第20話
冒険者ギルドのギルドマスターの私室。
そこに、ギルドマスターのクックと、向かいに白い神官服とフードの人物、そして俺が座る。
なお、その座ってる神官の背後には数名、同じ格好をした神官達が立っている。
「あー……聞いてると思うが、こっちは聖王国からいらした代表の……」
「自分で説明しますから、大丈夫ですよ」
そう言って、座っていた神官がフードを取ると、蒼い長髪に青い瞳の女性神官だった。
どうやら、それなりに高い身分のようだ。
「初めまして、私は聖王国で聖女を務めさせて頂いております、シーラ=ティアン=エリディアナと申します」
前言撤回。
それなり所か、最上位だった。
「狼=王牙と申します」
一応、礼儀として改めて名乗って頭は下げておく。
流石に、聖王国のトップだとは思わなかった。
「聖女と申しましても、権力とかは皆無ですので、お気遣い無く」
それを不思議そうに聞いていると、顔に出ていたのかクックが説明してくれる。
聖女と言うのは、別に聖王国で一番偉いという事では無く、権力とは無縁の存在である。
祭事や大事な儀式には参加するが、国家運営や各地の教会の運営には口を出さないと言う。
しかし、今回の件は聖王国に衝撃を与えた。
教会の上層部が暗殺用のモンスターをテイムし、邪魔者を暗殺すると言う強硬手段を取った。
しかも、相当に手馴れている事から、普段からやっていた疑いがある。
犯人の特定は出来ていないが、クックに預けて既に一週間以上経過している。
恐らく、犯人は既に生死の境か、意識不明に近い状態になっているだろう。
現在、別働隊が教会を調査中で、すぐに報告が来るように手配されている。
「それで、その魔獣はどこに?」
「儂が預かっています」
クックが机の中から瓶を取り出す。
瓶の中にいる黒い靄が心なしか小さくなった気がする。
「今、浄化した場合、契約者はどうなりますか?」
「どうなると思う?」
「……多分、相当に弱ってるはずだから……ショック死するんじゃないか?」
シーラがクックに聞き、クックが俺に聞いてきたので、少し考えて答える。
これだけ長期間、テイマーが魔力を消費するタイプの使役モンスターを召喚し続けて肉体的に弱っている場合、そのテイムモンスターがいきなり消滅した場合、送信している魔力がテイマーに跳ね返っていく。
普段であれば十分に耐えられるだろうが、衰弱している場合、どう考えても耐えられないだろう。
そうしていると扉が叩かれ、同じ格好の神官が入ってきてシーラに礼をした後、耳打ちする。
「どうやら、犯人を捕まえたそうです」
シーラが片手を上げて耳打ちをした神官を下がらせ、そう言った。
聞けば、既に意識は無く、魔力回復ポーションで何とか命を繋ぎ止めている状態だという。
「色々と黒い噂がある男でしたが、まさかこんな事をやっているとは……」
犯人はこの教会の教主だった。
それもかなり黒い噂があり、教主を決める際にも複数人の候補者がいたらしいが、最有力候補が事故死。
次点で選ばれ、調査していた神官達も普通の事故と報告した後、モンスターに襲われて殉職している。
それ以外にも、今回の様なゴースト退治を放置していたり、教会に来た人達に対して無理な御布施を要求していたりしていた。
部下も自分に都合の良い者達だけを残し、都合の悪い部下は皆、ジャロイが粛清と称して殺害していた。
つまり、この街の教会は、腕はともかく、性根は腐りまくっていたと言う事だ。
結局、サガナ街の教会は一時的に閉鎖し、シーラと同行していた神官数名が残り、他は教会の神官達を捕縛して本国に帰国。
その後、順次調査されて裁かれると言う。
なお、教会が閉鎖されている間、シーラ達は冒険者ギルドの一部を間借りして、本国から神官達が来るまでの間、教会の仕事を代行する。
そして、衰弱していた教主だが、既に手の施しようがないので、シーラがマーダーフォグを目の前で浄化し、その反動を受けて死亡した。
遺体はこのまま本国に送られる。
「それで、今回の件ですが……」
「あぁ、下手に広める気は無いから安心してくれ」
心配しなくても今回の件は広める気は無い。
だって俺に利が無いし、教会そのものには罪は無い。
悪いのは死んだ教主と、それと一緒に甘い汁を啜っていた一部の神官だけだ。
「いえ、教会の腐敗を正す結果になりましたので、何か謝礼をと思いまして」
そう言われて少し考える。
確か、聖王国って霊山と言うか、龍が大量にいるんだよな…
「龍の卵って手に入るかな?」
「さ、流石にそれは無理だと思います」
期待はしてなかったが、やっぱり無理か。
寧ろ、手に入ったら逆に凄いと思ってはいるが。
「しかし、何故龍の卵を?」
「……騎乗魔獣が欲しくてな……」
シーラに聞かれたのでそう呟くと、クックが何かを思い出したかのように手を叩いた。
「おぉ、最近、魔獣商で魔獣が軒並み怯えまくった男とは王牙の事だったのか」
「もう噂になってるのかよ……」
その噂をクックがシーラに説明している。
俺を見て怯えた後、獰猛なモンスターは驚くほど従順になるという。
最初に見たブラックベア、今では大人しく馬車を引いて、テイマーの言う事をちゃんと聞いているらしい。
「それで龍の卵を……」
「まぁ春には王都で魔獣祭があるって言うからな……そこで探すさ」
「いると良いな、怯えない魔獣」
そうクックに言われるが、望みは薄いと思っている。
多分、普通のモンスターでは威圧スキルを発動した瞬間、逃げるんじゃなかろうか。
そして、亜竜と竜、龍は別種だ。
亜竜は、ワイバーンやディノと呼ばれ、竜はリザードと呼ばれる。
龍はそのまま、ドラゴンと呼ばれる最強種だ。
その鱗は硬く、内包する魔力は膨大であり、ブレスの一撃で小さな国は消し飛ぶ。
最強種である為、他の種に対して怯える事も無い。
取り敢えず、謝礼に関しては保留する事にし、クックとシーラは今後の運営について部屋割り等を話し合うとの事で、俺は退室する。
それに謝礼を貰うにしても、この場合、マキーシャ達やガリーノ達も貰う権利がある。
それを俺達だけ貰うのは不味いだろう。
王牙が出て行った扉を見ながら、シーラは溜息を吐く。
最初に屋敷で見た時、昔、霊山で初めて龍と交渉をした時の事を思い出した。
圧倒的な力の差、その場にいるだけで魂そのものを握られている感覚。
そして、逆らってはならないと本能が訴え続ける。
「王牙さんは、冒険者でしたね……現在のランクは何級なのでしょうか?」
目の前で空き部屋の数を確認していたクックに尋ねる。
クックが持っていた書類を机に置いて腕組みをした。
「奴は現在銅級ですな。ですが、確実に銀級以上の腕は持っていると思っています」
その言葉にシーラが顎に手をやる。
あの感覚を持った相手をシーラは数人知っている。
数年前に会った獣王と帝国にいる賢者。
そして、十年前、聖女になった時に出会った現在の魔王になる前の魔族。
特に、賢者は不気味に、魔王には龍以上の圧があった。
だが、それに比べてあまりにランクが低い。
「娘も、登録したてでノービスですが、父親と同じく末恐ろしい力を持ってるようでしたな」
クックが神威がノービス登録した次の日、大量のフォレストウルフの毛皮を売却しに来た事を思い出す。
見事な毛皮だったので一枚に付き銀貨5枚と言ったら、40枚出してきた。
解体の手間が無いからと高くしたのが裏目に出た。
総額銀貨200枚を50枚毎に袋分けして持ち帰っていた。
当然、応対した職員には、先にいくつあるのか確認してから買い取るようにと厳重注意。
「逞しい娘さんのようですね」
シーラが言うが、クックとしては少々複雑ではある。
元々は、王牙に目立ってもらって種族毎に持っている固定概念を払拭し、自由に活動して貰おうと考えていた。
確かに、他の職にチャレンジする冒険者が増えてきて、情報交換や交流が増えてきた。
だが、中にはそれに参加せず、自分の考えを押し付けてようとする冒険者もいる。
そう言った冒険者達は、主に高ランクの冒険者で、自分の戦闘スタイルを確立している者達だ。
もちろん、それが悪い事は無いが、押し付けるのは止めさせたい。
そんな中で、神威がやってきて大量のフォレストウルフの毛皮を売却した。
年端のいかない少女が、大量のフォレストウルフを狩って売却していたら当然目立つ。
表立ってはトラブルは起きていないが、裏ではかなりのトラブルが起きている。
情報交換組と情報秘匿組で、王牙と神威を勢力に取り込もうとしているのだ。
個人的にはそんな事せずに、さっさと依頼を受けて仕事を片付けて欲しい。
「個人的には、聖王国に来て頂いて欲しいですね」
「シーラ様、冒険者の引き抜きは止めて貰いたいのですが」
「流石に冗談ですよ」
シーラが笑いながら手を振る。
クックがそれを見て溜息を吐いた。
屋敷に戻り、今後の事をよく考えてみる。
まず、春になって王都に行くのは問題は無いが、行っている間が問題となる。
行きに一週間、王都で数日過ごし、帰りに一週間。
少なくとも半月は屋敷を留守にする事になる。
コレは流石に不用心過ぎるんじゃないだろうか……
金は全てインベントリに入れて持ち歩いているので、盗まれる心配は無いが、屋敷の中を荒らされたら困る。
そう考えると、この時点で二人を呼び出すのは丁度良いだろう。
「よし、呼ぶか」
まぁ生活費がカツカツだが、何とかなるだろう。
いざとなれば、何か副業を考える。
現在の副業候補は、食料庫にある野菜を栽培してみようと考えている。
特にジャガイモは楽だし、料理の幅も広い。
一応、屋敷の敷地は広いので一部を畑にしても問題は無い。
ただ、連作障害もあるので、ジャガイモだけを栽培する訳にはいかないが……
そうと決まれば準備は早い。
と言っても、システムウィンドウをタップするだけだが。
そして、俺の目の前で光の粒子が集まっていく。
その粒子が人の形を作り、やがて二人の男女が目の前に立っていた。
男は70代の初老であり、髪は銀髪で長身、赤い法衣を着ている。
女は20歳で、青い髪に身長と胸は神威より大きく、紫色のスーツの様な服を着ている。
「炎尚に神楽、待たせたな」
俺の言葉で、二人が目を開き、自分自身の身体を確認している。
そして、徐にその場で跪いた。
「お久し振りでございます、旦那様」
「要請により馳せ参じました」
二人共、ゲームでも随分と世話になっていた。
炎尚は老人の見た目をしているが、神威以上の万能型に仕上がっている。
神楽はメイドとして仕えているが、その実は暗器によるアサシンスタイルを得意とする。
そして、記憶転写によって現状の事は二人共理解している。
「それでは、私は御屋敷の警護と雑務を担当致します」
「私は御嬢様の身の回りの御世話を致します」
これでまず屋敷は安泰だ。
と言うより、この二人を突破できるような実力者はこの街にいないだろう。
「あ、二人共呼び出したんだ」
神威がそう言いながら部屋に入ってくる。
これで、ゲーム中のいつものメンバーが揃った事になるんだな。
「御久し振りですね、神威御嬢様」
炎尚が笑みを浮かべながらそう答える。
炎尚にとって、神威は孫か曾孫くらいの年齢なのだ。
「御嬢様、旦那様から教えて頂きましたが、あまり偏食されてはいけませんよ?」
神楽の言葉で神威がこっちを見る。
どうやら、記憶転写に問題は無いようだ。
最近、神威は肉ばかりで野菜系をあまり食べてなかったからな。
「それはいけません、御嬢様の年齢ですとバランス良く食べなければいけませんよ」
「明日からちゃんと食事の方も管理致しますね」
「それは嫌だー!」
そんなやり取りを見ていると、自然と笑みが零れる。
ゲームではこれほど感情表現が豊かでは無かった。
しかし、この世界は現実として存在している。
彼等もNPCでは無く、一人の個人としてこの場に存在しているのだ。
それが、何故か嬉しかった。
GWという事で、休日は毎日更新する予定です
明日の12時にまたお会いしましょう~
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります




