第21話
炎尚と神楽を迎えて、屋敷の中が賑やかになる。
まず、彼等の生活必需品を揃え、給金もちゃんと考える。
最初、二人は給金はいらないと言っていたが、ここは現実であり、生活に必要な物もある。
二人の言い分としては、住み込みで共に生活するので、問題は無いと言う風に言っている。
しかし、これから俺達は遠出したり、依頼によっては屋敷に戻らない場合もあるのだ。
そんな状態で給金が無いのでは、生活が出来ないだろう。
なので、ここは主人特権で給金は月に銀貨20枚と強引に押し切った。
銀貨20枚あれば、サガナ街でもそれなりに生活できる。
一応、二人共それで納得はしたが、すぐに副業を考えると言っている。
しかし、既に考えてある副業があるので、それを説明しておいた。
庭の一部を小さいながらも畑として開墾する。
そして、最初はジャガイモと黒小麦を栽培する。
ジャガイモは連作障害があるので、そこまで期待は出来ない。
しかし、黒小麦を鑑定眼で見た所、なんと連作障害が無いのだ。
異世界の植物である為か、連作しても問題無い様に進化しているようだ。
なので、まず俺と炎尚で庭の一角に杭を打ち、神威と神楽は街に農機具を買いに行く。
買ってきた鍬で耕し、半分をジャガイモ、もう半分に黒小麦を植える。
後は草取りや水やりをしながら祈るだけだ。
そして数日後、神楽が新しい服を用意していた。
炎尚には執事服を作り、神楽自身にはメイド服。
どちらも黒を基調とし、メイド服には白いフリルまで装備されている。
しかし、俺は知っている。
このメイド服、全身のあらゆる場所に暗器が仕込まれている。
まさしく神楽専用の衣服だ。
そして、食事の準備は神楽が主軸となり、俺や炎尚はたまに準備する程度になった。
お陰で、かなりバランスの良い食事内容に変わっている。
俺が作るとやはり、肉大目の男飯と言う感じになってしまうが、神楽はちゃんと考えて献立を作っている。
肉が少ないので若干神威は不服そうだが、十分に美味しいので文句は言わない。
そして依頼に関しては、討伐依頼が完全に無くなってしまったので、街の雑務をするようにした。
それでもゴミ掃除から通りの警護くらいだけだが……
そうして過ごしていると麦が芽を出し、少しだけ成長したので麦踏みをしておき、庭先での神威との組手を行う。
最近では俺以外に炎尚ともやっているようで、少しずつだが動きが変化している。
そして、炎尚と神楽の事はアイナ達には、俺の家に代々仕えている二人と言う事で説明して置いた。
最初は訝しんでいたが、最近では神楽と菓子作りをしていたりと仲が良くなっている。
「そう言えば、王牙さんの紋は無いんですか?」
アイナが庭先で炎尚と神威の組手を見ていた俺に聞いてきた。
今日は良いナッツが手に入ったと言う事で、クッキーを焼きに来ているのだが、紋ってのは何だ?
「紋って……家紋か?」
「はい、その家を象徴する紋ですね」
そう言われて少し考える。
確かに何かしらの家紋があった方が良いのかもしれないな。
しかし、急に言われても別段考えなんて無いしなぁ…
「んー無いとやっぱり不味いか?」
「問題は無いんですけど、あった方が色々と便利ですよ?」
アイナの説明では、この国と言うか、この世界では識字率はそれほど高くは無い。
貴族は読み書きは出来るが、これが庶民になると読む事は出来るが、書く事は出来ない、読み書きどっちも出来ないと言う程に悪くなる。
そんな際に家紋があれば、『この紋はあの貴族の紋』と理解し易いと言う。
確かに、文字で注意書きをしても、読めなきゃわからない。
しかし、紋を描いておくことで、そこが私有地であると簡単にわかると言う事だ。
「家紋ねぇ……」
考える。
そうして思い出したのは、ゲームで使っていたエンブレムだ。
ゲームのランキングで表示される為、各自が凝ったエンブレムを作っていた。
俺も地道にポチポチとドット単位で塗り分けていたなぁ……
ゲームで作ったエンブレムは、『満月に向かって、崖で吼える白狼』だった。
しかし、この世界でそんな凝った物は作れない。
そうなると、ある程度簡略化して……目立つ所は目立つ様にして……
うん、判り易いように、メインは狼の横顔のシルエットだけにするか。
そして、描き上げたのは『満月を咥えた狼の横顔のみのシルエット』だ。
まぁこれなら判り易いだろう。
「こんなのでも良いのか?」
取り敢えず、適当に描いた絵をアイナに見せる。
アイナはそれを見て、少し考え込んだ後、頷いた。
「それを紋にするのは問題無いですね。確か似た様な物も無い筈ですし」
そう言えば、アイナは貴族の御嬢様のようだし、そう言う意味でも紋には詳しいだろう。
しかし、これで他の貴族と被ってたらそれはそれで問題だな。
そうしていると、屋敷の中からクッキーの焼ける良い匂いが漂ってくる。
「アイナさん、クッキーが焼けましたので庭先で少し頂きませんか?」
神楽が焼けたであろうクッキーを籠に詰めてやってくる。
現在、ウチの庭には、農作業の際に休む為のテーブルと椅子が置いてある。
丁度、神威がそれを聞いて気が逸れたのか、炎尚に投げ飛ばされていた。
しかし、空中で綺麗に回転して着地した後、こちらに走ってきた。
「クッキー食べるっ!」
「御嬢様、まずは手を洗ってきてくださいね?」
「はーい」
良い返事で神威が井戸のポンプから出る水で手を洗ってくる。
それを待つ間に、神楽がポットを持ってきて人数分の紅茶を煎れる。
「どうだった?」
「まだ集中力に難がありますな」
汗一つ掻かず、炎尚がゆっくりと戻ってくる。
そもそも、戦闘面で言うなら神威より炎尚の方が強いのだから、当然と言えば当然なのだが。
しかし、そんな炎尚にも弱点はあり、老人なのでスタミナがそれほど多くない。
つまり、長期戦には不向きなのだ。
と言っても、炎尚自身の技術でスタミナ不足もある程度緩和しているのだが。
「まぁ仕方ないだろ」
そう話していると、手を洗い終えた神威が戻り、優雅なティータイムとなった。
そうして冬を過ごしていたが、今年の冬は雪が降らずに終わった。
なお、冬の間に保存食やら紋を入れたマント、大人の拳位の大きさの紋用の焼き鏝が出来上がる。
それ以外にも色々と実験も行った。
まず、納品ボックス製作の際に使うスクロール。
これを此方で使った場合どうなるのか?
ポーチサイズの革袋を作り、実験してみる。
結果は使用可能。
ただし、時間はゆっくりと進み、おおよそ外の時間が10時間経過すると、内部が1時間経過するくらい。
容量に関しても無限と言う訳では無く、大体、大型コンテナが4つ程入るくらい。
出来上がったアイテム袋は誰でも使えるようだが、流石にコレを外で出したら大問題になりそうだ。
試しに個人認証のアイテムを追加した所、登録された人でしか使えない様にカスタマイズ出来た。
なので、コレは雑務で色々やる事が多い炎尚と神楽が共同で使う事になった。
次に地下室の残り一部屋を変更する。
これをやった理由は簡単で、中の家具を出した後、別にしてから戻した場合、どうなるのか?
取り敢えず、普通の家具がある平屋を設定し、棚の中にある皿を取り出し、別の部屋にする。
これで、理論上は前の部屋は消滅した事になるが、取り出した皿は手元に残っている。
そして、元の部屋に戻し、棚の中を確認する。
すると、そこには何もなかった。
つまり、部屋を変更して戻そうが、失った家具やアイテムはそのまま消滅する。
こうなると、近未来の武器が詰まってる部屋とかはあんまり使えないな……
近未来ルームと言う部屋があり、中には様々なアイテムが展示されている。
レーザーやビームと言った強力な兵器が置いてあるのだが、その数は少ない。
しかし、注意しなければならない部屋も存在する。
それが、兵器庫と呼ばれる部屋だ。
試しに変更してみた所、かなり後悔した。
拳銃からアサルトライフル、バズーカやら手榴弾、大型爆弾まで揃えられていた。
それが木箱の中に大量に詰まっている。
しかも、その爆弾の中には最悪の兵器も存在していた。
どんな状況になったとしても、俺はこの兵器だけは使わないと決めた。
そして、一般向けで売れるようなアイテムを作る。
考えたのはモンスター避けの香だ。
冒険者には必要無いかもしれないが、一般人はそうではない。
この世界では、遠出する場合は腕利きの護衛が数人必要になる。
それでも失敗して命を落とす事は珍しくない。
これでは物流が限定され、技術が発展していくのは難しいだろう。
だが、その心配が無くなるか緩和されれば、物流は一気に広がる。
その為の第一歩として香を作ってみた。
ベースは嗅覚の強いモンスターにはキツイ臭いである、とあるモンスターの臭腺。
まぁここ等辺には居ないモンスターなのだが、錬金術で使う事があるらしく、錬金術ギルドで取扱いしていた。
それを少し分けてもらい、人間には気にならないレベルまで調整して香を作る。
濃度を分けて試作品を3種10個ずつ作り、錬金術ギルドで説明して試してもらう。
結果は濃度を半分程度に抑えた物が一番効果があった。
濃すぎると人間側にも不快感があり、薄すぎると効果が弱い。
このレシピを錬金術ギルドに売り、値段や販路に関しては完全にギルドに任せて、利益の一部を10年間、受け取る契約をしておいた。
10年というのは、それだけ経過する頃には、これ以上の効果を持ったアイテムが出る可能性がある期間だ。
そして、もしもこれ以上の効果を持ったアイテムが作られなかった場合、契約更新するかギルドに権利を譲渡するかを、その際に話し合いで決めるという。
まぁそもそも売れるかどうかわからないけどな。
この時は多少売れれば良いと思っていたが、錬金術ギルドが販売を開始した所、輸送馬車や商人が買いまくり、話が王国中に広まった。
その結果、毎月かなりの額が支払われる事になっていた。
更に、一般向けを作ったんだから冒険者向けも作る。
何を作るかと言えば、閃光弾だ。
何故閃光弾なのかというと、魔法でも灯りの魔法を威力最大、時間を最短にすれば似たような魔法になる。
だが、それが出来るのは魔法が使える上に、それなりの魔法知識を持っていて魔力のコントロールにある程度慣れている中級者から上級者に限られる。
初級者にそんな難しい魔力コントロールが、咄嗟に出来る訳もない。
なので、手軽に似た効果を得られる閃光弾の出番だ。
まず、錬金術ギルドで瞬間発光する素材を教えてもらうと、『光裂草』という植物を教えてもらった。
この植物、地球のエノコログサに似ている穂の部分を潰すと、弱いが直ぐに光る。
10本ほど試しに纏めて潰したが、閃光弾にするには弱い。
しかし、一つだけ穂の色が違う物が有り、それを潰した瞬間、強い光が出た。
どうやら、この白い穂は光が違うようだ。
錬金術ギルドに戻り白い光裂草を探すと、結構な数が手に入ったので聞いてみると、どうも出来易いらしい。
栽培方法は単純で、春に種を植えると秋には収穫可能になる。
よし、帰ったら神楽に品種改良と調査を頼んでみよう。
取り敢えず、栽培用にいくつか残し、試作閃光弾を作った。
形状はダイナマイトみたいな筒状。
作動構造は単純で、上部を捻じって5秒後に破裂して閃光を撒き散らす。
最初は紐を引いて作動する様に考えたが、何かに引っかかったりすると意図せずに作動してしまう可能性が有る。
なので上部に蓋を作り、回転させて作動する様に変更した。
30本程作成し、冒険者ギルドと錬金術ギルドで試しに使ってもらう。
当然、分解した場合は瞬間発動する様にしておく。
組み立てたら、俺でも解体不可能だ。
結果から言うと、初心者や暴徒鎮圧用にと、結構な需要があるだろうと言われた。
これも香と同じように契約し、それなりの売り上げが見込まれる。
現在は錬金術ギルドと道具屋で販売されている。
そうしていると、春までに結構な額が手に入る事になっていた。
GWという事で、休日は毎日更新する予定です
明日の12時にまたお会いしましょう~
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




