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第2話




 薄暗い中、門を通り抜けて街に帰還する。

 そのまま、冒険者ギルドに向かい、倒したモンスターを換金しよう。





「な、なんですかコレーッ!?」


 買い取りのカウンターでアイナが叫ぶ。

 その目の前には、倒したフォレストウルフ5匹とビッグタートルが置いてあった。


 いや、出して良いって言ったじゃないか。


 確かに、ビッグタートルでカウンター前が埋まってるけどさ。


 そして、食事処の方では、こちらをチラチラと野郎共が見ては何かヒソヒソ話している。


「お、王牙さん、何でノービスが登録したその日に銀級の魔獣を狩って来てるんですか!?」


「そうは言われてもなぁ…襲われたから返り討ちにしただけなんだが…」


 アイナがそう言うが、当の本人は全くわかっていない。

 王牙自身からすれば、まったく問題ないモンスターな上、鑑定眼で高価な素材になるとわかったので尚更だ。


「と、とにかく、ちょっと待っていてください」


 アイナが困ったようにそう言ってから、奥の方に向かって行った。

 そして、しばらくビッグタートルに寄り掛かり、待つ事およそ10分。

 アイナが何か厳ついオッサンを連れて戻ってきた。


「お前さんがビッグタートルを倒したと言うノービスか?」


「確かに倒したのは俺だが、そういうアンタは?」


「俺はこの冒険者ギルドを預かるギルドマスターのクック=ドゥドンだ」


 厳ついオッサンがニヤリと笑いながら答える。

 褐色肌に筋肉質のがっしりした体躯、頭髪は短い銀髪に同色の顎鬚。


 冒険者やってた方が良いんじゃねぇかこのオッサン。


 後で知ったが、このオッサンは元銀級の冒険者で、金級に上がる試験中に想定外のトラブルが起き、他の冒険者を助ける為にモンスターと戦って大怪我を負って引退したらしい。


「で、狩っちまったけど、何か問題があったのか?」


「別に問題はないんだがな」


 クックがそう言って、顎鬚を擦る。

 そして、少し周囲を見た後、王牙の方に視線を戻した。


「取り敢えず、細かい話があるんでな、奥の方に来て貰えるか?」


 クックに促されるまま、奥の部屋に通される。

 部屋に入る際、買い取りカウンターに置いてあるフォレストウルフとビッグタートルは、狼顔の男達が数人掛かりで運んで行った。

 彼等は多分、獣人と言う人種なんだろう。

 その光景を横目に部屋に入ると、中央に長机と椅子が数脚置かれているだけの質素な部屋。

 促されてその一つに腰掛けると、向かい側にクックが座る。

 そして、クックはアイナに何か指示を出すと、アイナはそのまま部屋から出て行った。


「それじゃ、確認するんだが、あのフォレストウルフとビッグタートルはお前さんが狩ったので間違いないんだな?」


 クックに聞かれたので、頷く。

 その後も、どうやって倒したのかを聞かれたので、倒した方法を順番に答えて行く。

 それをクックが頷きながら聞いている。


「まずお前さんがノービスとかそういうのはこの際無視するとしてだ、あそこまで甲羅が綺麗に残ってると額も額になる」


 顎に手を置いて聞いていたクックがそう言うと、見計らったかのようにアイナが戻って来る。

 そして、手に持っていた紙をクックに手渡した。


「あーと……まず、フォレストウルフだが1匹で銀貨3枚になる。で、本命のビッグタートルだが、まず、頭骨が銀貨100枚、爪が全部で40枚になる」


 その報告を聞いて、頭の中でざっとだが計算して置く。

 フォレストウルフは5匹で1匹銀貨3枚だから15枚。

 ビッグタートルは頭骨で100枚、爪で40枚だから銀貨140枚。


「そして甲羅だが、あそこまで完全な形ってのは珍しいんでな、甲羅で銀貨300枚、そして、あのサイズだと魔石も期待出来そうでな、魔石に銀貨50枚出すとしよう」


 甲羅たけぇなオイ。


 そう思いながらも、かなりの額になった。

 アイナが御盆に銀貨を積んで持ってくる。

 それをクックと共に数え、確かに銀貨505枚ある事を確認した。


「コレだけの銀貨を数えたのも久しぶりだな」


 クックがそう言いながら積まれた銀貨を眺める。

 取り敢えず、100枚毎に小さい皮袋に入れておく。


「久しぶりって…稼いでる冒険者とかいないのか?」


「今の冒険者連中は根性が足りん。アレは嫌だ、コレは嫌だって文句ばかりでロクに稼ごうとせん」


 俺の言葉にクックが笑いながら答える。 

 なるほど、確かに好き好んで危険な事をする事は無い。

 冒険者と言っても、様々な仕事に分類される。


 モンスター討伐専門のハンター。

 薬草等採取専門のファーマ。

 調査・探査専門のキャンサー。

 採掘・掘削専門のドリラー。

 そして、最も嫌われる、死体漁りというスカベンジャー。


 誰もがハンターになる事が出来るワケではない。

 適性や種族特性によって向き不向きがあるからだ。


 クックが現役で活動していた頃は、誰もが一度ハンターとなり、そこから自己責任で活動をしていたらしい。

 だが、最近では種族毎に仕事を分配し、最初から選べる先が決まっている事がほとんどだと言う。

 確かに、種族毎に向き不向きが多いのはわかっている。


 例えば、採掘・鍛冶スキルの花形とも言える種族である『ドワーフ』。

 その彼等に調査や探査は不向きと言われている。

 理由は簡単であり、そう言ったスキルを習得するのが難しいからだ。

 例えば、『探知』という索敵スキル。

 これは、レベルに応じて自身の周囲に敵意を持った存在がいる事を知る事が出来るスキルだ。

 俺のレーダーがコレに当たる。

 これがドワーフには習得し辛いのだが、不可能ではない。


 何故、そうなってしまったのか?


 原因は100年ほど前に王都で作られた『王立学園』が原因だと言う。

 優秀な士官を育成する為に、王の主導で建設され、今では優秀な人材を送り出している。

 その教育の一環として、種族特性に合った職業を選ぶ事が推奨されているらしく、冒険者にもそれが波及しているという。


 つまり、ハンターになるのは筋力が強い獣人。

 採取は、知識量が多く、目が良いエルフ。

 採掘は言う間でも無く、ドワーフ。

 探査・調査は、感覚が鋭敏なグラスランナー。


 では人はどうなのだろうと思うだろう。


 筋力は獣人より劣り、知識量ではエルフに負け、採掘でもドワーフには勝てず、感覚はグラスランナーに劣る。


 ただ、全てが平均的で、言い方が悪いが特徴が無い。

 スカベンジャーになる者も多いが、この職種は大抵が冒険者をリタイアしたが、冒険者しか出来ない者達がなる事が多く、意外と競争率が高い。


 そして、ハンターは生傷が絶えず、大怪我を負った獣人の多くがリタイアしてしまう。

 その結果、大物を狩るハンターが減り続け、ギルドも頭を抱えていた問題だったらしい。


「そんな訳でな、お前さんみたいな人族でも立派にハンターをやれる、って言うのを酒場で馬鹿騒ぎしてる連中に教えてやって欲しい」


「教えるって言ってもなぁ……」


 確かに、ゲーム中で初心者とかに戦い方や情報を教えた事はある。

 だが、いきなりやって来た男に、あの酒場兼食事処の野郎共が話を聞くとは思えない。


「何、難しい事じゃない。お前さんはただ単に魔獣を狩って、ここで売ってくれれば良い。それだけであいつ等には良い刺激になるだろう」


 クックがニヤリと笑う。

 なるほど、人族の俺がこうやって高ランクのモンスターを狩って、堂々とギルドで売る。

 それを見ている奴等が、人族でも倒せるならと、欲を出して挑む。

 確かに危険だろうが、冒険者稼業は自己責任の世界だ。

 その危険も納得して冒険者をやるのだ。


「それじゃ、コレからも元気に活動してくれ」


 そこまで言って、クックが立ち上がる。

 どうやら、話は終わりのようだ。

 6つの皮袋をインベントリにしまい、部屋から出る。


 取り敢えず、エミリに渡すのは50枚あれば良いかな?


 そんな事を考えながら冒険者ギルドを後にした。

 その日の内に、エミリには助けてもらった礼として、銀貨50枚が詰まった皮袋を渡した。

 最初は戸惑っていたが、最終的には受け取ってくれた。


 さて、それじゃあのギルマスの言う通り、冒険者として活動するかね。


 そう思いながら、街の宿屋に向かう事にした。




 冒険者ギルドの一室。


 ギルドマスターのクックが手に持った一枚の紙を見ている。


「狼=王牙か…なかなか面白そうな男だな……」


 ぼそりと呟き、近くにいた黒尽くめの人物に手を振る。

 その人物が一礼してから空気に溶ける様に部屋から消える。


「…ノービスなのに銀級魔獣を狩れる腕で、俺が聞いた事の無い名前か…」


 クックは冒険者を引退し、冒険者ギルドに所属してからというもの、冒険者達の名前はほぼ全て覚えている。

 それこそ、無名な冒険者でも、後に大成したりする事があるので、覚えているのだ。


 だが、その記憶に王牙と言う名前は覚えが無い。

 別の地域で活動していた過去があるかもしれないと、他の地域にいた可能性を調べさせる。

 何故ここまで調べさせるのかと言うと、簡単に言えば、犯罪歴の有無が絡む。


 他の地域で犯罪を犯し、そこで指名手配等された為、別の地域に逃げて新人として再登録すると言う冒険者は、実は一定数存在する。

 冒険者ギルドにもそう言った冒険者を取り締まる組織は存在する。

 だが、実際にはまともに活動してはいない。


 それは何故かと聞かれれば、そう言った冒険者は大抵が銀級以上である為、自然と取り締まる側もそれ以上の腕が必要になる。

 そして、取り締まる側にはそれほど人材が余っている訳でも無く、大怪我をした場合更に減り、最終的に取り締まりそのものが出来なくなる。

 それを防ぐ為に、まず怪しい新人は直接会って話をし、どういう人物なのかを確認する。

 そして、過去を調べて犯罪歴があった場合、麻痺毒でも何でも使用して無力化した後、拘束する事になる。


 だが、話をした感じ、あの男は何か犯罪を犯したと言う感じはしない。

 何か別の理由があってこの地に流れて来たのだろう。


「まぁ問題が無ければ良いんだがな…」


 クックはそう呟くと、持っていた王牙の申請書を机に置いた。

 申請したその日に銅級がチームを作って対処するフォレストウルフの群れ。

 更に銀級が複数人で対処しても、犠牲を出す可能性が高いビッグタートル。


 それらをただ一人で倒したノービス。

 腕だけで考えた場合、完全に銀級の上位か金級に匹敵するだろう。


 クックの口元が笑みに歪む。

 サガナ冒険者ギルドも、賑やかになるだろう。




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