第18話
取り敢えず、今回の件については気が付いて無いって事にして、教会の本国、聖王国に使いを走らせると言う。
ここで、この世界の地理だが、巨大な大陸の中央に巨大な霊山があり、その麓に聖王国がある。
その霊山を挟んで右側に王国、左側に帝国が存在し、王国の上側に魔王国、帝国の上に獣王国、そして下側の広大な森に妖精国が存在する。
そして、王国と帝国は百年単位で小競り合いが続いており、犬猿の仲と言う感じ。
元々、王国と帝国は一つの巨大王国だったらしいが、帝国側でクーデターを起こして国家転覆を狙ったらしい。
しかし、クーデターは失敗。
その時にクーデターに参加した貴族達が中心となり、国家樹立を宣言して帝国が誕生した。
現在の帝国の領土は、元々は王国と獣王国の土地を武力で奪い取ったモノらしい。
そりゃ仲が悪いわな。
そして中央にある聖王国は、完全中立国であり、どの国も攻める事はしない。
その代わりに、各地に教会を置き、祝福や祭事等を行ってくれる。
ただ、武力を持っていない訳では無いのだが、他国から攻められない最大の理由は、霊山が龍の繁殖域になっているからだ。
つまり、聖王国を攻めるのは同時に、卵を守っている大量の龍達に接近すると言う事だ。
無事で済む訳がない。
聖王国はその辺りを弁えているのと、龍達も聖王国の神官達には攻撃しないと言う。
神官以外はどうなのかと言うと、普通に警告し、それを無視した場合、攻撃される。
獣王国は、厳しい山岳地帯と広い荒野であり、主な産業は放牧と、獣人による傭兵の斡旋があると言う。
元々は緑の広がる土地もあったらしいが、帝国に奪われている為、帝国とは仲が悪い。
現在の王に付いては不明。
獣人の王は、最も強い者が選ばれるらしく、王が数年前に交代したと言う噂がある。
魔王国は、正直な話良くわからない。
土地自体は王国と似た様な土地らしいが、他種族と交流がほとんど無い。
十年程前は、各地で魔王と名乗る強い魔族同士で小競り合いを繰り返していた為、魔王国では無く、魔族領と呼ばれていた。
ただ、現在は凄まじく強い魔族が現れ、全魔族を支配下に置き、魔王国として纏めている。
そして、妖精国だが、魔王国以上に謎な国だ。
妖精王と呼ばれる存在を崇拝し、森の中に巨大な国家群を形成しているかと思えば、小さな村々で細々と暮らしている場所もある。
主な種族はエルフらしいのだが、閉鎖的な暮らしをしている為、他の国とも交流が少ない。
だが、帝国の侵略を跳ね返した経緯があり、武力は相当な物である。
封印した瓶に付いてはクックが預かり、肌身離さず持っておくと言う。
コレでも元銀級の上位者だったので、もし襲撃をされたとしても返り討ちにすると笑っていた。
今度、どの程度の腕なのか模擬戦でも申し込んでみるか。
それと帰る際に日頃の礼と言う事で、これまでかなり面倒を掛けているアイナを晩御飯に招待する。
ただ、まだ仕事が終わらないと言う事で、四日後と約束した。
「父様、なんか嬉しそうだね」
「そうか?」
帰り道で神威にそう言われるが、考えてみれば家が出来てから初めての来客になる訳だ。
確かにそう考えれば、自然と嬉しくなるのだろう。
四日後までに歓迎の準備をしておかねば。
そうして準備して四日後の夜。
色々と準備を終えると、そのタイミングでドアノッカーが叩かれる音がした。
「いらっしゃい……って、マキーシャ達も来たのか」
アイナだけでなく、その後ろにはマキーシャ達もいた。
どうやら、アイナから話を聞いたらしく一緒に来たらしい。
「料理足りるかな……」
「はい、引っ越し祝いだよ」
マキーシャがそう言って差し出して来たのは一本の酒。
話によるとかなり高い物らしく、今回の謝礼で買ったらしい。
受け取って屋敷の中を案内する。
と言っても、まだ自室と神威の部屋、地下にある食料庫くらいしか見せるような場所はない。
一番広い地下室に鍛冶施設とかを追加するのは確定だが、他の所は全く考えていない。
まぁあと二人を呼び出す予定だから、彼等の希望に沿った部屋にするのも良いかな。
そして、晩御飯となり各自に皿を配る。
本日のメニューは、白パンにポトフ、野菜サラダとメインのローストビーフならぬ、ローストオークだ。
食後にデザートとして、リコッタチーズと果物の薄切りを乗せたクラッカーに蜂蜜を掛けた物も用意してある。
リコッタチーズはバターを作る際に残った水分から作る事が出来る。
レモンを絞って水分と一緒に煮詰めると、凝固作用で白い塊が残る。
それを集めて固めると、リコッタチーズが出来るのだ。
この世界では冷蔵庫が無いので長期保存は出来ないが、インベントリに収納すればそんな事は関係ない。
「それじゃ、日頃の感謝を籠めて」
そう言うと、彼女達が食事を始める。
まぁこの中では神威が一番喰うのだが、それに負けないのがマキーシャだ。
「白いパンなんて何ヶ月ぶりだろうね」
「高かったんじゃないんですか?」
マキーシャが籠に入っていたパンを手に取って言う。
リョウは値段の方が気になるようだ。
まぁこの世界では、庶民は黒い小麦でパンを作り、貴族が白い小麦を独占している。
そんな中で白いパンを用意すれば、そう言う考えにもなるか。
「まぁそこは伝手でな」
「このお肉も美味しいです」
シシーがそう呟いて食べているのはローストオークだ。
ローストビーフを元にオーク肉で再現した物だ。
「このスープ……とても美味しいです」
アイナはポトフに夢中のようだ。
丸一日掛けて作った物だから感慨深い。
軽い考えでポトフを作ろうと思ったが、準備を始めた所でコンソメが無い事に気が付いた。
なので、コンソメスープから作った。
これが時間の掛かる事掛かる事。
実は、出した料理の中で一番手間と時間が掛かっているのがポトフだ。
「父様、おかわり」
神威がそう言ってポトフの器を出してくる。
ここで、神威に自分でやらせないのは理由がある。
これまで生活してきて、神威に自分でやらせてみると野菜より肉を多く拾っていくのだ。
なので、バランス良く食事を摂らせる為に、自分ではやらせないようにしているのだ。
本当、なんでこんな性格になったんだろうか……
「なんだろうね、王牙の料理を食べてると街で食べてるのが味気なく感じちまうね」
「明日から街の料理が食べられるでしょうか……」
「この白いのは初めて食べますね……」
「蜂蜜とリンゴとクッキーは判りますけど、この白い物は見た事ありませんね」
マキーシャとシシーが何やら悩んでいるが、まぁ俺にはどうしようもない。
デザートを食べているリョウとアイナは、どうやって作っているのか興味があるようだ。
と言うか、この世界にはリコッタチーズは無いのか。
「ソイツはチーズだな。ただ、普通のチーズと違って長期保存は出来ないが……」
「「作り方を教えてください」」
二人して喰い付いたので、レシピを教える。
ただ、相当に腕が疲れる事もちゃんと教える。
そして、出来上がったチーズは必ず数日以内に食べ切る事も言っておく。
「そう言えば、シシーの魔法だけど、少しずつ回復してきてるよ」
マキーシャの言葉にシシーが頷いて、簡単な魔法の灯りを灯す。
弱い光の玉が現れて直ぐに消える。
どうやら、魔法回路は焼き切れなかったようだ。
「まだ魔力をうまく制御できないので、このくらいしか出来ませんけど」
「いや、無事に回復したようで安心したよ」
個人的にもかなり気になっていたので安心した。
この調子だと二週間くらいで完全に回復するかな。
そして、マキーシャ達は本格的に冬になる前に街を離れ、鉱山のある村に活動拠点を移すらしい。
毎年、彼女達は夏から秋はサガナ街で活動し、冬から春は鉱山のある村に移動して活動していると言う。
「アンタも一緒にどうだい?」
マキーシャに誘われたが、しばらくは拠点を移す気は無い。
その裏ではアイナがそれを聞いて、何故か安堵の溜息を吐いていた。
そして彼女達が帰ると言うので、手土産として手作りソーセージとパン、チーズをバケットに詰めて渡す。
次の日から、マキーシャ達は出発するまでの間、街の食事処で渋い顔をし、アイナはギルマスに対してギルドの食事処の改善を訴えるようになった。
そして、マキーシャ達が街から出発する日、自作ベーコンを詰め込んだ袋を渡して見送る。
しばらく寂しくなるな。
そんな事を考えつつ、受領した薬草採取の為に森に向かう。
既に秋も終わりに近づいているので、木々の葉は枯れ始めている。
当然、薬草等も枯れ始めており、とにかく歩いて探すしかない。
しかし、本当にモンスターがいない。
見掛けたのは岩に擬態して、冬眠の準備をしているビッグタートルが一匹。
それもかなり奥の方にいたので手は出さずに放置する。
まぁちゃんとギルドには報告するつもりではあるが。
「父様~毒消し草見付けたよ~」
「全部は採るなよ?」
毒消し草を見付けた神威が採取して戻ってくる。
その後、薬草も何とか見付けたので、数株残して採取する。
ただ、このペースだと完全に冬になったら採取は不可能になるだろう。
薬草も植物である以上、季節によっては採取出来ない時期は存在する。
逆に、薬草が枯れている時期だけ生えてくる草も存在する。
なので、次からはそういった植物を狙う事になる。
代表的なのは、冬にしか花を咲かせない『雪花』と言う花だ。
この花の部分を使うと、薬草より効果が高いポーションが作れるのだが、文字通り雪が降る場所にしか生息しない。
しかも、栽培不可能。
採取限定の上に季節固定のレア植物。
そして、一番困るのは、生花でなければ効果を発揮しない点である事。
薬草は乾燥させても効果は減衰しないが、この花は、乾燥させるとその効果が著しく低下する。
なので、冬の間に作れるだけ作るしかない。
しかし、こうしているとしみじみ思う。
行動範囲を広げるのに騎乗魔獣が欲しい。
現在、自分の脚で回れる範囲はかなり狭い。
神威と手分けをしても、サガナ街から往復一日で移動出来る範囲は80キロと言った所だ。
ただし、コレは移動するだけ、と言う条件だ。
移動した先で活動すると考えた場合、50キロ程度が限界だろう。
だが、騎乗魔獣がいる場合、種族によってはこの距離が倍以上に伸びる。
ゲームでは、用途別に水、陸、空と複数存在した。
早い話、魔獣をテイムする事で騎乗して、移動する際の足代わりにする事が出来る。
そして、テイムモンスターである為、種類によっては戦闘させる事も可能だ。
個人的には亜竜系が良いんだよな。
亜竜とは純粋な竜種では無いが、一応は竜である。
雑食ではあるが大気中の魔力を吸収する為小食であり、地竜であれば足も早く、空竜であれば空を飛ぶ事で一直線に目的地に目指す事が出来る。
ただ、前に王都に行った際、そう言った騎乗魔獣の姿は見れなかった。
テイマーが存在するので、存在しないと言う事は無いだろうが、何か厳しいルールでもあるのだろうか。
後でアイナに聞いてみよう。
一応、指定数の薬草は採取し、ギルドに戻って報告する。
ただ、今回の状況から考えて、採取依頼はしばらく控えた方が良いだろう。
取り敢えず、報告ついでに騎乗魔獣の事を聞いてみる。
「騎乗魔獣ですか……街にも斡旋業者はありますよ」
アイナに業者がいる所を教えてもらう。
モンスターを扱っている為、そのどれもが郊外だったが、全部回るのも無理じゃない。
「それじゃ手近な所から回ってみるか」
「可愛いのが良いなぁ」
そう言いながら神威と一緒に回る事にする。
さて、良いのがいるだろうか……
GWという事で、休日は毎日更新する予定です
明日の12時にまたお会いしましょう~
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