表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/105

第31話




 セレンの提案を詳しく聞く。

 まず、現状ではフェンリルの保護に関して、幻獣保護管理施設局の職員では対応が出来ない。

 そして、サガナには幻獣保護管理施設局の施設は無い為、フェンリルをサガナに移送は出来ない。

 神威を王都に残す事も出来ない。 


 ならば、神威を特別職員にし、フェンリルの保護と管理を任せてしまおう、と言うのがセレンの案だ。

 もし職員になった場合、月一回の報告義務があるが、冒険者として活動しても良いと言う。

 これならサガナに帰る事も出来るし、幻獣保護管理施設局としても、職員に預けていると言う事で対外的にも言い訳が出来る。

 更に、毎月銀貨50枚が給料として支給され、餌代等は申請すれば別途支給される。

 ただし、フェンリルを不当に扱ったり、売却しようとしたりすると厳罰が課せられる。


 個人的にはかなりの優遇処置だと思ったが、前例がいくつかあるのだと言う。

 確かに、幻獣保護管理施設局が世界中にあるならともかく、王都を活動拠点としてそこまで数は多くない。

 そして、幻獣を従魔にしている冒険者も一定数存在する。

 なので、そう言う冒険者を対象にして特別職員になってもらい、幻獣の保護と管理を頼んでいると言う。

 そして、報告に関しては冒険者ギルドに報告すれば、幻獣保護管理施設局まで通知が行くと言う。

 しかし、銅級に上がったばかりなのに、フェンリルを連れているのは目立つのではないだろうか……


 今更か。


 結局、神威はコレを承諾。

 現在はセレンに従魔登録の方法を聞いている。


 従魔登録は原理としては簡単だ。

 主人となる人物の魔力波動と提示した条件を、従魔となる魔獣や幻獣が受け入れる事で完了する。

 後は、従魔である証として、身体の何処かに登録ベルトをしなくてはならない。


 神威がフェンリルと従魔契約を結び、その右前脚に金の腕輪が装着されている。

 条件に関しても、俺達と敵対しないと言うだけだ。

 かなりアバウトだが、フェンリルは知能も高いので、追々教えて行けば問題無い。


 そうして我が家に家族が増えた訳だが、やはりと言うか予想通りと言うか、冒険者ギルドでもかなり目立つ。

 アイナからは『またですか』と言われる始末。

 まぁこれは仕方ないと諦めた。


 一応、冒険者ギルドでも従魔登録した事を伝え、月一で幻獣保護管理施設局に報告する必要がある事も伝える。

 こちらに関してはセレンから預かった手紙があるので、すんなり許可が下りた。


 ちなみに、このフェンリルは雌であり、神威が『リル』と名付けた。

 屋敷に連れて帰ったその日の内に、炎尚と神楽には敵わないと悟ったのか、二人の指示にも従うようになった。

 そして、外から屋敷に入る場合、必ず足の汚れを落とし、月に一度は風呂に入る事が決定する。

 他にも、神威が主に世話をし、出来ない時は俺達がフォローする。


 そして、冒険者ギルドで依頼を受ける際、リルが同行するようになる。

 これには俺達との連携を見る意味もあるが、主な目的は、リル自身が戦闘方法を覚える為だ。

 氷雪系最強の幻獣であるフェンリル。

 確かに、その力は凄まじいの一言に尽きるが、それは多くの戦闘を経験し生き残った結果だ。

 その点で言えば、リルはまだ戦闘経験は無いに等しく、これからまだまだ伸びると言う事だ。


 そう思いながら、目の前の光景を見ている。

 森の一部が、白銀の世界となっていた。


「……リル、ゴブリン数匹に『氷の棺(アイスコフィン)』はやり過ぎだ」


 氷漬けになったゴブリンの横で座っていたリルにそう言う。

 そう、リルは後先考えず、出会った敵に対して最強の範囲攻撃である『氷の棺』を使ってしまうのだ。

 それも、一度や二度では無く、今の所8回目。

 森の中とはいえ、流石にそこら中が銀世界になっているのは問題だ。

 已むを得ず、木々の数本を焼き払って氷を解かす。

 魔法で生み出した氷では無い為、こうやって熱で溶かす事が出来るのは幸いだ。

 しかし、このままだと下手に街中に連れて行く事は出来ない。

 王都の再来になってしまう。


 このままでは、この無差別広範囲攻撃しか出来ないままで成長してしまう。

 なので、しばらくの間はリルに魔法を使わせないで、戦闘をさせるようにするしかない。

 だが、魔法を使わせないと言っても、特定の魔法だけ使えない様にする事は出来ない。

 つまり、外因的方法で魔法を一切使えなくするか、リルが学習して使わないようになるしか方法が無い。

 今後の事を考えると、魔法を使えなくしてしまうのは出来るだけ避けたい。

 リルに学習させないといけないな……


 屋敷に戻った後、しばらくは神威と一緒に訓練する事になった。

 と言っても、俺と炎尚相手に模擬戦をするだけなのだが、手を抜く事はしない。

 とにかく、『氷の棺』を使用せずに、戦えるようになるまではこの訓練は続ける事になる。

 もっとも、リルも頭は良いので直ぐに『氷の棺』を使用せずに戦闘が出来る様になるだろう。


 そうして、冒険者ギルドにやってくると、いつもと違って冒険者がごった返している。

 どうしたのかと思っていたが、アイナの姿を見付けたので話を聞くとしよう。


「森に異変?」


「はい、それで調査の為に一時的に森関連の依頼が止められているんです」


 まさかと思うが、リルのせいじゃないよな……


「それって、森の一部が凍ってたり、木が燃えてたりとかか?」


「いえ、銀級の冒険者チームが目的地に向かう途中、森の浅い所で少々厄介な魔獣に襲撃を受けまして……」


 リルのせいじゃないが、それにしても厄介な魔獣って何が出たんだ?

 トライホーンボアだったら、銀級クラスなら別に梃子摺る相手でもないだろうし……

 いや、思い込むのはいかんな。

 俺の知ってる銀級なんてそんなにいないし……


「どんな相手なんだ?」


「グラップグリズリーと言う魔獣なんですが、本来は森のかなり奥にしかいないハズの魔獣なんです」


 グラップグリズリー。

 簡単に言えば、腕が4本ある巨大な熊なのだが、とにかく凶暴な上に凄まじいまでの耐久力(タフネス)を誇る。

 その耐久力はトライホーンボアの全力突進を受け止め、そのパワーは一撃で屠り然ると言われている。

 当然、捕獲して従魔にするのは不可能であり、少人数で出会った場合、とにかく逃げる事が推奨される。

 一頭に対し、ベテラン銀級でも30人近く必要であり、それでも倒せるかは不明。


「現在、マキーシャ達を含む複数のチームで調査をしていますので、その結果待ちです」


 そうか、マキーシャ達もサガナに戻ってるんだよな。

 それにしても、調査の結果、倒すしかないとしたらどうするのだろうか。


 現在、サガナにいるチームで一番強いチームは、恐らく、一番最初に会った事のあるあの高慢なチームだろう。

 最初の印象はアレだったが、実力は高く、近く金級の試験を受けると噂されている。

 それでも、グラップグリズリーを倒せるのかは怪しい。

 だが、ギルドが王都や近くの街に救援を頼んだとしても、来るのは早くて4日近く掛かる。

 つまり、どうにかして倒す方法を考えなければならない。

 まぁ俺が行ければ良いんだけどな。


 銅級が一人で倒してしまった場合、色々と大問題だ。

 悪目立ちし過ぎる上に、下手すれば王国自体から目を付けられる。

 そうなると、サガナだけでなく王国自体にいられなくなってしまう。

 何か良い方法は無い物だろうか……


 そう考え込んでいると、不意に外の方が騒がしい。

 何かあったのか思って視線を扉の方に向けると、扉が勢い良く開いた。


 そこにいたのは、ボロボロの冒険者の男達。

 そして、その背にはぐったりした青年の姿があった。

 良く見れば、背負っている男の腰辺りが赤く染まっている。


「早く治療を頼む!」


「と、とにかく奥へ!」


 どうやら、グラップグリズリーの調査に向かった冒険者チームのようだ。

 ギルド職員が慌てて奥への扉を開き、男達を奥へと連れて行く。

 背負われた青年の顔は青白くなっており、明らかに大量の失血状態だ。

 こりゃ、時間的猶予は無いんじゃないだろうか……


 しばらくして、男達が奥から戻ってくる。

 どうやら、青年は何とか助かったようだが、かなり不味い状況だ。

 聞けば、冒険者チームはグラップグリズリーの調査中、対象と出会ってしまったらしい。

 そのまま交戦状態になったのだが、ベルンと言う男達のチームが勝てないと判断して逃走。

 その抜けた穴をマキーシャ達とドーザード達が急ぎ対応したが、ドーザード達の弓使いの青年がグラップグリズリーの圧し折った木に吹き飛ばされ、大怪我を負った。

 已むを得ず、ドーザードが禁忌スキルを使用して何とか救助し、ここまで逃げて来たと言う。

 マキーシャ達とドーザードは現在も戦闘中。


 ちなみに、ベルンがあの最初に出会った高慢な冒険者達で、ドーザードはその後にやってきた6人組の冒険者達だ。

 つまり、今はたった4人でグラップグリズリーの足止めをしている事になる。

 ドーザードの使用した禁忌スキルが気になるが、そんな物騒な名称のスキルである以上、長く続く事は無いだろう。


「ギルドマスター、すぐに門を閉鎖して救援を頼んでくれ……」


 そう言ったのは、青年を背負っていた男だった。

 ドーザード達からサガナに帰り付いた際、そうする様に指示を出されていたらしい。

 門を閉鎖すれば、グラップグリズリーはサガナに入る事が出来なくなる。

 だが、そんな事をすれば、もしマキーシャ達が逃げ帰って来ても逃げ込む事が出来なくなる。


 全員の視線がギルドマスターのクックに集中する。

 魔獣による緊急事態に置いて、街の安全を確保する為の権限をクックは持っている。

 つまり、現在の状況でクックが門の閉鎖を指示すれば、門は閉じられてしまう。


「……已むを得まい……門を閉鎖するが、その前に魔笛を鳴らし、その1時間後に閉鎖する」


 魔笛と言うのは、かなり広範囲に音が届く魔道具の一つだ。

 ただ音が広範囲に届くと言うだけの魔道具だが、緊急事態に置いて遠くに知らせる事が出来るのは大きな利点だ。

 つまり、あと1時間以内にマキーシャ達が戻らなければ、逃げ帰って来ても助ける事が出来なくなる。

 俺達はざわつき始めた冒険者ギルドから、そっと抜け出した。


 屋敷に向かって一直線に街を駆ける。

 当然、途中には民家があるが、その壁を蹴り上がり、屋根を跳んで移動する。

 一刻の猶予も無いが、考えてみれば誰にも気が付かれなければ問題は無いのだ。

 後は、やるか、やらないかだ。


「炎尚、神楽!」


「お呼びでしょうか?」


「ここに」


 屋敷に戻り、扉を潜って二人を呼ぶ。

 すると、炎尚は目の前の部屋から現れ、神楽はスッとまるで空間から現れた。


「説明する時間も惜しい、転写するから確認してくれ」


 そう言うと、二人が俺の目の前で跪く。

 その二人の頭に手を置くと、知識転写のスキルを発動し、状況と作戦を転写した。


「なるほど、確かに厄介ですな……」


 炎尚がそう呟き、立ち上がる。

 神楽も何も言わないが、状況は理解しているようだ。


「それでは、すぐに対処をしましょうか」


 炎尚と神楽が御辞儀をして部屋の奥に消える。

 これで後は、マキーシャ達が無事な事を、天に祈るだけだ。




それでは、また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ