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第42話




 迷宮の入り口で一人の男が倒木に腰掛けている。

 その視線は迷宮の入り口に向いており、腕を組んでいる。


「……遅いな……」


 そう呟いて立ち上がり、ストレッチを始める。

 それが終わると、再び倒木に腰掛ける。

 予想では半日と少しあれば出て来れると思うんだがなぁ……

 そんな事を考えていると、後ろの方から誰かが此方に向かって来ている。

 振り返れば、そこにいたのはフェンリルのリルに跨った神威だった。


「どんな状況?」


「予想より遅いな」


 神威の問いにそう答えておく。


 そもそも、サガナダンジョンのレベルからすれば、訓練を終えたエーナル達なら、装備無しでも楽に突破出来るレベルだ。

 油断せずに進んでいるのだろうが、このままだと日が暮れてサガナに入れなくなりそうだ。


 基本的に、大きな街は夜の間は出入口を閉めてしまう。

 これは、暗闇に乗じて間者や人に擬態するモンスターを入れない様にする為でもある。


「晩御飯とかどうするの?」


「門が閉まるまでに来ないようなら、最悪ここで一晩過ごす。 炎尚にはそう伝えておいてくれ」


「了解~」


 神威がリルに跨り、再び来た道を戻っていく。

 それを見て、やはり騎乗魔獣が欲しくなる。

 もし日暮れまでに戻れなかった場合、屋敷で食事等を準備していたら無駄になるので、門が閉まるまでに戻らなければ、今日は戻れないと言う事だ。

 しかし、本当に時間が掛かっているな……


 足元に置いてある魔法袋には、エーナル達の装備が入っている。

 当然、約束通り魔法は付与してある。


 エーナルの剣には炎属性を強化する『蒼炎強化Lv3』。

 テランの剣と盾には様々な属性を強化する『属性強化Lv3』と、『ロイヤルガード』と相性が良い『効果増幅Lv3』。

 イーランの弓には撃ち出した矢の速度を上げる事が出来る『風陣増加Lv2』、短剣は相手にダメージを与えると動きを鈍らせる『束縛妨害Lv3』。

 エルのロッドには『属性強化Lv3』『魔力回復Lv2』。

 そして、全員の防具には『体力増加Lv2』『耐久増加Lv2』を付けておいた。

 しかし、金級であっても魔法付与されていない武器を使っていると言うのは、やはり魔力付与されている装備は高いのだろう。


 全部初級から中級程度の付与だが、下手に強いモノを付ければ目を付けられる。

 エーナル達はまだ、目立つ事は避けた方が良い。


 目立つのは白金級に上がり、その叔父とやらの目論見を叩き潰してからだ。

 そんな事を考えつつ、インベントリの中から残りのサンドイッチを取り出して食べきる。


 更に日が傾き、野営の準備をするかと考え始めた時、入り口の方が騒がしくなる。

 どうやら、エーナル達が戻ってきたようだ。



 そうして地上に戻ってきたエーナル達の姿は、中々にボロボロだった。

 恐らく、ゴブリンの集団かグレーハウンドの群れにでも出くわしたのだろう。

 だが、目立った怪我はしていないようだ。


「……やっと地上だ……」


 エーナルがそう言って地面に座り込む。

 他の三人も、かなり疲れているのか、何も言わない。

 まぁこのままだと街の門が閉まってしまうので、可哀想だが急いで戻るとしよう。


「おーやっと戻ってきたか」


 そう言いながら手に持っていた魔法袋を担ぐ。

 それを見たエーナル達の視線が若干冷たく感じるが、気にしてはならない。


「早速で悪いが、門が閉まる前に帰るぞ」


「ま、待て、少しは説明を……」


 そんなエーナルの言葉を無視して、サガナに向けて出発する。

 当然、エーナル達も慌てて追い掛けて来るが、歩みは少し遅い。


 何とか門が閉まる前に、全員サガナに戻る事は出来た。



 そして、全員が風呂でさっぱりして、晩御飯を食べた後、エーナル達は泥の様にぶっ倒れて眠ってしまった。

 俺はと言うと、目の前の光景に少し頭を痛めていた。

 炎尚と神楽はまだ良い。

 だが、その裏に三人のメイドが立っていた。

 言わずと知れたジーナ達だ。

 最初に会った時の様な冒険者時の恰好では無く、全員が黒と白を基調としたメイド服を着て、静かに立っている。

 どういう事か神楽に聞くと、屋敷で働く以上、それにふさわしい格好をするのは当然です、と説明された。

 三人もそれで良いのかと聞けば、問題無いと言う。

 そして、驚いた事にミナキとラナは双子で、褐色の肌に銀髪、緑の瞳と外見は全く同じだった。

 これだと呼ぶ時に困るので、青い髪留めをしている方がミナキ、赤い髪留めをしている方がラナと判るようにして置いた。

 俺のいない一ヶ月の間に、神楽に鍛えられたのか、メイド業については問題なさそうだ。


 屋敷に戻って扉を開けたら、メイド姿のジーナ達が出迎えたからどういう事かと思ったよ。


 現在、ジーナ達の主な仕事は屋敷の掃除と洗濯。

 食事に関してはミナキが突出して覚えが良く、ジーナとラナはまだまだと言った所らしい。

 彼女達の部屋は一階の角部屋を一室使っている。

 三人で一室って狭いんじゃないかと思ったが、基本的に寝泊りするだけの部屋で、私物や荷物に関しては魔法袋に入れている為、それでも十分だと言う。

 取り敢えず、神楽は何処に出しても恥ずかしくない様になるまでは、屋敷で働かせると言う。

 まぁほどほどにな。


 朝になり、エーナル達が起きてくる。

 食堂で朝食を食べ終えた後、預かっていた装備を渡す。

 そして、付与した魔法に付いて説明。

 と言っても、直接影響が出るのは、エーナルとイーランの武具に付与した物くらいだ。

 『蒼炎』は通常の炎では無く、アンデット系に有効な浄化の炎を使う事が出来る。

 ただLv3なので、中級以上になると一撃では倒せないが……

 『風陣増加』は、撃ち出す矢の速度を上げる事が出来る。

 撃ち出す矢に風を纏わせ、矢が加速するだけだが、それに伴って貫通力が上昇する。

 『束縛妨害』は、相手にダメージを与えると、その動きを鈍らせる効果を発揮し、動きが遅くなる。

 これは素早い相手程効果を発揮し戦い易くなるが、今回はそれが目的では無く、ただ単に離れる間の時間稼ぎだ。


 そして、これからの事を考える。

 まず、エーナル達はこの後王都に向かい、白金級の試験を受ける。

 だが、どう考えてもまた妨害が入るだろう。

 しかも、今回の試験が最後なのだから、その妨害は確実に苛烈になるだろう。

 それを考えると、エーナル達だけでは心配だ。

 しかし、既に一ヶ月屋敷を留守にしていたのに、また留守にするのは……

 そう悩んでいると、炎尚がそれに気が付いたようだ。


「旦那様、屋敷の事は気にせず、我等にお任せください」


「しかしなぁ……」


「新人の教育もありますし、何も数ヶ月留守にする訳でもありますまい」


 エーナル達から試験内容を聞いただけだが、少なくとも1週間くらい掛かるのだろう。

 それに往復の期間を含めると大体2週間くらい。

 その位なら、問題は無い……のか?


「それじゃ、さっさと終わらせるとするか」


 そう言って、エーナル達と今後の事を決める。

 エーナルから最後のダンジョン脱出に付いて抗議されたが、あの程度クリア出来なければ訓練した意味が無い。

 そもそも、エーナル達の後を、神楽に追跡させていたので何の心配も無かった。

 もし、想定外の事が起きた場合、神楽には躊躇なく介入するように伝えてあった。

 当然、エーナル達のレベル程度で、神楽の隠蔽(ステルス)を見破るのは、直接目の前にいたとしても不可能だ。

 そう伝えると、全員が沈黙する。


「さて、それじゃこれからどうするかだが……どうする?」


「どうするとは?」


「いや、このままお前達だけで試験に挑むか、それとも手伝いをした方が良いかなんだが……」


「手伝ってくれないんですか?」


 イーランが意外そうに言うが、そもそも、銀級が白金級試験の手伝いと言うのはどうなんだろうか。

 まぁ手伝うつもりではあるんだけどな。


「手伝うのは良いとして、試験前に登録が必要なんだよな?」


「はい、明日出発しても十分間に合うはずです」


「エーナルもそれで良いんだな?」


 俺の言葉にエーナルも頷いた。

 そうと決まれば、今日は早めに寝て明日早くに出発するとしよう。

 だが、その前に俺は冒険者ギルドに顔を出さねば……



 完全に日も落ちているが、冒険者ギルドは相変わらず冒険者で賑わっている。

 受付にいたアイナにギルマスへの面会を頼む。

 今回はすぐに面会出来たので、手早くダンジョンでの報告をし、更にエーナル達の試験を手伝う事を伝える。

 聞けば、アーノルドが無事だったら、アーノルドが手伝う予定だったらしい。

 そのアーノルドは未だに治療中である。

 予定では後二ヶ月くらいでリハビリに移れると言う。

 流石に、そんな状態で手伝うのは不可能だろう。


「それじゃ、もうしばらくはお前さんに頼るのは無理って事だな」


「何かあったのか?」


 クックが難しそうにそう呟いたので、聞いてみる。

 数日前、とある冒険者から平原のとある場所に迷宮が出来ていたと、報告を受けた。

 それを受けた後、直ぐにその冒険者に案内をさせて、確かに迷宮であると確認出来た。

 取り敢えず、冒険者ギルドからギルドナイトを派遣し、その入り口から魔獣が出て来ない様に見張らせている。

 このまま放置する訳にもいかないのも事実であり、冒険者の中には既にその話を知って迷宮に向かった者もいる。

 だが、その冒険者達はサガナに戻っておらず、急遽、冒険者ギルドの方で調査する間、迷宮へ入る事を禁じた。

 なので、信頼の置ける冒険者に依頼して調査をさせたいのだと言う。

 既に王都の冒険者ギルドへは報告済み。

 もし、試験を終えて手が空いていれば調査を手伝って欲しいと言う。


「もしやるとして、俺の担当は?」


「そんなもん、最下層に決まっとるじゃろ」


「おい、銀級にさせる仕事じゃねぇだろ」


 クックの冗談とも本気とも取れる言葉に一応突っ込んでおく。

 そして、その後は療養中のアーノルドに会って少し話をする。

 定期的にストレアが来て回復魔法を掛ける事で、多少は治るのが早くなってはいるが、今回の事でアーノルドは引退を考えていると言う。


 主な理由として、やはり肉体の衰えが原因だ。

 鍛えてはいても、アーノルドは既に全盛期をとうに超えている。

 それでも今まで戦ってこれたのは、一重に仲間に恵まれていたのと、これまでの経験があったからだ。

 あのライカンスロープの攻撃も、全盛期の時なら難なく受け止めて、カウンターで粉砕出来た。

 しかし、衰えている今ではそれも出来ない。

 なので、怪我が完治したら冒険者を引退し、前々から打診を受けていた王立学園の教員職を受ける事にするそうだ。

 前線に立つ事が出来ないのは辛い事だが、後進の育成も大事な事だ。

 アーノルドの様な経験豊富で、五体満足な冒険者と言うのはかなり貴重だ。

 大抵の上級冒険者は、危険な依頼を受けて帰らぬ人になるか、重傷を負って再起不能になってしまう。

 王立学園でも、引退するかもしれない冒険者には話をしているようだが、大抵、最後に一花咲かせようと無茶をして大怪我をしてしまうと言う。

 結果的に、王立学園にそう言った実技に詳しい教師がなかなか集まらないのが悩みの種。

 なので、アーノルドは直ぐに採用されるだろう。


 そのアーノルドが、エーナル達の試験が終わったら少し相談したい事があると言う事で、終わり次第、戻って来て欲しいと言われた。

 当然、試験が無事に終われば、直ぐにサガナに帰ってくる予定だと、返答して置いた。


 そうして、エーナル達と共に王都に向けて出発した。




それでは、また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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