第41話
サガナダンジョンの最深部のボス部屋前。
セーフエリアでエーナル達が顔を突き合わせて相談している。
「どうやって戻れば良いんだ?」
「普通なら、ボスを倒して転移陣を使えば良いんだろうけど……」
テランがそう言ってボス部屋の扉を見る。
当たり前だが、ボス部屋の扉は既に閉まっており、中にボスがいる事が判る。
「エルの魔法で一掃出来る?」
「魔力が回復し切ってないから、ジェネラルが倒せるかどうか……」
「俺達もそこまで回復してないからな……」
イーランの問いに、残念そうにエルが答える。
通常、体内の魔力を回復させる方法は四通り存在する。
魔力回復ポーションを使用する、魔力が溜まっている場所に行く、自然回復。
回復ポーションを使用するのは普通の事であり、魔法を使うなら誰もが持っているアイテムだ。
それを飲む事で一定量まで魔力が回復するが、飲み物である為、それほど連続して飲む事は出来ない。
そして、魔力が溜まっている場所と言うのは、自然界には『魔力溜まり』と呼ばれる魔力が溜まりやすい場所が存在する。
そこにいると、外部から魔力を取り込む事が出来るので、自然と回復するスピードが速くなるのだ。
他には、他者が直接譲渡すると言う方法。
肉体に触れる必要があるが、必要な分だけ渡す事も出来るので、覚えておいて損は無い。
最後に、自然回復。
体内魔力というのは、普段から過ごしているだけでもゆっくりと回復していく。
ただし、その速度はかなり遅く、駆け出しの魔法使いだと完全回復するまで三日近く掛かる。
そして、魔力容量が大きければ大きくなる程、その回復し切るまでの期間は長くなる。
前日、訓練中にエーナル達はかなりの魔力を消耗してしまった為、まだ完全には回復し切っていない。
現在の回復量から推測すると、エルが使える魔法は初級が少しと言った所で、多少無茶をして中級が一回。
エーナルも同じと言う状況だ。
普段のエーナル達なら、オークジェネラル程度問題にもならない。
だが、装備が一切無く、魔法すら碌に使用出来ない状況では話が違う。
もし、この状態で突撃した場合、全員返り討ちになるのは目に見えている。
ならば、ダンジョンを戻るしかないのだが、それにも問題がある。
まず、ゴブリンやスライムなら魔法を小出しにし、体術を駆使すればどうにかなる。
問題は、グレーハウンドの存在だ。
グレーハウンドは狼種の魔獣であり、基本的に群れで行動する。
その為、一匹で行動する事は少なく、ダンジョンでも複数が一緒に行動している。
せめて短剣でもあればエーナルが戦えるが、それすらない。
「来た道を戻るしかない……」
長い沈黙の後、エーナルがそう呟く。
グレーハウンドは強敵ではあるが、オークジェネラルと戦うより勝ち目はある。
何より、ダンジョンを進んでモンスターを倒せば、たまに武器がドロップされる事がある。
今は、それを狙うしかない。
「僕が前、イーランとエル、そしてテランが殿で良いか?」
「私はそれで構わない」
エーナルの提案にテランが答え、イーランとエルは頷く。
そうして、全員が魔法袋の中にあった食事を食べ終えると、ゆっくりと地上に向かって進み始めた。
数時間後、エーナル達はかなり消耗した状態で中層部分に差し掛かった。
灯りは壁に設置された松明のような灯りだけで、ダンジョンの中は常に薄暗く、更に隠れている魔獣にも注意を払わなければならない。
そんな場所を常に注意しながら進むのは、エーナル達の体力はともかく、精神力をどんどん消耗させていく。
これまでに遭遇した魔獣は、運良くゴブリンが6匹とスライムが12匹だけだ。
グレーハウンドには出会わなかったが、どれからも武器はドロップされなかった。
なので、現在も武器は持っていない。
一応、落ちていた石を拾ってはいたが、武器と呼ぶ気には心許無い。
そして一番の問題は、こういった事に慣れていないエルの状態だ。
普通は、無手でダンジョンの中を歩く事は無い上に、エル自身も魔力が回復し切っていない状態。
かなり疲れ切っており、このままだと一番最初に行動不能になってしまう。
これまで出会った魔獣に対して、初級とはいえ攻撃魔法を使っているので他の3人より消耗が激しい。
「次の魔獣は僕が相手をするから、エルは休んでくれ」
「わ、私はまだ……大丈夫です……」
エルはそう答えるが、薄暗い灯りでも判るほど顔色が悪い。
そうして進んでいくと、遠くに小さい影が見えてきた。
スライムをゴブリンが3匹で囲み、棍棒で殴っている。
まだ此方に気が付いていないようだ。
エーナルが後ろの三人に視線で合図を送る。
そして、一気に跳び出して一番近くにいたゴブリンに襲い掛かった。
跳び出してきたエーナルに気が付いたゴブリンが、スライムへの攻撃を止めてエーナルに向き直る。
持っていた棍棒をエーナルに向けて振り下ろすが、エーナルがそれを半歩だけ横に動いて回避し、その顔面に向けて持っていた石を叩き付ける。
そして、そのまま身体を捻って別のゴブリンを蹴り飛ばし、最後の一匹の胴体部を狙って強烈なボディブローを叩き込む。
あっという間にゴブリン達は全滅した。
攻撃されていたスライムは既に逃走していたようで、その姿は無い。
だが、この結果に一番驚いているのはエーナル自身だった。
ゴブリンとはいえ、碌な武器を持たず、魔法を使わずに複数を倒せた。
訓練を受ける前の自分なら、同じ条件でやれば怪我の一つでもしていただろう。
ゴブリンと言えど、武器を持たない人からすれば脅威なのだ。
消えて行くゴブリンを見ていると、その場所に一つの短剣が残っていた。
その細い短剣は刀身は所々錆び付き、御世辞にも切れ味は良いとは言えない。
「ゴブリンナイフ……でしょうか?」
「無いよりかはマシだな」
エーナルが短剣を拾い、先程の戦闘を思い出す。
自分でも驚くほどスムーズに攻撃が出来た。
訓練を受ける前は、基本的に多対一の場合は如何にして一対一の状況にするか、と教えられた。
その為、遠距離から牽制魔法を使う事で他を押さえ、ターゲットを素早く倒す。
それを繰り返す事が最も効率が良いと。
現に、この時までそれを心掛けて戦っていた。
だが、訓練中にあの男はそんな事は無駄だと言っていた。
何度も一対一にするなんて不可能であるし、牽制魔法を使うくらいなら自己強化の魔法を使用した方が良い。
絶対条件として、ソロで動くなら一撃確殺を前提とし、それが不可能なら相手にデメリットを与える。
そのデメリットも、動きを阻害したり、視界を奪ったりするのが定石だと。
それが不可能な相手だった場合、とにかく手に入れた情報から最大限効果を発揮する方法を想定する。
物理攻撃が通用するのか、魔法攻撃が通用するのか、それとも特定の条件下でなければダメージを受けないのか……
他にも、多対一の場合の立ち回り方や、攻撃した後の動きを徹底的に叩き込まれた。
「……皆に提案なんだが……」
「何かあったの?」
「いや、この迷宮には罠は無い、だからここでは注意して進むのは止めようと思う」
エーナルの言葉に全員が言葉を失う。
通常、ダンジョンと言うのは注意して進むのが普通だ。
それは、罠やダンジョンに生息するモンスターを警戒する為に必要な事だが、エーナルはそれを一旦止めようと言うのだ。
「一応、理由を聞いても?」
「悔しい事だが、あの男の訓練を受けて、僕等は強くなってるのは確実だ。多分、ここなら急に横から襲撃を受けても対処できると思う」
エーナルの提案を全員が聞いて考える。
言っている事に納得は出来る。
だが、それをいざやろうとするには結構勇気がいる。
「この階層はもう少しで抜けられるでしょうから、次の階層でやってみて、大丈夫そうなら続けましょう」
イーランがそう言うと、思案していたエルが頷く。
テランはまだ心配顔だったが、他二人が賛成したので、渋々賛成する事にした。
「よし、それじゃ少しペースを上げよう」
階段で一つ上の階層に上がり、エーナルが歩くペースを上げる。
と言っても、多少歩くのが早くなっただけだが、それでも速度は少し早い。
そうしていると、目の前にスライムが2匹現れた。
エーナルが魔法を放とうとした瞬間、横手から何かゾッとする感じがした。
その感じを信じ、スライムでは無く、見もせずに横手に向けて準備した魔法を発動させた。
「『フレアバレット』!」
広範囲に小さい火の玉をばら撒く牽制用の魔法だが、それが空中にいた別の魔獣を撃ち落とす。
しかし、ソレは綺麗に着地する。
「グレーハウンド……」
イーランが呟く。
そこにいたのは、4頭のグレーハウンド。
どうやらスライムを餌に、やってくる冒険者をターゲットにしていたようだ。
他の魔獣を囮にしたり、隠れている間は隠蔽状態になっている等、このグレーハウンド達はかなり知能が高い。
「僕等はグレーハウンドを、エルはスライムを頼む」
「わかった」
短剣はイーランに渡し、グレーハウンドに向き直る。
短剣のスキルを持っているイーランが2頭を相手にし、エーナルとテランが1頭ずつ対処する。
エーナルがグレーハウンドの一頭にワザと突撃し、群れをバラバラにさせる。
突撃する瞬間、『フレアバレット』を使用したので安全にばらけさせる事が出来た。
目の前のグレーハウンドに向き直る。
その牙による攻撃を受ければ、防具を付けていない今の状況では致命傷になってしまう。
だが、気を付けるべきはその素早さを活かした一撃離脱型の攻撃スタイルだ。
タイミングを下手にミスすると、その身体に触れる事すらなく、やられてしまう。
グレーハウンドは牙を剥き出しにし、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を出している。
だが、あの男との訓練を経て、この行為はただの威嚇だと判る。
襲い掛かってくるのであれば、必ず後足に繋がる全身の筋肉が張るが、今はその兆候は無い。
一つに注視するのではなく、全体を見る。
すると、後足に繋がる筋肉が張り始めたのが見えたので、逆に一気に跳び掛る。
跳び掛かる瞬間に跳び掛かられると、どうしてもタイミングがズレる。
狙うのは、グレーハウンドの顎。
その口を掴み、首に腕を回す。
生物というのは、基本的に口を開く力より閉じる力の方が強い。
つまり、口が開く前に掴む事が出来れば、脅威となる牙は完全に無効に出来るのだ。
筋トレの成果か、グレーハウンドは口を開けず、頭を振って逃げようにも首を押さえられている為、動かす事も出来ない。
更に、胴体部を両脚で挟み込まれ、完全に動けなくなる。
「フンッ!」
エーナルの掛け声と共に、口と首を押さえ込んでいた腕を思い切り捻る。
ゴキャッと音がして、グレーハウンドの身体から力が抜けて行った。
頸椎が圧し折れれば、動物型魔獣は一溜りも無い。
倒れたグレーハウンドから離れ、他の仲間達の方を見ると、既に倒していたようだ。
テランが相手をしていたグレーハウンドは、その頭部が見事に潰れている。
聞けば、『ロイヤルガード』で攻撃を受け流し続け、一瞬の隙に『ロイヤルリターン』を叩き込んだらしい。
ただ、吹き飛ばす程度の威力と思ったら、グレーハウンドの頭部が勢い良く潰れ、一撃で絶命させた事に多少ショックを受けていた。
イーランは、『フェイントステップ』を利用し、一頭の後足を攻撃して動きを鈍くさせ、もう一頭は同じように『フェイントステップ』を利用し、短剣を首に押し込み、更に多少刺さった所で、短剣の柄を蹴り込む事で深々と突き刺した。
その短剣を直ぐに引き抜き、後は最初に攻撃した方に向かい、その胴体部に短剣を突き刺した。
後は失血で動きが遅くなるのに合わせ、切り刻んだ。
グレーハウンドがダンジョンへと消え、牙、骨、毛皮、魔石が残った。
それを魔法袋に収納する。
そして、確信した。
このダンジョンなら、もっとペースを上げても大丈夫だと。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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