第38話
アーノルド達がライカンスロープと交戦している際、チームメンバーは全員コボルドと戦闘している。
魔法使いのマーリンとエル、ストレアの3人は、今回は誤爆によってライカンスロープを強化してしまう可能性が有った為、コボルドを逃がさない為に多重結界を張っている。
今回はライカンスロープだけを殲滅し、コボルドは出来るだけ減らすだけの予定だったが、ライカンスロープまで進化する方法を知っている以上、確実に殲滅する事になった。
そもそも、コボルドはサガナの柴隊がいるので、最悪他が全滅した所で絶滅する事は無い。
と言うより、ダンジョンがある以上、絶滅する事は無いのだが……
そうして始まった討伐作戦。
跳び出して行ったアーノルド達と同時に、残っていたチームメンバーが強烈な光で混乱しているコボルドを狩り取っていく。
まず、ハーグとブラウが連携し、一気に固まっていたコボルドを倒す。
その隣では、ファーナ、ガランド、ボーレル、レアード、マークの獣人メンバーが、どんどんコボルドを倒しながら進んでいく。
ジーナとミナキは、一人で突撃していくテランが取りこぼしたコボルドを的確に倒していく。
そのメンバー達の背後からはラナ、ファダン、イーランが矢を降らして動き出そうとしたコボルドを足止めし、更に隙あらばトドメを刺していく。
その彼等の目の前で、明らかにそれらの速度より早く倒していく男が一人。
一撃でコボルドを弾き飛ばすと、そのコボルドが別のコボルドに当って沈黙する。
更に、集団に向けて雷を纏った攻撃をぶちかまし、拳から雷撃を飛ばしてコボルドを倒していく。
襲い掛かってきたコボルドに対しては、僅かに身を引いて回避し、カウンターで叩きのめしていく。
まるで何処から攻撃が来るのか判っているかのように動き、同時に攻撃をされない様に立ち回り続け、コボルド達を的確に倒す。
そして、その恐ろしい所はその処理速度では無く、その視線はコボルドでは無く、ライカンスロープに向かっているアーノルド達の方を見ている事だ。
つまり、この男は一切コボルドの事など意に介していない。
カカナは先程からこの男の後に付いてフォローに回っている。
だが、正直やる事が無い。
まず、この男、取りこぼしが無い。
なので、後ろに付いてはいるのだが、現状では何もしていなかった。
「気を抜くな!」
そして、気を抜きそうになった瞬間、いきなり男の声が響いた。
自分に向けられた事かと思って、カカナは一瞬ビクッとしたが、どうやらそうでは無かったらしい。
ライカンスロープを攻撃したエーナルが何かミスをしたらしい。
強化されたライカンスロープの攻撃をアーノルドが防御したが、その防御力を抜かれてアーノルドが大きく吹き飛ばされた。
「アーノルドは任せる!」
男がそう言って一気にライカンスロープに向かっていく。
コボルドの数は既に半分を切っており、問題は無いのだが、流石に放置する訳にもいかない。
状況的に、まずヒーラーであるストレアは行かなければ不味い。
更に護衛として数人は回さなければ……
「ブラウとストレア、それとファーナとレアードは向かって!」
カカナが指示を飛ばす。
ブラウとストレアはチームメンバーとして動きが判っているから送るのは問題無いとして、獣人チームから二人を護衛に回す。
そして、彼等が抜けた穴を塞ぐ為にブラウが担当していた場所に自分とテランが入り、獣人チームは多少広がる。
更に、ラナ、ファダン、イーランの弓メンバーが足止めからフォローに回る。
ジーナとミナキは別れて取りこぼしたコボルドを仕留めて行く。
そして、向こうでは青白いオーラを纏った男が、ライカンスロープの猛攻を全て避け続け、チャンスを窺っているようだ。
銅級と言う話だが、間違いなく腕を詐称している。
その向こう側では、倒れたアーノルドに対してストレアが回復魔法を使用し、そのストレアを守るようにブラウとファーナ、レアードがコボルドを倒している。
そして、その光景を見ながら呆然としている馬鹿が一人。
「あの馬鹿者……少しここを任せる」
テランがそう言うと、馬鹿の方に走って行く。
数は減ったとはいえ、まだコボルドは残っているのだ。
そんな所で棒立ちしていれば良い的だ。
「何を呆然としているんだ!」
エーナルに飛び掛かろうとしたコボルドを盾で吹き飛ばし、テランが叫ぶ。
それを受けて、エーナルが思い出したかのように続けて来たコボルドを斬り飛ばす。
「今はコボルドを倒せ!」
「わ、わかっている!」
エーナルが猛烈な勢いでコボルドを倒していく。
それを確認してテランもコボルド退治に戻る。
そして、アーノルドは復活したようだがその状態は酷いようだ。
その下半身をブラウとファーナが支えて立っているのを見て、マークが護衛の為に向かう。
更に、何かを察したのか、ジーナが男の所に向かって何かを伝えている。
「了解した!」
その声と共に、今まで防衛だけをしていた男が、じりじりとライカンスロープとの間合いを詰めて移動を始める。
ライカンスロープは猛攻を続けているが、間合いを押し込まれる度に少しずつ下がり続ける。
コボルド達も最早数える程しか残っていない。
「今だ!」
「『フルブリットバンカー』ッ!」
その掛け声と共に、アーノルドの最強スキルが炸裂、強化されたライカンスロープの防御力を貫通して絶命させた。
ゆっくりと倒れて行くライカンスロープを尻目に、残っているコボルドを全員で倒していく。
ライカンスロープが倒された事により、残されたコボルド達が逃げ始めるが、全員それを許す事は無い。
そして、ガランドが逃げる最後のコボルドを仕留めた。
森の中にいなければ、これでこの森にいる群れは壊滅した事になる。
アーノルドの怪我は酷い物だった。
まず、左腕の骨が完全に砕かれ、左肩からアバラ骨の左側も砕かれている。
打撲や切り傷に関しては回復魔法によって治っているが、骨折に関しては治りが遅い。
冒険者ギルドに戻って、完了の報告を行う。
アーノルドがこの状態なので、代表してエーナルが行うべきなのだが、カカナが代わりに報告した。
それを受けて、ギルマスのクックが唸っていたが、了解したと言って報酬金を全員に払うように手配した。
そして、俺の冒険者カードが銅から銀に変わった。
見た目はただ色が変わっただけだ。
これで、鉱山や今までアイナに冷たい目で見られていた討伐依頼も、堂々と倒して出す事が出来る。
それにしても、これからどうするのか。
まず、絶対安静のアーノルドはしばらくサガナにいる事になる。
それを受けて、チームメイトのブラウとストレアも残る。
更に、ジーナ達も神楽に師事して貰おうとしている為、サガナに残る。
つまり、王都に戻るのは、エーナル、カカナ、レノク、リョーキの4チームだけになる。
アーノルドがどれだけ重要なポストに付いていたのかは不明だが、暫く戻れないのは問題なんじゃないだろうか……
まぁ最終的な判断はギルマスのクックがするだろうから、俺は何もしなくて良いか。
そして、冒険者ギルドで今後の事を考えてみる。
まず、銀級になった事で指名依頼が増える可能性が高い。
が、コレに付いては拒否も出来るので気にしても仕方ない。
他には通常依頼だ。
サガナは、近くに妖精国へと繋がっている大森林がある以外には、鉱山があるくらいでほとんど何もない。
ダンジョンも初級から中級と言うくらいで、上級冒険者になるとこの街にいる意味が少なくなる。
出て来るモンスターも、大森林の奥に行かなければ、油断さえしなければ銀級でも十分対処出来る。
最も、グラップグリズリーや今回のライカンスロープの件があるので、王都の方でも見直される可能性はある。
しかし、サガナにいるだけでは冒険者ランクは、ほとんど上げられない。
その最大の理由が、サガナの近くに生息しているモンスターの種類だ。
今回の様なグラップグリズリーやライカンスロープは滅多にいない。
そして、この2種がサガナに生息する最強種と思われる。
ぶっちゃけると、俺は本気を出さずともどっちも倒せる。
そして、今回の強化されたライカンスロープでも、倒そうと思えば倒せた。
だが、あの場面で倒した場合、後々面倒な事になっていただろう。
まぁアーノルドでも倒せなかった場合、後の事など考えずに殲滅しただろうけど。
そうして考えていると、近付いてくる人物がいた。
それはエーナルのメームメイトのテランとイーランだった。
俺が気が付いたのを察したのか、二人が頭を軽く下げた。
「今大丈夫でしょうか?」
「まぁ何かする訳でも無いから別に良いが……」
そう答えると、今度はテランが深く頭を下げた。
「私達に稽古を付けて欲しいのです」
いきなりそう言われても困る……
一応、事情を聴く事にした。
エーナルはあの長い名前から予想はしていたが、やはり貴族の坊ちゃんだった。
しかも公爵家の長男。
テラン達は幼馴染と言うか、仕えていたメイドや騎士達の子供であり、いつも一緒だった。
武家でもあるバシーナ家の長男として、幼い頃から鍛えられており、冒険者になったのも自身の力を試させる為だと言う。
僅か16で銀級に到達、このまま順調に白金級になると期待されていた。
事の起こりは5年前、エーナルが18歳の時に事件が起きた。
父親である公爵が汚職で捕縛された。
しかし、その汚職は仕組まれた物であり、まったくの無実であると言う。
そして、その捕縛劇で一気にのし上がったのが、エーナルの叔父だった。
更に、エーナルには当時15になる妹がいるのだが、公爵を何とか牢から出すと言う条件で、その妹に婚姻を迫ったと言う。
ちなみに、叔父は当時で既に47。
その妹は当時、既に婚約者がいたのだが、父親を無事に助け出す方法がそれしかないのならと、婚約を諦めていた。
だが、それに待ったを掛けたのが、当時のエーナル。
白金級になればその国の王から、直接その称号を得る為に謁見する事が出来る。
そして、この王国では出来る範囲でだが、本人が望む事を願う事が出来るのだ。
これで、自分達の父親を釈放する。
だが、金級に上がり、既に4年半が経過している。
アーノルドからは、金級から白金級に上がる平均年数は5年と言われており、もし10年上がらなければ白金級は諦めた方が良いと言われた。
白金級に上がるには、冒険者ギルド独自の試験があり、実技で毎回落とされている。
その原因が、その叔父の妨害工作だった。
これまでの実技内容を聞いて、若干イラッときた。
最初の年、ソロでキメラを退治する。
そんなの現役の白金級でもキツイ事だ。
結果は当然失敗。
次の年、ソロでヘビーオーガを退治する。
現役の白金級でも苦戦すると言うか無理。
結果は当然失敗。
次の年、ソロでヒュドラを退治する。
ソロで挑む方がおかしい。
結果、挑む事すらおかしいと言う事で棄権。
次の年、ソロでアークドラゴンを退治する。
最早試験で挑ませる内容では無い。
棄権。
そして、今年の試験はまだだが、今年の夏に行われる。
それまでに何としてもエーナルを含めて自分達も強くならなければならない。
だが、王都でも顔の広いアーノルドに師事し、相手に察知されて迷惑を掛ける訳にもいかない。
そんな時にやって来たのが、今回のライカンスロープ退治。
いつもは冷静な判断が出来るエーナルだから、今回も大丈夫だろうと引き受けた。
だが、毎度毎度の試験の事で焦って冷静さを欠いていた。
明らかに試験官にその叔父の関係者がいるな。
しかし、今年の夏か……
「今年の試験をパスする事は出来んのか?」
「それが……今年を逃すと妹さんが叔父に嫁ぐ事が決まってるんです……」
叔父が『平均5年で上がるならば5年は待つ』と言う条件を付けたらしい。
そして、今年がリミットの5年目になる訳だ。
だが、有利な点もあると言う。
「今年の試験内容に関してだけど既に情報が出回ってる」
何でも、王国から少し離れた所で新たに迷宮が発見された。
今まで発見されなかった理由は単純で、大規模な地滑りが起きてぽっかりと入り口が出来たのだと言う。
出て来るモンスターもそこそこの強さが確認されており、階層も不明。
だが、少なくとも10階層は確認されており、階層数だけなら恐らく上級に匹敵する。
なので、今回の試験は受験者が仲間を集めてその迷宮を攻略し、白金級に匹敵する様なアイテムか魔獣を倒してくる事。
その為、他の受験者達は試験開始まで仲間集めに奔走している。
メンバー数は最大5人まで。
そして、今年の試験はあと1ヵ月半くらいで始まると言う。
「流石にそんな短期間で強くするのは無理だ」
そう言うと、彼女達の表情に影が差す。
これはどうしようもないのだ。
「だが、期間ギリギリまで死ぬ気でやれば多少は底上げ出来るし、相手の目論見全部叩き壊す方法がある」
その言葉で彼女達の表情に光が戻ってくる。
まぁ、後はあのエーナルが納得すればだが……
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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