第28話
料亭の厨房に戻り、インベントリからある物を取り出す。
テーマは『贅沢』。
この料理が、このテーマに合うかどうかなんだが……
まぁ俺は贅沢だと思ってるし、別に良いか。
そして、全員が待っている個室に向かう。
「さて、それでは王牙さんの料理なのですが……」
アイナがそう言ってワゴンの上に乗っている料理を見る。
全員の視線がソレに集中するが、全員の表情が曇る。
「それは卵……ですか?」
「ふむ、見た限り、ロックバードの卵の様ですが……」
レイとロナンが言いながらソレを見ている。
そう、ワゴンの上に乗っているのはバレーボールくらいの卵。
ロックバード。
ダチョウの様な鳥形モンスターだが、飼育可能で肉も卵も美味。
ただし、怒らせるとかなり強く、その脚力は金属鎧であっても蹴り破る。
巣の中に複数個の卵を産み落とすが、もしもその巣から出てしまった卵には関心を無くすという、ダチョウによく似た生態。
しかし、贅沢と言う程では無く、卵も普通に買う事が出来る。
「それにしても、卵のまま……ですか?」
アイナが言う通り、卵がそのままワゴンの上に乗っている。
レイとロナンも困ったような表情を浮かべ、ギミナは勝ち誇ったような表情をしている。
まぁ見た目はただの卵のままだからなぁ……
取り敢えず、仕上げをするか。
「まぁ見た目はそのまんまなんだが、これで終わりじゃないんだ」
そう言いながら卵に手を置くと、卵が上下に分かれる。
そして現れたのは白い塊。
「……茹で卵ですか?」
「いや、それにしては表面がおかしい……妙にざらついてないか?」
「ロックバードの卵って茹でるとあんな感じになるんですか?」
三人が言いつつ卵を注視する。
まぁロックバードの卵を茹でただけで、贅沢とは言えないだろう。
寧ろ、そんな簡単だったら苦労しない。
全員が見ている前で、その白い塊に金槌を叩き込んだ。
ゴッゴッと硬い物が砕ける音が響く。
「……茹で卵ってこんな音しましたっけ?」
アイナが聞いてくるが、今は無視。
そうして半分ほど砕けると、中から緑色の塊が見えてくる。
その緑色の塊を引き抜くと、神威が用意したまな板の上に乗せる。
四角い緑色の塊の表面を、懐から取り出した短剣で削ると、表面がペリペリと簡単に剥ける。
そして現れたのは一つの肉塊。
それを薄く切り、各自の皿に数切れずつ乗せる。
「まぁ料理の説明は後でするんで、取り敢えず食べてみてくれ。」
最初にソレを食べたのはアイナとレイ。
ゆっくりと咀嚼した後、その料理に視線を落としている。
「これは……オーク肉ですか?」
「確かに、オーク肉でしょうが……この香りは……ムーンリーフですね?」
レイの言うムーンリーフとは、夜の間だけ開花し、朝には萎れてしまうと言う花だ。
その葉が、一部の香り付けに使える上に、肉の臭み取りにも利用できる。
まぁ花に比べて葉は安いんだけどな。
「しかし、判らん……この料理の何処が贅沢なのだ?」
「確かに、味も香りも素晴らしく美味しいのですが……材料はそこまで珍しい物では無いですね?」
ロナンが口にした後、唸る。
そう、材料は何処にでもある様なものばかりだ。
「その白い物が高いんでしょうか?」
「こりゃただの塩だ」
「「「塩?」」」
レイに聞かれたので、答える。
そう、この白い物体はただの塩だ。
個人的にこの料理はかなりの贅沢品と思っている。
「この料理は『塩釜』って料理だ。メインを塩で覆って、焼き上げたら出来上がりだ」
「ふむ……初めて聞くが……どこら辺が贅沢なのだ?」
「今食べてる所以外、全て使い捨てだからだ」
その言葉で三人の表情が変わる。
この意味がわかれば、この料理がどれだけ贅沢かわかるだろう。
「ムーンリーフはともかく、ただ肉を包んで焼いただけなら、塩は再利用できるでしょう!?」
ギミナがそう言うが、この料理、大量の塩を使い捨てするしかない理由が存在する。
「それが出来ないんだ。この塩には多量の卵白が混ぜてある。そのせいで一回しか使う事が出来ない」
今回、使った塩には卵白が混ぜ込んである。
そして、ムーンリーフで香辛料を擦り込んだオーク肉を包み、その周りを卵白入りの塩で覆って、ロックバードの卵の殻を被せる。
後は焚火の残り火の中に放り込んでおく。
後は時間を見て取り出し、余熱で火を通した後、インベントリに保管して置いただけだ。
そして、使い捨てになる理由だが、熱が通った卵白はタンパク質が硬化してしまい、塩と結合してしまう。
その為、他の料理に使う事が出来なくなる。
一応、再利用する為に分離させる事は可能だが、凄まじいまでの手間が掛かる。
「確かに、材料が高価な物は贅沢だろう。だが、それが出来るのは貴族連中だけだ。」
その言葉を聞いて、三人とも考え込む。
そう、ギミナの出した料理は、確かに贅沢だ。
食材、調味料共に一級品で、一皿だけでも金貨数枚は必要になる。
しかし、それを口にするのは貴族以上にならなければ無理だ。
今回のテーマは『贅沢』。
誰もが知っている範囲で、『贅沢』を体現させなければならない。
対して俺の料理だが、使っている食材や調味料は庶民でも手に入る。
ただし、食べられるのは中の物だけで、他は全て破棄。
そう考えると、随分と贅沢な料理だと思う。
「確かに……ギミナ氏の作った料理は、一定水準以上の稼ぎが無ければ食べる事すら出来ぬ……」
「少し話し合うべきかもしれんな」
レイとロナンがそう言うと、アイナと共に話し合い始める。
まぁ別に俺は負けても良いんだが……
取り敢えず、残っている肉はインベントリに収納しておく。
多分、神威が食べたがるだろうし、炎尚と神楽にも食べさせたい。
時間にして30分程話し合っただろうか。
結論が出たのか、三人が頷いている。
「では、代表して私が結果を説明しましょう」
レイがそう言って小さく咳払いする。
「この勝負、引き分けとします」
その言葉で、ギミナが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
まぁ引き分けと予想していたが……
その表情を見て、今度はロナンが前に出て来る。
「勝負の決め手は、贅沢の基準が『貴族』と『庶民』で別れていた事です」
つまり、ギミナの作った料理は『貴族の贅沢』であり、俺の作った料理は『庶民の贅沢』であるという事だ。
最高の食材をふんだんに使用したギミナの料理は、貴族ならではの贅沢。
対して、俺の料理は庶民でも手に入る普通の食材だが、それらを惜しげも無く使用して使い捨ててしまう。
これでは勝負する以前の問題なのだ。
結局、そのままレイとロナンは退室。
そして俺達もそのまま帰路に付く事になった。
始終ギミナは渋い顔をしていたが、ロナンの説明にも納得しているようだった。
予定より遅くなったが、無事?サガナに帰ってくる事が出来た。
一度屋敷に戻り、炎尚と神楽に飼育すると伝えて卵を預ける。
そのままスクウェール商会に向かい、鶏舎を作りたい事を伝えて大工を手配してもらう。
丁度、アマッシュ達の手が空いているらしいので、明日にでも来てくれると言う。
そうして、屋敷の隣に小さな鶏舎が出来上がった。
卵は無事に全部孵化したのだが、産まれて来たのは黄色いヒヨコでは無く、白いヒヨコだった。
これが普通らしい。
鑑定眼で見ると、全てワイルドチキンで間違いなかった。
これが全部成長し切ったら、それはそれで凄い光景になりそうだ。
ちなみに、ワイルドチキンは雑食だが質の良い餌を与えて育てると、産む卵が非常に美味になるらしい。
なので、基本的には食料庫の小麦粉を主軸に、専用の餌を神楽が作って与えている。
そして、俺の威圧に慣れさせる為に、一日に数回、徐々に圧を上げながら威圧を当てた。
その結果、成鳥になってもまったく怯まず、無事に卵を産むようになった。
その卵も、アイナに試食してもらった所、王都でも滅多に無い一級品以上の味だと絶賛された。
なお、雌が17羽、雄が3羽だったらしい。
現在は増やさないと卵の数も話にならないので、別ける事無くこのまま増やす事にする。
地球の鶏の様に一日に数個と言うペースで産む訳では無いのだ。
一日に1個産めば良い方で、数日産まない事もある。
そして、嬉しい誤算として羽毛が大量に手に入るようになった。
結構な頻度で抜け落ちては生え変わるようで、成鳥になった後、かなりの量が定期的に手に入るようになった。
しかも、これもかなり質が高いらしく、売れれば高く売れるらしい。
まぁ色々使いたいので、当面売る予定は無いがな。
神楽が羽毛掛布団を作る為に、色々と実験をしている。
結果的に言うと、かなり地球にあった羽毛掛布団に近い物が出来上がる事になった。
冒険者ギルドでは、ようやく依頼が増えてきた。
春も中程になった事で、モンスターの一部が森に戻り始めたらしい。
ちなみに、前に発見した冬眠しようとしていたビッグタートルだが、きっちりとギルドの方で処理されていた。
森の中で、モンスター同士の縄張り争いが起きているが、結局の所、ビッグタートルやフォレストウルフ辺りが上位になるだろう。
そう予想しているのは冒険者ギルドや冒険者達だが、コレがこの森での例年の事らしい。
ゴブリンやスライムもいるのだが、彼等は底辺だ。
確かに彼等にも強い種はいるのだが、それに輪を掛けて他の種が強過ぎるのだ。
今まで、この森でこの仕組みが変わった事は無い。
だが、これからも変わらないと言う保証もないので、毎年、春の中頃に縄張り争いが沈静化してきた辺りで、冒険者には森の調査を依頼するのが当然となっていた。
比較的浅い部分を銅級、中部を銀級、深部を金級以上が担当する。
他にも、ダンジョンに迷い込んで、種として進化した個体がいないかを調査する為に、サガナダンジョンにも調査隊が送り込まれる。
もし、ダンジョン内で強力な個体に進化していた場合、そのまま上位の冒険者に依頼が回って討伐される。
結果から言うと、森にもダンジョンにも変わりなく、強力な個体になったモンスターはいなかった。
そして、いつも通り冒険者ギルドでゴブリン退治を受け、神威と共に森の中でゴブリンを探して討伐していく。
鉱山の方で増えたようで、確認しただけでも20匹程いた。
まぁそうは言っても雑魚モンスターなので、あっさり討伐は完了した。
討伐証明の耳を切り取り、袋に入れておく。
その帰り道、オークにかち合ったので叩きのめして素材袋に入れておく。
一緒に冒険者ギルドで買い取ってもらったのだが、アイナからは何も言われなかった。
ただ、彼女の視線が若干冷たく感じたが……
ちなみに、この世界でのゴブリンやオークとかの繁殖事情だが、普通に雄雌がいる。
それを知ったのは、オークの一匹を買い取ってもらった際、雌が珍しいと言う事で少し高く売れたのだ。
比率としては、雄が8の雌が2くらいらしい。
ただ、雌は群れからほとんど外に出ず、群れから出るのは、その群れが崩壊している場合だけだ。
そして、見た目はほとんど変わりない。
ただ、進化すると外見に変化が起きるらしいのだが、確認された個体は過去数百年で数えるくらいしかない。
過去に進化名として確認されているのは、『レディ』と『クイーン』だけだ。
ゲームでは他にもいたのだが、この世界では未確認。
寧ろ、いるのだろうか……
そうして日々を過ごし、依頼をクリアしていたら、神威が銅級にランクアップした。
俺はまだ銅級だが、これは普通らしい。
と言うのも、銅級から銀級に上がるには1年近く掛かるのが普通なのだ。
一気にランクを上げる方法も無くは無い。
ただし、その方法はどれもかなり危険だ。
その方法だが、未踏破のダンジョンを踏破する、スタンピードで活躍する、最重要手配犯を捕縛する等がある。
ただ、これ等はアイナから絶対にやらないようにと釘を刺されている。
もっとも、未踏破のダンジョンなんて金級の許可がなければ入れないし、スタンピードは早々起こらない。
最重要手配犯に至っては、それを追い掛けている賞金稼ぎがいる為、被害にでも合わない限り手を出さない方が良いだろう。
まぁ、のんびり上げて行けば良いか。
あくまで作者が思う贅沢なので、そこら辺は御了承下さいませーorz
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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