第29話
ギルドで適当な依頼を探し、採取や討伐依頼をこなしていく。
そして、今日はとある薬草の採取依頼を受けた。
この薬草、春から夏に掛けての短い期間だけ、森を抜けて鉱山近くにしか生えていないのだと言う。
効能としては、かなり良く効く傷薬の材料になるのだが、自生している場所が場所の為、早々数が手に入らない。
なので、この時期になると徒党を組んで採取に向かうのが、毎年恒例の光景らしい。
だが、今年は森の近くにある湖に、『黄金虫』と言う魔虫が現れ、冒険者がそっちに集中してしまったらしい。
この黄金虫、かなり珍しい魔虫であり、大きさは大人の拳ほどで、その外殻が全て黄金で出来ている。
そして何より、この魔虫はかなり弱い。
普通の虫と全く変わらず、子供ですら捕まえる事が出来るのだ。
研究をしている者達によると、地中に埋まっている金を吸い上げ自身の成長に利用しており、この魔虫がいる所には金が埋まっていると言う事だ。
稼ぎの少ない冒険者にとって、この魔虫は一攫千金を約束してくれるありがたい存在なのだ。
ただ、冒険者ギルドとしてはかなり困った事態になっている。
いつもなら採取依頼を優先させるのだが、冒険者の懐事情も知っている為、強制は出来ない。
なので、その魔虫探しに行かなかった冒険者を集め、採取を依頼する事になった。
採取依頼を受けたのは俺と神威を含めて5人。
予定では、行きと帰りに1日ずつ使って1週間の遠征となる。
一応、ギルドから採取の際に使用する魔法袋を支給されている。
これは、とにかく容量が多く、実はギルマスのクックが冒険者時代に手に入れた私物でもある。
今回は参加人数が少ない為、コレを使ってとにかく数を集めて欲しいと言われた。
ちなみに、もしも無くした場合、弁償する事になる。
色々と準備して、移動用に使う馬車に向かう。
この馬車は他の3人の持ち物であり、それに同乗させてもらう。
リーダーは短い青髪獣人の剣士カッツ。
その仲間、弓士の銀髪エルフ、ナンリ。
そして、盗賊のグラスランナー、ジーニャ。
各種族の特徴を生かしたパーティーになっているな。
全員銀級だが、下のランクを見下すようなことは無く、ギルドでは普通に挨拶し、馬車の使用を提案してきたほどだ。
そうして馬車に揺られ、目的地に到着するとパーティーで別れ、薬草採取を始める。
この時期は、鉱山から危険なモンスターはいなくなっており、いたとしてもこのメンバーなら問題無く対処出来る。
一応、いる可能性のあるモンスターで一番危険なのは、オークソルジャーかオークウォーリアーだ。
どっちもオーク種の上位種であり、全体的に能力が上がっているのだが、それだけだ。
「父様、奥からオーク2、ゴブリン5」
神威が薬草を採取しながら、探知レーダーに引っ掛かったモンスターの数を伝えてくる。
茂みから跳び出してきたゴブリンを棍で薙ぎ払い、続けてオークを叩きのめす。
それらをインベントリに収納し、採取を再開。
それ以外ではモンスターの襲撃も無く、カッツ達も無事に戻ってくる。
ギルドから借りた魔法袋に集めた薬草を移し替え、そのまま一度鉱山の麓にある村に移動する。
流石に一週間野宿はキツイので、今回はこの村で夜は過ごす事になる。
マキーシャ達もこの村にいると言う話だったが、既にサガナに向けて出発した後らしく、どうやら入れ違いになったようだ。
そうして、5日間掛けて大量の薬草を集めた。
このペースで採り尽くしたら、来年の薬草が無くならないかと心配したが、異常に生命力が強く、一本でも残ればそこから1年掛けて爆発的に増えると言う。
まるで地球のミントみたいだな。
この薬草、見た目はタンポポの様なんだが、綿毛になる訳でもないらしい。
馬車に膨らんだ魔法袋を押し込み、サガナに帰る。
戻ると、既に黄金虫ブームは過ぎ去ったようで、ギルドにも活気が戻っている。
聞いてみたら、その黄金虫自体もただの見間違いで、実際にいたのは『モドキ』だと言う。
『モドキ』と言うのはその言葉通りで、そのモンスターに擬態している別のモンスターの事だ。
黄金虫モドキの場合、見た目は黄金虫なのだが、別に外殻が黄金である訳でも無い。
最大の特徴として、体内に麻痺性の毒を持っており、相手が麻痺で動けない間に逃げていく。
何故見た目が黄金虫なのかは不明であり、価値としては全くない。
採取した薬草の詰まった魔法袋を、買い取りカウンターで買い取ってもらい、報酬を5人で山分けする。
追加のオークとゴブリンも、まとめて精算してもらった。
そうしていると、受付の奥からアイナが此方にやってきた。
「王牙さん、少し話があるので奥の方に来ていただけますか?」
今回は別に何かやった訳じゃないはずだが……
取り敢えず、アイナに連れられて奥に向かう。
そして、案内されたのはいつもの部屋。
そこで少し待つように言われたので、椅子に腰掛ける。
暇なので、素材剥ぎ取り用のナイフを磨きながら待つ。
そうして暇を潰しつつ待っていると、探知レーダーに3人が近付いて来たのが確認出来た。
ナイフをしまって待つと、やってきたのはギルマスのクックとアイナ、そして初対面の女性。
見た目はウェーブの掛かった金髪で、身長はアイナより少し高く、年齢的にはアイナより多少上って感じかな。
胸は…見た限りアイナの方が大きいか……?
蒼い軍服の様な服だが、軍人と言う感じではない。
「お待たせしました」
「まぁそれは良いんだが……そっちの方は?」
俺の言葉でクックがその女性に椅子を勧め、会釈してから女性が椅子に座る。
「初めまして、私は幻獣保護管理施設局の所長のセレン=ティル=セメラルと申します」
「儂等は一応、立会人としてな」
セレンがそう言いながら頭を下げてくる。
クック達はただの立会人と言う事で、話に参加するつもりは無いらしい。
しかし、幻獣保護管理施設局か……
「フェンリルに何かあったのか?」
俺の言葉でセレンが神威の方を見る。
幻獣保護管理施設局のお偉いさんが俺に話があるなんて、少し前に王都であったフェンリル騒ぎくらいしかない。
施設の中で暴れでもしたのだろうか……?
「お話しする前に、お嬢さんの腕を見させて頂いても宜しいでしょうか?」
「神威の腕?」
セレンがその言葉に頷き、左腕の手袋を脱いでこちらに見せる。
すると、左腕に青い魔方陣が現れ、その一部分が赤く光っている。
「これは契約魔獣がいる場合に現れる契約陣となります」
つまり、あのフェンリルと俺達が契約しているのではないかって疑われている訳か。
取り敢えず、拒否しても良い事は無いので、神威の腕を確認する。
まぁ当然、契約なんてした覚えも無ければ、ステータスにもそんな物は無いのだが……
確認の方法としては簡単であり、意識して左腕に特定の魔力を流すと、契約陣が現れると言う。
流石に初めての事なので、セレンが神威の腕に触れて、その魔力を体外から呼び出す。
当然、神威は契約をしてはいないので契約陣は現れず、細かい事情を説明して貰う。
フェンリルが幻獣保護管理施設局に保護されて眠りから覚めた後、一切餌を食べていないと言う。
一月程度なら別に食べずとも問題は無いが、あのフェンリルはまだ子供である。
本来なら食べ盛りで、一月も食べないのは逆に異常である。
なので、幻獣保護管理施設局では、もしかしたら契約者と引き離された事により、命令系統から離れて、何も食べない状態になっているのではないかと考えて、関わった関係者に確認しているのだと言う。
それには当然、あのフェンリルを引き連れていた魔獣商達にも確認したのだが、そもそも契約していたのなら幻覚やら催眠やら等使っていない。
そうなると、残りは俺達だけだったのだが、丁度俺達は依頼に出発したばかり。
戻るまでの期間を考えれば、王都から直接確認しに来た方が早いと言う事で、所長であるセレンがやってきたのだと言う。
誰も契約していないのに何も食べないと言うのは、かなり警戒しているか、餌が全く違うと言う事だ。
そもそも、無理矢理連れて来られて、餌に睡眠毒を盛られていたのだから、警戒されているのは当然と言えば当然だろう。
それは幻獣保護管理施設局側も理解しており、職員が目の前で同じ物を食べてから与えても、見向きもしないと言う。
「それに、あのフェンリルの子は王種なのです」
「王種?」
セレンが聞きなれない事を話したので、聞き返す。
王種と言うのは、その種で強力な個体になる可能性が高い個体の総称だ。
その判断基準が、あの時フェンリルが使用した『氷の棺』だ。
この魔法、かなり強力な個体しか使えず、子供の時から使えると言うのはかなり強力な個体だ。
なので、幻獣保護管理施設局としても、何とか原因を突き止めたいと言う。
取り敢えず、これからどうするのかを話し合う。
まず、原因が判明しない限り、このままではフェンリルは餓死するだろう。
無理矢理何かを食べさせても良いのだが、下手に刺激して『氷の棺』を使われたら一溜りもない。
と言っても、俺達に出来る事は無いんだよな……
「父様、私があの子に会っちゃ駄目?」
神威がそう提案してくるが、もしそれで事態が好転したとしても、結構面倒な事になる。
そもそもな話、俺達の拠点はサガナにあるし、この街も結構気に入っている。
今更王都に居を移す気もないし、もしもそれで拠点の判定が消え、神威達が消滅してしまったらそれこそ取り返しがつかない。
「それで事態が好転するのであれば、こちらとしてもお願いしたいのですが……」
セレンにそう言われるが、確実に好転するとは限らないし、問題は無いか。
好転したら……その時はその時だ。
そういう事で、王都に向けて出発するのだが、今回はフェンリルが餓死する前に戻らなければならない。
サガナから王都に向けて馬車は定期的に出ているが、他の乗客も乗せての移動なので遅い。
今回はとにかく早く移動しなければならないので、馬車を個人で手配する必要があるのだが、間の悪い事に黄金虫ブームで大量の馬車が使用され、現在は馬を休めていると言う。
残っている馬も、いざという時の為に残してある馬である為、個人で使用する事は出来ない。
こうなっては仕方ない。
「それでは、私はお嬢さんと一緒に王都に戻りますが……王牙さんは後から合流すると言う事で……」
「いや、走って追い掛ける」
その言葉にセレンの動きが止まる。
まぁ普通に聞けば、頭がおかしいんじゃないかと思われるだろうが……
俺には装具に体力増加Lv10や、身体能力強化Lv10等の能力が付与されている。
更に、走りながら自身に回復をかけ続ければ、スタミナ消費もかなり軽減出来る。
これらを考えれば充分に追い掛けるのは可能だろう。
それに、この身体能力の限界を調べるのに丁度良い。
前に行動限界を予想していたが、王国でのフェンリル騒動の時の動きを考えれば、恐らくあの予想より遥かに遠くまで行けると思っている。
「私の移動はこの子を使うのですが……」
そう言って冒険者ギルドの裏にある厩舎にやってくる。
ここでは冒険者が登録してある騎乗魔獣を預けておく事が出来るのだが、そこに巨大な白虎が眠っていた。
鑑定眼で確認すると、『ホワイトランスタイガー』という種族らしく、かなり強力な個体のようだ。
見た目は地球にいるようなホワイトタイガーだが、そのサイズが違う。
尻尾を含まず、軽く軽自動車位のサイズだ。
「この子の名前はケイン、私が幻獣保護管理施設局の所長になる前からの付き合いになります」
そう言ってセレンがケインの頭を撫でる。
ケインがそれを受けて目を開けるが、俺を見た瞬間、跳び起きて毛を逆立てた。
まぁうん、予想通りだな。
「それじゃ、神威は任せる」
「えーと、この子はかなり足が速いんですけど……本当に走って追い掛ける気なんですか?」
心配しつつも、ケインを連れてセレンが門に向かう。
セレンの方は、すぐに戻れるように用意はしてあったようで、ケインの背には、鞍と両側に鞄が取り付けてある。
対して俺達だが、インベントリに不測の事態に備えて十分な食料や着替えが入っている。
なので、俺達も直ぐに移動を開始できる。
そして、門からケインの背に乗ったセレンと神威の後を追う。
流石に言うだけあってケインの脚はかなり早い。
まぁ問題は無い。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




