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第36話




 日が丁度真上に登る頃、冒険者ギルドの前に複数の男女が集まる。

 全員が完全武装で緊張した面持ちをしている。

 その正面にクックが立ち、アーノルドとエーナルの二人と今回の討伐作戦の最終確認をしている。


 結局、抑えに関してはカカナとジーナ、リョーキ達の3チームと俺が行う事になった。

 理由としては、ライカンスロープの数が不明なのと、もしも抑えの方にライカンスロープが来た場合、リョーキが対応する為だと言う。

 カカナは仲間からの強化魔法と槍の能力により、1日1体だけなら一撃で倒す事が出来ると言う。

 ジーナ達は予想通り、倒す事は出来ないがフェイントを多用して、錯乱させての時間稼ぎを担当する。

 リョーキはそのパワーを活かした一撃必殺スタイルらしく、当たれば確実に倒す事が出来る。


 そんな事をカカナから説明されながら、森に向かう。

 事前にマキーシャから聞いてはいたが、一応、礼は言って置く。

 途中まではアーノルド達と共に進み、途中で別れる予定だ。

 チャモからその目印として、森の奥に進むと表面が白く枯れた木が増えてくる場所があり、そこがライカンスロープのいる群れの縄張りになっていると説明を受けた。

 なので、その場所から少し戻ってジーナ達を偵察に出して、状況を確認してから最終的に作戦を決定する。

 もし、ライカンスロープの数が3匹より少なかった場合は、そのまま突撃し、それより数が多かった場合は、当初の予定通り回り込んで奇襲を仕掛ける。

 しかし、ライカンスロープはともかく、コボルドは嗅覚がかなり優れているのだが、どうやって偵察をするのかと思ったが、ジーナのチームメイトのラナが『サンドイーグル』と言う鷲型魔鳥と視界を共有するスキルが使える。

 これは『イーグルアイ』と言うスキルであり、距離こそそこまで遠くは出来ないが、上空から相手を偵察出来ると言う事で、偵察任務が必要な場合は重宝される。

 取り敢えず、一日で移動して討伐するのはメンバー数と距離的に不可能である為、目印を見付けたら離れて野営し、次の日に偵察した情報を元に作戦を決行する。


「少し良いであるか?」


 アーノルドが森に入ってしばらくして声を掛けてきた。

 最初に会った時の様な軍服の様な服では無く、灰色の皮で出来た皮鎧を着ている。

 見た目からして金属鎧かと思ったが……


「何か用か?」


「うむ、吾輩の目が間違っていなければなのだが……その皮鎧、素材はもしやベヒモスではないか?」


 アーノルドのその言葉に驚いた。

 確かに、今回作った皮鎧の素材は、『ブラッドベヒモス』の素材。

 この世界に同じモンスターがいるかは不明だが、アーノルドの言葉から察するに、ベヒモスは存在するようだ。

 しかし、見ただけで看破されるとは思わなかった。


「ハッ、力不足の奴がそんな素材持ってるハズが……」


「見ただけでわかるのか?」


「うむ、吾輩、ベヒモスとは何度か戦っているのである」


 エーナルが何か言っているようだが、無視してアーノルドに聞き返す。

 そのアーノルドが頷いて肯定した。


「確かに、コイツはベヒモスの皮だが、あんまり使わないんで、まだ体に馴染んでない」


 出来上がったのは昨日だしな。

 しかし、こういった皮鎧を短期間で作れるスキルや魔法はかなり便利だ。

 普通、こういう皮鎧は結構な期間を必要とする。

 と言っても、作ったのは胸当てと肩当てだけだが。

 後はクソジジイとの修行を思い出しながらやるとしよう。


「防具は命を預けるモノである、早めに慣らす事をお勧めするのである」


 アーノルドがそう言いながら俺の肩をバシバシと叩く。

 結構痛いんだが……

 そして、その後ろではエーナルが何故か此方を憎々しげに見ている。

 そんな時に探知レーダーに赤い点が二つ現れ、こちらに向かって一直線。

 この速度だと、トライホーンボアかな。

 茂みを突き破り、予想通りトライホーンボアが此方に突っ込んでくる。


「フンッ」


 エーナルが跳び出し、そのまま一頭を斬り倒し、もう一頭はレノクが牙を掴んで止めた後、そのまま勢い良く首を捻じり折った。

 流石と言うか、獣人種は凄いパワーだな。

 エーナルが斬り倒した方は、首の部分が深く斬られて絶命している。


「トライホーンボアか……素材はどうする?」


 リョーキがそう聞いてくるが、先を急いでいる現在の状況だと捨てるしかない。

 食材になるのだが、勿体無いが今の状況だと仕方ない。


「少し勿体無いけど、今は先を急ぐべきじゃ?」


 カカナの意見にジーナも頷いている。

 もっとも、この場合は倒した二人に決定権がある。

 レノクはさっさと倒したトライホーンボアを、自身の魔法袋に収納していた。


「そんな雑魚、僕は必要無いが、そこの力不足が欲しければくれてやっても良いぞ」


 いや、そこまでしてまで欲しいとは思わないんだが……


「それに、どうせ何をしたかもわかっていないだろう」


 エーナルが剣を振って血を落とし、鞘に納める。

 ふむ?


「連撃が速過ぎて一撃に見える斬撃だろ?」


 その言葉でエーナルの動きが止まり、アーノルドが感心したように此方を見ている。


「な、何度斬ったかまではわか……」


「7回」


 エーナルの攻撃は、一撃一撃の威力は低いが、連撃を重ねる事で威力を上げている。

 それが他人から見ると、まるで一撃にしか見えない程の速度になっているだけだ。

 確か、そう言うソードスキルが上級にあったはずだ。


「確か、セブンズソードだったか?」


 エーナルは見破られた事で憎々しげにしていたが、他の面々はスキルまで看破した事に驚いているようだ。

 結局、エーナルが倒したトライホーンボアはそのまま捨て置く事になり、先に進む。


 そして、目的地である白く枯れた木が複数見掛ける様になった所まで進み、ジーナ達だけが偵察の為に進んでいく。

 俺達は少し戻り、野営の準備を行う。

 と言っても、相手に見つかる可能性のある焚火は使用出来ないので、今回は事前に用意した料理で夜は過ごす。


「私でも全部は見えなかったのに、貴方は凄いわね」


 そう言いながらやってきたのはカカナ。

 彼女のチームメイトは現在自分達のテントを準備している。

 恐らく、昼間のエーナルのスキルの事を言っているのだろう。


「俺以外は見えなかったのか?」


「全部見えたのは、多分アーノルドさんとレノクさん達だけだと思うわ」


 成程。

 しかし、エーナルのセブンズソードだが、一撃に見えるまで速くする努力は認めるが、そんな事をするくらいなら一撃の威力を上げ、多方面から対象に向けて斬撃を分散させる方がスキルを有効利用出来る。

 それに、一撃に見えるだけであって、あくまでも一度のスキルで7回の斬撃なのだ。

 これがもしもカウンタースキルを隠し持つ相手だった場合、7回分のカウンターが一気に帰ってくる。

 それこそ、一撃なら『ソードスラッシュ』を鍛えた方が強い。

 本当に何を考えているのだが……


「まぁ、何も知らない相手をビビらせるなら有効だろうが……」


 思わず呟く。

 自身の技量を自慢したいのだったら、かなり阿呆だ。


「そう言えば、ジーナがなんか考え込んでいたけど、何かあったか知ってる?」


 カカナが思い出したかのように聞いてくる。

 まぁあの件だろうなぁ……

 しかし、アレは本人達の問題なので、下手に俺が口出す事はしない方が良いだろう。


「今回の作戦に付いて考えてたんじゃないか?」


「そんな風じゃなかったみたいだけど……」


「気になるんだったら直接本人に聞いてみたらどうだ?」


 俺の言葉にどこか納得出来ないと言った感じだったが、カカナは無理矢理納得したようだ。

 そうしていると、ジーナ達が戻ってきた。

 慌てていない様子を見ると、どうやら無事に偵察任務は完了したようだ。

 そして、アーノルド達も集まって報告を聞く事になった。




「ライカンスロープが7体……か」


 レノクが呟く。

 そう、ジーナ達が偵察した所、かなりの大きい群れになっており、確認出来るだけでそこにライカンスロープが7体いたのだ。

 しかも、まとまっている訳では無く、4体が奥、3体が手前とバラけている。

 こうなると、かなり面倒な事になる。


「ううむ、吾輩が2体、エーナルとレノクで1体ずつ倒して、速攻で残りを倒すしかないのであるな……」


 アーノルドがそう言うが、これもかなり厳しい。

 その理由が群れの数だ。

 雑魚であっても、それが相当数いればそれだけで脅威になる。

 数を盾にされれば、それだけで目標へ近付くのが遅れ、抑えに回っている俺達が危険になる。

 だが、それ以外に方法は無いだろう。


「リョーキも一応倒せるが、抑え組の負担が大きくなるな」


「まぁいざとなれば、吾輩が殿(しんがり)を務めるので、一時撤退するのである」


 冒険者にとって、依頼達成と同じくらい生き残る事も大事な事だ。

 場合によっては、生き残るのを優先した方が良い事もある。

 流石に、この状況ではエーナルも口を挟む事はしない。

 何か別の方法は無いだろうか……

 そんな時、俺の頭の中で一つの考えが浮かんだ。


「なぁ、もしもだが、相手の注意を惹けるとしたらどうにか出来るか?」


「どんな手段が?」


「コイツが使えないかと思ってな」


 そう言って取り出したのは、一本の蝋燭。

 『獣魅蝋(じゅうみろう)』と言うアイテムで、前に教会とのいざこざで使われて、ギルマスに渡すのを忘れていた。

 特徴としては、獣系モンスターを強力に惹き付ける効果があり、フォレストウルフを大量に惹き寄せて大変な目にあった。

 コボルドやライカンスロープもこの効果の対象になっているはずだ。

 もし、これを使えば相手を相当混乱させられる。


「ふむ、しかし、それを風上で使ったとしても、それだと使ったチームは……」


「確かにどのチームが使っても、かなり危険になる……が、少し考えを変えれば効果的に使う事が出来る」


 ここにいるメンバーと、このアイテムの特性を考えれば、かなり有効な作戦が立てられる。

 そうして、俺の考えた作戦を全員に説明した。


「成程、確かにそれなら全部の注意をソレに集中出来るね」


「そんな使い方は想定されていないだろうな」


「しかし、それだとどうやって火を点けるのだ?」


 カカナとレノクは、従来の使い方とは違う新しい方法を聞いて感心している。

 そして、肝心な事をリョーキに聞かれるが、それもちゃんと考えてある。


「あぁ、それについてはコイツを使う」


「……魔石……では無いですね……」


 ジーナが不思議そうに、俺が取り出したソレを見る。

 まぁこれは魔法と言うより科学の領域だ。

 仕組みは簡単だが、現象は説明し辛い。


「それを使えば確実にやれるのであるか?」


「まぁ確実に混乱はするだろうな」


「ならば、その作戦でいくのである!」


 アーノルドも初めての事で多少心配だったのだろうが、この作戦の肝は、相手が混乱しているうちに、主戦力を素早く片付ける事が出来ると言う事だ。

 更に、この『獣魅蝋』だけでは混乱具合は低いだろうから、追加でいくつか仕込みを行う。


 この作戦の効果を最大限にする為に、決行は日が昇る寸前に決定する。

 それまでに、俺は作戦に必要な物を作り上げる事になった。




それでは、また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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