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第32話



 森の中、3人の女達が必死に逃げている。

 その全身の装備はボロボロになり、一部は既に喪失している。


 マキーシャが背後に向かって赤い筒を放り投げる。

 数秒後、その赤い筒が轟音と共に爆発し、激しい閃光を撒き散らす。


「GAAAAAAAAAAA!!」


 その轟音と同時に、凄まじい獣の咆哮が響く。

 放り投げた赤い筒は、今道具屋で売れていると言う『閃光筒』と言う魔道具だ。

 先端のキャップ部分を捻じり、数秒後に強力な閃光と轟音を出して、少しの間だけ魔獣の視界と聴覚を使い物にならなくする。

 一本銀貨10枚と高額だが、今回の為に3本購入して置いたが、今投げたのが最後の閃光筒だ。


「アイツが回復するまでに、サガナに戻れると思うかい?」


「……無理ね、今のもちゃんと喰らってない」


 マキーシャの言葉に、リョウが残念そうに答える。

 そう、グラップグリズリーは既に2回同じ妨害を喰らって学習していた。

 音は堪えられるし、閃光はその瞬間見なければ良い。

 最後の一本も、僅かにスピードが落ちただけで、変わらずに追い掛けてきている。


「ドーザードは……もう無理ですね……」


 リョウがそう言うと、マキーシャが奥歯を噛む。

 ドーザードは傷付いた仲間を助ける為とはいえ、禁忌とされるスキルを使用してしまった。

 そして、グラップグリズリーが自分達を追い掛けて来ていると言う事は、そういう事なのだろう。


 そうしていると、サガナの方角から耳障りな音が聞こえてきた。

 それは短く、だが数度連続して聞こえてくる。


「どうやら、逃げ切ったみたいだね」


「後は、私達だけですか……」


 シシーはマキーシャの背で、グラップグリズリーに向かっていくつもの魔法を放つ。

 もし、シシーの魔法が無ければ、此処まで逃げて来れなかっただろう。

 だが、この地点からサガナまではどう考えても2時間以上掛かる。

 サガナの門は魔笛の後1時間で閉鎖されるが、マキーシャ達はそれを知らない。

 だが、基本的に魔笛の後に門が閉鎖される事は、冒険者達には知らされている。


「こうなりゃ覚悟を決めるしかないのかね……」


 マキーシャが駆けながら呟く。

 ドーザードは仲間を助ける為に禁忌を犯した。

 だが、それで彼の仲間達は逃げ切る事が出来た。


「マキーシャ、私達じゃ逃げ切れない」


「2人ならともかく、私は足手纏いになります」


 マキーシャの考えを読んだのか、リョウとシシーが言う。

 なんだかんだ言って付き合いは長いのだ。

 そして、マキーシャの性格上、自身を犠牲にしてでも2人を逃がそうとするだろう。

 今までも、全身が傷付きながら2人を守ってきたように。


「だけど、このままじゃ何れ……」


 そう言った瞬間、全身が泡立つような感覚が走る。

 前方に何かがいる。

 しかも、明確な殺意を放つ何かが。


 それは一瞬だった。


 その感覚に戸惑ってスピードを落とした瞬間、グラップグリズリーが一気に加速し、マキーシャ達に襲い掛かろうと腕を振り上げる。

 そして、振り下ろされようとした瞬間、その上半身が轟音と共に消し飛んだ。


 ゆっくりと、グラップグリズリーだったモノが倒れた。

 そして、その背後にあった木々は数本が薙ぎ倒され、少し離れた木に木の幹すら貫通した巨大な矢が途中で止まって突き刺さっていた。

 マキーシャ達は何が起きたのか判らずに唖然としていたが、慌ててその場から離れた。

 そして、その時には既に、何かの気配は無く、森はいつものように静かになっていた。





 門が閉鎖された後、マキーシャ達が戻り、グラップグリズリーが討伐された事を叫んだ。

 それを受け、ギルドマスター自身が巨大な剣を背負い、マキーシャ達と共に確認に向かう。

 同行するのはもしもの時に、サガナへの報告の為にギルドナイトが2人だけ。


 そして、上半身が無くなったグラップグリズリーを見て、クックが唸る。

 確かに倒されているのだが、それをやった犯人が判らない。

 手掛かりは木の幹を貫通している巨大な矢だけ。

 それ以外に手掛かりは無く、一体誰がやったのかすら判断出来ない。


 取り敢えず、グラップグリズリーは魔法袋に収納し、更に離れた所でドーザードを発見した。

 ドーザードは右腕と右脚を失い、大量の失血をしていたが何とか生存していた。

 聞けば傷口は魔法の火で焼き付け、禁忌スキルの残滓(ざんし)で結界を張って耐えていたらしい。

 しかし、禁忌スキルの反動により、失った腕と脚は二度と治る事は無い。

 コレは完全回復ポーションや、エリクサーを使ってもだ。

 だが、ドーザードは仲間が無事であったならば、腕や脚が無くなっても良かったと笑っていた。

 強い男だ。

 サガナに戻ると、クックは門の封鎖解除を宣言。

 更に、今回逃げ出したベルン達に対しては、事情聴取の為に捕縛を指示し、賞金を懸けた。

 これにより、ベルン達は王国中の冒険者達や賞金稼ぎ達から狙われる事になる。


 結局、グラップグリズリーを倒した者に付いては、調査しても判らず仕舞いとなった。




 時は遡り、サガナの魔笛が鳴ってしばらくした頃。

 サガナの壁を一つの影が飛び越えていた。

 それは音も無く壁を越え、音も無く森を駆け抜けて行く。

 その目の前にフォレストウルフの一頭が現れるが、まるで影が見えていないようにそのまま駆け抜けて行く。

 少し進んで木の上で耳を澄ませると、森のある場所で爆発音が響いているのが聞こえた。

 その地点を目指し、影が凄まじい勢いで森を進む。


 そして、マキーシャ達とグラップグリズリーの姿を確認すると、腰の袋から巨大な弓を取り出した。

 その名を『牙城弓(ガジョウキュウ)』。

 無骨な黒塗りの強弓であり、強力な魔法が付与されている一級品。

 それに特製の専用矢を番える。

 普通の矢では、あまりの威力に目標に当たる前に砕け散ってしまう。

 なので、素材から専用に用意した特殊な矢である。


 しかし、このまま射ると、グラップグリズリーとの射線上にマキーシャ達がいて邪魔になる。

 なので、威圧スキルを全開にし、わざとこちらの存在を相手に知らせる。

 目論見通り、グラップグリズリーがスピードを落としたマキーシャ達に襲い掛かろうと身体を持ち上げて腕を振り上げる。

 マキーシャ達とグラップグリズリーの身長差は1メートル以上もある。

 立ち上がれば、上半身がマキーシャ達より上になり、射線が確保出来るのだ。

 そして、放たれた矢は狙い違わずグラップグリズリーの胸に突き刺さった。


 普通、強力な筋肉を持つグラップグリズリーには矢など通用しない。

 だが、この弓矢は普通では無い。

 凄まじい威力で肉に喰い込み、更に纏った暴風Lv10・効果増幅Lv10の効果により、矢の周囲を抉り取りながら突き進む。

 そして、そんな異常な威力に耐えられる筈も無く、グラップグリズリーの上半身が消し飛んだ。

 ゆっくりとグラップグリズリーが倒れるのを確認すると、影は弓を袋に戻して同じように森の中を音も無く戻って行った。



 屋敷の一室。

 椅子に腰掛けて報告を待つ。

 ただ待つだけと言うのも結構辛い物がある。

 だが、そんな心配を他所に、扉がゆっくりと開いた。


「完了しました」


「ご苦労だった」


 神楽がそう言って頭を下げた。

 その姿はいつものメイド服では無く、紫色のスーツの様な格好だ。

 隠蔽(ステルス)を利用して一気に森まで行き、グラップグリズリーを暗殺して発見される事無く屋敷に戻る。

 言うのは簡単だが、かなり難しい作戦だ。

 まず、グラップグリズリーを討伐する際、普通であればマキーシャ達に発見されてしまう。

 だが、これを神楽の持つ牙城弓で超遠距離から狙撃する事でクリアする。

 あらゆる武器に精通させてある神楽だからこそ出来る芸当であり、俺達には出来ない。

 そして、現場に残るのは矢が一本だけ。

 確かに素材としては珍しい物だろうが、そこから俺や神楽に到達する事は無いだろう。


 そう考えていると、神楽がいつものメイド服に一瞬で着替える。

 どうやっているのかはわからない。

 早着替えスキルなんて無かったはずだが……


 次の日、冒険者ギルドに顔を出し、依頼ボードの前でいくつかの依頼を確認する。

 リルもそろそろゴブリンからランクを上げて、オーク辺りを相手にさせても良いだろう。

 そう考えていると、背後から肩を叩かれた。

 振り返ると、そこにいたのはマキーシャ達。


「3人共、久し振りだな」


「あぁ、何とか無事に帰ってこれたよ」


 マキーシャ達はグラップグリズリーによって破損した装具を修理中らしく、依頼を受ける事が出来ない。

 だが、生活するにはどうしても金はかかるので、聖女であるシーラの勧めで教会が運営している孤児院を手伝うのだと言う。

 しかし、今の教会はまだ仮運営状態で、シーラが冒険者ギルドの一室を借りて立て直しの真っ最中。

 その立て直しの段階で、いくつもの問題が発見されており、その一つが孤児院の運営だった。


 サガナには教会運営の孤児院が5か所ある。

 だが、その内4か所が経営的に破綻しており、孤児を定期的に奴隷商人に密かに売り渡していた。

 それが発覚した後のシーラの動きは早かった。

 すぐに聖王国に指示を出して、その奴隷商に対して売買記録の強制捜査から、サガナでの不当な売買記録で連行。

 その後、奴隷に対しての悪質な虐待や必要保障が無いことから、奴隷売買許可証を剥奪されての奴隷商自身が逮捕された。


 そして、その奴隷商にいた奴隷達は一時的に聖王国預かりとなり、全員が聖王国に送られることになった。

 更に、売買記録から判明した既に売買されていた奴隷に関しても、買い取った主人達が不当な扱いをしていない場合を覗いて全員没収。

 ちゃんと管理をしている主人達には警告だけに済ませた。


 この世界での奴隷事情に関してだが、かなりしっかりしている。

 まず、奴隷商人は、国が発行する『奴隷売買許可証』を得る事で初めて奴隷の売買が可能になる。

 奴隷は基本的に『犯罪』か『借金』だけで、犯罪奴隷は文字通り犯罪を犯した者がなる奴隷であり、主に国家事業の建設現場や、鉱山採掘等の危険な場所に送られ、年単位で酷使される。

 借金奴隷は、借金を払えなくなり奴隷となってしまった者達だ。

 こちらは主に接客業や、工場等のあまり危険ではない業種で使われており、借金分を稼げば解放され、稼いだ額の一部は別集計され、解放時に再出発資金として渡される。

 そして、借金奴隷は最低限人権が保障されており、不当な扱いを受けていた場合、悪質だった場合は借金を帳消しにし、即座に解放、さらに主人から賠償金が払われ、以後、その元主人の関係者は近付く事が出来なくなる。

 それでも他人を雇ってと言う悪質な嫌がらせが起きた事により、そう言った事で解放された元奴隷は、国営の企業が雇って職業訓練と合わせて安全を保障する。

 そして、当然ながら性交渉に関しても、奴隷側には受ける必要はない。

 もし無理矢理要求された場合、すぐに逃走しても逃亡奴隷になる事は無い。

 どうやってそれを判断しているのかと言うと、奴隷が身に着けている『隷属の首輪』は一種の記録装置であり、雇われている間はずっと記録され続ける。

 そして、解放された時に首輪は国の調査機関に送られて処分される。

 不当な扱いを受けて逃亡奴隷になった場合、国の調査機関によって調査が行われ、それが本当であった場合、奴隷契約は無効となる。


 つまり、奴隷は国によって保障されている一種の職業なのだ。

 だが、これはこの王国での事であり、他の国ではまた少し違うのだそうだ。

 特に、帝国に関しては奴隷に対してかなり酷いと言う話があり、今回の奴隷になった孤児の一部は帝国に渡っている。

 救助しようにも、帝国側は調査を拒否している為、難航している。


 マキーシャ達は、その立て直しでゴタついている孤児院の一つを、一時的に手伝うと言う依頼を受けた。

 もっとも長期間では無く、聖王国から追加で送られてくる人員が来るまでだ。

 奴隷商から救助した奴隷達は、現在教会を立て直している教会職員達が世話をしており、今の人員数では全く足りない。

 更に、その人員を護衛する教会兵は、そのまま救助した奴隷達を聖王国に送る役目を担っている。


 そんな話をし、マキーシャ達が手伝う孤児院の場所を教えてもらう。

 気が向いたら顔を出すのも良いだろう。


 そんな事を考えながら、もう一度、依頼ボードを確認して丁度良い依頼を探し始めた。




それでは、また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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