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第26話




 卵クジを売っている男の背後には、多数の大小様々な箱が積まれている。

 しかし、肝心の卵が入った箱が見えない事から、恐らく、箱が道具袋ならぬ道具箱なのだろう。

 一つの容量はどのくらいなんだろうか……


「まず、商売とは別として、卵とか道具とかは後ろの箱に入れてるんだよな?」


「あぁ、コイツが無きゃ俺みたいなのは商売出来ねぇですからね」


 固定した店を持たない露店は、実は色々と道具が多い。

 その為、小さいながら容量が大きい道具箱は重宝されているそうだ。


「ちなみにだが、どのくらい入るんだ?」


「どのくらいって……まぁ……一番デカいのでこの箱が5つくらいでさぁ」


 そう言って男が卵クジの箱を叩く。

 大きいんだか小さいんだかわからん容量だな……


「もし、卵を譲ってくれるなら、超貴重品も渡そうと思うんだが……」


 そう男に小声で提案し、インベントリからある物を取り出して男に見せる。

 それは実験用にいくつか作ったうちの一つ。

 容量枠を最大まで拡張した道具袋である。

 マジックスクロールを使う事で、袋や箱の容量を増やす事が出来るのだが、その際に少し小細工をしてみた。

 内部時間を極端に遅くする物や、逆に早める物、特定のアイテムしか入らない物等々……

 その中の一つがこの容量を極端に増やした物だ。

 通常でコンテナ5個分くらいの容量なのだが、それを更に拡張し、その容量は3倍程度まで広がっている。

 ただし、デメリットとして内部の時間経過は外と同じになっている。

 しかし、こういった店には喉から手が出る程欲しい物だろう。


「コイツはとある筋から手に入れたモンなんだがな、俺にはもうあるから使わないし、どうしようかと思っててな」


 そう言ってその道具袋の能力を説明する。

 その説明を聞いて、男が考え込み始める。

 損得で考えるなら十分得になる話だが、商売人としては信用が無くなって損になる。


「そもそも、ワイルドチキンが欲しいなら、売ってるのを買えば良いんじゃないのかぃ?」


 男の提案は最もだが、それが出来ない理由が二つある。


「俺の活動拠点はサガナなんだが、成鳥で買うと運ぶ手間が掛かる上に、怖がっちまって下手すりゃ卵自体産まない可能性がある」


 王都まではアイナの馬車に同乗したが、それにワイルドチキンを20羽も乗せる事は出来ない。

 それに、強いモンスターが怯えるのに、それより遥かに弱いワイルドチキンが怯えないはずが無い。

 そして、ワイルドチキンの卵はストレスによって味が変化する。

 一流店のシェフが飼うワイルドチキンは、ストレスフリーの環境で育てていると言う。

 そんなワイルドチキンが、終始怯えている状態になった場合、卵の味は想像できる程悪くなるだろう。

 だが、ヒヨコの時から接していれば、多少はマシになる可能性がある。

 幸いな事に、ワイルドチキンは一ヶ月で卵を産むようになる程、成長速度が速い。

 駄目だったら……まぁその時考えよう。


「成程、それだと確かに卵の方が良いですな」


「それで、どうする?」


 本音を言えば、ここで手に入らなくても別に問題は無い。

 サガナ街にも、ワイルドチキンを飼育している農家はいるだろう。

 しかし、この場で買えるならそれに越した事はない。

 それに、俺達には使い道の無いアイテムを処理できるしな。


「ううむ、その道具袋は魅力ですが……」


 やはり、直接買うのは不可能か。

 まぁ他にも手はある。


「それじゃ、こうしよう、まずアンタと俺は道具袋と道具箱を交換する。その道具箱に、例えば『()()()()()()』が入ってたとしても、それは気が付いてない訳だから問題あるまい?」


「……なるほど、確かにそれは問題ありませんな……」


 自然と男とこそこそと悪巧みする様に小声で話し合う。

 こうして、俺はワイルドチキンの卵20個を手に入れたのだった。


「こういう場合、通報した方が良いんでしょうか……?」


「別に問題無さそうだし良いんじゃない?」


 後ろでは神威とアイナが話しているが、問題は無いだろう。

 俺と店主の男はただ道具袋と道具箱を交換しただけだ。

 その中に、たまたま卵が入っていたと言うだけの事。



 結局、俺は卵20個以外には魔獣祭では何も購入しなかった。

 そして、神威はと言うと同じように魔獣祭では買わず、前に王都に来て買った味噌と醤油を買い占めていた。

 成程、確かにそう言う使い道もあるか……

 商店を巡って調味料以外に、試しに果樹も探してみるとリンゴとミカンを発見した。

 なので、リンゴの果樹を3本、ミカンを2本購入した。

 インベントリに収納し、屋敷に戻ったら植えるとしよう。

 他にも、調味料で唐辛子を発見したのが収穫として大きい。

 更に、八百屋でニンニクとカボチャを発見。

 こりゃ後々楽しみだ。


 手に入れた卵は正しく鶏卵。

 鑑定した所、『ワイルドチキンの卵』となっているが、卵の時点では性別までは判らないようだ。

 取り敢えず、サガナに戻ったらテンドラムの所で大工を雇って鶏舎を依頼しよう。

 後の管理は炎尚と神楽に丸投げする。

 そして俺はランクを上げ、自力で亜竜を狙う事にする。


 そして、王都に滞在する最終日。

 アイナに紹介されて王都でよく利用すると言う料亭にやってくる。

 個室に案内され、そこで出された料理なのだが……

 まぁうん……

 言っちゃ悪いんだろうが、可も無く不可も無くと言った所だ。

 王都でも料理文化と言うのはあまり進んでいないらしい。

 しかし、材料的に作ろうと思えば美味い物が出来ると思うんだが……

 その表情を見て察したのか、アイナが苦笑している。


「父様、これ食べる?」


 神威が半分ほど食べたであろうプディングの様な、パテの様な物を突ついている。

 恐らく、肉をアレコレした物なのだろうが、実は俺もコレは結構キツイ。

 味は塩味に多少の胡椒、そしてラードの様な脂を混ぜ込んであるのか、口当たりはネットリとしてズッシリ重い。

 そう考えると、普段から美味い料理を食べている神威にはキツイかもしれない。

 仕方ないので、神威の分も我慢して食べ切る。

 ……後で口直しに何か喰おう。


「王牙さん達の料理を食べた後だと、ここの料理も少し物足りなく感じますね……」


 アイナは最近、屋敷によく来ている。

 そこで神楽と料理談義をしているのだが、内容までは知らない。

 ただ、アイナからジャガイモの栽培に成功したら、それを他の農家でも育てさせて欲しいとは言われている。

 まぁジャガイモは万能食材の一つだから良いけどな。


「もし、王牙さんだったら、いままで出て来た材料でどんな料理を作ります?」


 言われて少し考える。

 主食として白いパン。

 生野菜サラダとオーク肉のステーキと肉のパテ。

 スープは塩胡椒で味付けをし、僅かな野菜で煮込まれている透明度の高いスープ。

 飲み物として、俺とアイナにはワインの様な酒、神威には果実を絞ったジュース。


「そうだな……まぁいくつかは作れるが……」


「今度食べさせて貰っても良いでしょうか?」


「私も食べたい」


 二人からそんなリクエストが来るが、実は帰り道で食べようと思っていた料理の一つがその料理だったりする。

 屋敷で準備し、インベントリに保管してあるのだ。

 まぁ神威には物足りないだろうし、良いか。


「一応、帰り道でその料理を出そうと思ってるが……」


「あ、もしかしてこの前作ったアレ?」


 神威は今まで出て来た料理の材料から判ったようだ。

 アイナがそれを聞いて、壁際に立っていた一人を呼ぶと何かを頼んでいる。

 しばらくすると、その青年が皿を持って戻ってくる。


「気になるので食べてみたいのですが……」


「私も1個で良いから食べたい」


 こうなると、最早俺に拒否権は無い。

 仕方なく、インベントリからその料理を取り出す。


 一つ一つは小判型の茶色い物体。

 多少味付けを濃い目にしてあるので、このまま食べても問題無い。

 それが10個程皿の上に並んでいる。


「これは……なんていう料理なんでしょうか?」


「これは……」


「メンチカツって言うんだよ」


 そう言って神威が一つを手に取ると、齧り付く。

 その表情はかなり幸せそうだ。

 仕方なく、一つをアイナの皿に取り分け、自分の皿にも一つ乗せる。


 まだジャガイモが収穫出来ないので、コロッケは作れない。

 なので、肉たっぷりのメンチカツを作ったのだ。

 ミンチ肉を用意する為に神威の手も借りた。

 この世界にミンサーなんて物は無いので、ミンチを作る場合、完全に自力だ。

 延々、二人で包丁使って肉をミンチにした。

 しかし、その苦労があって、このメンチカツはかなり美味く出来上がった。

 使用した肉はオーク肉とボア系の肉であり、他にも普通なら捨てるような脂身を使っている。


 ただ、アイナはどうやって食べればいいのか困惑している。

 まぁフォークとナイフで食べる文化が主流だと、神威の食べ方は行儀が悪いからな……

 なので、手本代わりに、ナプキンを使って手が汚れない様にして食べた。

 それを見ながら、アイナも同じようにして一口齧る。

 ゆっくりと咀嚼し、それを飲み込むと、二口目、三口目とどんどん食べて行く。


「この、めんちかつ、と言う料理は難しいんでしょうか?」


「いや、そこまでじゃないが……ただ肉を細かくして、炒めた野菜と合わせて衣を付けて油で揚げたのが、この料理だ」


 アイナが半分ほど食べて、そう聞いてくる。

 なので、今回やった作り方をざっくりと説明する。

 ミンチ肉さえどうにか出来れば、後は楽だ。


「肉を細かくする作業が面倒だが……後は見た目で、黒パンより白パンの方が良いな」


 この揚げ物で使うパン粉なのだが、黒パンは不向きだ。

 黒パンは只管黒い。

 そんなのでパン粉を作ったら、見た目は完全に焦げてるとしか見えないのだ。

 それを聞いて、アイナが考え込んでいる。

 現状、白いパンは貴族より上の連中しか食していない。

 この料理に使ったパン粉は、屋敷の『食料庫』にある小麦を使った物だ。

 後で、この世界の白い小麦を育てられるようにして置かないと、いずれ尽きてしまう。


「まぁ取り敢えず、材料はほぼ同じだからこういった料理も出来るって事で……」


「御馳走様でした」


 俺がそう言っていると、神威がそう呟いた。

 見れば、皿に乗っていたメンチカツが綺麗に無くなっている。

 そして、満足そうな神威の表情。

 アイナと話している最中に、神威が全部喰ってしまったのだ。

 1個の約束のハズが……


「……神威……1個の約束だったな?」


「……止まらなくて……」


「まぁ、王牙さんもそこまで怒らずに……」


 約束を破った罰として、屋敷に帰ったら炎尚と神楽監視の元、勉強と言う事にした。

 そうしていると、食後のデザートをワゴンに乗せて、長いシェフ帽を被った男がやってきた。 


「総料理長のギミナ=マグンと申します。この度は我が料亭を御利用いただきありがとうございます」


 ギミナと名乗った男がアイナに頭を下げる。

 この男、見た目は痩せているが、妙に立派な髭と窪んだ眼が特徴だ。

 そうしているとギミナの目が、アイナの皿に残っていた半分のメンチカツに止まっていた。


「おや、その料理は……?」


 この世界だと見た事無いだろうな。

 まず、王都の調理法には、基本的に煮る・焼く・炒める・茹でるしかない。

 そう、油で揚げると言う調理法は無いのだ。

 更に、白いパンが貴重品である以上、パン粉を自作するのも難しい。

 ギミナの両目が俺の方を睨んでるし……


 これはもしかしなくても……やっちまったか?




それでは、また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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