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第37話




 日が昇る少し前、コボルド達が何かを感じ取った。

 それは何か、本能に訴えかける様な、かと言って不快では無いのだが、無性に惹き付けられる。

 ライカンスロープ達もソレに気が付いたのか、ゆっくりと起き上ってその臭いの元に歩いて行く。


 それはコボルド達の群れの中心部、多少開けた場所にあった。

 コボルドの一体が注意深くソレに近付いていく。

 それは見た目はそれ程大きくは無いただの箱。

 近付いたコボルドは、近付く度に何か無性にソレを破壊したくなる衝動に駆られ始めていた。


 そして、手が届く範囲に来た時、持っていた剣で箱を叩き壊した。

 その瞬間、割れた箱から強烈な臭気が広がっていく。

 その臭いは一気に群れに広がり、他のコボルド達が狂った様に箱に向かって殺到する。

 箱が破壊され、バラバラになった所で残骸の中から何かが跳び出し、空中で破裂すると強烈な光を撒き散らした。

 箱に殺到していたコボルド達も、それを離れていたとはいえ直視したライカンスロープ達が目を押さえてのた打ち回る。


「突撃である!」


 森の中からアーノルド達が一気に跳び出し、のた打ち回っているライカンスロープに向かって群れの中を突っ切って行く。

 それに続くのはエーナルとレノク。

 そして、逆側から俺、カカナ、ジーナ、リョーキが跳び出してコボルド達を仕留めて行く。


 ここのコボルドは見た目が柴隊とは違っている。

 なんというか、大型のコボルドは大人の胸ほどの大きさがあり、見た目はブルドッグとかそういう感じだ。

 そして、数が多い方は柴隊と体格はほとんど変わらないのだが、見た目は……テリアか?

 そして、ライカンスロープは体格だけならアーノルドとほぼ変わらず、ブル系から進化した様でブル顔だ。

 後でライカンスロープの見た目に付いて聞いてみよう。


「唸れ我が拳ッ『バスターフィスト』ッ!」


 拳を構えたアーノルドの両拳が紅く光を放ち、直撃したライカンスロープの一体の首から上を消し飛ばした。

 更に、裏拳でもう一体のライカンスロープを仕留める。


「『パワーインパクト』ォッ!」


 更にその横ではレノクの繰り出した踵落としが、一体のライカンスロープを叩き潰していた。

 どちらも単発高威力を誇るモンクスキルだったな。


「『アックスマッシャー』ッ!」


 リョーキがコボルドも巻き込んで、自身の大型斧でライカンスロープを真っ二つにしていた。

 流石、獣人種はパワーが違う。

 巨大な斧もまるで枝のように振り回している。


 そして、他のチームメンバーは未だに混乱しているコボルド達を片付ける事に奔走している。



 今回の作戦は至ってシンプル。

 獣魅蝋を使い、注目させた所で閃光弾を使用して混乱させて、各個撃破する。


 獣魅蝋が入るだけの箱を準備し、その中に閃光弾をセットする。

 箱には僅かに空気の補充が出来る様に穴を開け、耐火の付与で箱自体は燃えない。

 そうする事で獣魅蝋の煙が箱の中に充満し、破壊した瞬間、煙が一気に解き放たれる。

 そして、箱は二重底になっており、しばらくすると閃光弾が上空に撃ち出されて周囲に閃光を撒き散らす。

 この閃光弾はかなり特殊で、必ず打ち上げる方が上部を向く様になっている。

 所謂『起き上がり小法師』と同じだ。

 閃光弾を作る際に試作品として色々作った内の一つだ。


 そして、獣魅蝋の芯の部分に小さい石を貼り付け、蓋を閉めて準備は完了する。

 この小さい石は火燃石(かねんせき)

 発火点がかなり低く、特定の油を塗るとあっという間に燃え出してしまう。

 所謂、酸化熱反応という現象を利用した発火装置だが……

 この油が酸化する際、高い熱を出し、火燃石の発火点を超えるのだ。

 この調整が地味に大変だった。

 運んでいる最中に燃えても駄目だし、燃えるのが遅くても駄目。

 丁度、箱が置かれた前後位から燃え出すのが理想なのだ。

 何とか調整は出来たので、組み込んだ箱を『サンドイーグル』が運び、群れの中央にそっと置いて行く。

 結構ギリギリの重量だったが、何とか運べた。



 そして後は、とにかくスピード勝負となる。

 この混乱は長く続かないし、ライカンスロープも全部が集まっていた訳ではない。

 予想外に1体だけかなり離れた所にいる。

 だが、4体は既に無力化し、残り2体に関してもアーノルドとレノクが向かっている。

 その離れた1体にはエーナルが向かっている。


「さっさと死ね、『フラッシュキャリバー』ッ!」


 エーナルが離れていたライカンスロープに輝く剣を叩き込む。

 それが直撃したライカンスロープが吹っ飛び、粗末なボロ屋の一つを破壊した。

 恐らく、コボルドが雨風を凌ぐ為に作ったボロ屋だったのだろう。

 だが、俺はそこで何か嫌な感じを覚えた。

 エーナルの使ったスキル『フラッシュキャリバー』は、ソードスキルの中でもかなりの威力を誇る上級スキルだ。

 その最大の特徴は、複数の斬撃を纏めて対象に叩き込む事で完全に破壊する、というモノ。


 そう、()()の斬撃。


 つまり、一撃単発では無いのだ。

 そして、ライカンスロープの特徴。


「フンッ雑魚が」


 エーナルがそう言って、ライカンスロープから視線をコボルドに移す。


「気を抜くな!」


 その声が響いた瞬間、ボロ屋が吹き飛び、ライカンスロープがエーナルに向かって跳び出していた。

 その首元から腹部に掛けて、赤く抉れた様な痕がある。

 恐らく、あの部分にエーナルの攻撃が当たったのだろうが、ダメージ判定が入った瞬間に倒せていなければ、ライカンスロープの能力は上がっていく。

 それを考えると、今回の場合では致命傷には届かなかったのだろう。

 これは、明らかにエーナルのミスだ。

 能力が極端に上がったライカンスロープの攻撃が直撃したら、エーナルでは到底耐え切れないダメージになる。

 だが、その両者の間に、それに逸早く気が付いたアーノルドが跳び込んでいた。


「危ないのであるっ『金剛気功(こんごうきこう)』!」


 アーノルドが打ち込まれたライカンスロープの拳をガードする。

 肉弾戦を主体とするモンクには、他の職よりダメージを受ける確率が高くなる為、当然、自身の防御力を鋼の如く上げるスキルが存在する。

 それが『金剛気功』という物であり、このスキルを発動した場合、並大抵の攻撃力ではダメージが通らなくなる。

 だが、ボキボキと骨が砕ける音が響き、アーノルドが吹き飛ばされて数本の木々を薙ぎ倒して止まった。

 今のライカンスロープの攻撃力は、アーノルドが本気で防御しようとしても貫通してくる。

 つまり、この場であのライカンスロープの攻撃を受け止められる者はいないと言う事だ。


「アーノルドは任せる!」


 ライカンスロープがエーナルに再びターゲットを移し、襲い掛かる前に、俺にターゲットを強制的に移す。

 スキルの中に『ウォークライ』と言う、モンスターのヘイトを一気に集めるスキルがあるのだが、武神装具を持つ俺は使えない。

 だが、それと同じ効果を持つスキルがあり、『戦神眼(せんじんがん)』と言う。

 『鑑定眼』と同じで、視界に見える相手にしか効果が無いが今回は問題無い。

 ライカンスロープの両目が俺の方を捉える。

 その眼は赤く血走っており、かなり不味い状況だが、あの防御力を貫通出来るのは、最早アーノルドしかいない。


「なっ……き、貴様、僕の相手だぞ!」


「集中してんだ黙ってろっ!」


 エーナルが抗議するが、怒鳴り返した。

 ライカンスロープの攻撃を回避し続け、更にヘイトを稼ぐ為に『戦神眼』を使わなければいけない。

 一歩でも攻撃を読み間違えた瞬間、俺でも戦闘不能にさせられる。

 スキル『武神』を発動し、ライカンスロープが繰り出す攻撃を紙一重で回避し続ける。

 突き、蹴り、爪、牙、膝、肘と縦横無尽に攻撃が来るが、それを回避し、時には撫でる様に受け流す。

 この攻撃のどれもが生身に引っ掛かっただけでも、周囲を抉り取る様な攻撃力を持っている。

 アーノルド、早く復活してくれ。




 ライカンスロープの攻撃で吹き飛ばされ、木々を圧し折ったアーノルドの状況は酷い物だった。

 まず、攻撃を受けた左腕はグシャグシャに圧し折れ、回復したとしてもマトモに動くかどうか怪しい。

 そして、圧し折った木々で受けた全身の裂傷が酷い。


「と、とにかく回復を」


 アーノルドのチームメンバーであるヒーラーのストレアが、何度も回復魔法を掛け続ける。

 そして、その二人を守るように仲間の戦士のブラウと、レノクのチームメンバーである猫獣人のファーナが、混乱から解けて襲い掛かってくるコボルドを倒し続ける。

 更に、リョーキのチームメイトの鳥獣人のレアードが、横手から忍び寄っていたコボルドを槍の一撃で吹き飛ばした


「油断するな」


 そう言いながらレアードが、持っていた槍で別のコボルドを薙ぎ払う。

 だが、その背後から忍び寄って飛び掛かったコボルドに反応が遅れ、慌ててガードしようとした瞬間、コボルドの顔面にショードボウと短剣が突き刺さった。

 これはジーナのチームメイトであるミナキとラナが、遠距離からクロスボウで狙って放った物と投げ放った物である。

 実はこの短剣、神楽との賭けの為に購入し、結局投げられなかったあの短剣である。

 コボルドが叫びながら地面に落下したのを確認すると、彼女達もまた別のコボルドに向かって攻撃を再開し始めた。


「……グッ…むぅ……」


 アーノルドが意識を取り戻したようであるが、この状態での戦闘続行は不可能である。

 だが、能力が上がったライカンスロープを倒す事が出来るのは、一撃の威力が高いアーノルドだけだ。


「無理に動かないでください、怪我が酷過ぎます!」


 ストレアが回復魔法を掛け続けるが、アーノルドも自身の状況は良く判っている。

 まず、左腕は再起不能、更に内蔵の一部も酷いダメージを受けている。

 全身の裂傷と打撲は、少女の必死の回復魔法で徐々に治っているが、全部塞がるのには相当な時間が掛かるだろう。


「…しかし……アレは……吾輩でないと無理なのである……」


 そのアーノルドの目の前では、ライカンスロープの攻撃を回避し、時には流す王牙の姿があった。

 あれ程の猛攻を全て回避し続け、更に他のメンバーにターゲットを移させない戦い方が出来る冒険者を、アーノルドはほとんど知らない。

 しかし、回避するだけで反撃は出来ない。

 流石に確殺出来る確証が低いこの状況では、下手に手出しは出来ない。


「…吾輩、この一撃に全てを賭けるのである」


 アーノルドがゆっくりと起き上り、構えを取る。

 だが、その足元はふらつき、まともに歩く事さえ出来ていない。


「動けないんですから、無茶です!」


「だが……相手が此方に来る訳では……ないのである……」


 それを見て、ブラウとファーナがその足を支える。


「逆を言えば、相手が此方に来れば良い訳だ!」


「私等が支えるから、早くするにゃ!」


 それを見て、ストレアが少しでも力を上げられるように、背中側からアーノルドの回復を続ける。

 彼等を守るようにレアードと、更にリョーキのチームメイトである狼獣人のマークが護衛に付いた。

 そして、その様子を見て状況を察したのか、ジーナが一気に駆け出し、王牙の背後にぴったりと付く。


「…アーノルドが待機中、対象を目の前に……」


「了解した!」


 それを待っていたかの様に、一歩ずつ王牙がライカンスロープとの距離を縮めると、ライカンスロープが間合いを維持しようと少しだけ後ろに下がる。



 攻撃を避け、更に進む。

 立ち位置を調節し、確実に真正面に捕らえ、『戦神眼』でターゲットを固定させる。

 じりじりと、ライカンスロープは後ろに下がり続けるが、もう少し下げる必要がある。


 そして、やっとその時が来た。

 ライカンスロープが繰り出した拳を、ワザと肩に掠らせ、その腕を掴む。

 流石は高防御力を誇るベヒモス素材、抉り取られる事無く耐えきった。

 更に、それで一瞬怯んだライカンスロープの首を鷲掴みにする。


「今だ!」


「『フルブリットバンカー』ッ!」


 俺の合図を受けてアーノルドの打ち出した拳が、ライカンスロープの背中を打ち貫く。

 今の今まで練りに練り続けたモンクスキルの単発最強奥義、『フルブリットバンカー』は準備時間が長ければ長い程、攻撃時の威力が増加する。

 つまり、これだけ長時間準備し続けていれば、その威力は強化されているライカンスロープの防御力であっても、軽く突破して行く。

 目の前で、ライカンスロープの胸部からアーノルドの拳が突き破って現れた。


 これで、この群れのライカンスロープは全て退治出来た事になる。


 残りは全てコボルドだけのはずだ。




それでは、また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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