第23話
対峙した男は、目の前の老執事の身のこなしを見て、昔、冒険者チームに荷物持ちとして参加していた時、ブラックベアに襲われた時の事を思い出していた。
その時は、銀級冒険者達数名が大怪我をしたが、討伐に成功した。
だが、その後、その冒険者達は怪我を元に引退し、荷物持ちだった自分は行く当ても無く、そう言ったメンバーが集まって賊になった。
隠れ蓑として冒険者登録をしておき、本業の盗みは、少しの贅沢をするくらいにしていた。
活動は小規模にする事で、衛兵に目を付けられないようにしてきた。
しかし、そろそろこの街も潮時だ。
最後に一稼ぎしてから、別の場所に逃げる。
今回選んだのは、ここ最近で荒稼ぎしている男の屋敷。
男とガキ、ジジイと女の4人で暮らしているが、男とガキは化け物染みた強さで諦めていたが、今は王都に出向いていて不在。
ジジイと女だけならどうにかなる。
そう考えていた。
しかし、実際にはジジイは桁違いに強い。
元盗賊の男と、仲間の一人が裏口に向かったが、あっちでも戦闘しているようだ。
逃げる為には、どうにかしてこのジジイを倒すしか道はない。
大振りのナイフとショートソードを構える。
奇しくも、リーダー格の男と炎尚の戦闘方法は二刀流と同じだった。
互いに繰り出す剣筋が交差し、打ち合うが、最初の一撃を打ち合った瞬間、男は悟った。
勝てない、と。
持っている武具のレベルもあるが、技量にも天と地ほどの差がある。
どれだけ足掻いても、今の男には届かないレベル。
しかし、後悔しても最早遅い。
打ち合う度に、武具を持つ手が痺れて行く。
そして、遂にショートソードが耐えられなくなり、半ば程から折れ飛んでしまった。
「チッ……」
ナイフと折れたショートソードでは勝ち目などもう無い。
最も、同じ武器を使った所で技量に差があり過ぎて勝負にすらならない。
しかも、無傷だった2人もあっさりと叩き伏せ、最初に狙った二人もきっちりと意識を刈り取っている。
そして、裏口の方の戦闘は終わったようで、物音すらしない。
逃げたのか、倒されたのかは不明だが、戻ってこないと言う事は裏口に向かったメンバーからの援護も期待出来ない。
「終わりのようですな」
炎尚がそう言うと、小太刀を鞘に納める。
未だに男の手には無事なナイフがあるのにだ。
チャンス。
恐らく、武器の片方を失って戦意喪失していると思っているのだろう。
だが、この程度で戦意喪失をする事は無い。
「ハッ!」
短く息を吐き、一気に炎尚に向かって跳ぶ。
一撃でも入れば、後は体力に分がある男の方が有利だ。
「彼の者を捉える蔦と成れ、束縛」
背を向けた炎尚にナイフを突き出そうとした瞬間、ナイフを持った右腕に何かが絡み付く。
驚きそれを見ると、床に黒い魔方陣が出現し、そこから伸びた植物のツタだった。
慌てて引き千切ろうとするが、かなり頑丈で引き千切るのは無理と判断した。
なので、折れたショートソードで斬ってしまおうと考えたが、その左腕にも伸びたツタが絡み付いた。
両腕を拘束され、もがいていると更に両脚もツタに絡み取られる。
やがて、巻き付くツタが増えていき、男の全身が絡み付いたツタで見えなくなる。
しばらくして、衛兵を連れた神楽が屋敷に戻り、事情を話した後、倒れていた男達全員を引き渡した。
そして、今度は炎尚がスクウェール商会に向かい、賊が屋敷に侵入した事を話し、鍵を早急に交換出来る様に手配してもらう。
今回の原因としては、単純なただの鍵だった為に開いてしまったのだ。
なので、新しい鍵には特定の魔力波動を記憶させ、その魔力波動以外では開けられない仕組みにしてもらう。
交換作業に数日掛かるらしいが、屋敷の主である王牙がしばらく戻らないので、時間が掛かっても問題は無い。
問題なのは、主達が帰ってくる際に、炎尚か神楽が屋敷にいなければならないだけだ。
賊達を捕らえた事で多少の報奨金が出るのだが、どう考えても初めての手際とは思えないので、余罪を調べ上げて被害者達に渡す様にお願いした。
そして、遠く王都に向かった主達に伝わるようにと、ギルドマスターのクックに面会して報告をお願いする。
冒険者ギルドには、遠く離れた場所にでも言葉を伝える事が出来る魔道具が存在する。
これは、魔獣大暴走が起きた場合を想定して各ギルドに置かれている。
しかし、そう言った事態は早々起きる事は無いので、ギルド間での連絡用に解放されているのだ。
例えば、仲間とはぐれてしまった際の生存報告だったり、早急に連絡を取りたい相手が遠くにいる場合等だ。
今回の件で言えば、冒険者ギルドに登録している冒険者が別の冒険者を狙ったようなモノなので、警告の意味も込めている。
もし、同じような事が起きた場合、次は捕縛では無く、独断で処理すると言う事だ。
クックは最重要事項として、王都の冒険者ギルドに連絡を入れておいた。
目の前にいる老執事は笑顔であるが、5人を相手にして無傷な上に、全ての相手をほぼ無傷で捕縛しているのだ。
そんな相手と事を構えるのは、個人的にもギルドとしても御免被りたい。
更に、この老執事の主である王牙達も相手になった場合、純粋な戦力で考えた場合、サガナ中の全戦力をぶつけても恐らく蹴散らされるだろう。
クックは連絡を入れた後、馬鹿な考えを起こす奴が出ない事を祈ったと言う。
そんな事になってるとは知らず、王牙達は予定通りに王都に到着した。
門での身分確認をする為にギルドカードを取り出していたら、警備の兵達が敬礼し、馬車はそのまま通り過ぎる。
「身分確認はしないのか?」
「それが紋の効果ですよ」
俺の疑問にアイナがそう答えた。
つまり、アイナの実家は相当な権力を持っているのか。
そうして、馬車を止める所定の場所に到着すると、一旦アイナとは別れる事になる。
彼女は一度実家に顔を出してから魔獣祭に参加すると言う。
それまでに軽く見ておくのも良いだろう。
見回せば、かなりの人でごった返しており、所々では檻に入った騎乗魔獣や愛玩魔獣が置かれている。
アイナとは昼に時計塔の下で合流する約束をし、神威と共に店を巡る。
感想としては、とにかく人も騎乗魔獣も数が多い。
特に冒険者と思われる男達が、目当ての騎乗魔獣を巡って競の様な状態になっている所もある。
今見ているのは、爬虫類型の中型騎乗魔獣だ。
亜竜程では無いが移動速度も速く、頑丈で冒険者には人気だ。
売値は銀貨80枚からになっているが、冒険者達が提示している金額は、既に銀貨150枚になっている。
売る側としては嬉しいだろうな……
そうして巡っていると、二頭の騎乗魔獣を揃えている店舗を見付けた。
檻の中にいるのは、白い毛並みの狼魔獣や、同じように白い毛並みの猫魔獣。
ただし、どちらも金額が金貨200枚からだ。
狼魔獣は『ホワイトスノーデンウルフ』、猫魔獣は『ホワイトエッジタイガー』。
鑑定眼では、どちらも希少種と出た。
店舗の横にある看板には、領主公認と書かれている。
どういう事か考えていると、店主と思わしき青年が教えてくれた。
非合法な手段で販売できないよう、こういった希少種を扱う場合はその土地の領主か、貴族の公認が必要になる。
青年の店舗は二頭を獣王国で手に入れた際、その土地の領主から公認されており、売れた場合はその領主にも連絡が行く。
しかし、金貨200枚は流石に手が出ない。
悪いと思ったが、礼を言ってその場を後にする。
そもそも、あの二頭、俺を見て少し怯えていたようだしな。
そして、昼になり時計台の下で待っていると、アイナが二人の軽鎧を来た兵士を連れてやってきた。
「お待たせしました」
「俺達も来たばかりだから良いんだが……後ろの二人は?」
俺の言葉で、軽鎧の兵士二人が姿勢を正す。
「父が危ないからと……」
アイナが小さく溜息を吐く。
まぁ確かに、こういった場での用心はするに越した事はない。
万が一があったら怖いしな。
そのままカフェに入って軽食を済ませる。
味はまぁそこそこと言った所だ。
護衛の二人はアイナの後ろに立ったままなのだが……
「それで、何か見つかりましたか?」
「全部は回っていないが……やはり亜竜は出ていないようだな……」
俺の目的は、出るかも知れない亜竜を手に入れる事だったが、回った限りではそう言う気配は無かった。
「私はあの猫良かったなぁ」
「高過ぎだ」
神威が言っているのは、恐らくあの白猫魔獣だろう。
流石に金貨200枚は無理だ。
「それは残念ですね……」
アイナが残念そうに言うが、半ばいない事は予想はしていた。
そもそも、亜竜と言えど捕まえるのが難しいのだから、出なくて当然なのだ。
「まぁ最悪、自分で捕まえるさ……」
「当然、ランクを上げてからですよね?」
アイナから釘を刺される。
しまった、言わなきゃ良かった。
「そう言えば、広場の奥には行きましたか?」
「広場の奥?」
そう言われて思い返してみるが、広場の手前くらいしか見ていないな…
何かあるのだろうか。
「広場の奥には行ってないが……」
「あーあの兵士達がいるとこ?」
神威は何か気が付いたようだが、俺はそもそもそっちまで見てない。
アイナが神威の言葉に頷く。
そして、紅茶のカップを置いた。
「広場の奥にある店舗からは、許可が無いと入れないんですよ」
許可制かい。
って事は、知らずに行っていたら追い返されたと言う事か。
しかし、許可が必要って……
「許可制って事は、何かあるのか?」
「希少な魔獣や危険な魔獣を扱う店舗が集ってるんです」
アイナ曰く、そう言った魔獣はもしもの時の為に、限定された場所のみで売買し、購入者も身分がしっかりしていたり、保証された人物しか立ち入れない様になっている。
更に、暴れた際にすぐに鎮圧できるように、騎士団が常駐して警護している。
もしかしたら混乱を避ける為、一般では無くそちらに亜竜が出るかもしれないと言う。
あの青年の店舗は、恐らく青年自身の実力不足で奥に入れなかったのだろう。
「ふむ、しかし許可がなぁ……」
「私達にそう言う伝手無いもんね」
そう言う俺達の前に、小さい金属製のプレートが置かれる。
見た目は金色に輝く薄い板。
その表面には、『王都発行許可証』と彫られている。
コレはもしや?
「王牙さん達だと興味を持つと思って、父に頼みました」
アイナが笑みを浮かべながら、同じ金属プレートを手にしている。
ここにある許可証は三枚。
……これ、もしかして護衛二人の分なんじゃ?
「後ろの二人は?」
「入り口で待っていてもらいます」
神威の質問に、アイナがばっさりと答える。
当然、慌てたのは護衛の二人だ。
アイナが相談すると言って、護衛を連れて離れた後、すぐに戻ってくる。
「はい、コレで大丈夫です」
「……まぁ……いいか……」
多少疑問はあったが、貴重品だし大切に使うとしよう。
そうして、カフェから出ると広場の奥に向かう。
ちなみに、カフェの支払いは俺がした。
それでは、また3日後にお逢いしましょう
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