第40話
サガナダンジョンのボス部屋で、エーナル達が汗を流している。
彼等の訓練メニューは以下の通りだ。
午前、筋トレ。
午後、個人模擬戦。
夕方、休憩した後に模擬戦の結果から個別指導。
夜、就寝。
夜になると、毎日神威か炎尚が魔法袋を持ってやってくる。
この中には、一日分の食料と着替えが入っている。
流石に、一ヶ月間同じ服なんて不衛生過ぎるからな。
勿論、エーナル達の分も持ってきてもらっている。
風呂は入れないが、桶に水を入れて魔法でお湯にし、タオルで身体を擦る。
ただ、これだとサッパリはしないので、屋敷に戻ったらまずは風呂に入るようにしよう。
そして、外の異変が無いかの報告も聞く。
異変と言う訳では無いが、ジーナ達は結局、神楽に師事する事になったと言う。
そもそも、あの広い屋敷を二人だけで清掃から管理するのは厳しく、丁度良いと言う。
ただし、師事する条件として、冒険者としての活動は続ける事と、この屋敷に努めている間、見聞きして知り得た情報は一切他言無用。
もしその条件を破った場合、即座に屋敷から出て行かせると言う。
まぁ、俺は自身や誰かの身の危険が絡んだりしたら、喋っても仕方ないと思うが……
一応、給金は炎尚と神楽が月に銀貨20枚なのに対し、3人は月銀貨10枚となったらしい。
高いのか安いのか、いまいち判断に困るが、王都で活動する銀級にしては安い部類だろうな。
戻ったらどうなっているのやら……
そして、彼等を強くすると約束した以上、甘い事はしない。
筋トレは基本だが、腕立てと腹筋、そしてダンベルとマラソン。
ただし、腕立ては背中側に重量を追加、腹筋は傾斜を付け、ダンベルは持ち上げて一定の場所で停止、マラソンも重りを付けてボス部屋を走るといった感じ。
この訓練メニューだが、実際に昔クソジジイとやっていた内容だ。
ただ、メニューそのものはかなり緩くはしているが……
クソジジイの場合、午前中は延々走らされ、午後はクソジジイの撃ち出してくる魔法を、とにかく回避か防御を行う。
そして、夕方に個人模擬戦をした後、指導される。
これを全て凄まじい重りを付けて行わされた。
ゲームだから意味が無い、という訳では無く、その状態でも常にいつも通りに動けるようにと言う事らしい。
まぁ最後の方はこれ以上に色々と追加されたり、何度もデスペナルティを受けたりしたが……
そして、エーナル達に筋トレをやらせている間、俺はダンジョンを走り回り、出現したモンスターを定期的に狩る。
これがクックの出した条件だからだ。
ダンジョンは一定期間何もしないでいると、内部でモンスターが溢れ、それが一定量に達するとダンジョンから溢れ出す。
それは『魔獣暴走』と呼ばれる現象であり、外でも起きる現象だが、ダンジョンで起きる方が圧倒的に多い。
それを防ぐ方法はただ一つ、ダンジョンのモンスターを狩り続ける事だ。
ダンジョンは生きている。
内部でモンスターを産み出し、入ってきた他者を殺害して吸収する事で力を付けて行く。
そして、深部にある宝は餌だ。
その餌を目当てに冒険者はダンジョンに潜る。
その冒険者が死ねばダンジョンは成長する。
ダンジョンそのものを機能停止させる方法は簡単だ。
ダンジョンコアと呼ばれるコアを取り外せば、ダンジョンは機能を停止する。
だが、ダンジョンは同時に資源でもある。
ダンジョンにいるモンスターは、倒せば解体する手間無く素材が手に入る。
更に、放っておけばそのモンスターは再び復活する。
中にはかなり希少なモンスターも存在し、それの素材を安定して手に入れる事が出来る。
なので、基本的にダンジョンを機能停止させる事は推奨されておらず、国毎に厳重に管理されている。
サガナでは、定期的にギルドから冒険者に直接依頼をして狩ってもらっていた。
その期間は大凡一週間から二週間に1度。
それでこのサガナダンジョンの『魔獣暴走』が抑え込める。
しかし、この期間を放置したとしても、絶対に『魔獣暴走』が起きる、と言う訳では無い。
『魔獣暴走』には順序がある。
まず、ダンジョン内部がモンスターで溢れ、それが互いに力を奪い合う。
そして、それが一定水準に達した時、モンスターはダンジョンから溢れ出て来る。
猶予としてはサガナダンジョンの場合、一ヶ月から一ヶ月半程度だと言う。
ただし、これによって出て来るモンスターは、内部にいるモンスターが多少強くなる程度なので、サガナの場合、そこまで脅威と言う訳では無いと言う。
これが、王国にある上級クラスのダンジョンになると、猶予の期間は長くなるのだが、出て来るモンスターも当然相当強い。
ただ、そう言うダンジョンには冒険者がひっきりなしに潜るので、討伐と言う意味では問題無い。
まぁ……それに比例して死んで吸収される冒険者の数も増えるんだけどな……
それはともかく、訓練初日。
筋トレは全員こなせたが、個人模擬戦は容赦無く叩きのめした。
一応、全員に俺が用意した装備を使わせている。
普通の剣と盾、弓矢とロッドだけだが。
そして、エーナルは現在の戦闘スタイルを改める事、テランは盾をもっと効率良く使用する事、イーランは弓以外に短剣を使える様にする事、エルに関しては魔力を効率良く操作する事を指導していく。
エーナルの戦闘スタイルは、多数の斬撃スキルを一つに纏めるというスタイルだが、はっきり言ってコレは非効率だ。
複数の斬撃同士が相互干渉を起こし、一撃毎の威力が低下してしまう。
なので、それを本来のスタイルに戻し、一撃の威力を引き上げる。
そして、エーナルが求める様な、一撃の威力に特化したスキルも教える。
ソード系のスキルでは『バーストソード』『ストライクブレイク』の二つがある。
『バーストソード』は袈裟斬りに斬り付けるだけだが、その威力はかなり高い。
正直、ソード系スキルを使うなら覚えておきたい代表的なスキルだ。
そして『ストライクブレイク』は、対象を突くだけで、見た目としては地味だ。
ただし、その威力はえげつない。
だが、この二つを最大限の威力にする為には、今のエーナルの筋力では実現しない。
なので、まずはエーナル自身を鍛え上げる。
テランに関しては、せっかく良い盾を持っているのだから、それを最大限利用する事を教え込む。
具体的に言えば、相手のスタミナをゴリゴリ削る戦法だ。
その為、盾スキルの『ロイヤルガード』を教え込む事にした。
このスキルは使用する事で、あらゆるダメージを盾で受ける事が出来る様になると言う物であり、それは毒であろうが火であろうが、発動者に悪影響を及ぼすモノを全て防いでくれる。
更に、このスキルでガードしたダメージを、相手に一気に返す事が出来る『ロイヤルリターン』がある。
他にも、相手の攻撃の出を潰す事で、受ける威力を削り落としたり、逆に下がる事でインパクトを受け流す方法を教える。
彼女は腕も良いので直ぐに習得するだろう。
イーランは弓の腕は良いが、接近された時に何も出来ないのは問題なので、最低限の防衛が出来る様に短剣術と弓の便利スキルを使える様にする。
短剣と言ってもショートソード並に大きく、コレ単体でも十分強い。
スキルとしては『フェイントステップ』と言うモノを教えておく。
このスキルは、見た目はただのステップだが、実際には虚像を相手に誤認させるのだ。
本人は右に移動しているのに、虚像は逆の左に動いていると言った感じだ。
しかもこの際、本人は相手に認識されない。
弓の方は『ライブシュート』と言うスキルを教える。
このスキル、撃ち出した矢を本人の意思である程度操作出来る様になるスキルだ。
ただし、極端に軌道を曲げたり、逆に戻したりは不可能だが、それ以外なら操作が可能。
これはイーランの努力次第で直ぐに習得出来るだろう。
エルに関しては、魔力操作に重点を置く。
まず、左手の親指の先に小さい火の玉を作り出し、その後、左手の小指の先に水の玉を作り出す。
それが成功したら、今度は右手の親指の先に小さい水の玉を作り出し、その後、右手の小指の先に火の玉を作り出す。
更にそれが成功したら、胸の前に火の玉を作り出し、その後、腹部の前に水の玉を作り出す。
何故、火と水だけなのかというと、現在エルが使えるのがその2種属性だけだと言う。
今から新しい属性を覚えるのは時間的にほぼ不可能なので、とにかく魔力操作をスムーズに行えるようにする。
この方法、修業時代にクソジジイからやられた事であり、俺の場合は全部の指先に玉を作り出し、更に両肩、両脚にも作り出した。
他にも、両掌に火の玉を作り、送り込む魔力量を調整してそのサイズを別々に変化させる。
これらを一ヶ月間ずっと行う。
更に、個人模擬戦は文字通り4人が動けなくなるまで行う。
容赦?
知らない子ですね。
最初の一週間でエーナル達の眼が光を失う。
次の一週間の最初の日、エーナル達から夜襲を受けるが、叩きのめした後、元気があると言う事でそれから筋トレを倍、個人模擬戦でもギアを上げる。
最後の一週間、元々の装備を使用して再開する。
流石にこのまま続けると、元々の武器の具合を忘れてしまう。
なので、最後の一週間は元々の装備を使用する。
最後の方は最初の頃に比べると、圧倒的にレベルが上がったのを感じられた。
エーナルは完全に『バーストソード』『ストライクブレイク』を習得し、従来のスキルも元に戻って一撃の威力が倍以上に上がった。
テランは盾の使い方を完全にマスターし、相手にとってかなり相手し辛い相手となった。
イーランは弓と短剣をマスターし、矢を回避して接近したとしても短剣とスキルで戦う事が出来るようになった。
エルは指先全てに交互に火と水の玉を作り出し、更に籠める魔力も自在に出来るようになった。
更に、全員に無手の状態でも戦闘が出来る様に簡単な体術を叩き込む。
ただ、時間が無かった為、全員がそこまで使いこなせるようになった訳では無い。
さて、明日で丁度一ヶ月になる。
最後の仕上げと行こうか。
魔法袋を持って来ていた神楽に合図を出し、下がらせる。
「さて、明日で最終日だが、全員装備を貸してくれ」
「……何でまた……」
俺がそう言うと、エーナルがそう聞いてくる。
うん、完全に怪しんでるな。
「簡単な物だけだが、魔法付与するからだ」
「出来るんですか?」
「あぁ、と言っても簡単な物でレベルも低いがな」
俺の説明を受けて、全員が装備を外してくる。
それを一旦すべて収納する。
「まぁ、全部やるには一晩ほど掛かるから、先に寝てて良いぞ」
そう言ってセーフゾーンの隅に座ってエーナルの剣を取り出す。
それを見て、エーナル達は死んだように眠り始めた。
さてと、それじゃ気合い入れてやるかね。
次の日、セーフエリアでエーナル達が目を覚ます。
そして、エルが何時ものように魔法の灯りを飛ばし、周囲を照らし出す。
いつもの面々が若干眠そうにしながら、いつもと同じように準備を開始するが、いつもと違う点が一つあった。
周囲を見回しても、あの男の姿は無く、代わりに魔法袋と何か紙が置いてあった。
エーナルがその紙を拾い、テラン達が魔法袋を確認する。
魔法袋の中身は、本日の朝食のサンドイッチと果実を絞ったジュースが詰まった瓶が全員分、そしてダンンジョンの地図。
そして置いてあった紙を確認したエーナルは、頭を抱えていた。
その手紙にはある言葉が一言だけ書いてあった。
『地上で待つ』
装備無しで、初級とはいえダンジョン最深部から脱出する。
それが、この訓練の最終試験だった。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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