えば、リルの事で急いでいたとはいえ、この距離を二日で踏破したのは中々無茶だったようだ。
そう考えると、どこかで完全に本気を出して、この身体の限界能力を把握して置いた方が良いな。
いざ、本気を出して、それが通用しないような相手が出てきたら非常に困るし……
しかし、そんな場所は考えてみても存在しない。
今も本気で走ろうとするだけで、相当な距離が必要になるのだ。
それを踏まえて、打撃力を調べようとしたら、恐らく相当な騒ぎが起こると予想出来る。
今後の課題だな。
「それじゃ、試験会場に行く?」
「もう行くのか?」
俺の言葉にエーナル達が此方を向く。
何か変な事を言ったのか?
「そう言えば、試験は初めてですよね」
イーランが思い出したように手を叩いた。
それを聞いて、他の三人も気が付いたようだ。
「アレだけ強いから、すっかり忘れてましたけど、そう言えばまだ銀級なんでしたね」
「今回の白金級の試験は、開始前に受付をして、試験日を選定してから挑むんです。 開催当日に全員が一辺に来たら大混乱になりますよ」
そうエルが説明してくれた。
つまり、試験を受けられる日が前もって決められるのか……
と言うのも、今回の試験はダンジョンの調査も含んでいる為、一辺に来られても困るのだと言う。
なので、日をずらしてアタックさせ、情報を持ち帰らせようと言うのだ。
そうなると当然、狙い目は最後の方だ。
試験の最後の方になると、ある程度情報も出揃って受かる確率が高くなる。
情報を得るのも冒険者には大事な能力の一つだ。
だが、それが当然出来ない者達もいる。
そうなれば、少ない情報でダンジョンアタックをする事になるのだが、白金級にもなれば、少ない情報からあらゆる事を想定しなくてはいけない。
それ程、白金級と言うのは難しいランクになるのだ。
「試験開催は来週だったか?」
「サガナの冒険者ギルドで確認した所、詳しくは4日後ですね」
どうやら、試験期間が多少早まったようだ。
と言うのも、今回の試験会場が新たに発見されたダンジョンである以上、他の冒険者達から苦情が入るのだ。
当たり前と言えば当たり前か。
ダンジョンは一攫千金の宝庫でもある以外に、素材を集めるのにピッタリな場所でもある。
そんな場所を長く占有されるのは、冒険者にとっては面白くない。
だから、冒険者ギルドに苦情が入り、冒険者ギルド側も期間を早めるしかなくなるのだ。
もし、こういった苦情を放置すれば、冒険者達は別の街や国に移動してしまう。
そうなれば、放置されたダンジョンから魔獣が溢れ出し、国や街そのものが危険に晒される。
難しい所だな。
「そうなると……良い日取りは取られてる可能性が高いか……」
「コレばかりは仕方ないと割り切ろう」
エーナルが残念そうに言い、テランが励ます。
さて、試験会場はどこにあるんだか……
門の所にいた兵士にイーランが聞いてきたようで、手を振っている。
どうやら、場所は判ったようだ。
王都から少し離れた雑木林。
その一角がごっそりと無くなり、途中に黒い穴が開いていた。
この穴こそ、新しく発見されたダンジョンの入り口だ。
まぁ入り口って言うか、暫定の入り口だが……
恐らく、ちゃんとした入口は別にあるのだろうが、未だに発見はされていない。
寧ろ、入り口が無ければ、中はモンスターで溢れていたはずなので、必ず何処かに入り口がある。
その横手にいくつものテントが出来ており、ギルド職員と思しき人達が慌ただしく動いている。
それを横目に見ながら、エーナル達の手続きが終わるのを待つ。
エーナル達が冒険者カードを提示し、書類に色々と書き込んでいる。
受付しているのは若い男だが、どこかやる気を感じさせない。
「はい、書類はオッケーね。それじゃコレ引いて」
受付の男がそう言って黒い箱をテントの中から持ってくる。
見た感じは、あの卵クジの男のやっていたクジのようだ。
「コレは?」
「たまにいるんだよ、外で買った素材を持ち込んで、ダンジョンの中で倒したって言って、提出してクリアしようとする奴がさ。 だから、その対策って訳でクジに書いてある魔獣の素材を、ダンジョンの中で手に入れてこいって事さ」
受付の男がそう言いながら箱を揺する。
エーナルが最初にクジを引き、テラン、イーラン、エルもクジを引いた。
取り敢えず、一応、俺も参加者だし引いておくか……
箱の中には大量の紙のような物が入っており、その内の一枚を手に取る。
少し離れた所で、全員が一斉に折り畳まれた紙を開いた。
エーナル、アークデーモン。
テラン、ヒュドラ。
イーラン、クラーケン。
エル、キマイラ。
俺、リヴァイアサン。
……このクジ作った奴舐めてんの?
ヒュドラとキマイラはまだわかるよ。
クラーケンとリヴァイアサンって海じゃねーか。
このダンジョンの中に海フィールドがあるんかい。
まぁ確かに、ダンジョンの中には海フィールドがある事もあるが、そう言ったダンジョンは凄まじく稀だ。
だが、一番の問題はエーナルの引いた『アークデーモン』だ。
悪魔種に属する最上級モンスターの一体であり、普通、こんなのがいたら試験なんてやっているような状況では無い。
下手をすれば、試験受けた奴等は全滅する。
しかし、ここで少し考える。
この試験は、冒険者ギルドが主体となってやっているハズで、王都の冒険者ギルドのギルマスは、あの女傑レイ=アキレウスだ。
報告が上がっていれば試験を中止し、確実に自ら赴いて調査している筈だ。
「あらら、悪いのでも引いたかい? 運が無かったねー、諦めるなら、また次回頑張ってちょうだいよ」
受付の男が此方の方を見ながらそう言い、黒い箱をテントの中に戻そうとする。
ふむ、この男、少し怪しいな。
まず、全員が全員、こんな超難易度のモンスターを引き当てる事なんてあり得るだろうか。
まぁ倒せない事は無いが、少なくとも、試験で倒して来いなんて気軽に言う様なモノでは無い。
となれば、あのクジ箱は意図的に、超難易度のモンスターだけしか入っていないのではないか?
「なぁもう一回引いても良いか?」
「駄目駄目、一人一回だけさ」
試しに言うが、やはり、一回しか引かせるつもりは無いようだ。
よし、それなら……
「まぁ一回なら仕方ないが……本当にこのクジに書いてあるのが出て来るんだろうな?」
「そりゃ報告が来なきゃクジには書かないさ」
よし、言質は取った。
エーナル達はこの意味が判っていないようだが、この男は今致命的な事を口走った。
『報告があったからクジ』にした。
つまり、冒険者ギルド側も把握していると言う事になる。
「つまり、このダンジョンにこのクジのモンスターは出るって事か……」
「アンタもしつこい人だなぁ……出るから書いてあるんだってば」
男がそう言うのをちゃんと確認した後、エーナル達に向き直る。
「全員、コイツを拘束しといてくれ」
「ハァ!?」
俺の指示で、エーナル達が受付の男を取り押さえる。
エーナルは出会った頃は反発してたが、サガナダンジョンでの特訓の後から、俺の指示にちゃんと従うようになった。
あっという間に男が雁字搦めに拘束されて地面に転がる。
「お、お前等っこんなことしてタダじゃすまないぞ!」
取り押さえられた男がそう喚くが、まぁ俺は試験を受ける訳じゃないし。
エーナル達は不安そうに此方を見ているが、大丈夫だ。
俺の指示で拘束したんだから、エーナル達も悪くは無い。
それに、これから酷い事になるのは多分、この男だし。
「ちょっと人に会うから、俺が戻るまでそのままでいてくれ、それと、そのクジ箱にも触るなよ?」
そう言って、エーナル達のクジの紙を拾い、受付から一旦離れる。
テントからはその様子を数人の職員達が見ていたが、あの人数で今のエーナル達をどうにかできる事はないので、無視する。
しかし、あまり時間を掛け過ぎたら、逆にエーナル達が危ないので、一気に走り出した。
そうしてやって来たのは、王都の冒険者ギルド。
まぁ後は運だけだが、日頃の行いからして多分良い方だろう。
扉を潜り、空いている受付に向かう。
その受付に座っていたのは、これまたやる気の無さそうな青年だった。
見た目は若いが、なんというか、日々の激務で目の奥が死んでいる、といった感じだ。
こうしてみると、サガナの冒険者ギルドはそこそこ良い職場なんだなぁと思う。
勤務時間はアレだけど……
「すまんが、ちょっと聞きたい事があるんだが……」
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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